魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第五十四話 キノコとタケノコの戦争

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──────クラン家──────
ミエルの母であるタード・クランの実家は世界で最大の貿易会社である『クランベリー』を経営している。そのため、世界有数の財産家でありタードはお嬢様という事になる。初めはタードが社長を継ぐことになっていたが、クリムと結婚した事で専業主婦になったため、跡取りがいなくなってしまった。とある理由でラメル家と仲が非常に悪い。────────Maoupediaより抜粋



☆  ☆  ☆  ☆ 



「はぁはぁ、なんとか分かってもらえたか」


 窓から差し込む夕日がミエルさんの背中を照らしている。ミエルさんは肩で息をしながらテーブルに突っ伏しています。
 あの後、ミエルさんはタードさんに弁解しまくってどうにか僕との誤解を解いたみたいです。終わったころには真上にあった太陽が地平線まで傾いていましたが。ちなみに、ホウリさんとタードさんはミエルさんの『おかえりパーティー』の料理を作っています。
 弁解が終わったミエルさんは疲れているのかリビングの椅子に腰かけて小一時間動いていません。
 僕たちはどうしていいか分からずにリビングに座っていると、ミエルさんは顔だけ上げて恨めしそうな眼を向けてきました。


「ロワァ、フラァン、なぜ弁解しなかったぁ?」
「その方が面白そうじゃったからな」
「なぜこういう時だけフランとホウリは息が合うんだ……」


 ミエルさんは呆れた表情になると、今度は僕の方へと恨めしそうな眼を向けてきました。


「ロワはなぜ弁解しなかった?」
「え?だって建前上、僕はミエルさんの彼氏になっているんですよね?」
「それはロワに悪い虫が付かないようにするためで……もういいや」


 そういうと、ミエルさんは再びテーブルに突っ伏しました。


「もう何もかもがどうでもいい」
「そういえば、ミエルの口調が変わっておるな。いつものような男勝りな口調から母親のような口調になっているぞ」
「それは……」


 ミエルさんはテーブルに突っ伏したままで沈黙したいましたが、十数秒後に話し始めました。


「……騎士団にいた頃、『女の癖に』とよく言われてね。嘗められないように口調を男勝りにしたら家族以外と話す時はこの口調になってしまったんだ」
「なるほどのう、よくある話じゃな」
「僕にはよくわかりません。強かったら性別なんて些細な事は関係ないんじゃないですか?」
「全員がロワのような考えであったら良いんじゃがな」
「そういう些細な事を気にする奴もいるものだ」
「よくわからないですが、ミエルさんも苦労していたんですね」


 ミエルさんは話し終えると、体を起こして大きく伸びをしました。


「うーん、そろそろ私たちもママ達を手伝うか」
「お主は座っておれ」
「お疲れでしょうから休んでいた方がいいですよ」
「ノエルとあそぼー」
「何か府に落ちないが、そこまで言うなら」


 ミエルさんがノエルちゃんの隣に座り遊び始めました。


「助かったのう。ホウリに色々教えられてるとはいえ、まだ一人で料理を任せるには心配じゃからな」
「正直な話、僕も命が惜しいですからね」


 ミエルさんを信頼していない訳ではありません。ただ死にたくないだけです。


「ミエルとノエルは遊び始めたし、わしらはすることがないのう。特訓でもするか?」
「フランさんの特訓はホウリさんの次に激しいので遠慮したいですね」


 僕たちが暇を持て余していると玄関が開く音が聞こえました。


「ただいまー」


 玄関から男性の声が聞こえました。恐らくミエルさんのお父さんでしょう。


「ママー、今日のご飯は何……ってお客さん?」
「パパ、おかえり」
「おじゃましています」


 リビングに現れたアゴに髭を蓄えたミエルさんのお父さんに挨拶をします。ミエルさんのお父さんは少し驚いた様子を見せましたが、挨拶を返してきました。


「これはどうも。ミエルの父のクリム・クランです。娘がお世話になっています」 
「僕はロワ・タタンです。ミエルさんと同じパーティーのメンバーです」
「同じく、フラン・アロスじゃ」
「ノエル・アロスです。フランお姉ちゃんの妹です」
「パーティーメンバー?ミエル、冒険者になったのか?」
「これには訳があって……」


