魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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外伝 500人の異世界開拓記録 その3

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「そろそろ冬だな」


 報告用の書類から目を外し窓の外を見ると、木から落ちる枯れ葉が目に留まった。元の世界であれば少し寂しくなるくらいで済むんだが、この世界だとそうもいかない。


「問題は食料だな。どうなっている?」
「少し遅れているようです」


 食料課からの書類に目を通しながら幸が言う。


「前は食料は安定しているって言ってなかったか?」
「最近は狩猟や採集の結果が芳しくないみたいでして。このままだと冬の間に餓死する人が出るかもしれません」
「不味いな。食料課の人員を増やすか?」
「他の所も手が足りていない為、それも厳しいと思います」
「どうしたものか……」
「私にいい考えがあるわ!!」


 俺が頭を悩ませていると突如として扉が開き、弓を背負った一人の女性が入って来た。


「あんたは食料課のリーダーの真美さんだったか?」
「その通り!どうやら食糧難でお悩みのようね!」
「そうだが、何か考えがあるのか?」
「簡単な事よ。獲物が足りないのなら狩ればいい」
「だが、皆忙しいんだろ?誰が仮に行くんだ?」


 俺の言葉に真美は笑うだけで何も答えない。なぜか嫌な予感がする。


「もしかして、俺に狩りに行けって事か?」
「分かっているなら話は早いわ!そうと決まれば今すぐ行くわよ!」
「ちょっと待て!」


 俺の手を引く真美に対して慌てて手を振りほどく。そんな俺を真美は不思議そうな表情で見てくる。


「このままだと死ぬ人が出るわよ?何か不満があるの?」
「狩りに行く事に不満はない。問題はなんで俺が行かないといけないのかだ」
「あなたが一番暇そうじゃない?一日中座ってるだけでしょ?」
「そんな訳ないだろ。各グループの問題点や住民の要望とか聞いて、その解決策とかを提案……」
「そんな小難しい話はいいのよ。今は住人が死ぬかどうかの瀬戸際よ」
「だ、だが俺が仕事しなかったら色々と困るんだよ。なあ、幸?」
「お夕飯までには戻ってきてくださいね」
「幸!?」
「ああもう!ごちゃごちゃうるさいね!やるか、やらないか、どうなの!」
「わ、分かった!行く、行くからこの手を放せ!」


 引き千切れそうな程に強く手を引かれてながら、俺は狩りに連れていかれるのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


「なるほど、それで田中殿は森の中で狩りをしているのでござるな」
「中々大変ですな。一つ聞いていいですかな?」
「なんだ?」
「なんで私たちもここにいるんですかな?」


 火野兄弟が俺の後ろをついてきながら疑問を飛ばしてくる。俺は後ろの2人に笑顔で答える。


「道連れは多い方が良いだろ?」
「最低な考えでござるな」
「仮にもリーダーでござろう?」
「お前らの無茶を聞いてるんだ。俺の無茶も聞いてもらおうか?」
「しかし───」
「そこ!静かに!」


 前を歩いていたものすごい剣幕で真美に怒られる。


「「「すみませんでした」」」
「次から気を付けるのね」


 真美は話を切り上げて前に進み始める。狩りに入ってから真美の目が怖い気がする。


「お前らのせいで怒られたじゃねえか」
「何を言う。田中殿、お主が拙者達をこんな所に連れてきたせいであろう?」
「そうですぞ。田中殿は全ての非を認めて娯楽課に仕事をさせるべきですぞ」
「どさくさに紛れて何言ってんだ」


 ひそひそと話しながら森の奥へと歩を進める俺たち。
 歩く事1時間、前を歩いていた真美が歩みを止めた。


「ここから狩りを始めるわ。各々武器を出しなさい」
「なあ、俺たち武器使ったこと無いんだけど?」


 この世界に来て俺たちはあまり武器を使っていない。来たばかりの頃は剣を少し使ってみたが、書類とにらめっこするようになってからは全く使わなくなった。火野兄弟も同様だろう。
 そんな俺たちが狩りなんて出来ると思えない。
 俺の言葉に真美は指を振りながらニヤリと笑う。


