魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三十八話 目に見えるものが真実とは限らない

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────ホウリの冒険について────
言いたくない





☆     ☆     ☆     ☆




 ダメルの街に来て二日目の朝、前日国営カジノで2000万G稼いだわし等はホウリの部屋に集まっていた。テーブルにはサンドイッチが置かれており、朝食も兼ねている。


「それじゃあ、朝食を食いながらこれからの予定を話し合って行くんだが……」
「……ふあぁ」
「……うーん、眠いよぉ」
「眠いのは分かるが頑張ってくれ。特に今回はフランの役割は重要なんだからな」
「……善処しよう」
「お前な……」


 ホウリは呆れたように首を振りながら、ジュースが入ったグラスを差し出してくる。


「はら、ジュースでも飲んで目を覚ませ」
「うむ、かたじけな───」


 ホウリからジュースを受け取ると、オダリムの街での出来事が頭によみがえる。


「…………」
「どうした?」


 不思議そうに聞いてくるホウリ。絶対に分かってて言ってるじゃろう。


「ホウリ、これはリンの実のジュースで良いんじゃよな?」
「そうだが?」


 看破を使ってみるが嘘は吐いていないようだな。じゃが甘い!来ると分かっていれば回避なぞ余裕じゃ!鑑定!
 

【リンの実のジュース】
リンの実を絞ったジュース

内容物:リンの実80% レモの実20%



 やはりレモの実を混ぜておったか。レモの実はかなりの酸っぱさで、20%でも咽るほど酸っぱい。大半がリンの実じゃからリンの実のジュースと言っても嘘ではない。
 わしを安心させて不意打ちで飲ませようとしたようじゃが、今回はわしの勝ちじゃな。
 わしはスキルでレモの実を取り除く。そして、顔を見つつ勝ち誇りながらジュースを煽り───


「ブホォッ!?」


 余りの酸っぱさに思わずジュースを吹き出す。この味はレモの実!?確かに取り除いた筈なのになぜじゃ!?


「お姉ちゃん!?大丈夫!?」
「ゲホッゴホッ、だ、大丈夫じゃ」



 咳き込みながらホウリを睨みつける。すると、ホウリはいつの間にか避難させていたサンドイッチをテーブルへと戻しつつ、口を開く。


「簡潔に説明するぞ。俺はジュースの中にレモの実の粉末を入れて、グラスの淵にレモの実の果汁を塗っておいた。ジュースしか鑑定しなかったお前は塗ってあったレモの実に気が付かずに酸味を味わったって訳だ。目が覚めただろ?」
「……おかげさまでな」



 決めた、いつかホウリに不意打ちでレモの実を食わせてやる。
 わしの思いを知ってか知らずか、ホウリは説明を続ける。


「これからの行動について説明する。まずはこれを見てくれ」


 ホウリが一枚の写真を置く。手に取ってみてみると髪がぼさぼさで服装が乱れている男が写っていた。


「誰じゃ?」
「『モヨウ・ガディン』20歳独身。ある裏カジノのディーラーをしている。イカサマの腕はいいが迂闊な行動をするところがあるため信頼はされていない。成り上がりたいという気持ちはあるが臆病な所があるため、実行には移せていない」
「ふむふむ、それで?」
「こいつを使ってカジノを崩壊させる」
「サラッと言ったが割と外道な発言じゃぞ?」
「はっはっは、外道に慈悲なんて無い」


 こいつが一番外道なのではないだろうか?






☆     ☆     ☆     ☆





「あーあ、なんか面白いことないっすかねぇ」


 仕事場のカジノへ出勤途中で思わず愚痴を零してしまう。


「毎日毎日、雑用ばかり。何でこんなことになったんだっけな」


 分かっている。自分で何も行動を起こせなかった結果がこれだ。自問自答にすらならない。分かっているが何も出来ない。そんな自分が嫌になるが結局は何も出来ないんだろう。


「せめて、何か切っ掛けさえあれば……」
「その切っ掛けがあるとしたらどうする?」


 どこからか老婆のしゃがれた声が聞こえる。驚きながらも声の主を探ると路地に目立たないように誰かがいることに気が付いた。
 この時間のこの道は人気が無く、人がいたとしても碌な人じゃないから関わらない事が一番だ。
 俺っちは足早にそいつから離れる。


