魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三十九話 俺にだって……わからないことぐらい……ある

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───憲兵長───
憲兵長とは憲兵の中のトップである。普段は王都で勤務しているが定期的に他の領地へと出張している。能力的には優秀だが正確に難があり他の憲兵から舐められている。既婚しており一人娘がいる。娘を溺愛するあまり初対面の人間にも娘について熱弁することがある。そのことも、周囲から舐められている要因の一つである。────Maoupediaより抜粋








☆     ☆     ☆     ☆






 裏カジノ『white』を潰した次の日の朝、俺たちはダメルの憲兵所の前でロワとミエルを待っていた。


「ふむ、ロワ達はまだか?」
「もうそろそろ来ると思うが……、ああ来たな」
「ホウリさーん!」

 周りを見渡すと遠くから小走りで駆けてくるロワとミエルが見えた。
 

「ぜぇぜぇ、お、お待たせしました……」
「すまない、少し道に迷ってしまってな」


 息が切れているロワとは対照的に汗一つかいていないミエル。
 ロワは少し体力が足りないか?これから走り回る事が増えるだろうし体力は付けてもらうためにきつい訓練を組もう。何度か死にかけるかもしれない


「なんでしょう?何か嫌な予感がします」


 勘が良い奴だ。
 ロワの息が整うのを待ちながらフランが話す。


「ロワとミエルはこの街で何をしておったんじゃ?」
「私たちは特別な事はしていない。買い物をしたり、弓的屋で弓的をしたり、カロンとの試合を想定した練習をしたりしていた」
「デートだな」
「デートじゃな」
「そ、そんな、デートなどでは!その……」


 恥じらいながら必死に手を振って否定するミエル。その様子を見たフランから念話が届いく。


『これは、何かあったんじゃな?』
『ミエルは通常運転だろ。問題はロワの方だ』


 肝心なロワを見てみるとまだ呼吸を整えていた。


「大丈夫か?」
「ハァハァ、大丈夫です。ありがとうございます」
「そうか。で、デートは楽しかったか?」
「デート?」


 俺の言葉にロワが不思議そうに首を傾げる。


「誰かデートしたんですか?」
「お前とミエルだ。買い物とかしたんだろ?」
「僕たちは買い物とか練習に付き合って貰っただけですよ」


 デートじゃなかったら何なんだ。
 ミエルを見てみるとこの世の終わりのような顔でロワを見ていた。まあなんだ、頑張れ。
 皆の間に流れる微妙な空気の中でロワは興味津々な目で俺を見てくる。


「ホウリさん達は何をしていたんですか?」
「それは中で話そう。人も待たせているしな」
「人?誰だ?」
「憲兵長」


 俺の言葉で全員の間に緊張が走る。
 気にせずに憲兵所へと足を進めると両腕をつかまれて進行を妨害される。振り向いてみるとロワとミエルが俺の腕を必死に掴んでいた。


「どうした?」
「『どうした?』じゃない!憲兵長に会うなど聞いていないぞ!?」
「大丈夫ですか!?僕たち逮捕されませんか!?」


 確かにいきなり憲兵のトップに会うって言われても不安になるな。ここは安心させる一言が必要だな。


「大丈夫だ二人とも」
「だが……」
「でも……」


 まだ不安そうな二人に俺は微笑む。


「憲兵長の弱みは握っている。だから安心してついてきてくれ」
「……明日からは牢屋の中で生活するんですね」
「……何かあっても私がホウリ以外を守る。約束だ」


 おかしい、安心させるために言った言葉でさらに不安になっている気がする。


「とにかく、さっさと行くぞ」
「はい……」


 不安そうな皆を連れて、俺たちは憲兵所へと入っていった。





☆    ☆    ☆    ☆



 
 2m程の扉に『憲兵長室』という手書きのプレートが掛かっている。ここで間違いなはいみたいだ。
 扉を3回ノックし室内からの返事を待つ。


「入っていいぞ」


 許可が下りたことを確認し扉を開ける。


「邪魔するぜ」
「し、失礼します」
「失礼いたします」
「お邪魔しまーす」


 中には山のように書類が積まれた机と沢山の資料が詰まった棚があるだけの簡素な部屋だった。机には眼鏡をかけ顎に髭を蓄えた中年の男が書類にペンを走らせていた。男は顔を上げずに不機嫌そうに話す。


