魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百三十一話 取り消せよ 今の言葉

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「おーい!ロワへの質問はそこまでにしてさっさと訓練に戻れ」
「はーい」
「ちぇ、もうかよ」
「何か言ったかケット?」
「いいえなんでも無いです」


 私は次々に質問している皆をロワから引きはがして追い払う。皆は少し不本意そうだったが、一応解散していった。


「すまないなロワ。皆悪い奴じゃないんだが、私が誰かを連れてくる事が無かったから珍しかったんだろう」
「大丈夫ですよ。皆さんに悪意が無い事は分かりますし。そう言えば、ミエルさんって、結構偉いんですね。皆さんのお給料もどうにかできるみたいですし」
「一応、1つの隊を率いる隊長だからな」


 神級スキル持ちという事で隊長になった訳だが、最初は皆の命を預かっているプレッシャーに押しつぶされそうだったな。
 今もプレッシャーが無いと言えば嘘になるが、支えてくれる仲間もいるし少しは胸を張れるようになった。


「じゃあ、まずは騎士団の仕事を紹介しよう」


 そう言って私は書類を取り出す。この日の為に一生懸命に用意した書類だ。


「まず、騎士団とは憲兵と違い法律で裁けない脅威から民衆を守るのが目的だ。具体的には魔物や災害といった脅威から──」
「そんな説明よりも実際に見せた方がいいんじゃね?」


 私の説明の途中で後ろから邪魔な声が聞こえてくる。私が嫌々後ろを振り返ってみると、剣を腰に刺したケットがいた。


「ケット、今ロワに説明している最中なんだ。邪魔しないでくれ」
「傍から見ていて退屈なんだよ。書類を読まれるだけなんて手抜きも良い所だろ」
「な!?私が手抜きだと!?」


 ロワの為に1ヶ月を掛けて作ったこの書類が手抜きだと!?


「そ、そんな筈はない!私は長い時間を掛けてこの書類を作ったんだぞ!」
「ミエルは分かっていないな。説明の為に作った書類を読むこと自体が手抜きだと言っているんだ」


 ケットが私に指を突きつける。私は額に冷や汗を流しながらケットに反論する。


「しょ、書類を読み上げる事の何が手抜きなんだ」
「説明するのに書類と言うの事態が手抜きなんだよ。本当に相手の事を考えるんだったらただ書類を読み上げるのは相手に対する手抜きに他ならないんだ!」
「なん……だと…………」


 私はケットの言葉に衝撃を受け膝を付いてしまう。


「ば、ばかな……丹精込めて作った書類は手抜きだったのか……?」
「そ、そんなこと無いですよ!僕はノエルさんの読み上げでも十分ですよ!」
「その割には、ミエルの読み上げの時に眠そうにしてたね?」
「それは……」


