魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百三十二話 ピザじゃなくてピッツァです!

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「なぜ私はあんな事をしてしまったのだ……」


 劇を終えて正気を取り戻した私は頭を抱えていた。
 かなりショックを受けていたとはいえ、あんな恥ずかしい行動をしてしまったんだ。穴があったら入りたいとはこのことか。


「まあまあ、分かりやすくロワに説明するって目標は達成したんだから、良いんじゃねえか?」
「そうですよ、僕もかなり分かりやすかったです」
「そう言う問題じゃないんだがな。それよりもケット!リン!台本に書いてなかった事が立て続けに起こったのはどういうことだ!」
「あら?台本に書かれてなかったかしら?」
「落丁だな。不幸な事故って奴だ」
「かなり都合のいい事故だな?」
「事故なんだから仕方ないでしょ?」
「ほう?あくまでも事故と言い張るつもりか?」


 私はさっき拾ったリンの台本を掲げる。表紙には赤文字で「ミエルには秘密!」とデカデカと書いてある。


「これを見てもまだ事故と言い張るつもりか?」
「さあ、訓練に戻るぞ」
「私たちの頑張りに皆の安全がかかっているものね。早く行きましょう」
「おい!ちょっと待て!」


 2人が逃げるように私の元から離れていく。あいつらは本当に……
 追いかけようとも思ったが、あいつらを追いかけても何も解決しない。今はロワへの説明が最優先だ。


「すまない、あいつらは少し悪乗りが過ぎる所があってな……」


 謝りながらロワを剥くと、ロワは口を手で押さえてクスクスと笑っていた。


「どうかしたか?」
「いえ、なんだか気心知れた人達なんだなって思って。なんだか羨ましく思っちゃいましたよ」


 ロワが笑いながら上目遣いで見てくる。布で隠されているが、私はのその仕草にドキッとしてしまう。


「ノエルさん?どうかしました?」
「い、いやなんでもない……」


 ロワから視線を反らして顔を隠す。今の私の顔は真っ赤だろう。こんな顔をロワに見せる訳にはいかない。
 動揺を誤魔化すように私は話す。


「さっきの2人は私が騎士団に入ってからの仲でな。だから、上司と部下という関係と言うよりも友人と言う感じだと私は思っている。良いのかは分からないがな」
「皆さんと信頼関係が築けているって事ですよね?良い事じゃないんですか?」
「そう言ってくれると助かる」


 私の事を団長らしくない言動だと言ってくる奴もいる。しかし、私は皆との接し方を変えるつもりは毛頭ない。それが私という人間だ。


「そういえば、ミエルさんがいない時は誰が団長をしてたんですか?」
「別の団の人にお願いしていたな。なんだかんだあって伸びてしまったが、一応は半年だけの予定だったしな」


 まさか、カロンから逃げていたら領地相手に戦うとは思っていなかったがな。
 

「さて、少し時間がかかってしまったが、ここからは騎士団の施設を案内していこう」
「お願いします」


 ロワを連れて魔物対策部署の扉に手を掛ける。


「私は今からロワの案内をしてくる。分かっていると思うが、くれぐれもサボるなよ?特にケット」
「分かってますって」
「リン、万が一ケットがサボっていたら報告してくれ」
「はーい」
「……ちっ」


 私の言葉にケットが舌打ちする。ケットを睨みつけながら私はロワを連れて魔物対策部署を出ていく。


「……大丈夫だろうか?」
「大丈夫ですよ……多分」


 ロワも不安を覚えたのか言葉を濁す。まあ、サボったあかつきにはホウリ並みの特訓をプレゼントしてやろう。


「ここからは騎士団の施設紹介だ」
「どんな施設があるんですか?」
「騎士団だから戦闘等の訓練施設が多い。あとは、魔物の特性を理解するための勉強室とか仮眠室とかだな」


 廊下を歩きながら軽く騎士団の施設を説明する。ロワは私の説明を興味深そうに聞いている。


「ほー、そんな施設があるんですか」
「勿論、訓練特化の施設ばかりじゃないぞ」


 私はそう言ってたどり着いた施設を指さす。施設の外にはプレートで食堂を書かれている。
 食堂の前には小さな黒板があり、今日のメニューが書かれている。今日はうどんやドリアといったメニューみたいだ。


「ここは見ての通り食堂だ。食事を買って食べる事も出来るし、自由に使えるキッチンもあるから料理をしてもいい」
「結構自由なんですね。入っても良いですか?」
「勿論だ」


 ロワと一緒に食堂に入ってみると、昼時という事もあり席がほぼ埋まっていた。


「賑わってますねー。こんなに広いのに席が埋まっているなんて凄いです」


 食堂の広さは一般的な体育館くらいの大きさだ。かなり広いと思うが、席はほぼ埋まっている。この光景をみると、騎士団という存在の大きさを認識する。
 思えば、結構動いてお腹が空いたな。


