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第三十話 汚いなさすが忍者きたない
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───ミエル・クラン───
ミエル・クランとは、元騎士団のエースである。騎士としての腕前は他の騎士より優れていて隕石をその身に受けても平気であった、ドラゴン相手に3時間耐えきったといった逸話がある。反面、結婚への願望が強く騎士団に居ては結婚できないと思い半年前に離団した。その後は消息不明であり、騎士団のみならず様々なパーティーも行方を追っている。────Maoupediaより抜粋
☆ ☆ ☆ ☆
「納得いかない!」
机を強く叩きながらミエルは声を張り上げる。机の上には俺が持ってきたプリンの詰め合わせと俺が作ったお茶が置いてある。
「何が納得いかないんだよ」
「さっきの試合内容で納得できる奴がいるか!」
「それもそうだな」
俺は茶をすすりながら答える。確かにあんなので納得出来る奴はそうそういないだろうな。
「それを分かっておるならまともに戦わんかい」
「負けるからヤダ」
「お主という奴は……」
隣に座っているフランがため息を吐きプリンを口に運ぶ。
ミエルの隣に座っているラッカが俺たちのやり取りを見て「ニャハハ」と笑う。
「見ている分には面白かったけどニャ」
「ラッカもラッカだ!事前に聞いていたなら私に知らせてくれても良かっただろう!」
「審判は公平でないといけないからニャ」
「なるほど。で、本音は?」
「面白そうだから許可したニャ」
「やっぱりか!」
二人がギャーギャーと言い合いをしているのを見ながら5個目のプリンに手をつける。すると、俺の隣で2個目のプリンを食べていたノエルが話しかけてくる。
「そう言えば、ロワお兄ちゃんは?」
「ロワには買い出しに行ってもらっている。そろそろこっちに着いてもいいと思うが……」
俺の言葉と同時に家の玄関からコンコンという音がした。ロワか?
「今日は来客が多いな」
「俺が出るか?」
「冗談言え」
ミエルがうんざりしながら玄関へと向かう。俺もこっそりと付いていくか。
「はいはい、誰です────」
「マイハニー!」
扉を開けると同時にミエルよりも一周り大きい金髪男がミエルに抱きついてきた。しっかりとした体に角ばった顔、にやりと笑う時に見える白い歯がきざに光る。
「……なぜここにいる?」
「愛の力があればこの程度なんてことは無い!」
「愛の力?自分の手柄のためだろ?」
男の愛の言葉にミエルはうっとおしそうに返す。その男の後ろから大荷物を持ったロワが顔を覗かせる。言いつけ通り、布で口元を追い隠している。
「ホウリさん、色々と買ってきましたよ。多すぎてアイテムボックスに入りきりませんでしたよ」
「それは良いんだが、この人は誰なんだ?」
「ミエルさんの婚約者だって言ってましたのでここまで案内しました」
「……そうか、とりあえず後で説教な」
「え?何でですか?」
ミエルは偽名まで使ってこんな田舎に住んでるってことは身元を知られたくないってことだ。そのミエルの家に身元の分からない奴を連れてくるのは明らかにまずいだろ。
というか、ミエルの反応から察するにコイツは婚約者どころかストーカーに近しい奴と推測出来る。ミエルが仲間になるかどうか以前にコイツを何とかする必要があるな。
男はミエルが制止するのも聞かず、家の中へと足を進めてきた。そして、フラン達が居るリビングに入るとまわりを見渡し、満足そうに頷く。
「ここが私とハニーの愛の巣か。ん?そこにいるのは薄汚い獣人ではないか?」
「ゲッ、カロン、なんでここに居るんだニャ?」
「愛の力だ!そんなことより、ここは獣が居ていい場所じゃないぞ?獣はおとなしく外で鎖に繋がれているといい」
「カロンは相変わらずだニャ……」