 痛い所を付かれたと言った様子でロワが顔を背ける。


「わ、私は……」


 持っていた書類が手から零れ落ち、思わず地面に倒れ込んでしまう。


「ミエルさん!?大丈夫ですか!?」
「……立ち直れないかもしれない」
「ミエルさん!?」


 ロワが私を抱え起こしてくれる。しかし、私は全身に力が入らない。薄く笑うのが精いっぱいだ。


「……私が死んだら骨は海に撒いてくれ」
「そんな、ミエルさん!死なないでください!」
「この程度で死ぬか」


 ケットが私の顔を覗き込みながら言う。


「書類がダメだとしても他の手を考えればいいだろ」
「ほかのて?」
「ああ、書類を読み上げる以外に説明する方法を考えるんだ」
「たとえば?」
「そうだな……」


 ケットが顎に手を置いて考えると、ニコリと笑っていった。


「劇とかどうだ?」



☆   ☆   ☆   ☆


 簡単な木の板でステージが作られ、その前にロワが座らされる。ステージの背景には騎士団の本部の絵が書いてある。


「良い子のみんな~、こんにちは~」
「こ、こんにちはー」


 ヒーローショーの司会のお姉さんのように、カラフルな格好に身を包んだリンがメガホンを使って叫ぶ。
 ロワは困惑しながらも、とりあえずと言った様子で返事を返す。


「今日は、騎士団の説明劇に来てくれてありがとう!私は司会のリンお姉さんだよー!リンお姉さんと一緒に騎士団のお仕事について学んでいこう!」


 リンは笑顔で拳を突き上げる。ロワは困惑しながらもリンと同じように拳を突き上げる。ノリが完全にヒーローショーのそれだ。


「それじゃ、皆で騎士団の隊長さんを呼んでみよう。せーの、「ミエルさーん!」」


 名前を呼ばれた私はステージに上がる。
 私は戦いに行く時のようにガッチリとした鎧で身を包んでいる。普段の格好よりも動きにくいが、ステージで喋るだけならなんとかなるだろう。
 私は事前に渡された台本を思い出しながら話す。


「私の名前はミエル・クラン。この騎士団に在籍している団長だ。今日は私と騎士団のお仕事について学んでいこう。まずは普段のお仕事だ」


 ステージの横から剣を持った者と弓を持った者、杖を持った者が現れる。それとは別で黒子になった団員が木で出来た的を並べた。
 それぞれが的に向かって武器を振るったり、魔法を放ったりしている。


「私たちは普段はこうして戦闘の訓練をしている。戦闘の訓練は技の練習はもちろん、集団戦闘の訓練もある。場合によっては遠征での戦闘訓練もある」
「ひゃっはー、食らいやがれ!」


 私が説明していると、奥から団員の一人であるクレプが斧を持って襲い掛かって来た。なんだこれ!?こんなの台本に無かったぞ!?


「おーっと、ここで乱入者の登場だ!ミエルは乱入者を撃退できるかな?皆で一緒に応援しよう!」
「ミエルさーん、頑張れー!」


 リンは私に顔を向けると、小さくウインクしてきた。こいつ、全部知ってたな!?
 ロワを見るに、突然の乱入だとは思っていないみたいだ。このまま劇として戦うしかない。
 私は振り下ろされた斧を胸で受け止めて、クレプの顔面に拳を叩きつける。


「はあっ!」
「ぐおっ!」


 クレプが怯んだ隙に私は胸倉を掴んで投げ飛ばす。


「くそっ、やっぱり硬すぎるぜ……」


 そう言うと、クレプは白目を剥いて気絶した。そんなクレプを黒子がステージの袖に引きずっていく。もう少し丁寧に扱ってほしい物だ。


「流石ミエル!乱入者を1撃で倒した!団長の面目躍如といった所か!」
「やったー!ミエルさんカッコいいー!」


 ロワが私の事をキラキラとした目で見てくる。まさか、リンの奴はこれを狙って?
 リンが小さくサムズアップしているのを見て、私はリンの作戦であると確信する。
 リンの心遣いに感謝しながら、私は劇を続ける。


「このように、突然襲われても対処できるように鍛えて行かないとな」
「なるほど……勉強になります」
「それは良かった。次に行くぞ」


 的に向かって訓練をしていた団員が的を持ってステージの袖に引っ込んでいった。


「私たちは訓練だけが仕事じゃない。一番の仕事は脅威となる魔物の盗伐だ」


 ステージの背景がどこかの草原の絵に指し変わる。草原にはゴブリンの群れも描かれている。


「こうした脅威となる魔物を集団で盗伐するのが騎士団の仕事だ」
「この前のクラーケンとかもですか?」
「そうだな。ああいった特殊な魔物には専用の盗伐隊が編成される」


 フランやロワみたいな一人でなんとか出来る者はかなり少ない。前も言ったみたいに魔法使いを何人も編成して雷魔法で倒すのがクラーケンの一般的な倒し方だ。


「クラーケン以外にも大群の魔物なんかでも騎士団は出動する。むしろそう言う事が多いな」


 ステージの袖から鎧やローブに身を包んだ騎士団のメンバーがやって来た。


「これが盗伐隊の騎士団のメンバーだ。恰好は鎧とかローブが基本だな」
「僕の場合はどうなりますか?」
「軽めのライトアーマーとか皮の鎧とかだな。今使っている物と同じと思っていい」


