魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百三話 おねぇすわぁん

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 ラッカにアドバイスを貰った私は、その日の夜に早速ロワの部屋に向かう。


「ロワー、いるかー?」


 部屋をノックすると足音の後にドアが開かれて、ロワが出てきた。


「いらっしゃいませ、ミエルさん」
「ロワ、魔語の勉強は進んでいるか?」
「はい……と言いたいところですが、一人では中々進まなくて」


 部屋に入りながら進捗を聞く。どうやら、単語を覚えるだけで精一杯みたいだ。


「一人だと覚えるのが大変だったので」


 そこで私が勉強を教えようかと切り出した所で、奥から誰かが出てきた。


「ロワ、誰?」
「お前はペイト?」
「貴方はミエルだっけ?」


 部屋の中には既にペイトの奴がいた。


「なぜペイトがここに?」
「ロワと弓について話してた。あなたは?」
「いつも通り、ロワと話すついでに魔語を教えようと思って」


 私に言葉にペイトの目が更に鋭くなる。ここで私は完全に確信した。こいつもロワを狙っている事に。
 恐らく、向こうもその事は気が付いているだろう。つまり、私とペイトはライバルになる。ラッカの言った通りになってしまった。
 ペイトは私を睨みつけると、意外にも無言で部屋を出ていった。


「ペイトと何か話していたのか?」
「明日一緒に出掛けないか相談されました」
「明日一緒に!?」


 出会って数日でデートに誘うだと!?どれだけ積極的なのだ!?


「ち、ちなみにロワはなんと答えたのだ?」
「明日は特に予定はないので承諾しました」


 くっ、完全に先に行かれた!


「……どこに行く予定なんだ?」
「弓の工房を見学する予定です。後は弓の博物館なんかも行く予定です」


 ロワがとても嬉しそうに話す。余程、明日のデートが楽しみと見える。ロワの笑顔はドキッとするのだが、今日は心が重い。
 私の心境なんか知らないロワは変わらない笑顔で話す。


「そういえば、僕に魔語を教えてくれるんですよね?ありがとうございます!」
「あ、ああ。始めようか」


☆   ☆   ☆   ☆


「で?それでこうなっているのかニャ?」


 朝早くからミエルに呼び出されたラッカはなぜか、ロワ君が待ち合わせしている所を建物の陰から見ていたニャ。
 ロワ君が時計台の下でそわそわしているニャ。それをミエルが眉間にしわを寄せながら見えているニャ。
 そんなミエルにラッカは抗議するニャ。


「夜勤明けで呼び出されたラッカに何も説明しないのはなぜかニャ?」
「それは説明しただろう?」
「説明があったのは昨日の出来事だけニャ、今聞いているのはラッカたちがなんでロワ君を見張っているかニャ」
「好きな人が他の女とデートするんだぞ!?そりゃストーキングするだろう!?」
「自分でストーキングって言っちゃったニャ」


 昨日焚きつけたのが裏目に出たニャ。


「ストーキングは一人でやってほしいニャ」
「隠密スキルはこういう時に使わないでいつ使うんだ?」
「敵対勢力に潜入する時に使うニャ」


 決して気になる相手のストーキングには使わないニャ。


「お願いだよ、ラッカのスキルなら私の気配ごと消せるだろ?」
「できるけど、そこまでする理由がないニャ」


 何が悲しくて徹夜明けに友人とストーキングしないといけないのかニャ。
 ラッカが家に帰ろうとミエルから背を向けた瞬間、ミエルから芳醇な香りが漂ってきた。
 これは……水連屋のかつお節!?しかも2本!?
 すぐさまかつお節を奪い去って1本を齧る。海のすべてを凝縮したような旨味が口の中に広がる。歯ごたえも普通のかつお節に比べてしっかりしていて、食べ応えも抜群。正真正銘の


「こ、これは早朝から並んでも買えない程にレア物な筈ニャ!なんでミエルが2本も持ってるニャ!?」
「ホウリに頼んで用意させた。死ぬほど高い代償を払ったが、背に腹は代えられないのでな」


 ミエルの目に強い決意を感じるニャ。これがストーキングじゃなかったら素直に応援するだけどニャァ。


「で?協力してくれるのか?」
「よく考えたらミエルだけだったら、いつ暴走するか分からないニャ。ラッカがストッパーになってあげるニャ。だから、今日は見てるだけって約束してほしいニャ」
「良いぞ、別に暴走はしないしな」
「どうかニャ?」


 このギラギラな目を見て暴走をしないと思った人は、石ころも宝石に見えると思うニャ。
 とはいえ、力を貸すと決めたからには全力で支援するニャ。
 ラッカは懐から丸く小さな魔道具を取り出してミエルに渡す。


