魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百二話  お前もしかしてまだ、自分が死なないとでも思ってるんじゃないかね

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「……という事をホウリさんにやらされていたんですよ」
「ホウリの奴め、ロワにそんな事をやらせていたのか」
「いきなり劇をやれって、無茶苦茶ですよ」


 ラッカと出かけた日の夜、私はロワの部屋で愚痴を聞いていた。私がラッカと出かけている間にホウリに戦闘指南と劇をやらされていたらしい。
 戦闘指南をやらせるのは分かるが、劇は何のためにやらせたのか訳が分からない。ロワには悪いが、予定が入っていて良かったと思う。


「劇の評判はどうだったんだ?」
「なぜか好評でした。次回もやってくれと言われましたが、二度としたくないです」


 ロワがげんなりした様子でベッドに倒れ込む。


「ロワも大変だったんだな」
「そうですよ、普通は魔語がカタコトの人に魔語で演技さませんよね?」
「直前まで劇の事を伏せるのもあり得ないな」
「ですよね」


 ロワが力なくベッドに倒れながら話す。相当疲れたのだろう。


「私に出来ることはないか?」
「こうして愚痴を聞いてくれるだけでも十分ですよ」


 今にも寝てしまいそうな声でロワが答える。ロワが寝てしまったら自分の部屋に帰ってしまったほうがいいかもな。
 私がそう思っていると、部屋の扉がノックされた。


「……はーい」
「私が出るか?」
「僕の部屋に用があるんですから、僕が出た方が良いでしょう。それに、このままベッドに倒れたままだと、寝てしまいそうですし」
「そうか」


 欠伸を噛み殺しながら、ロワは扉へと向かう。


「どちら様ですかー」


 ロワが扉を開けると、そこには目つきが鋭い女が立っていた。


「あれ?ペイトさん?」
「知り合いなのか?」
「今日の戦闘指南でお会いした方です。なんでも弓使いの中でリーダーをやっているとか」
「そうだったのか。そんな奴がこんな時間に何の用だ?」


 不思議に思っていると、ペイトは意を決したように口を開いた。


「ろわ、いまじかんある?」


 カタコトの人語だが、意味は通じる。時間があるかか、何かあったんだろうか?


「ありますよ。何かありましたか?」
「ゆみ、おしえて?」
「こんな時間にですか?明日にした方が……」
「いまがいい」


 強引なペイトの言葉に困ったような顔をするロワ。ここは助け舟を出した方が良いかもしれない。


≪ロワは昼間の事で疲れているみたいなんだ。日を改めた方がいいんじゃないか?≫
≪黙りなさい、私はロワと話しているのよ≫


 ペイトは明らかな敵意を持って私を睨みつけてくる。これではとりつく島が無い。


「ろわ、だめ?」
「ダメではないですが……」
「じゃあ、きまり」


 ペイトがロワの腕を取って強引に引っ張っていこうとする。


「いや、時間的に……」
「いろんな弓ある。わたしにあった弓をえらんでほしい」
「えーっとですね」
「ろわもつかっていい。『えんぜる』とか『でりんぐ』とかいろいろある」
「すぐに行きましょう」


 寝ぼけていた目をすっきりさせて、ロワが乗り気になる。さっきまで眠いと言っていたのが嘘のようだ。


「ミエルさん、そういう事なのでちょっと行ってきます」
「あんなに眠そうだったのに大丈夫なのか?」
「ちょっとだけなので大丈夫ですよ。終わったらすぐに戻るのでミエルさんは先に部屋に戻っておいてください」


 そう言うと、ロワはペイトと共に部屋から出ていったのだった。やる事も無い私は、おとなしく部屋に戻り、ベッドで休むことにしたのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


 翌日の朝、スターダストの皆で朝食を取ろうと食堂に入ると、目にクマを付けたフランとロワが座っていた。


「ロワ、お主も何かあったのか?」
「いえ、このお城にある弓を見ていたら、いつの間にか日が昇ってまして」
「夜更かしは健康に悪いぞ」
「それフランさんが言います?」


 二人が目をこすっているんを見ながら私は席に着く。


「ロワ、あの後部屋に戻らなかったのか?」
「30分くらいで戻ろうと思ったんですが、このお城にある弓がどれも魅力的でして。ペイトさんと見ている内にいつの間にか朝に……」
「ロワは弓の事になると周りが見えなくなりすぎる。気を付けないと大変な事になるぞ?」
「気を付けます……」


