魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第五十三話 実家のような安心感

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─────闘技大会の詳細─────
闘技大会のルールはかなり緩く設定されており、能力を変化させるアイテムと魔道具以外が認められている。ただし、アイテムや武器はアイテムボックスに入れるか身に着けられる程しか持てず、試合ごとにアイテムや武器の変更は出来ない。──────Maoupediaより抜粋



☆  ☆  ☆  ☆ 



 写真で一通り盛り上がった俺達は改めて王都での行動を確認する。俺はテーブルに王都の地図を広げて話を進める。


「王都での目的は闘技大会で優勝してサンドの領主を裁くことだ」
「優勝に加えて裁判でも勝たないといけないんですよね」
「つまり、大会と裁判の準備を同時にこなさなくてはいけぬのか」
「出来るのか?」
「出来ないと俺たちは死ぬ。死にたくなければ全力をだせ」


 この作戦は大会後の事は微塵も考えていない。万が一失敗した場合は、サンドの領主に見つかって死刑にされるだろう。
 食後のお茶を一口飲み、フランが口を開く。


「具体的には何をするんじゃ?」
「今まで通り情報収集から始める。欲しいのは対戦相手のステータスや戦術や弱点、サンドの領主の不正の証拠だ」
「どちらも簡単に手に入る情報ではないのだがな」
「そんなのは百も承知だ」


 自分のステータスが漏れることは手の内を明かすことと同義だ。だから、この世界の人はステータスの公開に慎重になっているし、不正な他人のステータスの取得は違法だ。特に闘技大会の出場者はステータスが他人に知られないように慎重になっている。そんな中で出場者の情報を調べるのはかなり難しいだろう。


「情報に関しては全員で協力して集める。どんな細かい情報でもいいから俺に報告してくれ」
「僕たちに出来るんでしょうか?」
「一人で情報を集めるよりは効率がいいからな。慣れない事かもしれないがやってもらう。場合によってはそれを取ることも許可する」


 俺はロワの口元を覆っている布を指差しながら言う。ロワは間の抜けた表情で付けている布をつまむ。


「これ外していいんですか?今までは何が何でも外さないように言われていたのに?」
「常に外しておく訳じゃない。周りに人がいないときに女性を誑かして情報を抜き出すときに外せ。お前にしか出来ない事だ」
「もう少し言い方なんとかせい!」
「……僕にはできません」


 ロワが口元の布を抑えながら俺を睨んでくる。確かにロワの性格上、人をだまして何かを得るというのは嫌いそうだ。これは俺の伝え方が悪かったな。
 俺は両手を挙げてロワに弁解する。


「すまない、言い方が良くなかった。ロワは布を取った後は普通に質問をするだけでいい。女性を口説いたり騙したりはしなくていい」
「貴様正気か?そんな事をしてみろ、すぐに騒ぎになるぞ?」
「だから乱用せずに人気のない所で外すようにしろ。多少であれば騒ぎが大きくなることもないだろう。詳しい条件は後でロワだけに伝える」
「……あまり褒められた行為ではありませんよね?」


 ロワはまだ乗り気ではないみたいだ。だが、さっきよりは表情が柔らかくなっているからもうひと押しって所か。


「ロワ、よく考えてみろ。人は自分がタイプの異性と話すと嬉しいだろ?」
「はい」
「ということは、ロワと話した女性は?」
「……嬉しい?」
「ロワは情報を貰えて?」
「……嬉しい?」
「どっちも幸せになるじゃないか。褒められる行為だろ?」
「……そうですね!」


 少し考えたロワは顔を満面の笑みに変える。ちょろい。
 だが、話を聞いていたミエルは仏頂面でロワからそっぽを向いていた。ミエルの異変に気が付いたロワは心配そうに見えるに話しかける。


「ミエルさん、どうしたんですか?やっぱり体調が悪いんですか?」
「……なんでもない」


 ミエルの言葉に首を傾げながらもロワは俺の方へと向き直る。


「僕にしか出来ないことであれば仕方ないですね。頑張ります」
「言っておくが、お前は他の女性に惚れるなよ?」
「それは心配ないですよ」
「なぜじゃ?」


 フランの問いにロワはいつもと変わらない様子で答える。


「僕は皆さんのことが大好きですから。皆さん以上に好きな人は現れないでしょう」
「お前、そういう所だぞ?」


 俺の言葉の意味が分からないのか首を傾げるロワ。ミエルの方へ視線を向けると、相変わらずそっぽを向いているが耳が真っ赤に染まっていた。ミエルもロワに負けず分かりやすい奴だ。