「このままでいいのかい?あたしならあんたの現状を変える『切っ掛け』を与えてやれるよ」


 老婆の言葉に思わず足が止まる。俺っちは老婆の方へ向き返事をする。


「ほ、本当に今を変えられるんすか?」
「それはあんた次第さ。それでどうする?」


 俺っちは答えずに老婆へと近寄る。老婆はフードを深くかぶり顔が見えず、紫色の布が掛かったテーブルの後ろに腰かけている。見るからに怪しいけど、話ぐらいは聞いてみても良いっすよね。


「座りな」
「は、はい」


 老婆に言われるがまま椅子に座る。


「そ、それであんたは誰なんすか?」
「あたしはしがない占い師さ」
「占い師ぃ?」


 一気に胡散臭さが増したっすね。幸運の壺とか買わされるみたいだったら逃げる方が良いっすね。


「心配しなくても壺とか買わせることは無いよ」
「!?、心が読めるんすか!?」
「これでも占い師だからね。言っておくけどスキルではないよ」


 これは本当にすごい人かも知れないっすね。
 俺っちが驚いていると老婆が話し始めた。
 

「あたしが見た限り、あんたは今現状に不満があるんじゃないのかい?例えば仕事とか」
「そ、そうっす!」
「もったいないねぇ、あんたは技術や度胸はあるが運がない。運さえあればこの街を支配することも不可能ではないのにねぇ」
「そ、そうなんすか?」


 運さえあればこの街を支配出来る?突拍子が無くて信じられないっすね。
 俺っちの言葉に老婆はしゃがれた声で笑う。


「信じられないのも無理はないね。とにかく、あんたの運を引き寄せる為にわたしが現れたって訳さ」
「運なんてどうやって引き寄せるんすか?」
「占いだよ」


 老婆はそう言うと、テーブルの下から水晶玉を取り出す。


「占いっすか?自分そういうの信じてないっすけど」
「信じるかどうかは、これから聞く占いの結果を知った後でもいいんじゃないかい?安心しな、金はとらないよ」
「はぁ」


 無料なら見てもらっても良いっすね。


「じゃあ、お願いするっす」
「ちょっと待ってな」


 老婆は水晶に両手をかざすと上下に動かす。十数秒動作を行った後、老婆は両手を元に戻して口を開く。


「赤と緑の看板の下に焼かれた肉が見えたね。何のことか分かるかい?」
「赤と緑?近くの飯屋に『ディッシュ』っていう店があるんすけどそれっすかね?」


 ディッシュは上手いんすけど高いんすよね。しかも肉って一番高いCランチじゃないっすか。とても俺っちが買えるような値段じゃ無いっす。
 俺っちが行くか悩んでいるのが分かったのか、老婆が口を開く。


「騙されたと思って行ってみな。あたしは明日のこの時間にこの場所で待っているからね」
「う、うっす」
「それじゃ、もう行きな。仕事に行く途中だろう?」
「は、はい」


 老婆に言われるがまま席を立ち、仕事場へと向かう。
 正直胡散臭かったっすけど、騙されたと思って明日『ディッシュ』に行ってみるっすかね。




☆     ☆     ☆     ☆





「……行ったな」
「ホウリや、占いをでっち上げてあいつをコントロールするって本当に上手くいくのか?」
「あのタイプは騙されやすいから、こっちがミスらなければ確実に騙しきれる」
「お主はこの街一番の邪悪じゃ。誇って良いぞ」
「甘いな、まだ手加減しているぞ」
「これより上があるのか……。そういえば、お主の老婆役上手かったのう」
「声帯模写でどんな声でも再現出来るからな」
「わしにも教えて貰えるか?」
「また今度な」




☆     ☆     ☆     ☆




 次の日の昼、俺っちは昼飯を食べる為にレストラン街を歩いていた。観光客や街の人達が歩いている中で腹の虫が急かすように鳴り響く。


「いつもなら安い定食屋で済ませるんすけどね……」


 昨日の老婆の言葉を頭で繰り返す。『ディッシュ』でCランチ頼む、給料日前ということもあり中々難易度が高いっすね。


「……何もなかったら老婆に払わせればいいか」


 そうと決まれば善は急げって奴っす。
 足早に『ディッシュ』に向かう中、頭の中では昔食べたCランチを食べたときの記憶が思い出される。
 鉄板の上で香ばしい匂いを上げるステーキ、つやつやの炊き立てライス、瑞々しい野菜がふんだんに使われたサラダ、おっとヨダレが……
 涎を拭いつつ『ディッシュ』へと向かうと長い行列が見えた。