大笑いしているカロンにラッカがげんなりしながら言う。そんなカロンにミエルは冷ややかな視線を向ける。
「……なにしにきた?」
「嫁を迎えに来るのは旦那の役目だろ?」
「お前の嫁になった覚えはない」
ミエルに笑いかけているカロンが俺たちに気がついた。
「ん?お前たちは誰だ?」
「俺の名前はキムラ・ホウリ。冒険者だ」
「わしはフラン・アロス。同じく冒険者じゃ」
「ノエル・アロスです。フランお姉ちゃんの妹です」
「俺様の名前は『カロン・ヌガー』。騎士団の次期エースだ。知り合った事を光栄に思うがいい」
横柄な態度でふんぞり返るカロン。
「で、お前たちはハニーに何の用だ?」
「まあまあ、まずはお茶でもどうです?」
「そうだな、いただくとしよう」
そういうと、カロンは席に着く。
「あ、俺よりもミエルさんの淹れたお茶の方が────」
「君が淹れてくれないか?」
笑顔で額には脂汗が浮かべながらカロンが言う。これはミエルの料理の腕前は相当ひどそうだな。
「わかりました。2~3分待っててくださいね」
俺はお茶を淹れながらこっそりとフランに念話を使うように合図を送る。合図の数秒後、俺の頭の中にフランの声が響いた。
『なんじゃ?』
『ミエルとロワと念話できるか?』
『少し待ってろ』
数秒の間の後、今度はミエルとロワの声が響く。
『なんだこれは!?』
『ホウリさん、なにか御用ですか?』
『説明は後だ。時間がないから端的に聞くぞ。ミエル、カロンをどう思っている?』
『……虫唾が走るほど嫌いだ』
『え?そうなんですか?』
ミエルの不機嫌そうな声とロワの間抜けな声が返ってくる。この際、ロワの言葉は気かなかった事にする。
『分かった。次に聞くがあいつの目的はなんだ?』
『私を騎士団に戻した後に結婚し権力を得るためだろう』
『なるほど、大方予想通りだな』
カロンはミエルがほしい。ということは、前提を崩せばいいな。
『解決策が一つある』
『なんだ?』
『ロワと彼氏ってことにすればいい』
『はぁ!?私がこんな不審者みたいなやつと恋人!?』
「うぐっ!」
ミエルの言葉にロワが思わずうめき声をあげる。
「ん?そこの彼は何かあったのかな?」
「気にしないでください。ちょっと定期的にうめき声をあげなくちゃいけない病気にかかっているだけなので」
「それ別の意味で大丈夫か!?」
目の前のカロンと穏やかに喋りながら、頭の中で激しく抗議する。
『少し言い方考えろよ!』
『だが、こんな奴と彼氏など……』
『彼氏になるのはこの場だけでいい。それとも、ずっとこいつに付きまとわれてもいいのか?』
『くっ……』
『彼氏役はホウリさんじゃだめなんですか?』
『ああ、ここはロワがいい』
『うーん、理由は分かりませんが、僕は大丈夫です』
『……仕方ない、だが今だけだ』
俺は作戦を練りつつカロンのカップにお茶を注ぐ。話はついた、後は実行するだけだ。
「味はどうですか?」
「うむ、五ツ星のレストランで飲んだものよりも香り高い。ほめてやろう」
「ありがとうございます」
俺は恭しく礼をした後、本題に入る。
「それで、俺達がここに来た目的ですが……」
「ああ、忘れていたね。では聞かせてもらおうか」
「ミエルさんと婚約を結びにきたんですよ」
「…………は?」
カロンの気の抜けた声が開きっぱなしの口から洩れる。口が日開きっぱなしのカロンを一瞥し、ミエルとロワの所へ行き二人を引き寄せる。
「この二人は近々婚約するんですよ」
「そ、そうですよ!僕たちもうラブラブなんですよ」
「け、結婚式はいつにするダーリン?」
ひきつった笑顔で腕をからませる二人。傍から見ても演技だと分かるほどぎこちない。これじゃあすぐにバレ────
「なんだと!?それは本当か!?」
あ、こいつバカだ。
「本当ですよ。こいつら恋のABCで言うところのCまで行ってますから」
「し、Cだと……」
「Cってなあに?」
「さあな、わしにはわからん」
言葉を失い魂が抜けたような表情で俯くカロン。さて、どうでる?
