魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百五話 これからアンタにすること全部ただの八つ当たりだから

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≪……約束の子です≫
≪……間違いはないようだな≫


 ゆらゆらと揺れる感覚でノエルは目を覚ます。えーっと、確かアルモンドさんがマカダ君の為にノエルを渡すんだっけ。
 寝起きの頭でノエルは何をするべきか考える。今、ノエルは袋の中に入れられていて、口にはテープが貼られている。多分、アルモンドさんが貼ったんだと思う。手は縄で縛られているんだけど、思ったよりも緩めに縛られている。
 アルモンドさんと男の人の声がするから今は引き渡しの段階だと思う。これでマカダ君が助かれば目的の一つは達成する。上手くいけばいいけどなあ。
 ノエルの心配をよそに袋の外ではアルモンドさんが男の人と話している。


≪約束です!マカダを……息子を返してください!≫
≪そんな約束したか?≫
≪そんな!?≫
≪ガキを返すのは俺たちが逃げ切ってからだ。返した後に魔王に報告されちゃ溜まったものじゃないからな≫
≪約束が違います!息子を、息子を返して!≫
≪うるせぇ!≫


 袋の外でアルモンドさんが倒れる音がする。多分、男の人に付き飛ばされたんだと思う。
 ノエルはアルモンドさんを助けたい気持ちを抑えて、袋の中で待機する。


≪待って……待ってよぉ……≫


 アルモンドさんの悲しそうな声が聞こえて、また袋が揺れ始める。これから悪い人達の拠点に行くと思うから、もうちょっと袋で揺れる事になると思う。
 袋に揺られながらホウリお兄ちゃんに言われたことを思い出す。


『もしも攫われそうになった時、まずは俺かフランに連絡を取るんだ』
『どうやって連絡するの?』
『その技術は少しずつ教える。そして、重要なのは連絡した後はわざと攫われる事だ』
『わざと?なんで?』
『敵の拠点を潰すためだ。実行犯を捕まえても黒幕に繋がらない可能性が高い』
『犯人さんに拠点に連れてってもらうって事?』
『そういう事だ。拠点さえ分かれば俺やフランが黒幕を潰すことが出来る。そして、ノエルを攫うと捕まる事が広まると、今後の抑止力になる。俺とフランがいるとき限定になるから、後々は自分でなんとか出来るようになって貰うけどな』
『分かった、ノエル頑張る!』


 このまま行けば悪い人達の拠点に行ける筈。そうなったらホウリお兄ちゃんとフランお姉ちゃんが何とかしてくれる。マカダ君は助かる、悪い人たちは捕まる。何も心配することは無い。
 そんな事を考えていると、袋の外から扉を開ける音が聞こえた。拠点に着いたのかな?
 そう思っていると、少しの浮遊感と共に背中に衝撃が来た。多分、袋ごと床に投げられたのかな?
 ノエルがそう思っていると袋の口が開いて、乱暴に外に出される。ノエルは今起きたフリをして目を開ける。そこは壁に穴があるほどボロボロの小屋の中だった。多分、数年は使われていないんじゃないかな?
 倒れながら上を見ると髭を生やした悪い人が、乱暴に袋を投げ捨てていた。


≪お前は誘拐された。痛い目にあいたくなければ大人しくしていろ≫
≪けっけっけ、そういう事だクソガキ。変な真似はするな……よっ!≫


 後ろから男の人の声がして背中に衝撃が走る。驚いて後ろを見てみると、痩せた男の人がノエルの背中を蹴っ飛ばしていた。それを見た髭の人は痩せた人に文句を言った。

≪おい、引き渡しまで手荒なことはするな≫
≪どうせすぐに治るんだろ?これぐらい良いじゃねえか≫


 そう言うと痩せた人はノエルの手を踏みつけてくる。ノエルはセイントヒールで痛みを和らげながら考えをまとめる。
 ホウリお兄ちゃん達が来るまでおとなしく待っておく方がいけど、マカダ君も心配。だったら、まずはマカダ君が無事なのを確かめたい。
 でも、マカダ君の事をノエルが知っているのは変だから、マカダ君の名前を出さないで無事かどうかを確かめた方がいいよね?うーん、何か良い方法はないかな?
 ……そうだ!良い事を思いついた!
 ノエルは思いついた方法を実践するために声を出しながら足をバタつかせてみる。