「ミエル、これを付けるニャ」
「これはラッカの聞いたものをミエルにも聞こえるようにする魔道具ニャ」
「助かる」


 リルアは魔道具を受け取って耳に付ける。この魔道具は所有者が聞いたことを聞ける魔道具ニャ。ラッカは聴力を高めるスキルがあるから、離れた2人の会話を聞けるって訳ニャ。
 そんなやり取りをしていると、向こうからペイトが走って来た。
 ロワ君はペイトを見つけると、ペイトに大きく手を振る。


「ペイトさーん、ここでーす」
「ロワ、待った?」
「いえ、僕も今来たところですよ」


 デートのテンプレートみたいな会話をしながら笑いあう二人。付き合ってるって言われても違和感ないニャ。
 ペイトは挨拶を済ませるとロワ君に手を絡ませた。


「いこう」
「は、はい」


 ロワ君は少し驚いた様子だったけど、すぐに笑顔になって歩き始め───


「ミエル待つニャ、その大剣を持って何をする気ニャ」
「あの女の頭をカチ割って来る」
「今回は見てるだけって言った筈ニャ。さっさと物騒なものを仕舞うニャ」


 ラッカの言葉に渋々大剣を仕舞うミエル。やっぱりラッカが見ておかないと危ないニャ。
 殺意を振りまいているミエルを連れて2人の後を付ける。


「ろわ、きょうはつきあってくれて、ありがとう」
「付き合うだぁ?合って数日で何をいってるんだぁ?」
「ミエル落ち着くニャ、ペイトはそういう意味で言ったんじゃないニャ」


 ミエルを抑えながら2人の様子を観察する。
 ロワ君はペイトの言葉にはにかみながら答える。


「僕も行きたかった所なんですよ。今日は誘っていただき、ありがとうございます」
「うん、きょうはたのしも?」


 ロワ君と話すペイトの表情がいつもよりも柔らかい。やっぱり、ロワ君って顔を隠しててもモテるんだニャ。
 2人は楽しくお喋りしながら弓の博物館へ向かった。


☆   ☆   ☆   ☆


「いやー、楽しかったですね」
「うん、しらなかったれきしもたくさんあった」


 弓の博物館から出てきた2人は満足そうに頷きあっていた。
 正直、ラッカには何が楽しいか分からないけど、2人が満足そうならそれでいいニャ。
 2人が仲良く話し合っているとロワ君のお腹が豪快に鳴り響きました。


「あはは、お腹空いちゃいました」
「ごはんたべよう。なにか食べたいのもある?」
「中華料理がいいですね。思いっきり辛い奴が食べたいです」
「わかった、こっち」


 2人が繁華街に向かって歩き始める。


「ロワ君って結構辛いもの好きなんだニャ。なんか以外だニャ」
「そんな事は無いと思うがな?」


 ロワ君の言葉にミエルは首を傾げる。
 人には誰しも思いっきり辛い物を食べたくなる時があるニャ。まあ、ラッカは辛い物ダメだけどニャ。


☆   ☆   ☆   ☆


「か、辛かったー」
「ロワだいじょうぶ?」
「大丈夫ですよ。食後の杏仁豆腐も美味しかったですし満足です」


 店から出たロワ君はしきりに水を飲みながらも笑う。
 ロワ君の言う通り、2人が言った店は味付けが辛めだったニャ。というか、ラッカは途中で食べるのを止めて、全部ミエルに押しつけたニャ。でも、杏仁豆腐は美味しかったニャ。
 そんな経緯もあり、ミエルは死にそうな感じニャ。


「ラッカァァァ、貴様は私を殺す気かぁぁ」
「本当に申し訳ないニャ」
「貴様に一切謝る気がないのは分かった」


 ミエルが諦めた様に2人の方へ視線を向ける。


「つぎはどこいく?」
「僕、行きたいところがあるんですけどいいですか?」
「どこ?」
「ある広場でタンパンマンっていうキャラクターのショーがあるみたいなんですよ。そこに行きたいです」
「わかった。いこう」


 タンパンマンって、子供に人気のキャラクターだニャ。ロワ君そういうのに興味があるのかニャ?
 ミエルの反応を見るけど、不思議そうな顔をしているからそんなこと無いニャ。
 そんなこんなで、2人はタンパンマンショーに向かったニャ。


☆   ☆   ☆   ☆


「いやー、なんかノリノリで良いショーでしたね」
「そうだね」


 ショー終了後、上機嫌なロワ君とは対照的にペイトは無理やり笑っている感じがするニャ。やっぱり、子供向けだったからあんまりだったのかニャ?
 気を取りなおしたと言った様子でこの辺りの地図を広げる。


「次はどこ行く?」
「服が欲しいのでここに行きたいです」


 ロワ君は広場から近くの服屋を指さす。


「わかった。いこう」
「はい」


 ペイトはロワ君に再び腕を絡ませ服屋まで向かうニャ。その様子を見たミエルが大剣を振り回そうとしていたミエルを抑えながら、ラッカたちも2人を追うのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


 福屋さんで買い物を終えた2人は、買った服が入った紙袋を持ちながら、最初の時計台へ戻って来た。


「今日はありがとうございました。楽しかったです」
「私もたのしかった。また行きたい」
「はい、機会があればまたお願いします」
「ふく、かってくれてありがとね」
「こちらこそありがとうございました」


 買い物を終えた2人は時計台の下で分かれる。これでデートは終わりかニャ?