「……へ…………でろ」
「ん?」
「表へ出ろ!ミエルをかけて勝負だ!」
カロンの表情が燃え盛った炎のように荒々しくなる。
カロンの言葉を聞いたロワが困ったように俺を見る。俺はロワに笑いかけてカロンに向き直る。
「まあまあ、落ち着いてください」
「落ち着いていられるか!今すぐこいつを八つ裂きにしてくれる!」
「うーん、それでいいんですかね?」
「どういうことだ?」
カロンが敵意を俺に向ける。その視線を受け流しニヤリと笑う。
「仮にここでロワをボコボコにしたとしても、ミエルはまたどこかに行くだけだ。それよりも確実にミエルを手に入れたいとは思わないか?」
「……続きを聞かせろ」
食いついた。後は釣り上げるだけだ。
「聖戦だよ」
「!?」
聖戦、それはもめごとを解決する手段の一つだ。
始めに決闘の内容を決める。次にお互いが勝った場合の内容を決める。今回の場合だと『カロンが勝ったらミエルと結婚する』や『ロワが勝ったらカロンはミエルに近づかない』といった感じだ。また、聖戦には法的拘束力があり、ルールを破ると罪に問われる。また、聖戦にはお互いの同意が必要である事には注意が必要だ。
まあ、一言で言うと『負けた方がなんでも言うことを聞く』という事だ。
「なるほど、面白い。受けて立とう」
「ああ、ミエルとロワもそれでいいな?」
「……僕は大丈夫です」
「ミエルはどうだ?」
「………………」
ミエルは迷っているように視線を反らせる。そんなミエルに俺は念話を送る。
『ミエル、ここで難しいことは言わない。ただ俺たちを信じられるかどうか、それだけだ』
俺の言葉を聞いたミエルは目を閉じ大きく息を吐く。そして、
「覚悟は元より出来ている!」
凛とした言葉で言いきる。
「そういうことだ。俺たちは1ヶ月後に『ルカア』の街に行く。細かいルールは街に集合してからでいいな」
「ああ、1か月後を楽しみにしておこう」
全員の支援を背中に受けながら玄関にカロン。
「またね、ハニー」
「さっさと消えろ」
ミエルに投げキッスをしてカロンは家から出て行った。カロンが出て行った後、小さくなっていく高笑いが聞いてロワが大きく息を吐く。
「ふう、緊張しました……」
「お疲れさん」
「というか、聖戦受けてしまってよかったのか?時間がないのであろう?」
「ん?何の事だ?」
「は?何言っておるのじゃ?」
フランがキョトンとした顔をする。
「馬鹿真面目に受ける必要はないって事だ。約束を破ってもいいし、1か月の間にストーカーとしてあいつを起訴する手もある」
「……外道が」
「こやつが一番の邪悪ではないか?」
「流石のラッカもドン引きニャ……」
「俺は手段を作っただけだ。どれを選ぶかはミエルが決めることだ」
言いたいことは分かるがな。
女性陣から罵詈雑言を受けながらどう収拾をつけるか考えていると、ロワが恐る恐る手を上げた。
「あの、僕から1つ良いですか?」
「なんだ?」
「僕は……あの人と戦いたいです」
「ロワが戦いたいなんて珍しいな?」
「あの、なんというか……その……」
歯切れが悪そうに口をモゴつかせるロワ。だが、意を決したように話だす。
「僕は、あの人が嫌いです。だから────」
「完膚無きまで負かしたいか?」
「はい!」
気合いの入った目で宣言するロワ。
ロワの気持ちは分かった。あとは、
「ミエルはどうしたい?」
「私は元よりあいつをギタギタにするつもりだ」
「そうか、なら決まりだな」
「だが、お前らの仲間になった訳ではないからな」
「え?どういうことですか?」
「まあまあ、そんなことより」
「そんなことより!?」
不思議そうなロワの言葉は一旦置いといて。
「お茶でも飲んで一息ついたらどうだ?買い物で疲れてるだろ?」