≪むーむー≫
≪あ?なんだ?≫
≪口の奴は剥がすなよ。騒がれると面倒だ≫


 悪い人達はノエルの事を無視する。ノエルは構わずに声を出しながら足をバタつかせ続ける。


≪むー!むー!!むー!!!≫
≪ちっ、うっとおしいな。おい、あいつ連れてこい≫
≪へーい≫


 痩せた人が奥の部屋に入って、一人の男の子を連れてきた。
 痩せた人が男の子を床に投げると、髭の人が男の子の顔にナイフを突き立てた。


≪ガキ、それ以上暴れるとこいつを殺す≫
≪けっけっけ、目の前で人が殺されたくなかったら大人しくしとくんだな≫


 多分、この子がマカダ君だ。見たところ傷もないみたいだし無事ではあるみたい。ただ、表情がとっても怯えているから、早く助けてあげないと。
 ノエルが大人しくなると髭の人はナイフを仕舞って、窓から外の様子を伺う。
 マカダ君の無事も確認できたし、後はホウリお兄ちゃんかフランお姉ちゃんを待つだけだ。ノエルがフランお姉ちゃんに連絡を取ったのが昼頃だから、ホウリお兄ちゃんも状況は把握していると思う。
 状況が良くなったらすぐに助けてくれる、その安心感からかノエルの瞼が重たくなる。……少しぐらいなら寝てもいいよね?
 そう思ったノエルは目を閉じてもう一回眠った。


☆   ☆   ☆   ☆


 ノエルは再びゆらゆらと揺れる感覚で目を覚ました。さっきと同じように袋の中に入れられて運ばれているみたい。さっきの小屋は悪い人たちの拠点じゃないのかな?だから、さっきは助けが来なかった。そう考えるのが当たっている気がする。
 ノエルはいっぱい頭で考えてみる。助けを待つのが一番良いと思うんだけど、これ以上マカダ君を怖がらせられない。でも、ここで逃げたら悪い人達の拠点が分からないから困っちゃう。どうしたらいいんだろう?
 そう思っていると、急に袋が落下して背中に強い衝撃が走った。また、どこかの小屋についたのかな?でも、さっきと違って袋の口が開かない。なんでだろう?
 良く耳を澄ませてみると、外で金属がぶつかる音とか、誰かが走っている音が聞こえる。これってもしかして……


≪くそっ!てめえら何なんだよ!≫
「何言ってるか分かりませんけど、ノエルちゃんは返してもらいますよ!」


 外から聞こえてくる声でノエルは確信する。助けが来たんだ。
 ノエルは自分で袋の口をナイフで開けて外に出る。すると、森の中でさっきの悪い人たちがロワお兄ちゃんとミエルお姉ちゃんと戦っていた。髭の人の下にはもう一つの袋があるから、あれがマカダ君だと思う。
 ロワお兄ちゃんはノエルに気が付くと、弓を構えながら叫んだ。


「ノエルちゃん!今のうちにマカダ君を連れて逃げて!」
「分かった!」


 ノエルは髭の人の袋に向かって走る。ノエルに気付いた髭の人はノエルの前に通せんぼするように立ちふさがった。


≪させる訳ないだろ!≫
≪それはこっちのセリフだな≫


 立ちふさがる髭の人を盾を構えたミエルお姉ちゃんが弾き飛ばす。


「ノエル今だ!」
「了解!」


 ナイフで袋を縛っている紐を切ってマカダ君を助け出す。マカダ君は疲れからか眠っているみたい。


≪マカダ君!しっかりして!≫
≪うーん?≫


 目を覚ましたマカダ君が周りを見渡す。すると、目の前で起こっている戦闘が怖いのか、尻餅をついたまま後ずさる。


≪な、何が起こっているんだ≫
≪説明は後。今はここから逃げるよ≫
≪け、けど腰が抜けて……≫


 震えながら座り込んでいるマカダ君。こうなったら……
 ノエルはマカダ君に背を向けてしゃがみながら言う。


≪ノエルがおんぶする。早く乗って≫
≪い、いくらこの状況でも女におぶられるわけには……≫
≪いいから行くよ!≫


 乗りじゃないマカダ君を無理やりおんぶする。


≪おろせ!おぶられるくらいなら自分の足で……≫
≪行くよ!しっかり捕まっててね!≫
≪うおっ!≫


 ノエルは魔装を使って森の中を全力で駆け抜ける。


≪逃がすか!≫


 痩せてる人がノエルたちに向かってナイフを投げてくる。


≪うわ!≫
≪大丈夫だよ!≫


 ノエルは拳銃を取り出して、振り向きながらナイフに向かって撃つ。火花を散らせながらナイフと弾がぶつかって相殺された。


≪い、今のは?≫
≪ナイフに向かって銃をバーンってやったの≫
≪どういう事?≫
≪後で説明するね≫


 何度か飛んでくるナイフを拳銃で相殺しながら、ノエルたちは森の奥へと進む。木が多いと投げ物は射線が通らないってホウリお兄ちゃんが言ってた。悪い人たちは追ってこれないし、姿が見えなくなったら大丈夫かな。
 森の中をある程度進んでノエルは魔装を解除して止まる。そして、おんぶしていたマカダ君を木の根元に座らせた。