「実際に利用してみるか?」
「良いんですか?」
「勿論だ」
「やったー、僕お腹空いてたんですよ」
「そうと決まれば行こう。あっちのカウンターで注文できる」


 私たちは食堂の中のカウンターに移動する。
 カウンターには料理を注文するために並んでいる人達で長蛇の列が出来てる。


「やっぱリ並んでますね」
「この食堂の名物みたいなものだ。諦めて並ぼう」


 私たちは列の一番後ろに並ぶ。
 待っている間に私は食堂の説明を続ける。


「この食堂には誰でも使えるキッチンがあると言っただろう?それがあれだ」


 私はカウンターの横にある扉を指さす。扉にはキッチンと書かれており、誰にでもわかりやすいようになっている。ただ、ちょっと文字が小さいから遠くからは見難いが。
 私の言葉にロワは納得したように頷く。


「やっぱり、あそこがキッチンでしたか。分かりやすいですね」
「そうか?結構文字は小さくて分かりにくいと思ったけどな?」
「そりゃ分かりますよ、だって……」


 ロワはいつものようにニッコリと笑って言う。


「扉に大きく『ミエル・クランは立ち入り禁止』って書いてますから」
「……そうか」


 さっきの説明には無かったが、扉にはキッチンと言う文字とは別に私の立ち入りを禁止するという事が書いてある。前に一度料理をして以来書かれた文言だが、破るとクビだときつく言われたのだ。
 ちなみに、未だに納得はしていない。たまに抗議することもあるが、全く取り合ってもらえていない。
 そうこうしている内に私たちの番になった。列の長さの割に順番が回って来るのが早い。それだけ職員の熟練度が高いということだろう。


「注文は?」


 カウンターのおばちゃんが口早に聞いてくる。私は入り口あったメニュー表を思い出しながら注文する。


「私はうどんを」
「僕はピザでお願いします」
「800Gね」
「これで」
「はいよ、800G丁度ね。これ持って待ってな」


 料金を払っておばちゃんから受付番号を貰ってカウンターの脇に移動する。カウンターの脇にも料理を待っている人たちの列が出来ているが、進むスピードも速い。これならすぐにでも料理が出てくるだろう。
 私の予想通り、ものの数分で私たちの番号が呼ばれる。


「はい、うどんとピザね」
「ありがとうございます」


 料理を持ってきたおじちゃんに頭を下げて私たちは席を探しに行く。


「えーっと、どこかに席はないですかねー」
「早く見つけないとうどんが伸びてしまうな」


 私たちは必死に席を探すが、ほとんど埋まっていて2人で座れる所が無い。


「見つからないな」
「うーん……あ!あそこに席がありますよミエルさん!」


 ロワが指さす先を見ると、対面で2人が座れる席があった。だが……


「……あそこ以外にしないか?出来ればもっと遠くの席が良い」
「どうしてですか?」
「それは……」


 あまり乗り気じゃない私を不思議に思ったのか、ロワが首を傾げる。さて、理由はロワに説明したくないがどうしたものか。
 私は周りを見渡してみるが、ロワが見つけた所以外に席は空いてそうにない。ここは腹を括るしかないか。


「分かった、あの席にしよう」
「決まりですね」


 私とロワは人が行きかう中を必死に進んで目当ての席に座る。どうか見つかりませんように。


「ふー、やっと一息付けますね」
「そうだな。冷めないうちにいただこうか」
「はい」


 料理をテーブルに置いて2人で手を合わせる。


「「いただきます」」


 透き通ったスープに太く白い麺。その上にかまぼこや天ぷらが乗っている。ほのかに出汁の香りが漂ってきて食欲を刺激してくる。
 箸で麺を挟んで一気に啜る。うん、麺にコシがあって美味しい。


「このうどんイケるな」
「ピザも美味しいですよ」


 布で顔を見せないようにしながら器用にピザを食べるロワ。なんだかんだ、布にも慣れてきたみたいだな。


「これでいくらでしたっけ?」
「2つで800Gだな」
「お安いですね。こんなに混むのも分かります」


 ロワがニッコリと笑ってピザを頬張る。よし、このまま何事もなく食事を済ませて即座に退散を……


「お?そこにいるのは騎士団長のミエルさんじゃないか」


 ……と思っていたんだが、そうもいかないらしい。
 私は声がした斜め前を向いて、わざとらしく笑いながら返事をする。


「これはこれは、災害救助部署のフローランさん。お久しぶりです」
「そうだな半年ぶりくらいだな。男漁りは終わったのか?」
「何のことか分からないな。私はカロンから逃げていただけだが?」
「カロンなら何か月も前に退職しただろう。カロンが退職してからは何をしてたのかなぁ?」
「プライベートの事を教える義理はないな?」