「新しい書類なら机に置いてくれ。机に置けないなら床に置いても良い」
「ホウリだ。報酬を貰いに来た」


 俺の言葉に男はペンを止め、ゆっくりと顔を上げた。


「ホウリか、何の用だ?」
「報酬をもらいに来たと言っただろう?」
「あーそうだったな、後ろの奴らは?」
「俺のパーティーメンバーだ」


 男は全員を舐める様に見ると弱々しく口を開く。


「俺の名前は『ビスケ・キンツ』、憲兵長をしている」


 ビスケの自己紹介を聞いたロワが慌てながら頭を下げる。


「は、初めまして!僕の名前は───」
「『ロワ・タタン』、ユミリンピック2回戦で敗退するも『弓神』を用いて優勝者であるジル・クミンバに善戦した。かなり顔が整っており、女性に惚れられることが多いため口元を布で隠している」
「!?」


 ビスケの言葉にロワが驚きの表情を見せる。ビスケはロワから視線を外しミエルを見る。


「君は『ミエル・クラン』、『盾神』による防御は世界一。以前は騎士団にいたが現在はホウリ達と共に旅をしている」
「…………」


 睨んでくるミエルに俺は手を振って否定する。


「俺が話したわけじゃないからな。単純に憲兵の情報収集能力が高いだけだ」
「ホウリが今回の件を持ってきた段階であんた等の事は調べさせて貰った。そして……」


 ビスケはノエルへと視線を移す。


「君は『』だね?」
「そこを動くな」


 瞬間、フランの体が一瞬にして消えビスケの背後に現れる。そして、ビスケの後頭部に杖を突きつけ今にも殺してしまいそうな程の殺気を放つ。
 その間、ロワはビスケを弓で狙い、ミエルは盾を取り出してノエルをかばうように前に出る。


「今からお主には質問をする。質問に答える以外の行動は己の身を滅ぼすと思え」
「……ホウリ、助けてくれない?」
「皆にはノエルの本名を知っている奴は敵だって教えたからな」
「お前のせいか」


 俺やグランガンの奴らがノエルの情報を隠ぺいしている以上、ノエルの本名を知っている奴はグランガンの関係者の可能性が高い。
 だから、皆にノエルの本名を知っている奴がいたら警戒するように伝えていた。まさか、脅すとは思わなかったが。


「全員武器を降ろせ。ビスケは敵じゃない」


 俺の言葉で全員が一旦武器を降ろす。
 安全が確保されたことを確認したビスケは胸をなでおろす。


「死ぬかと思った」
「不用意な発言をするからだ」

 
 俺とビスケの会話にフランが割り込んでくる。


「して、なぜこいつがノエルの事を知っている」
「簡単に言えば保険のために俺が話した」
「保険?」
「俺たちは今から王都へ向かい大会に向けての準備を進める予定だ。仮にサンドの連中が俺たちに勘付いたとする。だが、王都で俺たちを逮捕しようとするとなると責任者の許可がいる」
「で、その王都の責任者が俺って訳だ」
「なるほどのう、こいつに守ってもらう訳じゃな」
「守るというよりは時間稼ぎって感じだな」


 俺の言葉に全員が納得したようだが、ミエルは不満げな表情をしている。


「どうした、ミエル?」
「私たちがノエルを保護していることは犯罪だ。憲兵長に全てを話すのはリスクが高すぎるだろう」
「それは問題ない」
「どういうことだ?」


 即答されたのが意外だったのか、ミエルが目を丸くする。


「まず1つ、憲兵長は話されたことが真実と分からない以上は俺を逮捕できない。2つ、話が本当だった場合は俺を逮捕した場合に不味いことが起こる」
「不味いこと?」
「サンドの国家転覆を阻止できないんだよ」


 俺たちをここで捕まえた場合、ノエルは人国に保護される。サンドはノエルを教会の従業員と説明して神の使いに関しては知らないと言うだろう。表向きは解決するかもしれないがサンドの国家転覆の意志は消えない以上、危険は消えない。


「サンドの領主を捕まえるにはノエルの事がばれていないと思われている今行動するしかない。俺を捕まえるとそれがおしゃかになる」
「なるほど、嘘でも本当でも捕まえるメリットはないと」


 ミエルの言葉にビスケは頷く。


「どちらにせよ事実確認はしておきたくてね。それでホウリには1つ条件を出した」
「条件ですか?」
「『お前の情報収集能力と行動力を計りたいから裏カジノを1週間以内に潰してこい』ってな」
「条件も条件だが、受ける方も受ける方だな」