「そういうことで、各自で出来るだけ情報を集めておいてくれ、勿論、訓練も怠るなよ?ミエルとロワも大会に出ることは忘れるなよ?」
「分かってますよ」
「重要な事だ。忘れるは筈があるまい」


 大会は俺たちの誰かが優勝したらいい。そのため、2人には闘技大会に出場するように言ってある。


「そういえばロワ、カロンを覚えているか?」
「はい、ミエルさんの家に来た方ですよね?」
「そういえば、あいつと聖戦をやる事になっていたな。本来はルカアの街の予定ではなかったのか?」
「事情が変わった、決着は王都で付けることにする。いいか?」
「僕は構いませんよ」
「ミエルは騎士との戦いをロワに教えてやってくれ」
「了解した」
「それにしても……」


 ロワは机に突っ伏して弱々しく呟く。


「情報も集めて特訓もして大変ですね。気が遠くなりますよ」
「ノエルの護衛と物資の調達もしてもらうから、その2倍は大変だと思え」
「ノエルちゃんの護衛?もうサンドから追手が来ても大丈夫じゃないんですか?」
「そういう訳にも行かなくてな」


 不思議そうに首を傾げているロワに説明する。


「今封じているのはあくまでも合法の手段だ。万が一ノエルの正体がバレて捜査の要請があった場合でも憲兵長が時間を稼いでくれるからな。だが、非合法の手段はそうもいかない」
「なるほど闇討ちか」


 ミエルの言葉に俺は頷いて話を続ける。


「相手が非合法な相手に闇討ちを頼んできた場合は俺達で守るしかない」
「それって、一日中警戒しないといけませんよね?」
「ああ」
「……ちゃんと寝れます?」
「大会の数日前からは眠れるぞ」
「それ以外の日はあまり眠れないわけですね」


 弱々しいロワの声が更に弱くなる。


「正直、ビーチでのバカンスは王都での大変さの埋め合わせみたいなものだからな」
「改めて、今の状況が切羽詰まっておる事を実感するのう。して、わしは何をすればよいんじゃ?」
「フランはその都度俺が指示を出す。それまではノエルの傍にいてくれ」
「了解じゃ」
「ノエルはー?」


 今まで話し合いに参加していなかったノエルが手を挙げて聞いてくる。


「ノエルも戦闘の特訓をしてくれ。後、絶対に一人になるなよ」
「……はーい」


 ノエルは頷くがその表情は暗い。ノエルの事だ、皆が忙しくて寂しいんだろう。だが、自分の為に皆が動いていることも理解しているから我儘を言いたいのを堪えているんだろう。
 そんなノエルを見たフランは手を挙げて話し始める。


「皆、わしから提案があるんじゃが」
「なんだ?」
「一日一回、皆で集まって飯を食わんか?」


 恐る恐ると言った様子で提案を口にするフラン。
 王都に入れば全員が忙しくなる。場合によっては昼に眠ることもあるだろうし、宿に帰れない日もあるかもしれない。それはフランも分かっている筈だ。だが、分かっていてもノエルに寂しい思いをさせたくないのだろう。それに対する俺たちの答えは……


「勿論いいぜ」
「私も異論はない」
「僕もいいですよ」
「えっと、ノエルは大丈夫だからお兄ちゃん達は無理しないで」


 慌てて弁解しているノエルに俺は首を振って答える。


「こういう大変な時にこそ、いつもの日常は大切だ。それに情報の共有はこまめにしたほうがいいしな」
「そうだぞ、私たちがやりたいからやっているんだ。ノエルが気にする事はない」
「それともノエルは嫌か?」


 俺の言葉にノエルは首を振る。


「決まりだな。フランは念話で全員とやり取りをして俺に知らせてくれ。食事の時間を調整する」
「了解じゃ」
「これで決めることは終わりだな」
「いや、もう一つあるじゃろ」
「なんだ?」