「あ、それもそうですね。ありがとうございます」
顔を覆っている布を取ってお茶を飲み始めるロワ。
「ふー、リラックスできる香りのお茶ですね。気分が落ち着きます」
「そうか、お茶一杯分は休んでいってくれ」
「そうします」
一息ついているロワに気がつかれないようにミエルの表情を確認する。
ミエルは顔を秋の紅葉のように頬を赤色に染め、ポーッとロワを見つめている。
「ロワが気になるか?」
「ひゃっ!?な、なんだいきなり!?」
「いや、ロワに熱烈な視線を向けていたみたいだからな」
「べ、べつにあんな奴の事なんか気になっていないんだからな!」
「分かりやすいツンデレだな」
そっぽを向くミエルに俺は後ろから囁くように話しかける。
「ロワは少し抜けているところはあるが、思いやりもあるし良い旦那になるだろうな~」
「…………」
「幸せな結婚生活するなら、一緒に旅をして絆を深めるのが一番なんだがな~」
「…………」
「でも、ロワはモテルからな~、あんな風に」
「……へ?」
ミエルが俺が指し示した方向に顔を向けると、ラッカがロワの隣に座りに腕を絡ませている光景が目に飛び込んできた。
ラッカは艶目かしい言動でロワに話しかける。
「ロワ君は彼女とかいるのかニャ?」
「い、いないですけど……」
「えー、ならラッカが立候補しちゃおうかニャー」
ラッカの艶のある言動を見てミエルが思わず声を上げる。
「おい!勝手に何やってるんだ!」
「ニャ?勝手ってなんニャ?」
「そ、それは……」
「ミエルは別にロワ君の彼女って訳でも、同じパーティーの仲間でもじゃないはずニャ。だから、ラッカ自身が何しようと関係ないはずニャ」
「ぐっ……」
ラッカはそう言うと、新しいプリンを取り出しスプーンですくいロワに差し出す。
「はい、あーん」
「あ、あーん……」
「どうかニャ?」
「おいしいです……」
「それは良かったニャ」
満面の笑みでロワに『あーん』をするラッカと困った様子でプリンを食べるロワ。その様子を見ながら俺は俯いているミエルに話しかける。
「で、どうするんだ?」
「……しは…………だ」
「ん?」
小声でブツブツとつぶやいていたミエルだったが、急にラッカを指差し強めの声で叫ぶ。
「私はこいつらの仲間になった!口を出す権利はあるはずだ!」
「ニャ?さっきまで仲間にはならないって言ってなかったかニャ?」
「あ、あれは言葉の綾だ!騎士は一度誓ったことは守る!」
「ニャハハ、それは残念ニャ」
ラッカは色気づいた言動とはうって変わり、元の爽やかな言動に戻った。そして、ラッカはロワの隣の席から立ち、ミエルを引き寄せる。
「ほら、ここはミエルの席だニャ」
「だ、だが……」
「なんニャ、ここまで来て恥ずかしいのかニャ?」
ラッカは顔を赤くしているミエルを無理やり座らせる。
もじもじと指を絡ませているミエルと曖昧に微笑むロワの間に気まずい沈黙が流れる。1分とも10分とも分からない時間がながれ、ロワが唐突に口を開く。
「あの、僕はロワ・タタンといいます。弓使いをしています」
「わ、私はミエル・クランという。騎士をしている」
「…………」
「…………」
再び、黙りこくる2人。そんな2人の様子を見ながら俺は小声でラッカに話しかける。
「なあ、1つ良いか?」
「なんニャ?」
「ラッカは本当にロワに惚れたのか?」
「どういうことかニャ?」
「ミエルに一歩踏み出させるために芝居を打ったのかと思ってな。どうなんだ?」
ラッカは俺を見ると一言だけ呟いた。
「さあニャ」
そう言うと、再びラッカは2人を見守る。俺も2人を見守る事にするか。
2人の間に静かな時が流れる。その2人を俺達はただ、静かに見守っていた。