 ミエルの視線が呆れたような物に変わる。色々と言いたいことはあるが、喉の奥に言葉を仕舞い込んで話を続ける。


「俺は約束を守った。今度はビスケが約束をまもる番だ」
「そうだな……」


 ビスケは眼鏡を外しレンズを布で拭く。


「確かにホウリは予想以上の働きをしてくれた」
「では、協力してくれるんじゃな?」
「だが断る」
「奇遇にもここに切れ味の良い剣がある」
「偶々だがここに人が1人入る袋がある」
「偶然にも土を掘るのに最適なスコップがある」
「俺をどうするつもりだ……」


 ビスケが頭を抱えたのを見て俺は手に持っていたスコップを仕舞う。フランとミエルも同じように剣と袋を仕舞う。
 え?何で都合よく剣とか袋とかスコップとかあったのか?偶然だよ偶然。


「で、断った理由を聞こうか」


 ビスケは答える代わりに書類に手を添える。


「……まさか書類が増えるからか?」
「その通り!」
「やはり山に埋めよう」
「私は海に捨てるのが良いと思う」
「獣に食わせるっていう手もあるぜ」
「ナチュラルに死体処理の話するの止めてくれない?」


 こいつマジで言ってるのか……。


「冗談じゃないんだよな?」
「勿論!」


 今日一番の力強さで宣言されると力が抜けるな。これが憲兵のトップの言葉なのか。


「分かったらさっさと出てけ。ノエルちゃんの事は黙っといてやるから」


 追い払うように手を振るビスケ。そんなビスケを見たフランから念話が届く。


『どうするんじゃ?こいつの協力を取り付ける為にこんな回りくどいことしたんじゃろ?』
『大丈夫、想定内だ』
『なに?』


 ここの中でニヤリと笑いながら答える。


『言っただろ?弱みを握っているんだよ』


 念話を終えた俺はゆっくりとビスケへと近づき、机にとある写真を置く。
 ビスケは怪訝そうな顔をするが、写真を見た瞬間みるみると顔が青くなっていく。


「あんた一人娘がいるそうだな?」
「ま、まさか娘を盾にする気か!?」


 ビスケは震えた声で叫ぶ。そして、なぜか後ろからも野次が飛んでくる。


「子供を盾にするとは……、見損なったぞホウリ!」
「見損なっているぞホウリ!」
「ホウリさん、それはちょっと……」


 外野がうるさいが無視して話を進める。


「分かってんだろ?もし断るっていうんなら──」
「や、やめろ……」


 震えているビスケにとどめを刺す。


「お前の今までの失態を全て娘に伝える」
「やめろぉぉぉぉぉぉ!」
「「「へ?」」」


 俺の言葉を聞いたビスケが涙目でしがみついてくる。後ろの奴らはその様子を口を開けながら見ている。


「頼む、頼むからそれだけは……、それだけは……」
「止めてっていうならそれなりの態度があるよな?」
「……くっ!わかった、サンドからの要請が来たら出来るだけ引き延ばそう」
「交渉成立だな」


 俺が差し出した手をビスケが苦々しく取る。
 その様子を見ていたロワが何気なしに疑問を口にする。


「ビスケさんは何を娘さんに知られたくないんですか?」
「それは……、犯人を逮捕する時に無茶をして怪我をしたり、部下を思いやる余り危険な指示が出せなかったり」
「ダメルの街所属のY・Kさん『犯人逮捕時にでしゃばった性で犯人を取り逃がしました。反省してください』」
「へ?」


 間の抜けた声のビスケを無視して俺は手に持った紙を読み続ける。


「オダリムの街所属のB・Oさん『書類に飲み物をこぼすな。後片付けが面倒だろうが』。グランガンの街所属のK・Iさん『上司命令と言って行列に代わりに並ばせるんじゃない』」
「ちょっと見せてくれ……うわぁ」


 俺から紙を受け取ったミエルは思わず顔をしかめる。


「憲兵長への不満がびっしりと書いてあるな……」
「それが後4枚ある」
「頼むから嘘だと言ってくれ……」
「そ、そんな目で見るなぁ」



 顔を埋めながらわんわんと泣き出す。
 その様子をみたフランが小さな声で話し掛けてくる。


「ホウリや」
「分かっている」


 時折こっちの様子を確認しているし、どう見ても嘘泣きだ。どう考えても自業自得だし下手に構うと面倒だな。そのまま帰るか。
 帰る事を切り出すタイミングを計っていると、唐突にロワが口を開く。