 流石に神の使いを守ってましたとは言えない。ここはお茶を濁しておこう。


「お知合いですか?」


 ロワがピザを頬に詰めて質問してくる。私は嫌々ながらロワに小声で説明する。


「奴は災害救助部署に所属しているフローラン。私の事が気に入らないのか、度々突っかかって来る奴だ」
「ミエルさんも大変ですね。あ、だからこの席に座りたくなかったんですか?」
「そんな所だ」
「すみません、僕がここに座ろうっていったばっかりに……」
「席が無かったんだから仕方なかったんだ。気にしないでくれ」


 私たちが話している間にも、フローランは大声で話を続けている。


「まさか、騎士団長ともあろう方が婚活の為に長期休職するとはな。騎士団長としての自覚が足りないんじゃないか?」
「さっきも言ったが、カロンから逃げる為の休職だ。長官からも許可を取っている」
「カロン退職後もか?一体なにをしてたんだか」
「その件も長官に許可は取っている。貴様に理由を説明する必要はない」
「どうせ長官に色仕掛けでもしたんだろ?団長になった時と同じようによぉ」


 またこれか。フローランは私が初めから団長として入ったのが気に入らないらしく、顔を合わせるたびに嫌味を言ってくる。部署が違うから毎日言われる事は無いが、食堂などで顔を合わせた時にはうっとおしい程に嫌味を言ってくる。
 フローランはテーブルに足を乗せながら下卑た笑いを浮かべる。


「女は良いよなー!大した実力や実績が無くても、何の苦労もなく出世できるんだからよぉ!」


 フローランの大声に食堂の全員が眉を顰める。公共の場で大声を出す事は無いと思っていたが、こいつには常識がない事を忘れていた。
 反論するのもバカらしくなり、私はうどんを啜る事に集中する。


「お?何も言い返せないのか?」


 勝ち誇ったように笑うフローラン。そんなフローランの言葉を聞いたロワが首を傾げる。


「ミエルさん、一ついいですか?」
「なんだ?」


 ロワはさっきのように小声ではなく、今日の晩御飯について質問するが如く自然に話始めた。


「あの人の言ってる事が全く分からないんですけど?言ってることが支離滅裂じゃないですか?」
「ロワ!?」


 ロワの一言で私の顔が引きつる。わざわざ波風立てないように黙ろうと思っていたが、マズいことになりそうだ。
 案の上、ロワの一言でフローランの顔が真っ赤になる。


「お前!偉そうに口を挟むな!」
「うーん?何回考えても分からないですね?」


 ロワは困った様子で首を傾げる。これはフローランを煽ろうとしているんじゃない。本気で考えて分かってないだけだ。
 ロワの言葉でフローランは更に顔を赤くしながら声を張り上げる。


「だったら分かりやすく教えてやる!この女はな、実力も無いのに騎士団長になった卑怯者なんだよ!」
「やっぱり分からないですね?」


 ロワはここで初めてフローランに顔を向ける。


「だって、ミエルさんって凄いじゃないですか」
「は?」


 子供みないな返しをされると思っていなかったのか、フローランが口をあんぐりと開ける。
 そんなフローランを前にロワはピザを頬張ったまま話を続ける。


「ミエルさんって、スキルもそうですけど人を守ろうとしようと頑張ってる人なんですよ。さっきだって僕を守ろうとしてましたし」
「そ、それとこれは話が別で……」
「それに、ミエルさんはとっても努力家なんですよ?休日の日も庭に出て剣を振ってますし、攻撃を盾で受ける練習もしています。ホウリさんが言ってましたが、ミエルさんに勝てる人は世界に5人もいないらしいですし、実力がないとは思えませんけど?」
「それは個人としての実力だろう。集団を率いるのとは訳が違う」


 フローランの言葉にピザを飲み込んだロワはやっぱり首を傾げる。首を傾げすぎて取れそうな角度だ。


「ミエルさんって結構実績ありましたよね?ドラゴン退治したり、事前の魔物の大量発生を食い止めたり。これって実力になりませんか?」
「それは偶々で……」
「あ、そうなんですか。僕あまりこういう事に詳しくないんですけど、ドラゴンとかって偶々で勝てるんですね」


 ロワの言葉にフローランの表情がゆがむ。念の為に言っておくが、ロワは煽ると言った意図は無く、純粋に「そうなんだー」としか思っていない。


「偶々だったとしても、何件も実績がありますし、実力が全くないとは言えないんじゃないですか?ホウリさんが言ってましたけど、実力が無い奴は偶々も無いらしいですよ?」
「…………」


 ロワの言葉にフローランが顔を真っ赤にして黙り込む。その後、自分の食器を持つと乱暴な足取りで食堂の奥に消えていった。
 その後、食堂の客からはロワへ向けた拍手が巻き起こった。ロワはその様子をポカーンと見つめると口を開いた。


「皆さん拍手してますけど、何かあったんですか?僕も拍手した方がいいですか」
「ロワ……」


 締まらないのがなんともロワらしいな。
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