「ふっふっふ、甘いわね。狩りは武器を振り回すだけじゃないのよ」
「武器じゃないなら何で狩りを?」
「罠よ」
「なるほど、それなら俺達でも出来そうだ」


 罠なら慣れてなくても仕掛けられそうだ。武器が使えない俺達でも何とかなるだろう。


「で、道具は?」
「へ?あー、忘れてた」
「は?道具なしでどうやって罠を作れっていうんだ?」
「……がんばれ!」
「がんばれじゃねえよ!おい待て!逃げんじゃねえ!」


 俺たちから逃げるかのように森の中に消える真美。


「くそっ、これからどうすればいいんだよ」
「罠を作ろうにも道具はない。弓と剣は持っているでござるが、拙者達の腕ではまともに狩りが出来るとは思えぬ」
「詰んでないですかな?」
「やれるだけやるしかないな。簡単な落とし穴でも作って獲物が落ちたところを上からタコ殴りにしよう。何も捕れなかったら採集でもして帰るか」
「そうでござるな」

 
 本格的に何をしに来たか分からなくなってきた。だが、来たからには何かしないとな。


「確か1つだけスコップがあったはずだ。1人はそれで穴を掘って、残りは使えそうなものが無いか探してこよう」
「使えそうな物とは?」
「穴を覆う葉っぱとか、餌になりような植物とかだな」
「では、拙者達が探索をしてこよう」
「別に良いが、しれっと俺に重労働を押し付けるな」


 2人が森の奥へ入っていくのを見送り、俺は適当な場所に穴を掘り始める。


「確か鹿みたいな生物がいたな。大きさは150㎝位だったか」


 150㎝よりも少し深く掘っておけばいいか。
 俺は無心で穴を掘り始める。だが、5分もしないうちに息が切れて腕を上げるのがしんどくなってきた。


「はぁはぁ、少し休むか」


 異世界に来たら運動不足が解消されるかと思ったが、全くそんな事は無かったな。
 俺は水を飲みつつ一息つく。掘った穴を見てみるが、まだ50㎝も掘れていない。


「落とし穴を1つだけって訳にもいかないだろうし、気合入れるか」


 俺は気合を入れて、横に置いていたスコップを手に取る。
 そのまま穴掘りを再開しようと地面に突き刺そうとした瞬間、


「「うわああああああ!」」
「なんだ!?」


 森の奥から火野兄弟の悲鳴が聞こえた。魔物に襲われたのかもしれない。急いで向かわないと!
 手に持っていたスコップをアイテムボックスに仕舞って、声がした方向へ走る。
 声の大きさからしてそこまで離れた距離にはいない筈だ。


「間に合え!」


 がむしゃらに走っていると木の隙間から剛が剣を構えているのが見えた。剛と正面から何体かのゴブリンがこん棒を持って迫っていた。
 この辺りで魔物を見たって情報は無かった。だが、こいつらがいるって事はその情報は正確じゃなかったって事か。認識が甘かったか!


「この!」


 俺はスコップを取り出して1体のゴブリンに向かって投げつける。スコップはゴブリンの腹に突き刺さると真っ赤な血を噴出させた。


「ごぎゃあああ」
「田中氏!」
「剛、無事か!」
「私は大丈夫ですぞ。しかし、後ろは……」
「後ろ?」


 俺は剛の後ろを見てみる。すると、さっきは木に隠れて見えなかったが、飛鳥が誰かをかばいつつ頭から血を流していた。かばわれている誰かの姿は見えないが、飛鳥の背中に隠れ切っている所を見るに、子供の可能性が高いだろう。


「こいつらに襲われたのか」
「その通り。魔物に襲われている子を助けようとしたら、その子をかばって……」
「飛鳥、良い奴だったぜ……」
「まだ死んでないでござる!」