 ミエルさんはクリムさんに説明を始めました。クリムさんはミエルさんの話を頷きながら聞いています。


「なるほど、今は彼らと旅をしているという訳だな」


 話を聞き終わったクリムさんは腕を組んでウンウンと頷きます。改めてクリムさんの顔を見てみますと、目元がミエルさんそっくりです。流石は親子ですね。
 ミエルさんは頷いているクリムさんに話を切り出しました。


「それでね、しばらくの間彼らを泊めて欲しいんだけどいい?」
「ミエルの頼みとあらば構わないぞ。闘技大会が終わるまでここに泊まりなさい」
「かたじけない」
「お礼という訳ではありませんが、お手伝いすることがありましたら言ってくださいね」
「分かった、頼み事があれば遠慮なく言わせてもらおう。ところで……」


 クリムさんはアゴ髭をなでながら僕とミエルさんを交互に見ます。


「二人はいつから付き合ってるの?」
「パパ!やめてよ!」


 ミエルさんがクリムさんを怒鳴りつけます。怒鳴りつけられたクリムさんは落ち込んだ様子で話を続けます。


「だって、ミエルの顔が恋する乙女の顔をしているから、つい」
「誰が恋する乙女よ!」
「間違ってはおらんじゃろ」


 ミエルさんの言葉にフランさんが突っ込みます。よくわかりませんが、とりあえず僕も頷いておきます。
 ミエルさんの言葉を聞いたクリムさんは不思議そうに首を傾げます。


「あれ?俺の目が曇ってるのか?完全に間違いないと思ったんだけどな」
「間違ってはおらんぞ」
「フランは黙っていて!」


 ついにフランさんも怒鳴られました。叫んでばかりでミエルさんも大変そうです。


「はいはーい、ご飯が出来ましたよー……ってあなた。おかえりなさい」
「ただいま。今日は豪華だね?」
「ミエルのただいま記念よ。あなたの大好物の唐揚げもあるわよ」
「やっほーい!」


 タードさんは微笑みながらテーブルに料理を並べます。それを見たクリムさんは飛び跳ねるように席に着きます。


「僕たちも席に着きますか」
「そうじゃな」


 僕たちは席に座って料理を待ちます。すると、奥から料理を持ったホウリさんもやってきました。


「料理もってきたぞー」
「ありがとうホウリ君。テーブルに並べてくれる?」
「分かりました」


 テーブルの上にはシチューや唐揚げ、シーザーサラダといった料理が並べられました。どれもとても美味しそうですが、盛り付けもとても丁寧でタードさんの愛情が伝わってきます。
 皆さんが席に座ったのを確認するとタードさんが手を合わせました。


「いただきます」
「「「「いただきまーす」」」」


 挨拶の後、皆さんは一斉に料理に手を伸ばします。


「この唐揚げジューシーで美味いのう」
「ピザも美味いぜ。特にトマトソースが絶品だ」
「サラダも野菜が新鮮で美味しいです」
「シチューもおいしー」
「うふふ、ありがと。おかわりもあるからいっぱい食べてね」
「……こんなに素晴らしい母親を持っておるのに、なぜミエルの料理の腕は壊滅的なんじゃ?」


 タードさんの料理に舌鼓をうっていたフランさんが不意にボソリと呟きました。瞬間、食事をしていたタードさんとクリムさんの手が止まりました。そして、お二人は目を見開きながらゆっくりとミエルさんを見ました。


「ミエル、もしかして料理したの?」
「……うん」
「大丈夫だった!?死人は出てない!?」
「被害の規模はどれくらいだった!?」


 家事で死人や被害という単語はおかしい筈ですが、すんなりと耳に入ってきました。慣れとは恐ろしいです。
 お二人の言葉にホウリさんはフォークにお肉を指しながら口を開きます。