 俺の疑問にフランは地図を指さしながら答える。


「宿はどうする?」
「いくつかの目星はつけてある。守りに適した立地の宿から選ぶ予定だが問題点が一つあってな」
「問題?」
「どうしても他の客の出入りがあるって点だ」


 敵が他の客に紛れていると対処が遅れてしまう。これは宿に泊まる限り避けようがない事だ。


「とりあえず、ノエルを極力一人にしないようにしよう」
「そういう事であれば、私に考えがある」
「考え?」
「私の実家に泊まればいい」
「ミエルさんの実家?」


 そういえばミエルの実家は王都にあったんだったな。可能であればかなり有難いが。


「ミエルのご両親に迷惑じゃないか?」
「念のため確認するが恐らく大丈夫だ。私の両親は賑やかな方が好きだからな」
「そこまで言うのならいいが」
「そういえばミエルの両親の話は聞いたことが無かったのう。どういう両親なんじゃ?」
「そうだな。なんと言ったらよいか……」


 ミエルは小一時間頭を悩ませている。自分の両親の説明にこんなに悩むものなのか?……考えたら俺の親父も説明できない程の人物だった。というか人物かも怪しい。


「お前も大変なんだな」
「よく分からないが、その憐みの目をやめろ」


 なぜか嫌がられた。


「私の両親は……その、かなり仲がいいな」
「仲がいい?どのようにじゃ?」
「それは……見たら分かる」


 どういう事だろうか?
 俺たちの中に疑問を残して話し合いは終了した。



☆  ☆  ☆  ☆ 



 王都に着いた俺たちは住宅街のエリアに来ていた。人国の中心の街であるというだけあって建物も高級感があり、造りがしっかりとしている。また、いままで訪れた街よりも人が多く、魔族も多く見られる。街の景観も清潔感があり、管理が行き届いていることが分かる。
 そんな王都の街をミエルの先導の元、俺たちはミエルの実家に向けて歩いていた。


「ミエルさんの実家、楽しみですね」
「楽しみにするほどの物でもない。あまり期待はしないでくれ」


 そう言うとミエルは服屋がある角を曲がる。


「あれが私の家だ」
「普通じゃな。もう少し大きい家にでも住んでいると思ったぞ」
「両親が騎士団に努めているからな。それなりに裕福ではあるが両親が広い家が好きでなくてな。お金は食事や旅行などに使っていたな」


 両親が騎士団なのか。ミエルの誰かを守りたいという意思は両親の影響かもな。
 ミエルが家の扉をノックし大声を上げる。


「ママー!帰ったよ!」


 ノックをしてから数十秒後、奥から激しい足音がしたかと思うと、勢いよく扉が開かれた。


「ミエル!おかえりなさい!」


 家の中から金髪のショートカットの女性が満面の笑みで現れ、ミエルに抱き着いた。顔にミエルの面影があるしこの人がミエルの母親だろう。
 ミエルは母親を引きはがすと恥ずかしそうに顔を赤くする。


「ママ!いきなり抱き着かないでよ!」
「あらあら、恥ずかしがっちゃって。あら?そちらの方々は?」


 ミエルの母親は顔に手を当てて首を傾げる。俺はお辞儀をして自己紹介をする。


「はじめまして、俺はミエルさんと同じパーティーのメンバーであるキムラ・ホウリと申します。これ、つまらないものですが」


 俺は饅頭の詰め合わせをミエルの母親に手渡す。


「同じくフラン・アロスじゃ」
「ロワ・タタンです」
「ノエルはノエル・アロスです。フランお姉ちゃんの妹です」
「これはご丁寧にどうも。ミエルの母親のタード・クランです」


 饅頭を受け取ったタードは深々と頭を下げる。


「さあさあ、こんなところでお喋りもなんですから中にどうぞ」


 タードに促されるまま、俺たちは家の中へと入る。


「汚い所ですが、座ってくださいね。今お茶を淹れてきますから」


 リビングに通された俺たちは椅子に座るように促される。タードさんは饅頭を持つと奥のキッチンへと引っ込んだ。


「優しそうな母親じゃな」
「厳しくそれでいて優しい人だ。私が一番尊敬している人だ」
「それは見ていて分かったよ」


 タードの俺達を見る目は優しかった。ミエルの仲間だからだろうが、初対面の人間にあれだけの優しい眼差しを向けられるのは心が綺麗な証拠だ。良い母親に育てられたんだな。


「しかしあの母親、ミエルが冒険者になったと分かっても何も聞かなかったぞ」
「それだけミエルさんを信頼しているんですよ」
「昔から私がやる事を否定することは無かったからな。おかげでやりたい事をやることが出来た。本当に感謝している」
「良いお母さんですね」