「そ、そういえばビスケさんは娘さんがいらっしゃるんですよね?どんな子なんですか?」


 ロワ!?そいつは悪手だ!
 案の定、ビスケは目を輝かせ机を飛び越える。


「そうなんだよ私には娘がいてねとても可愛くてねあ写真見る?」
「は、はい」


 句読点が分からない位にまくしたてた後、ロワに写真を渡す。ロワへ写真を渡した後、俺達一人ひとりにも写真を渡してきた。
 写真にはぬいぐるみを抱えたノエルと同じくらいの年の女の子が写っていた。


「ね可愛いでしょ私の娘なんだけど『サルミ』っていう名前なんだけど表情は勿論可愛いんだけどこの前もプレゼントのぬいぐるみをあげた時に満面の笑みでありがとうって言ってくれてねその時なんか本当に可愛くて可愛くて」
「あ、あははは……」


 ロワは曖昧に笑いながら視線で助けを求めてくる。
 俺は無言で首を振るとロワの笑みがひきつる。そうしている間にもビスケの話は続いている。
 これは長くなるな。ロワを置いていくわけにもいかないしどうしたものか。


「フラン、どのくらいで終わると思う?俺は3時間はかかると思う」
「…………」
「フラン?」


 返事がない事を奇妙に思い、フランを見てみるとサルミの写真を神妙な顔で凝視していた。


「フラン?」
「……確かにサルミは可愛いと思う。じゃが……」


 一呼吸置いた後、フランは話す。


「ノエルの方が可愛いのではないか?」


 フランの言葉に饒舌だったビスケの言葉がぴたりと止まる。
 そして、フランの方へ顔を向けると笑顔で迫ってくる。


「んー?何か言ったかな?よく聞こえなかったんだけど」


 ビスケの言葉にフランも笑顔で返す。


「聞こえんかったか?ノエルの方が可愛いと言ったんじゃ」


 一見すると二人は和やかに話をしているように見える。だが、ここにいる全員が気づいていた。二人とも目が全く笑っていない事に。


「そこまで言うなら決着をつけよう!」
「望むところじゃ!」


 二人は同時にアイテムボックスを出現させ鬼のような形相で中身を漁り始める。
 ただならぬ雰囲気を感じ取ったロワがあせった様子で近づいてくる。


「ホウリさん、不味くないですか?何か対策をとった方が……」
「いざとなったら逃げよう」
「ホウリさん!?」


 扉の前でいつでも逃げられるように構えながら二人を見守る。
 二人は何かの魔道具を付け、魔道具に写真の束をセットする。


「わしからいかせてもらう!ドロー!」


 掛け声と共にフランが写真の束から一枚引く。そして引いた写真を見たフランはニヤリと笑い魔道具の隙間に差し込む。


「いきなり決めさせてもらうぞ!ドレスアップした時のノエル」


 魔道具に写真を差し込むと壁へ光が照射され、ドレスを試着していた時のノエルの写真が映し出される。
 ビスケは一瞬ひるんだ表情になったが、すぐに表情を引き締めて写真の束を引く。


「俺のターン!浴衣を着たサルミ!」


 ビスケが魔道具に写真を差し込むと、今度はサルミの浴衣姿が映し出される。
 

「やるな!」
「お前もな!」


 よくわからない戦い(?)を繰り広げている二人を見ながらミエルが呆れたように話す。


「ホウリ」
「なんだ?」
「二人は何をしているんだ?」
「分からん。だが、これだけは言える」
「わしのターン!ヒーローショーではしゃいでいるノエル!」
「俺のターン!野原でお昼寝をしているサルミ!」


 二人のやり取りを見た俺は確信する。


「あいつらは親バカだ」
「間違いないな」


 俺とミエルは二人で大きく頷く。


「ところで、肝心のノエルの姿が見えないな」
「ノエルちゃんならここにいますよ」


 声のした方を見てみると、ロワおぶられて寝息を立てているノエルの姿があった。


「話が難しくて寝ちゃってたみたいです」
「そうか、なら起こさないでやってくれ」
「分かりました」

 
 さて、こいつらに構っていたら日が暮れちまう。早くここから退散しよう。


「ロワ、ミエル、俺は行くところがあるから後は頼んだ」
「逃げる気か?」


 ミエルが鋭い目で睨んでくるのを首を振って否定する。


「人を待たせているだ。俺だって行きたくない」
「貴様どこへ行く気だ?」
「領主の屋敷」
「……なら仕方ないな。何か伝えておくことはあるか?」
「ビスケに裏切ったら書類が今の倍の量になると伝えてくれ。帰るのは夜になると思うから先に飯食べといていいぞ」
「分かった。伝えておこう」
「助かる」


 伝えることは伝えたし、そろそろ行くか。
 意を決した俺はドアノブへと手を掛け、死地へと向かうのだった。
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