「俺がなんとかしました。死人は出てないですよ」


 ホウリさんの言葉に隣に座っていたクリムさんは頭を下げました。


「ホウリ君!被害を食い止めてくれて本当にありがとう!」
「元は俺が作ってくれって言いましたからね。当然の事をしたまでです」
「流石にわしが死にかける程の毒とは思わんじゃろ。もはや、あれは毒を超えた兵器じゃ」
「本人の目の前でよくそこまで貶せるな……」


 ミエルさんが少し頬を膨らませて拗ねます。少しかわいそうな気もしますが、フォロー出来ないので黙っておきます。


「料理に関しては俺が教えていますので多少マシになっていますよ」
「本当?」
「ええ、かなり大変ですけど」


 心なしかタードさんとクリムさんのホウリさんを見る視線が変わった気がします。すると、今度はお二人でホウリさん頭を下げました。


「ホウリ君、これからも娘を頼む」
「別にいいですけど、俺よりもふさわしい人がいますよ」


 ホウリさんはそう言うと、僕の方へ視線を向けてきました。
 この視線はどういう意味でしょうか?『娘を頼む』からの『ふさわしい人』ですから……分かりました!いずれホウリさんは元の世界に帰ってしまいます。つまり、元からこの世界の住人である僕にミエルさんを任せたいのでしょう。そういうことであれば、僕もミエルさんを支えましょう。
 すべてを理解した僕はホウリさんに笑顔を返します。すると、ホウリさんの視線がじっとりした目にかわりました。まるで的外れな思考をしているのを見透かされたみたいです。……気のせいですよね?


「そういえば、ノエルちゃんはどうして旅をしているの?」
「うーんとね、フランお姉ちゃんと一緒にいたいなって思って」
「お姉ちゃん大好きなのかい?」
「うん!」


 ノエルちゃんが笑いながら頷きます。すると、玄関からチャイムの音が聞こえました。


「誰か来たのかしら?」
「私が見てこよう」


 クリムさんが席を立ってリビングから出ていきます。1分後、クリムさんは初老の男性を連れてリビングに入ってきました。身なりは一目で高価なものと分かりちょっとした仕草も上品で、身なりが高い人であることが伺えます。


「タード、お義父さんが訪ねてきたよ」
「お父さん、いらっしゃい。今日はどうしたの?」
「ミエルが帰ってきたと聞いてな。職務を放りだして急いできたのだ」

 
 初老の男性は言い終わるやいなや、ミエルさんの元へ向かいました。


「おかえりミエル。こちらの人達は?」
「ただいま、エンゼおじいちゃん。この人たちはね……」


 ミエルさんが説明を始めようとすると、玄関から扉が勢いよく開く音が聞こえました。そして、バタバタという足音がリビングに近付いてきて、扉が勢いよく開かれました。


「ミエル!変えってきたのか!」


 扉を開けて現れたのは同じく初老の男性でした。頭には鉢巻きを巻いていて半被を羽織っています。手はゴツゴツとしていて、所々汚れていますが、何かの職人さんでしょうか?


「ただいま、バーリングおじいちゃん」


 ミエルさんは苦笑いしながらもバーリングさんに挨拶をします。バーリングさんは満足そうな表情になりましたが、エンゼさんを見つけると途端に顔をしかめました。


「なんでお前がいるんだ」
「ミエルの祖父としては当然だ。それよりも貧乏人、貴様こそなぜいる?」
「俺がミエルの祖父だからだ。お前よりはるかにな」
「なに?」


 ミエルさんの祖父はどちらも変わらないと思います。
 睨み合っているお二人の間にはかなり険悪な空気が流れています。そんな時間が何分か続いた後、エンゼさんが口を開きました。


「……今日の所は帰ろう。ミエル、明日私の屋敷に来なさい。色々と話したい事がある」
「俺も帰る。俺の家にも来いよミエル。こいつの家より先にな」
「そんな細かいことを気にしているから貴様は貧乏なのだ」
「なんだと!?」


 お二人は言い合いをしながらリビングを出ていきました。その後も遠くからお二人の言い合いの声が聞こえます。どれだけ大きな声で言い合いをしているのでしょうか。
 お二人の声が完全に聞こえなくなると、ミエルさんが大きく息を吐いて背もたれにもたれました。