 飛鳥は思ったよりも元気そうに抗議の声を上げた。無事とはいかないようだが、とりあえずは大丈夫そうだ。


「だが、この状況は俺一人が加わっても変わらねえぞ?流石に数が多い」
「どどどどうすれば!?」
「全員倒すのは出来ないが、上手くいけば追い払うくらいは出来るかもしれない。こん棒を避けてその隙を狙って攻撃しよう」
「拙者も弓で援護を……」
「俺たちにも当たるからおとなしくしてろ。行くぞ、剛」
「わわ分かりましたぞ!」


 決死の覚悟をして、俺はアイテムボックスから剣を取り出す。


「来い!」
「ごぎゃああああ!」


 ゴブリンの集団が俺たち向かって襲い掛かって来る。瞬間、


「ごぎゃ?」


 ゴブリン達の首が一斉に切断され、頭が地面へと落下していった。
 俺や剛、さらには切られたゴブリン達も何がなんだか分からない表情をする。
 首を切られたゴブリン達はそのまま光の粒となると、空気中に溶けていった。


「さ、流石は田中氏。あっという間に敵をやっつけたでござるな」
「心にもない事を言うな。俺の筈ないだろ」
「その通り、田中君じゃなくて私の仕業よ」


 剛と話していると背後から声が聞こえた。振り返ってみると、血まみれのナイフを持った真美がいた。


「ま、真美氏が助けてくれたのですか?」
「そうよ、狩りをしていたらあなたたちの悲鳴が聞こえてね。慌てて来てみればゴブリンに襲われそうになっていたから、全員の首をズバッとね」
「真美の姿は全く見えなかったが?」
「認識阻害のスキルよ。他の人から見えなくなったり気配を消せたり便利よ?」
「凄いですぞ!まるでくノ一のようですぞ!」
「村に戻ったら着て欲しい服があるでござる!」
「はいはい、いつか着てあげるわ。それよりも、今は飛鳥の治療とその子の事でしょ?」


 真美が飛鳥の後ろを指さす。そこには、ボロボロの衣類を身に着けた金髪の女の子がいた。一目見た限りだと普通の女の子に見えるが、人間とは違う特徴があった。耳が普通の人間より長いのだ。
 これは、漫画とかでよく見る……
 

「エルフ?」
「そう!そうなんでござるよ!彼女はまごうこと無きエルフ!異世界とは切っても切り離せない存在がここに!あ……」


 熱弁を振るう飛鳥だったが、血を流し過ぎたのか白目を向いて倒れた。


「はあ、興奮しすぎだこのバカ」
「いやいや、興奮せずにはいられないですぞ。なにせエルフですからな!」
「分かった、とりあえず村に戻るぞ。この子をどうするかは帰ってから決めよう」
「それもそうね」


 頭を掻きながらエルフの子の方へ視線を向けると、気絶している飛鳥を心配そうに見ていた。
 そして、飛鳥の頭に手をかざすと、飛鳥の体が緑色の光に包まれた。


「こ、これは……」
「回復スキル?」
「それにしては傷の治りが早い。なんだこれは?」


 魔力が高いのか?だが、それだとしたら魔力の数値が10,000を超えていないと、この治り方はありえない。どういうことだ?
 俺が考えこんでいると、気絶していた飛鳥が目を覚ました。


「うーん?拙者は何を?」
「その子がお前を治してくれたんだよ」
「本当でござるか!?感謝するでござる!」


 飛鳥が女の子に土下座して感謝を表す。女の子はそんな飛鳥の頭を撫で始めた。


「くっ……エルフに治療してもらったばかりか、頭を撫でてもらうとは。羨まし過ぎて爆発しそうであるぞ!」
「はいはい、分かったからここから立ち去るぞ。さっきのゴブリンの仲間が来るかもしれないからな」


 こうして、俺たちの村に住民が一人増えたのだった。
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