ミエル・クランとは、元騎士団のエースである。騎士としての腕前は他の騎士より優れていて隕石をその身に受けても平気であった、ドラゴン相手に3時間耐えきったといった逸話がある。反面、結婚への願望が強く騎士団に居ては結婚できないと思い半年前に離団した。その後は消息不明であり、騎士団のみならず様々なパーティーも行方を追っている。────Maoupediaより抜粋
☆ ☆ ☆ ☆
「納得いかない!」
机を強く叩きながらミエルは声を張り上げる。机の上には俺が持ってきたプリンの詰め合わせと俺が作ったお茶が置いてある。
「何が納得いかないんだよ」
「さっきの試合内容で納得できる奴がいるか!」
「それもそうだな」
俺は茶をすすりながら答える。確かにあんなので納得出来る奴はそうそういないだろうな。
「それを分かっておるならまともに戦わんかい」
「負けるからヤダ」
「お主という奴は……」
隣に座っているフランがため息を吐きプリンを口に運ぶ。
ミエルの隣に座っているラッカが俺たちのやり取りを見て「ニャハハ」と笑う。
「見ている分には面白かったけどニャ」
「ラッカもラッカだ!事前に聞いていたなら私に知らせてくれても良かっただろう!」
「審判は公平でないといけないからニャ」
「なるほど。で、本音は?」
「面白そうだから許可したニャ」
「やっぱりか!」
二人がギャーギャーと言い合いをしているのを見ながら5個目のプリンに手をつける。すると、俺の隣で2個目のプリンを食べていたノエルが話しかけてくる。
「そう言えば、ロワお兄ちゃんは?」
「ロワには買い出しに行ってもらっている。そろそろこっちに着いてもいいと思うが……」
俺の言葉と同時に家の玄関からコンコンという音がした。ロワか?
「今日は来客が多いな」
「俺が出るか?」
「冗談言え」
ミエルがうんざりしながら玄関へと向かう。俺もこっそりと付いていくか。
「はいはい、誰です────」
「マイハニー!」
扉を開けると同時にミエルよりも一周り大きい金髪男がミエルに抱きついてきた。しっかりとした体に角ばった顔、にやりと笑う時に見える白い歯がきざに光る。
「……なぜここにいる?」
「愛の力があればこの程度なんてことは無い!」
「愛の力?自分の手柄のためだろ?」
男の愛の言葉にミエルはうっとおしそうに返す。その男の後ろから大荷物を持ったロワが顔を覗かせる。言いつけ通り、布で口元を追い隠している。
「ホウリさん、色々と買ってきましたよ。多すぎてアイテムボックスに入りきりませんでしたよ」
「それは良いんだが、この人は誰なんだ?」
「ミエルさんの婚約者だって言ってましたのでここまで案内しました」
「……そうか、とりあえず後で説教な」
「え?何でですか?」
ミエルは偽名まで使ってこんな田舎に住んでるってことは身元を知られたくないってことだ。そのミエルの家に身元の分からない奴を連れてくるのは明らかにまずいだろ。
というか、ミエルの反応から察するにコイツは婚約者どころかストーカーに近しい奴と推測出来る。ミエルが仲間になるかどうか以前にコイツを何とかする必要があるな。
男はミエルが制止するのも聞かず、家の中へと足を進めてきた。そして、フラン達が居るリビングに入るとまわりを見渡し、満足そうに頷く。
「ここが私とハニーの愛の巣か。ん?そこにいるのは薄汚い獣人ではないか?」
「ゲッ、カロン、なんでここに居るんだニャ?」
「愛の力だ!そんなことより、ここは獣が居ていい場所じゃないぞ?獣はおとなしく外で鎖に繋がれているといい」
「カロンは相変わらずだニャ……」
大笑いしているカロンにラッカがげんなりしながら言う。そんなカロンにミエルは冷ややかな視線を向ける。
「……なにしにきた?」
「嫁を迎えに来るのは旦那の役目だろ?」
「お前の嫁になった覚えはない」