「この辺で行列が出来る店なんてあったっすかね?」


 行列の先へと目を向けると、行列のできているのが『ディッシュ』だと分かった。
 結構待ちそうっすねー、んー、まあいいか。仕事までは時間があるし、たまには並ぶのも悪くないっすね。そう思った俺っちはウキウキ気分で列へと並んだ。



───30分後───



「次のお客様ー」
「はい!」


 呼ばれた俺っちは元気よく返事をする。店員は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに笑顔に戻る。


「1名様でよろしいでしょうか?」
「はい!」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」


 店員に促されるまま店内に入る。それにしても店員の態度が良い。1時間かかると思った行列も30分位で入れたし、高めの店はやっぱり違うっすね。
 俺っちが感心しながら店に足を踏み入れるた瞬間、


(パンッ、パパンッ)


 店から沢山の破裂音が聞こえ、糸のような物が体に纏わりついてきた。
 驚いて周りを見渡してみると、店員達が煙を上げたクラッカーを構えていた。よく見ると体に纏わりついているのは紙テープだと分かった。
 訳が分からずにあたふたしていると、奥から花束を持った店員が現れて俺っちに渡してきた。


「当店のご来店1万人目おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」


 なるほど、1万人目の記念ってことっすか。俺っちが納得していると、店員が白い封筒を手渡してくる。


「当店で使える無料券10枚でございます」
「まじっすか!今日から使えるっすか!」
「ご使用いただけます」


 タダ券が貰えた!しかも10枚も!もう最高っす!
 思わず笑みがこぼれる中で、店員にテーブル席まで誘導される。
 席に着くと目の前にメニュー表と水が置かれる。


「ご注文が決まりましたらお呼びください」
「もう決まってるっす」


 俺っちはメニュー表を開かずに注文する。


「Cランチ1つ!」



☆     ☆     ☆     ☆



「上手くいったようだな
「そのようじゃな。それにしても人を雇って人数を調整するとはのう」
「事前に来店者数を調べてモヨウが1万人目になるように念話で調整する。これが一番確実だろ」
「とはいえ、これで一つ目クリアじゃな」
「ところで、一ついいか?」
「なんじゃ?」
「なんでアンパンと牛乳を食いながら見張りをしてるんだ?」
「見張りと言えばアンパンと牛乳は常識じゃろう」
「どこの常識だ」



☆     ☆     ☆     ☆




 昨晩と同じ路地に行くと同じように婆さんが座っていた。
 俺っちはテーブルから身を乗り出しながら叫ぶ。


「婆さん!あんたの占い当たったっすよ!」
「ふぇっふぇっふぇ、これで信用したかえ?」
「勿論、バリバリ信用するっす!何なら壺とかも買うっすよ!あ、ディッシュのタダ券いるっすか?」


 俺っちがタダ券を取り出そうとすると、婆さんが手で制する。


「それはあんたの幸運が勝ち取ったもの。わたしがそいつを受け取ったら、あんたの運勢が乱れてしまう」
「そういうものっすか」


 うーん、貰いっぱなしっていうのは悪いっすね。……そうだ、俺っちが偉くなったら婆さんを専属の占い師にしよう。俺っちも婆さんもどっちもハッピー。よし、これでいこう。


「じゃあ、次の占いよろしくっす」
「うむ、少し待っておれ」


 そういうと、昨日と同じように水上球を取出し両手をかざし上下させる。


「『広いリングで小さき者と大きい者が戦っている。あんたは小さき者を応援し大きな金を手に入れる』。何のことか分かるかい?」
「うーん?」


 いまいちピンとこない。広いリング?小さき者?大きな金?


