魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百四十二話 この俺がスローリィ!?

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 取り押さえた人を他の憲兵に受け渡して、私は避難誘導を続ける。
 受け渡しと合わせて戦闘要員も要請しておいた。後少しで皆の安全は確保できそうだ。
 腕輪を外す必要がなさそうで少し安堵しながら、最後の人の避難を完了させる。


「よし、これで当面は大丈夫かな」


 この噴水の広場は東西南北の4つの道があり見晴らしはいい。4つの道から同時に攻撃されたら厳しいけど、見たところ、魔物は1方向しか来ていなかった。となれば、周り込まれるよりも援軍が来る方が早いだろう。
 万が一の時は私が戦えばいい。あまりやりたくはないけど。
 魔物がいないかを確認した後に皆を避難させた噴水の広場に向かう。広場にはかなりの人が噴水に寄るように集まっていた。皆、一様に肩を寄せて怯えた表情をしている。
 その中の一人の男性が私を見つけると怒りをはらんだ表情で詰め寄って来た。


「おい、一体何が起こってるんだ!」
「どうやら大規模テロのようです。今、避難場所を準備しているので待っていてください」
「待つっていつまで待てばいいんだ!」
「それは……」


 男性の質問に私は答えに詰まる。準備は進めているとは思うが具体的な事は何も言えない。でも何か言わないと皆の不信感が強くなっていく。もしかしたら、こちらの指示を聞いてくれなくなるかもしれない。
 それは避けたいが、なんと答えていいか分からない。悩んでいる内に男性は更に詰め寄って来る。


「テロだと!?事前に情報は掴めなかったのか!?憲兵は何をしているんだ!?」
「その、事前に調査は行っていたんですが、まだ時間が掛かってて……」
「何に時間が掛かっているんだ!これだから憲兵は信用出来ないんだよ!」
「その……」


 私は何も言い返せずに男性の怒りを受け止める。やり取りが聞こえているのか、周りの人達も私の事を不審そうに見ている。今まさに危険な目にあっているのに、憲兵である私がこの調子じゃ、不信感が出るのは無理もない。このままじゃマズい。どうすればいいんだろう。
 必死に頭を働かせて何を言うか考える。すると、男性の向こう側にとある物が目に付いた。
 瞬間、私は反射的にその方向へと駆け出す。


「おい!まだ話は終わっていないぞ!」


 男性の怒号を背中に受けながらも私は一直線に走る。
 腕輪を外しながら速度を付けすぎないように気を付ける。一定の速度になった事を感じとり、ジャンプし飛び蹴りの構えを取る。


「はっ!」


 蹴りは看板の陰から覗き込んでいたコボルトの頭に命中する。蹴りを受けたコボルトは奥の建物まで吹き飛び、そのまま動かなくなった。
 私の攻撃には峰打ちが強制的に付与されるから完全には倒せないけど、気絶させることは出来る。後は他の人に止めを刺してもらうだけだ。
 とりあえず、後は魔物はいなさそうだ。私は安堵して広場の男性の元へと戻る。


「あ、すみません。もう大丈夫ですよ。話の続きをどうぞ」
「あ、その……何でもないです」


 さっきの勢いが嘘のように、男性は落ち着きを取り戻し中心の噴水へと戻っていった。心なしか顔が青かった気がするけど気のせいだろうか?
 なんにせよ、何とかなったみたいで良かった。これで皆も安心してくれると良いけど。
 そう思っていると、魔物が来た方向から更に魔物がやって来るのが見えた。嘘!?想定よりも早い!?
 周りを見てみるが、援軍が来る様子はない。まだ戦う必要があるみたいだ。幸いにも敵は一方からし来てない。私だけでも時間稼ぎが出来るかもしれない。
 覚悟を決めた私はもう一度魔物に向かって足を踏み出す。
 今の力がいつまでに持つかはわからない。戦っている途中で無くなったらと考えると足が震える。
 けど、私がやらないと皆が死ぬ。だったら、やらないという選択肢はない。


「皆は私が守る」


 大きく息を吐いて、魔物たちを見据える。力がいつ消えるか分からない以上、早々に決着付けるしかない。
 それに加えて一匹でも打ち漏らしたら被害が出る。最悪の場合、多くの死者が出るかもしれない。
 つまり、『早く』『的確に』魔物を倒さないといけない。……難しすぎない?


「でもやるしかない」


 それしか道が無いのなら、どれだけ難しくても進むしかない。ホウリさんが言っていた事だ。
 今の私に退路は無い。だったら進むのみだ!