ミエルに笑いかけているカロンが俺たちに気がついた。
「ん?お前たちは誰だ?」
「俺の名前はキムラ・ホウリ。冒険者だ」
「わしはフラン・アロス。同じく冒険者じゃ」
「ノエル・アロスです。フランお姉ちゃんの妹です」
「俺様の名前は『カロン・ヌガー』。騎士団の次期エースだ。知り合った事を光栄に思うがいい」
横柄な態度でふんぞり返るカロン。
「で、お前たちはハニーに何の用だ?」
「まあまあ、まずはお茶でもどうです?」
「そうだな、いただくとしよう」
そういうと、カロンは席に着く。
「あ、俺よりもミエルさんの淹れたお茶の方が────」
「君が淹れてくれないか?」
笑顔で額には脂汗が浮かべながらカロンが言う。これはミエルの料理の腕前は相当ひどそうだな。
「わかりました。2~3分待っててくださいね」
俺はお茶を淹れながらこっそりとフランに念話を使うように合図を送る。合図の数秒後、俺の頭の中にフランの声が響いた。
『なんじゃ?』
『ミエルとロワと念話できるか?』
『少し待ってろ』
数秒の間の後、今度はミエルとロワの声が響く。
『なんだこれは!?』
『ホウリさん、なにか御用ですか?』
『説明は後だ。時間がないから端的に聞くぞ。ミエル、カロンをどう思っている?』
『……虫唾が走るほど嫌いだ』
『え?そうなんですか?』
ミエルの不機嫌そうな声とロワの間抜けな声が返ってくる。この際、ロワの言葉は気かなかった事にする。
『分かった。次に聞くがあいつの目的はなんだ?』
『私を騎士団に戻した後に結婚し権力を得るためだろう』
『なるほど、大方予想通りだな』
カロンはミエルがほしい。ということは、前提を崩せばいいな。
『解決策が一つある』
『なんだ?』
『ロワと彼氏ってことにすればいい』
『はぁ!?私がこんな不審者みたいなやつと恋人!?』
「うぐっ!」
ミエルの言葉にロワが思わずうめき声をあげる。
「ん?そこの彼は何かあったのかな?」
「気にしないでください。ちょっと定期的にうめき声をあげなくちゃいけない病気にかかっているだけなので」
「それ別の意味で大丈夫か!?」
目の前のカロンと穏やかに喋りながら、頭の中で激しく抗議する。
『少し言い方考えろよ!』
『だが、こんな奴と彼氏など……』
『彼氏になるのはこの場だけでいい。それとも、ずっとこいつに付きまとわれてもいいのか?』
『くっ……』
『彼氏役はホウリさんじゃだめなんですか?』
『ああ、ここはロワがいい』
『うーん、理由は分かりませんが、僕は大丈夫です』
『……仕方ない、だが今だけだ』
俺は作戦を練りつつカロンのカップにお茶を注ぐ。話はついた、後は実行するだけだ。
「味はどうですか?」
「うむ、五ツ星のレストランで飲んだものよりも香り高い。ほめてやろう」
「ありがとうございます」
俺は恭しく礼をした後、本題に入る。
「それで、俺達がここに来た目的ですが……」
「ああ、忘れていたね。では聞かせてもらおうか」
「ミエルさんと婚約を結びにきたんですよ」
「…………は?」
カロンの気の抜けた声が開きっぱなしの口から洩れる。口が日開きっぱなしのカロンを一瞥し、ミエルとロワの所へ行き二人を引き寄せる。
「この二人は近々婚約するんですよ」
「そ、そうですよ!僕たちもうラブラブなんですよ」
「け、結婚式はいつにするダーリン?」
ひきつった笑顔で腕をからませる二人。傍から見ても演技だと分かるほどぎこちない。これじゃあすぐにバレ────
「なんだと!?それは本当か!?」
あ、こいつバカだ。
「本当ですよ。こいつら恋のABCで言うところのCまで行ってますから」
「し、Cだと……」
「Cってなあに?」
「さあな、わしにはわからん」
言葉を失い魂が抜けたような表情で俯くカロン。さて、どうでる?