「うーん、傍から見てもお似合いの2人だニャ。……あ」


 思わず失言しちゃったニャ。
 ミエルの反応を見てみると、しょぼくれた様にうつむく。こんなミエルは見たこと無いニャ。


「ミエル?」
「私だってそう思っていた。ロワだってあんなに楽しそうにしてたし、私よりもペイトの方がロワにお似合いなんじゃ……」


 ラッカは無言でミエルの胸倉をつかみ上げる。そして、驚いているミエルの顔面に向かって思いっきり拳を叩きつけた。


「……痛いニャ」


 相変わらず防御力が高すぎて殴ったこっちがダメージ大きいニャ。


「な、何をするんだラッカ!」
「それはこっちのセリフだニャ。自分が何言ってるのか分かってるのかニャ?」


 ミエルを引き寄せて至近距離で睨みつける。


「本当にそんな事を思っているのかニャ?」
「そ、それは……」


 ラッカの言葉にミエルは視線を逸らせる。


「即答できないって事は、本心じゃないって事じゃないかニャ?」
「そ、そんな事は!」
「あるニャ!何年ミエルの事見てると思ってるニャ!それぐらい分かるに決まってるニャ!」
「だ、だが……」


 煮え切らない様子のミエルを壁に叩きつける。


「心の底からロワ君を諦められたならいいニャ。その時はかつお節でも奢るニャ」
「いやかつお節は別に……」
「けどニャ、本当にあきらめたくないのなら、最後まであきらめずに突っ走るべきじゃないかニャ!ミエルはそういう奴の筈ニャ!」


 ラッカの言葉を目を丸くしながら聞くミエル。ラッカはミエルを地面に降ろして優しく抱きしめる。


「ミエルは今まで欲しいものは我慢してきたニャ。だから本当に欲しい物くらいは、手に入れて欲しいのニャ。そのためなら、何でも手を貸すニャ。それとも」


 ラッカはミエルに手を差し出す。


「猫の手は借りたくないかニャ?」
「……いや、ありがとうラッカ」


 ラッカが差し出した手をミエルが両手で包む。


「そうだよな、私には応援してくれる仲間がいる。ここで諦めるにはもったいないな」
「良かったニャ、いつものミエルに戻ったニャ」


 これでもう安心だニャ。


「そうと決まれば、さっそくロワ君に会うニャ」
「今か!?デートが終わったばっかりだぞ!?」
「そういう事を気にしているから他の人に取られそうになるニャ。分かったらさっさと行くニャ」


 怖気付くミエルの逃げ場をなくすために、気配を消すスキルを使わずに、ロワ君に向かって手を降る。


「おーい、ロワくーん!」
「あれ?ラッカさんに……ミエルさん?」


 私たちに気が付いたロワ君は小走りでこちらに近付いてきた。


「こんな所でどうしたんですか?」
「ミエルと遊んでたら偶然ロワ君を見つけてニャ。ねえ、ミエル?」
「あ、ああ」
「それは凄い偶然ですね。そうだ」


 ロワ君は紙袋から服を取り出すと、ミエルへと渡した。


「これは?」
「ミエルさんに似合うかなと思ったので買っちゃいました。気に入りませんでしたか?」


 ミエルはロワ君から渡された服を思いっきり抱きしめながら、満面の笑みで答える。


「ありがとう、とっても嬉しい!」
「良かったです。今日はペイトさんと皆さんが気に入りそうな所のリサーチが出来たので良かったです」
「……ん?ロワ君、今日はペイトと何をしたのかニャ?」
「皆と遊びに行くための下見をしました。フランさんも働き詰めみたいですし、おいしい物でも食べてリフレッシュして欲しいですしね。辛い物も甘い物も出すいい中華屋さんがあったんですよ。ノエルちゃんが好きなキャラクターのショーをやる所もありましたし、今度みんなでお出かけしましょう」


 笑顔で答えるロワ君にラッカたちは唖然となる。という事は、ロワ君にデートのつもりは全くなく、スターダストの皆で出かける下見ってだけだったのかニャ?
 何も言わなくなったラッカ達を不思議に思ったのか、ロワ君が心配そうに見てくる。


「どうしましたか?」
「……いや、ロワはロワなんだと思ったんだよ」
「それ誉めてます?」
「勿論だ」
「それは嬉しいですね。そうだ、早く帰って皆さんに今日の事を知らせましょう!」
「そうだな」
「じゃ、ラッカはここでお別れニャ。2人とも気を付けてニャー」


 帰りを2人きりにするために2人と分かれる。こうして、ロワ君とペイトのデートは終わった。
 余談だけど、この日からミエルからの相談が増えて仕事にも影響をきたすのだったが、それは別のお話ニャ。
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