≪ここまで来れば大丈夫だと思うよ≫
≪こ、ここはどこだ。あの人たちはいったい……≫
≪ノエルもあんまり分かんない≫


 そういえばあの人たち誰なんだろ?悪い人たちだって事しか分からないや。
 ノエルが首を捻っていると、周りから誰かが近づいてくる音がした。ノエルはナイフと拳銃を持って念のため警戒する。
 ロワお兄ちゃんとミエルお姉ちゃんを相手に逃げられるとは思えない。だとしたら、他に悪い人がいるのかもしれない。
 急に武器を構えたノエルを見たマカダ君は驚いた顔をする。


≪きゅ、急になんだ?≫
≪他にも人がいるみたい。さっきの人たちの仲間かも≫
≪そ、そんな……≫
≪大丈夫。マカダ君の事はノエルが守るから≫


 音のする方に拳銃を向けながら、周りにも気を配る。ホウリお兄ちゃんからあからさまな音や気配は周りの人を隠すための囮の時があるって言われたしね。
 音がだんだんと近付いてきて、ついにその姿を現した。


「ホウリお兄ちゃん?」
「ようノエル。大丈夫だったか?」


 音の正体はホウリお兄ちゃんだった。ノエルは拳銃を降ろしてホウリお兄ちゃんに話しかける。


「どうしてここが分かったの?」
「たまたまノエルを見かけてな。急いで助けようと思った訳だ」
「そうだったんだ」


 話しながら近付いてくるホウリお兄ちゃんに違和感を覚える。言葉にはできないけど何かがおかしい、そう思ったノエルはホウリお兄ちゃんに質問してみることにした。


「ホウリお兄ちゃん」
「なんだ?」
「明日のご飯は何?」
「は?」


 訳が分からないと言った様子でホウリお兄ちゃんがノエルを見てくる。瞬間、ノエルは魔装を使ってホウリお兄ちゃんに一気に接近して、お腹に思いっきりパンチした。


「ぐはっ!」


 ホウリお兄ちゃんが地面に崩れ落ち、ノエルはすぐにマカダ君の元へと下がる。
 何をされたのか分からないホウリお兄ちゃんはノエルを睨みつけてきた。


「ノエル、いきなり何しやがる」
「ホウリお兄ちゃんはどんなに突拍子の無い質問でもすぐに答えるし、ノエルのパンチが当たるはずない。あなたはホウリお兄ちゃんじゃない!」
「そんな事でバレるのか」


 ホウリお兄ちゃんは前にも成り済まされた時があるみたいで、ちょっとでも怪しいと思ったら突拍子のない質問をするように言われていた。すぐに答えられなければ攻撃して、攻撃に対処できない場合は確実に偽物だから、更に殴っていい。ホウリお兄ちゃんはそう言っていた。
 ホウリお兄ちゃんの偽物はゆっくりと立ち上がると、顔についていた変装のマスクを剥いだ。やっぱりホウリお兄ちゃんじゃなかった。


「油断した瞬間を狙おうと思ったが、どうやらそれは無理らしい」
「人を攫うことはダメな事だよ。ちゃんとごめんなさいしよ?」
「そうもいかないのが大人って物なんだよな」


 そう言うと偽お兄ちゃんが剣を取り出した。そして、周りから黒い服をきた人たちがいっぱい来た。やっぱり他の人もいたみたい。


「俺ってさ基本的に平和主義な訳よ。大人しく投降すれば痛い目みないぜ?何なら後ろのガキは見逃してもいい」
≪……これってピンチじゃない?≫


 人数は偽お兄ちゃんを含めて10人。マカダ君を守りながら戦うのは厳しいかもしれない。
 ノエルは構えている拳銃を降ろす。その様子を見たマカダ君が驚いたように叫ぶ。


≪諦めるの!?≫
≪大丈夫≫


 ノエルは木の隙間から見えるを空を眺めながら笑顔で答える。


≪助けが来たから≫


 瞬間、空から何かが降ってきて土埃を巻き上げながら着地する。凄い衝撃がノエルたちを襲い、土埃からその姿が見えてくる。
 その人はいつも頼りにしている大好きな人、


≪フランお姉ちゃん!≫
≪待たせたのう≫


 フランお姉ちゃんがノエルに向かって微笑む。そんなフランお姉ちゃんを偽お兄ちゃんが不思議そうに見てくる。


「なんだお前?」
「なんじゃい、わしの事を知らんのか?」
「知らないな。怪我したくなければ大人しく帰るんだな。どんなに強くてもこの人数には勝てないだろ?」
「ほう?試してみるか?」


 フランお姉ちゃんの言葉に偽お兄ちゃんがため息を吐く。


「仕方ねぇ、銀髪のガキ以外は殺して構わねえ!やっちまえ!」


 黒い服の人たちが一斉に襲い掛かって来る。フランお姉ちゃんはやれやれといった様子で杖を構える。


「仕事のストレスをここで晴らさせて貰おうか!」


 そう言うと、フランお姉ちゃんは黒い服の人たちに向かって走り出した。
 戦いの結果はここでは伏せるけど、フランお姉ちゃんたちが暴れている間に、ホウリお兄ちゃんが首謀者を逮捕してこの騒動は終わったんだって。
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