 私が説明をしていると、ステージの袖からゴブリンの格好をした団員がやって来た。


「おーっと、ゴブリンの群れがやって来たな。ここで騎士団の戦いぶりを見てみよう」


 騎士団はゴブリンに向かって武器を構える。ちなみに、武器は模擬戦用の武器を使っているから問題ない。
 私も模擬戦用の木の剣を構えて号令を掛ける。


「突撃!」
「「「わあああああ!」」」


 皆がゴブリン軍団に突撃して武器を振るっていく。だが、あくまで劇だから当たるギリギリの所で寸止めをしている。
 私も寸止めしながらゴブリン軍団と戦っていく。


「やあ!」


 出来るだけ迫真に見えるように戦うのは中々難しいな。
 剣を振りながらロワの表情を見ている。目をキラキラさせているから何とかなっているみたいだ。
 剣で最後の斬撃を繰り出す。すると、ゴブリン軍団はステージの袖に逃げ帰っていった。


「魔物は基本的には仕留める事が必要だ。しかし、無理に盗伐しようとして市民に危害が出る場合はやむなく追い返すだけの時もある」
「あくまでも市民の方を守るのが優先という事ですね」
「その通り……」


 私が頷こうとすると、ロワの背後に近付いてくる陰に気が付いた。それは、ボロボロの剣を持ったコボルトだった。
 なんでこんな所に魔物が!?……サモナーのリューフの仕業か!あいつ、無駄な所でスキルを使って!
 コボルトはロワに向かって剣を振りかぶる。ロワはそれに気が付いていない。


「ロワ!」


 私は反射的に持っていた木の剣を投げつける。木の剣はコボルトの顔面に命中する。


「ごぎゃ!」
「うおっ!?」


 ロワが背後のコボルトに気が付いたロワが驚いて目を丸くする。
 木の剣では倒し切れなかったのか、コボルトは再び剣を振りかぶる。このままだとロワは抵抗できない!
 私はロワとコボルトの間に割って入る。


「ふんっ!」


 私は鎧で剣を弾く。しまった、本気で戦うつもりは無かったから武器を持ってきていない。拳で戦うしかないな。私は拳を構えてコボルトと対面する。
 コボルトは性懲りもなく剣を振るってくる。再び鎧で剣を弾き、コボルトの顔面を殴りつける。


「ぐおっ!」


 クレプよりも硬い感触が拳から伝わって来る。流石は打撃に強いコボルト。負けはないだろうが、剣なしだと苦戦しそうだ。
 剣を受け止め殴るという行為を繰り返すが、コボルトは元気に立ち上がって来る。やはり、拳では効果が薄そうだ。


「誰か……」


 周りの皆に助けの視線を向けてみるが、皆は助けようとする気配を見せない。どうやら、私一人でなんとかしないといけないみたいだ。


「いや……そうじゃないな」


 一人で戦う?違うな、私には頼りになる味方がまだいるじゃないか!
 私はコボルトの剣を弾くと、そのままタックルを仕掛ける。そのままコボルトにしがみ付くと、背後に回って羽交い絞めにした。そして、そのまま頼りになる仲間の名前を呼ぶ。


「ロワ!」


 私はロワの方へ視線を向ける。すると、ロワは携帯弓を使って既に弓を引き切っていた。


「行きますよミエルさん!」


 ロワはそのまま矢をコボルトの胸に向かって放つ。
 矢はコボルトの胸を貫き、私にも矢が……刺さる事はなく鎧で矢を防いだ。
 矢で貫かれたコボルトはそのまま絶命して、光の粒子になって消えた。


「ふう、なんとかなりましたね」
「ロワのおかげだな。騎士団にはこういう風に連携も必要になってくる。覚えておいてくれ」
「はい、わかりました」


 私はステージに戻りつつ、リンを睨みつける。リンは私の思いに気が付いていないのか、再びサムズアップをしてくる。決めた、あいつは減給する。
 私は心の中で決意を固めて劇を続けたのだった。
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