「……へ…………でろ」
「ん?」
「表へ出ろ!ミエルをかけて勝負だ!」
カロンの表情が燃え盛った炎のように荒々しくなる。
カロンの言葉を聞いたロワが困ったように俺を見る。俺はロワに笑いかけてカロンに向き直る。
「まあまあ、落ち着いてください」
「落ち着いていられるか!今すぐこいつを八つ裂きにしてくれる!」
「うーん、それでいいんですかね?」
「どういうことだ?」
カロンが敵意を俺に向ける。その視線を受け流しニヤリと笑う。
「仮にここでロワをボコボコにしたとしても、ミエルはまたどこかに行くだけだ。それよりも確実にミエルを手に入れたいとは思わないか?」
「……続きを聞かせろ」
食いついた。後は釣り上げるだけだ。
「聖戦だよ」
「!?」
聖戦、それはもめごとを解決する手段の一つだ。
始めに決闘の内容を決める。次にお互いが勝った場合の内容を決める。今回の場合だと『カロンが勝ったらミエルと結婚する』や『ロワが勝ったらカロンはミエルに近づかない』といった感じだ。また、聖戦には法的拘束力があり、ルールを破ると罪に問われる。また、聖戦にはお互いの同意が必要である事には注意が必要だ。
まあ、一言で言うと『負けた方がなんでも言うことを聞く』という事だ。
「なるほど、面白い。受けて立とう」
「ああ、ミエルとロワもそれでいいな?」
「……僕は大丈夫です」
「ミエルはどうだ?」
「………………」
ミエルは迷っているように視線を反らせる。そんなミエルに俺は念話を送る。
『ミエル、ここで難しいことは言わない。ただ俺たちを信じられるかどうか、それだけだ』
俺の言葉を聞いたミエルは目を閉じ大きく息を吐く。そして、
「覚悟は元より出来ている!」
凛とした言葉で言いきる。
「そういうことだ。俺たちは1ヶ月後に『ルカア』の街に行く。細かいルールは街に集合してからでいいな」
「ああ、1か月後を楽しみにしておこう」
全員の支援を背中に受けながら玄関にカロン。
「またね、ハニー」
「さっさと消えろ」
ミエルに投げキッスをしてカロンは家から出て行った。カロンが出て行った後、小さくなっていく高笑いが聞いてロワが大きく息を吐く。
「ふう、緊張しました……」
「お疲れさん」
「というか、聖戦受けてしまってよかったのか?時間がないのであろう?」
「ん?何の事だ?」
「は?何言っておるのじゃ?」
フランがキョトンとした顔をする。
「馬鹿真面目に受ける必要はないって事だ。約束を破ってもいいし、1か月の間にストーカーとしてあいつを起訴する手もある」
「……外道が」
「こやつが一番の邪悪ではないか?」
「流石のラッカもドン引きニャ……」
「俺は手段を作っただけだ。どれを選ぶかはミエルが決めることだ」
言いたいことは分かるがな。
女性陣から罵詈雑言を受けながらどう収拾をつけるか考えていると、ロワが恐る恐る手を上げた。
「あの、僕から1つ良いですか?」
「なんだ?」
「僕は……あの人と戦いたいです」
「ロワが戦いたいなんて珍しいな?」
「あの、なんというか……その……」
歯切れが悪そうに口をモゴつかせるロワ。だが、意を決したように話だす。
「僕は、あの人が嫌いです。だから────」
「完膚無きまで負かしたいか?」
「はい!」
気合いの入った目で宣言するロワ。
ロワの気持ちは分かった。あとは、
「ミエルはどうしたい?」
「私は元よりあいつをギタギタにするつもりだ」
「そうか、なら決まりだな」
「だが、お前らの仲間になった訳ではないからな」
「え?どういうことですか?」
「まあまあ、そんなことより」
「そんなことより!?」
不思議そうなロワの言葉は一旦置いといて。
「お茶でも飲んで一息ついたらどうだ?買い物で疲れてるだろ?」
「あ、それもそうですね。ありがとうございます」