 俺達が雑談しているとキッチンからお茶と饅頭持ってきたタードがやってきた。全員の前にお茶と饅頭を置くとミエルの隣の席に腰掛ける。


「それじゃ、お茶でも飲みながら色々とお話を聞こうかしら」
「うん。あのね……」


 ミエルが今までの出来事をタードに話し始める。勿論、ノエルの事は伏せてあるが。
 タードはノエルの話を頷きながら聞き、嬉しそうに微笑む。


「……っていうことなの」
「そういうことがあったのね」


 タードはカップを置くとミエルの手を握る。


「よく頑張ったわね、ミエル。偉いわ」
「……ありがとう、ママ」


 ミエルはタードの言葉に思わず肩を震わせて涙を流す。
 タードはミエルの手を離すと、俺たちの方へと向き直る。


「皆さんもミエルと旅をしていただき、ありがとうございます」
「いえいえ、俺達がミエルに無理をいってついてきて貰っているので、お礼を言うのはこちらですよ」
「うふふ、それでもお礼を言いたいですわ。ところで一ついいかしら?」
「なんですか?」


 タードは変わらぬ笑顔のまま口を開く。


「ミエルの彼氏さんはどちらかしら?」
「ブゥー!」


 タードの言葉にミエルが思わずお茶を吹き出す。


「ゴホッゴホッ、何言ってるのママ!」
「だって、あなたの事だから好きになっちゃったから一緒に旅してるんでしょ?じゃないと初対面の人と旅なんてしないでしょ?」
「そそそそそんな訳ないでしょ!」
「隠さなくてもいいわよ。それでどっちなの?」


 興味津々に聞いてくるタード。隣のミエルが助けを求めるように俺を見てくる。そして、頭の中にミエルの声が響いてきた。


『ホウリ!何とかしてくれ!頼む!』
『分かった、何とかしよう』
『恩に着る!』


 俺は顔に笑顔を作るとタードの質問に答える。


「タードさん、ミエルは惚れたから旅をしている訳ではありません」
「あら?そうなの?」


 俺の言葉にタードは少し残念そうな表情になる。対照的にミエルの表情は明るくなり、余裕が出来たのかお茶を口に含む。そんな中で俺は横に座っているロワを指で刺しながら話を続ける。


「ミエルは惚れてる訳じゃないです。既にロワと付き合ってます」
「ブゥー!」


 俺の言葉にミエルが再びお茶を吹き出す。


「ゴホッゴホッ、貴様!嘘を言うな!フラン、何とか言ってやってくれ!」
「間違ってはおらんじゃろ」
「フラン!?」


 フランの言葉にミエルが悲痛な声を上げる。すかさず俺たちは畳みかけるように話を続ける。


「それはそれはラブラブでのう。見ているこちらが恥ずかしいくらいじゃ」
「出会った時からそうだもんな。運命の人って言われても疑う余地がないほどに相性が良いんじゃないか?」
「やめろぉ!ママに嘘を吹き込むなぁ!」


 ミエルの叫びが聞こえていないのか、タードは満面の笑みでロワの方へ顔を向ける。


「本当なのロワ君?」
「えっと……はい?」
「ロワぁぁぁ!」


 ロワの言葉を聞いたタードは椅子から勢いよく立ち上がると、再びキッチンへと向かう。


「こうしちゃいられないわ。お祝いの為にごちそうを作らないと」
「作らなくていいから!いつも通りでいいから!」
「俺達も手伝います?」
「助かるわ。じゃあ、食材の買い出しと下ごしらえを頼めるかしら?」
「分かりました」
「分かるな!ああ、もう!私の話を聞けぇぇぇぇ!」


 閑静な住宅街にミエルの叫びが響くのだった。
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