 欠伸を噛み殺しながらロワが答える。この様子を見るに本当に一睡もしていないみたいだ。
 2人が眠そうにしていると、ノエルとホウリも食堂に入って来た。


「おーっす、おはようさん」
「おはよー、あれ?ロワお兄ちゃんどうしたの?」
「ちょっと寝てなくて……」
「大丈夫?」
「なんとか……」
「大丈夫そうには見えないけどな。2~3時間で良いから寝ろよ?」
「分かりました」


 全員が席に付いたのを確認してホウリが手を合わせる。


「いただきます」
「「「「いただきまーす」」」」


 全員でいつも通りに朝食を食べ始める。しかし、ロワはスープを数口飲んだ後に、コックリと船を漕ぎ始める。このままではスープに顔を付けてしまいそうだ。
 それに気が付いたホウリが呆れたようにロワに声をかける。


「ロワ!」
「……ひゃい!」


 急に名前を呼ばれたロワは驚いて席を立つ。


「お前な、飯もまともに食えない程眠いのか?一体、何してたんだよ」
「ペイトさんとお城にある弓を見てまして。気が付いたら朝に」
「あの武器庫に行ったのか?」
「ホウリさん知ってるんですか?」
「この城の施設は全部把握している。もちろん、武器庫もな」
「そうだったんですか」
「あの武器庫は良いよな。品質が良い武器がそろっている」
「ですよね!特にエンゼルとか、完璧な状態で残ってましたよね!」
「俺はデリングが残っているのが感動したな。あれって戦時中に焼かれたと言われてて最近見つかったんだろ?」
「そうなんですよ。なんでも兵士の人が露店で……」


 ロワとホウリが弓談議に花を咲かせる。だが、私には何を言っているかさっぱり分からない。
 まあ、ロワが元気になったようだし良かったと思おう。


☆   ☆   ☆   ☆


「それ、まったくよくないニャ」


 カフェでロワから聞いた出来事を話すと、ラッカが渋い顔でそう言った。


「そうだよな、夜更かしは体に良くないよな」
「そうじゃニャくて、そのペイトっていう奴の事ニャ」
「ペイトが?」


 私の態度にラッカが深くため息を吐く。


「甘いニャ。ミエルはロワ君のモテ具合を理解してないニャ」
「布を付けていれば大丈夫だろう?」
「それはロワ君の顔が目当ての子を減らすだけニャ。ロワ君の内面に惹かれる子には全く効果が無いニャ」
「つまり?」
「そのペイトって子にロワ君を取られるかもしれないニャ」
(ガシャーン!)


 ラッカの言葉を聞いた私は手に持っていたカップを落としてしまった。


「ななな何を言っているのだ。そんな事があある筈ないじゃないか」
「分かりやすく動揺しているニャ」


 ラッカの言葉で私の頭に嫌な想像が湧いてくる。
 確かにロワは顔がかなり良いが、性格もモテるタイプだ。いくら布で顔を隠しているとはいえ、内面に惹かれる奴がいる可能性は大いにある。


「だ、だが、ぽっと出の奴にロワが取られるなんてそんな事が……」
「数か月も一緒に旅をしていて関係が進展していない奴が言うセリフじゃないニャ」
「うぐっ……それはそうかもしれないが……」
「いつも一緒にいるという事にかまけて、何もしてこなかったミエルにも問題があると思うニャ」
「そ、それは……」


 図星を突かれて何も言えなくなってしまう。確かに私からアプローチをすることはほとんど無い。今の関係性に甘えていると言われても仕方ないだろう。


「……どうすればいいだろうか?」
「告白が一番手っ取り早いニャ」
「いきなりそんな事出来る訳ないだろう!」


 私の叫びに周りの客の視線が一斉に私の方へと向く。
 私は顔を背けて、ラッカへ小声で話す。


「告白なんていきなりしてみろ、ロワを驚かせてしまうだけだろう」
「それが甘いニャ。自分が狙っている人には早めに唾を付けておく。恋愛の基本ニャ」
「なるほど、恋愛とは奥が深いものだな」


 とはいえ、いきなり告白はハードルが高すぎる。他にアプローチする方法はないだろうか?