顔を覆っている布を取ってお茶を飲み始めるロワ。
「ふー、リラックスできる香りのお茶ですね。気分が落ち着きます」
「そうか、お茶一杯分は休んでいってくれ」
「そうします」
一息ついているロワに気がつかれないようにミエルの表情を確認する。
ミエルは顔を秋の紅葉のように頬を赤色に染め、ポーッとロワを見つめている。
「ロワが気になるか?」
「ひゃっ!?な、なんだいきなり!?」
「いや、ロワに熱烈な視線を向けていたみたいだからな」
「べ、べつにあんな奴の事なんか気になっていないんだからな!」
「分かりやすいツンデレだな」
そっぽを向くミエルに俺は後ろから囁くように話しかける。
「ロワは少し抜けているところはあるが、思いやりもあるし良い旦那になるだろうな~」
「…………」
「幸せな結婚生活するなら、一緒に旅をして絆を深めるのが一番なんだがな~」
「…………」
「でも、ロワはモテルからな~、あんな風に」
「……へ?」
ミエルが俺が指し示した方向に顔を向けると、ラッカがロワの隣に座りに腕を絡ませている光景が目に飛び込んできた。
ラッカは艶目かしい言動でロワに話しかける。
「ロワ君は彼女とかいるのかニャ?」
「い、いないですけど……」
「えー、ならラッカが立候補しちゃおうかニャー」
ラッカの艶のある言動を見てミエルが思わず声を上げる。
「おい!勝手に何やってるんだ!」
「ニャ?勝手ってなんニャ?」
「そ、それは……」
「ミエルは別にロワ君の彼女って訳でも、同じパーティーの仲間でもじゃないはずニャ。だから、ラッカ自身が何しようと関係ないはずニャ」
「ぐっ……」
ラッカはそう言うと、新しいプリンを取り出しスプーンですくいロワに差し出す。
「はい、あーん」
「あ、あーん……」
「どうかニャ?」
「おいしいです……」
「それは良かったニャ」
満面の笑みでロワに『あーん』をするラッカと困った様子でプリンを食べるロワ。その様子を見ながら俺は俯いているミエルに話しかける。
「で、どうするんだ?」
「……しは…………だ」
「ん?」
小声でブツブツとつぶやいていたミエルだったが、急にラッカを指差し強めの声で叫ぶ。
「私はこいつらの仲間になった!口を出す権利はあるはずだ!」
「ニャ?さっきまで仲間にはならないって言ってなかったかニャ?」
「あ、あれは言葉の綾だ!騎士は一度誓ったことは守る!」
「ニャハハ、それは残念ニャ」
ラッカは色気づいた言動とはうって変わり、元の爽やかな言動に戻った。そして、ラッカはロワの隣の席から立ち、ミエルを引き寄せる。
「ほら、ここはミエルの席だニャ」
「だ、だが……」
「なんニャ、ここまで来て恥ずかしいのかニャ?」
ラッカは顔を赤くしているミエルを無理やり座らせる。
もじもじと指を絡ませているミエルと曖昧に微笑むロワの間に気まずい沈黙が流れる。1分とも10分とも分からない時間がながれ、ロワが唐突に口を開く。
「あの、僕はロワ・タタンといいます。弓使いをしています」
「わ、私はミエル・クランという。騎士をしている」
「…………」
「…………」
再び、黙りこくる2人。そんな2人の様子を見ながら俺は小声でラッカに話しかける。
「なあ、1つ良いか?」
「なんニャ?」
「ラッカは本当にロワに惚れたのか?」
「どういうことかニャ?」
「ミエルに一歩踏み出させるために芝居を打ったのかと思ってな。どうなんだ?」
ラッカは俺を見ると一言だけ呟いた。
「さあニャ」
そう言うと、再びラッカは2人を見守る。俺も2人を見守る事にするか。
2人の間に静かな時が流れる。その2人を俺達はただ、静かに見守っていた。
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