「あ、もしかしたら裏の闘技場かもしれないっす」


 闘技場とは数人がリングで戦い、誰が勝つかを予想するギャンブルっす。裏の闘技場は何でもありのルールで最悪人を殺しても問題ない、俺っちお気に入りのギャンブルっす。


「小さい人を応援すればいいんすよね?」
「わたしの占いにはそうでているね」


 ふっふっふ、明日はギャンブルで一稼ぎっすよ。


「婆さんありがとう!また明日来るっす!」
「ふぇっふぇっふぇ、幸運を祈っているよ」


 婆さんと別れていていてもたってもいられず、職場へ走り出す。
 胸に希望と期待を込めながら俺っちは未来へと走り出した。



☆     ☆     ☆     ☆



「ふう、上手くいったようじゃな」
「お姉ちゃん、お疲れ様。はいお水」
「ノエル、ありがとうじゃ。(ゴクゴク)ぷはっ、うまいのう。それにしてもホウリの奴め。明日の準備があるからって婆さん役を押しつけおって……」
「でも、お兄ちゃんも色々と頑張っているしノエル達もお手伝いしよ?」
「……それもそうじゃな。ホウリにばかり負担をかけるもの悪いし出来る限りのことはしよう。お、噂をすれば……」
「ようフラン、ノエル、上手くいったか?」
「まあのう、お主は何をしてきたんじゃ?」
「裏闘技場で対戦カードを組んできた」
「ああ、先ほどの占いか。お主が出るのか?」
「いや、フランに出てもらう。確実に勝たないといけないからな。ちなみに対戦相手は裏闘技場のチャンピオンだ」
「なるほど、そいつをボコボコにすればよいのじゃな?」
「形だけでも試合しろ。当日は念話で指示を送るからな」
「……分かった」



☆     ☆     ☆     ☆



「婆さあぁぁぁん!」


 いつもの路地に駆け込み勢いよく手をテーブルに叩き付ける。
 そんな俺っちを見た婆さんはいつものようにしゃがれた声で笑う。


「ふぇっふぇっふぇ、相変わらず元気じゃのう」
「凄いっすよ!もう5日連続で占いが当たっているっす!」


 この5日でタダ券が貰えたり、ギャンブルで勝ちまくったり、可愛い彼女が出来たりと良いこと尽くめ!もう最高っす!
 興奮しながらテーブルを叩いている俺っちを婆さんが片手で制する。


「落ち着きな、運が逃げていくよ」
「わ、わかったっす」


 深呼吸を繰り返して、落ち着きを取り戻した。


「ふぅ、落ち着いたっす」
「それでいい、いつでも冷静さを失ってはいけないよ」


 いつでも冷静に、肝に銘じておくっす。


「じゃあ、いつもの占いいってみよー」
「はいはい、ちょっと待ちな」


 婆さんはいつも通りに水晶玉に両手をかざす。


「…………」
「ん?どうしたんすか?」


 いつもと違い両手をかざす時間が長い。
 一分の沈黙の後、婆さんはやっと口を開く。


「今から言う占いは今日、あんたの運命を左右する占いになる。心して聞きな」
「は、はいっす!」


 姿勢を正して婆さんをまっすぐと見つめる。
 緊張しながら婆さんを見ているとようやく占いの結果を喋り始めた。


「『3人の敵があんたの主人に遅いかかる。あんたは回っている数字の中から白い7を使ってそいつらを撃退し主人に信頼される』。何のことか分かるかい?」
「……たぶん」


 三人の敵っていうのは分からないっすけど、回る数字っていうのはおそらくルーレット台。普通のルーレット台には白は無いから審判の台のこと。
 つまり、今から3人の敵がカジノに来て主人であるダモン様と勝負する。そこで俺っちがwhiteの7に入れたら良いってことっすね。