「相手の趣味と同じ趣味を持つのはどうかニャ?簡単に話が弾むニャ」
「それはいいな。ロワと同じ趣味か」


 ロワの趣味といえば……


「弓か?昨日の夜更かしの原因も弓だし」
「それはペイトの方が詳しいから止めておいた方が良いニャ」
「それもそうだな」


 ペイトが部屋で話していた単語の大半が私には分からなかった。付け焼刃の知識だと歯が立たないだろう。
 だとしたら、弓以外のロワの趣味を探すしかないか。


「……全く思いつかない」
「本当にパーティーメンバーかニャ?」


 白い目で見てくるラッカに慌てて弁明する。


「そうじゃない、ロワはなんと言うか、良くも悪くも弓の事しか頭に無くてな。弓以外の動機で何かをしている所を見たことが無い」
「そこまで弓バカなのかニャ?」
「弓バカは言い過ぎだろ」


 とはいえ、ロワの趣味が弓以外にない事は事実だ。どうしたものか。


「他のアプローチを考えてみるニャ」
「趣味以外の面で事か?」
「そうニャ。ミエルが得意な事でロワ君をメロメロにしちゃうんだニャ」
「私が得意な事……料理か?」
「それは絶対にやめるニャ」


 笑顔で、しかし有無を言わせぬ迫力でラッカが止める。下手をすれば密偵の時よりも必死かもしれない。


「いつも思うんだが、私の料理ってそんなにひどいのか?」
「いつも言ってるニャ。下手したらこの世が終わるくらいにはひどいって」
「この世が終わるは言い過ぎだろう」
「誇張は一切してないニャ」


 料理で世界が滅びる訳ないだろう。皆がいじわるで言っているだけだと私は思っている。


「そういえば、ホウリ君と一緒に料理を特訓しているって聞いたニャ。その後の様子はどうニャ?」
「レパートリーはいくつか増えたぞ」
「例えば?」
「得意料理にポテトサラダが加わった」
「それは凄い進歩ニャ。問題は破壊力がどのくらいかだけニャ」
「知っているか?料理の単位に破壊力という物は存在しないんだぞ?」


 さんざんな言われようだ。いつかきっと皆を見返せるまでに上達して見せる。


「料理以外で何か無いかニャ?」
「後は戦う事とかか。……そうだ、もう一つあった」
「なんニャ?」
「魔語」
「ニャるほどニャ」


 ロワは魔語を勉強している。だったら、私が勉強を教えればいい。


「どうだ?」
「悪くない考えニャ。今夜から実行しても良いと思うニャ」
「決まりだな」


 方針が決まって心が少し軽くなる。今まで何もしてこなかったのは反省するべき事だ。これからは頑張ってロワにアプローチしよう。


「助かった、ラッカに相談して本当に良かったと思う」
「思ったんニャけど、ラッカに相談したのかニャ?ホウリ君とかに相談した方が有意義だと思うんニャけど?」
「ホウリは魔国改造計画で忙しいらしくてな」
「なんニャその物騒な計画?」
「魔国の在り方を変える事が目的らしい。かなり大がかりで繊細な計画みたいでな」
「ふーん、まあラッカには関係ない話ニャ」
「ちなみに、政府関係者の給料も上げるつもりらしい」
「ラッカは全面的にホウリ君を支持するニャ」


 手のひら返しが早すぎる。


「ホウリ君はダメだとして、その他はどうニャ?」
「ノエルは相談するには幼過ぎる」
「フランは?」
「目にクマを作りながら死にそうな顔をしている奴に相談できると思うか?」
「そういえば、フランって魔王様だったニャ」


 ラッカがそういえばという表情で手を叩く。その様子を見て、私はある疑問が浮かんできた。


「思ったんだが、フランって魔王の割に知名度低いな?なぜだ?」
「人王は知名度あるニャ?」
「知らない者もいるだろうが、魔王ほど知名度が低いって事はない」


 人国にいた時には国王様以外には、フランが魔王だと気付かれることがなかったな。魔国で知られていないのではなく世界全体で知名度が低いのか?


「思い返せば、魔王はあまり世間に出てこないニャ。余程重要な式典でない限り顔は見ないニャ」
「なるほど、人王は割と写真が出回っているから分かる奴は分かるのか」


 国のトップという物は露出も多いと思うがそうでもないのだな。
 ラッカと雑談しつつ、第一回恋愛会議は終わったのだった。


☆   ☆   ☆   ☆



「フラン、一つ聞いていいか」
「なんじゃ?」
「フランが魔王として顔を出さないのは何か理由があるのか?」
「急になんじゃい」
「ラッカと話していてフランの話題になってな。なんとなく気になったんだ」
「そんな大層な理由ではないぞ?」
「教えてくれ」
「顔が広く知られると、こっそり旅が出来んじゃろ?」
「……それだけか?」
「それだけじゃ」
「なんというか、思った以上に大した理由じゃなかったな」
「重要な理由じゃろ。旅をする時にあっちこっちで騒がれては落ち着けん」
「フランの働きぶりを見ていれば、分からんでもないな」
「じゃろ?」
「だから、人国で伝説の戦士の話が出来たわけだな」
「頼むからその話は忘れてくれ」
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