「なんでおじいちゃん達が同じタイミングで来るのよ……」
「あの二人は似ているところがあるからね。頑なに認めようとしないけど」


 体を起こしたミエルさんは僕たちの方へ向くと、頭を下げます。


「食事中にすまない。まさか二人が同時に来るとは思わなくて……」
「ミエルさんのせいじゃないですよ。だから頭を上げてください」
「そうじゃ、ミエルに落ち度は無いのじゃから謝る必要はない」
「それよりも、あの二人は誰かを聞きたいな。なんであんなに仲が悪いんだ?」


 ホウリさんが料理を食べながらミエルさんに聞きます。そういえば、ホウリさんだけはあのお二人が睨みあっている中でも料理を食べていました。凄い胆力です。
 ホウリさんの質問にタードさんが答えました。


「あの二人はミエルのお爺ちゃんでね、裕福そうな人が私の父のエンゼ・クラン。物流の会社の社長をしているわ」
「頭に鉢巻きを巻いていた人が俺の父のバーリング・ラメル。見たまんま陶芸家をしてるよ」
「お二人の職業はある意味で真反対ですね。職業が仲が悪い原因でしょうか?」
「ある意味ではそうだな」


 ミエルさんはお茶を飲んで一息ついた後、説明を続けます。


「パパとママが結婚する時、どちらの実家も最初は大反対だったんだ」
「俺達は両家を説得してなんとか結婚の許しを得ることが出来た」
「何年も掛かっちゃったけどね」

 お二人が苦笑いしながら言いました。しかし、結婚を許されているのならばなぜ仲が悪いのでしょうか?


「結婚を許してもらえたのはいいんだが、今度はある問題が起こったんだ」
「問題?」
「両家の跡取りの問題よ。ミエルを跡取りにするか揉めたの」


 跡取りはかなり重要な問題と聞いています。それなら揉めることもあるのでしょう。僕にはあまり良くわかりませんが。


「お爺ちゃん達は生まれた私を凄く可愛がってくれた。だからこそ、両家とも私を跡取りをしようとしたんだが両家を継ぐことは出来ない。それに私はどちらも継ぐ気もないしな」
「何度か話し合いをしたんだが、それでも話が付かなくてね」
「それで仲が悪くなったのか」


 ホウリさんは食べ終わった料理の皿を積み上げながら話します。というか、ホウリさん食べ過ぎでは?料理のほとんどを食べてしまってますよね?


「ミエルはどうするんだ?両親の実家に行くのか?」
「行かないと後々面倒なことになるので行かなくてはならない。申し訳ないが明日は私だけ別行動をさせてもらおう」
「俺達を付いて行っていいか?」
「へ?」


 ホウリさんの言葉が意外だったのか、ミエルさんが目を丸くします。


「時間が無いのではないのか?」
「これも準備の一環だから気にするな。それとも邪魔か?」
「うーん……」


 ミエルさんは腕を組んで悩んでいます。そんなミエルさんに僕たちは話します。


「僕も行ってみたいです」
「わしも行ってみたいんじゃがダメか?」
「ノエルも行ってみたいなー」
「しかしな……」


 ミエルさんはまだ悩んでいるのか、腕を組んで悩んでいます。


「ミエル、皆を連れて行ってもいいんじゃない?」
「今の仲間を紹介するのもいいと思うぞ?」
「……分かった。皆で一緒に行こう」
「やったー!」


 ノエルちゃんは余程嬉しいのか席を立って万歳をしました。僕も嬉しかったのでノエルちゃんにならって万歳します。


「「ばんざーい!ばんざーい!」」
「そんなに嬉しいか?」
「勿論ですよ」
「そうか」


 ホウリさんに呆れた視線を向けられたので万歳をやめます。その様子を見ていたタードさんは笑いながら口を開きます。


「とりあえず、今日は疲れているでしょ。明日に備えて寝なさい」
「はーい、ママ」

 
 こうして初日の夜は終わりました。
 この日からホウリさんから聞いていた通り大変な日々が始まりました。しかし、この時の僕たちはホウリさんの身に大変な事が起こるなんて思ってもいなかったのです。
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