「どうしたんだい?いつもなら嬉しそうに走っていくのに」
「……なんだか、緊張しちゃって」
「さっきの言葉を忘れたのかい?」


 さっきの言葉……、『いつでも冷静に』っすね。


「あんたには技術もあるし、運もわたしが与えている。失敗する要素はないんじゃないかい?」
「……それもそうっすね」


 俺っちは立ち上がる。さすがに今日は走っていく気分じゃないっすね。


「明日は俺っちの昇進報告に来るっす」
「待っているよ」


 婆さんとの会話を打ち切り、職場である『white』へと足を進めた。



☆    ☆     ☆    ☆



「ふんふんふーん」
「らららーん」


 ここはとあるレンタルキッチン内。
 ホウリとノエルが生地を広げて丸く型抜きをしている。


「お兄ちゃん、これでいい?」
「そうだな……、うん、上出来だ」
「わーい!もっと作るね!」


 ホウリとノエルが次々と生地を丸く型抜くのを見ながらわしはため息を吐く。


「何でギャンブルの1時間前にクッキー焼いておるんじゃ」
「ギャンブルで必要になるからに決まっているだろ」


 クッキーをオーブンに入れながらホウリは答える。


「わぁ、膨らんできた!」


 オーブンでクッキーが焼けていく様子を見ながら、ノエルがはしゃいでいる。
 ホウリは鍋つかみを外してわしの向かいに座る。


「というか、初日に計画が書かれた紙を渡したはずだぞ?読んでいないのか?」
「わしは公務以外で書類は読まん」


 わしの言葉に今度はホウリがため息を吐く


「分かった、一から説明する。今回の計画の条件は4つ、1つ、カジノの客を含めたカジノ内の人間の逮捕。2つ、逮捕の時に死者が出ない事。3つ、ダモンのネックレスの確保。4つ、とある人物の保護」
「いくつか分からない事があるんじゃが」
「順を追って説明する」


 ホウリが再び鍋掴みを付けオーブンを開ける。


「問1『なぜネックレスが必要か』。ダモンは金や宝石、そしてカジノの権利書をとある金庫に溜め込んでいる。無理にあけると中身が木っ端みじんに吹き飛ぶ。唯一の開ける方法はダモンのネックレスをはめ込むこと」
「なるほど、権利書とか財産が金庫に入っているわけじゃな」


 財産を差し押さえたい都合上、万が一にもネックレスを破壊されては困るのだろう。
 焼けたクッキーをレンジから取出しながらホウリは話を続ける。


「問2『とある人物とは誰か』。正式な名前は無く、カジノ内ではバーサーカーと呼ばれている人物だ。元々は力が売りの冒険者だったが、ダモンがスキルや投薬で理性や知性を破壊した。ダモン曰く、失敗だったらしくカジノ奥で幽閉されている」
「惨い……、人間のやることではないぞ」
「保護できればスキルとかで何とかなるかもしれない。必ず保護するぞ」
「うむ、絶対に保護してみせる」


 そんな酷いことは許しておけぬ。あのカジノは徹底的に潰してくれる。
 ホウリは取り出したクッキーに絞り袋でデコレーションをしながら説明を続ける。


「問3『カジノ内での具体的な計画は』。カジノに入ったらダモンに審判の台でのギャンブルを挑む。占いでモヨウにはwhiteの7に入れるように言っているから、白くしたチップをこっそりwhiteの7に置く」
「チップはこっそり置くとしても、お主が置いたチップが無ければ不審に思われるぞ?」
「そこでこいつだ」


 わしの目の前にカジノのチップが置かれる。


「チップの持ち出しは禁止じゃぞ?」
「そのチップを持ってみればどういうことか分かる」


 ホウリに言われた通りチップを持ってみる。すると、これがチップではなくホウリの作っていたクッキーであることが分かる。


「これクッキーか!?見ただけではまったく分からんぞ!?」
「これを置くことで周りの目をごまかす」
「なるほど、これならばそれも可能かもしれん。が……」
「が?」
「クッキーじゃなくて良いじゃろ」


 ホウリが不思議そうな顔で首をかしげる。


「フラン、よく考えてみろ。見た目も手触りもそっくりにしたら意味がない。触れたら偽物と分からないといけないんだ」
「ふむ、それは分かる」
「となると、見た目は似ているが手触りが違う材料が必要になる」
「ふむ、それも分かる」
「となると、クッキーになるだろ?」
「ふむ、それは分からん」


 その理論は一歩ずつ登ってきた階段を十段飛ばしで登っているようなものじゃ。


「木でよいじゃろ」
「色々試したけどクッキーが一番いいんだよ」
「本当か~?」


 ホウリを疑いの目で見ていると、不意打ちで口にクッキーを入れられた。


「(モグモグ)」
「どうだ?」
「(ゴクン)1つ300Gまでならだせる」
「そうだろ?じゃあ説明続けるぞ」


 作ったクッキーをラッピングしながらホウリが言う。
 ごまかされた気もするがまあ良い。


「で、俺がギャンブルに勝って相手が破滅する所まで追い詰めたら、相手は客も含めて俺たちを殺そうとする」
「そこをわしが全員を気絶させる訳か」
「ああ、俺が客を一か所に集めるからそこを結界で保護しつつ戦ってくれ。戦力が少なくなったら見張りも投入してくるだろうし、最終的にはバーサーカーも出てくるはずだ」
「バーサーカーも気絶させて保護する訳じゃな。合理的じゃな」
「そういうこと。全員を気絶させたら憲兵を突入させて全員を捕まえる。計画は以上だ」


 ラッピングを終えたホウリが余ったクッキーを皿に盛る。


「余ったクッキー食うか?」
「食べるー」
「いただこう」


 テーブルの中央に皿が置かれ、全員でクッキーをつまむ。
 旨いクッキーを食っている筈なのに、わしの心は晴れない。 


「なあ、ホウリ────」
「問4『本当にモヨウを捕まえないといけないのか』だろ?」
「……うむ。モヨウを見てきたが悪い奴には見えぬ。捕まえぬのが難しいならせめて減刑出来ぬか?」
「確かにイカサマが死刑であるこの街でモヨウが捕まったら間違いなく死刑だろうな」


 ホウリであればモヨウの死刑を止めることが出来るかもしれぬ。
 わしから期待の目を向けられながら、ホウリは指についた砂糖を舐める。


「だけど、俺はあいつを助けない」
「なぜじゃ?あいつは悪い奴ではない。やりたくもない仕事をやってるだけじゃ。捕まえるなとは言わん。せめて死刑にならんように出来んか?」
「助けない理由は3つ。1つ、減刑はかなりの労力と時間がかかるから。2つ、やりたくなかろうがあいつが選んだ仕事だから同乗の余地はない」


 ホウリは1本ずつ折り曲げていき理由をあげていく。


「そして3つ、あいつは最低で24人殺している殺人鬼だからだ。イカサマで減刑してもそっちで確実に死刑になるだろうな」
「モヨウが殺人鬼?事実か?」
「ああ、ダモンがすべてもみ消している」


 モヨウが殺人鬼だと?あんな恨みなどかけらも感じさせぬあいつが?


「とてもそんな奴には見えなかったが、なぜそんなことを?」
「理由はない」
「は?」
「正しくはモヨウには『殺人が悪』という認識が無い。だから、ちょっとしたことで人を殺す。道端の石を蹴り飛ばすように簡単にな」
「……信じられん」
「事実だ。まあ、死体が見つかっていないから憲兵では『失踪事件』となっているがな」
「証拠はあるか?」


 いまだに信じられないわしの言葉にホウリは袖を捲り、腕を露出させる。ホウリの腕には何かの傷跡が付いていた。確か昨日はこんな傷無かった筈じゃ。


「これは?」
「モヨウに襲われた時の傷」
「……わしに見せる為にわざとつけたのか?」
「ああ、襲われたのは偶然だったが、フランが納得する証拠が手に入ると思ってな」
「無茶しおって」


 看破を使ってみるが嘘は付いておらんようだ。
 ここまでされたのなら信じるしかあるまい。


「分かった信じよう。しかし、モヨウがのう……」
「人は何かしらの秘密を持っているものだ」
「お主もあるのか?」
「あるに決まってんだろ。旅の話なんか秘密のオンパレードだ」
「それもそうじゃな」
「とにかく、これで憂いはなくなったか?」
「ああ、覚悟は決まった」


 わしがやることはただ一つ、カジノの営業員をぶっとばす、右ストレートでぶっとばす。


「もう疑問はないな?」
「最後に一つ」
「なんだ?」
「ダモンはなぜ殺人鬼を雇っておる?」
「それは分からない。ダモンを捕まえた方が手っ取り早い」
「それもそうじゃな。殴って吐かせたほうが手っ取り早い」
「……そうだな」


 何か言いたそうなホウリだったが、すぐにいつもの表情に戻る。


「よし、そろそろ行くぞ」
「うむ」
「はーい」


 わし達は戦いに挑むべく外への扉へと手を掛けたのじゃった。
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