「やああああ!」


 覚悟決めて魔物の群れに突っ込んでいく。
 まずはコボルトを殴り飛ばして、こん棒を振り下ろしていたオークに肉薄する。そのままオークのお腹に拳をめり込ませると、体を持ち上げて広場に向かっているゴブリンに投げつける。


「うりゃ!」
「ごあああ!」


 巻き込まれて他のゴブリンやコボルトも下敷きになる。
 ゴブリン、オーク、コボルトを次々と戦闘不能にするが、まだまだ魔物はいる。まだ油断は出来ない。


「……ふう」
「しゃああああ!」


 リザードの件を手のひらで受け止めて叩きおり、折った刃をリザードの鱗へ突き立てる。
 青い血を噴出しながら倒れるリザードの後ろから、ゴールドウルフが魔装を使って襲い掛かって来る。


「くっ……」


 腕でゴールドウルフの噛みつきを防ぐ。幸いにもバフのおかげで服に穴が開くだけでダメージは無い。
 私は引きはがそうと手を伸ばすと、ゴールドウルフがもの凄い速さで私から距離を取った。私の手が空を切るのを見て、焦りが湧いてくる。


「このままだと止められない……」


 走るだけなら私の方が速いけど、私は速さになれていない。速さを生かされて翻弄されたら全く太刀打ち出来ないだろう。他にウルフ系の魔物がいたら私だけで守り切れないかもしれない。
 そう思った私の目の前に想像が間違っていない事を悟る。


「ゴールドウルフ2体にシルバーウルフ3体……」


 1体なら何とかなると思ったが、複数のウルフ系がいる。しかも、他の魔物も続々と奥からやってきている。


「これは流石に厳しいかな……」


 とはいえ、諦めると後ろの人達に被害が及ぶ。絶対にあきらめる訳にはいかない。
 私は歯を食いしばって魔物に向き直る。1体でも多く魔物を倒す!絶対にここを通さない!


「グルアアアア!」
「はあああ!」

 
 拳を構えて全力で魔物に駆け出す。
 神速でゴールドウルフに肉薄し、お腹に蹴りを入れる。しかし、体を捻られて蹴りの勢いを殺された。
 吹っ飛んだゴールウルフだったが、戦闘不能にはならずそのまま立ち上がった。
 そのスキをついて残りの魔物が私の隣を抜けていく。


「くっ……!」


 私は横を通ろうとしたシルバーウルフを捕まえてパンチを繰り出す。ゴールドウルフとは違い、シルバーウルフは勢いを殺し切れず吹き飛んで動かなくなった。
 だけど、その間にゴールドウルフや他のシルバーウルフが横を通り抜けていった。すぐに追おうとするが、オークのこん棒で阻まれてしまう。
 焦った私はオークをキックで倒して、ゴールドウルフとシルバーウルフを追う。
 すぐに追いつけるシルバーウルフ2体をタックルで吹き飛ばして、ゴールドウルフへと接近する。
 走っているゴールドウルフの足に向って手を伸ばす。


「行かせない!」


 ゴールドウルフの足に手が数㎝まで迫った瞬間、ゴールドウルフの体がバチバチと電気を発し始めた。瞬間、ゴールドウルフの速度が爆発的に上がり、足があった空間には放電した電気だけが残った。


「な!?」


 丸くした私の目に映ったのは、放電しながら超スピードで広場に向かっているゴールドウルフだった。私は無理にゴールドウルフの足を掴もうとして、かなり前のめりな体勢になっている。
 私が体勢を立て直している間にゴールドウルフは噴水広場へ駆けていく。


「……まだ終わりじゃない!」


 私は足をもつれさせながらゴールドウルフを追う。皆を守れるのは私だけだ、私が折れる訳にはいかない!
 もの凄い勢いで駆けていくゴールドウルフと、それを見て怯えた様子の人々が目に入る。
 私は力の限り全力でゴールドウルフへ走り出す。


「はあああ!」


 必死に手を伸ばしてゴールドウルフを追うも、健闘空しくゴールドウルフは広場へと足を踏み入れようとしていた。瞬間、


「ぐぎゃっ!」


 ゴールドウルフが何かにぶつかって鼻が赤くなっていた。よく見ると、透明な壁が道と広場を分断していた。道と広場の境目には矢が刺さっており壁を作っていた。


「エンチャント?」


 何が起こったか分からずに、思いついた言葉をつぶやくと奥から見覚えのある人が見えた。


「あ、ラビさーん!遅れてすみませーん!」


 そこには顔に布を付け、背中に矢筒を背負い弓を持ったロワさんが広場に立っていた。


「ここら辺に魔物が多くいまして、倒していたら遅れてしまいました」
「いえ、助かりました。おかげで皆さんを守り切る事が出来ました」
「それは良かったです。4つの道も結界で塞いでいるので安心してください。ここからは僕も戦いますよ」


 そう言うとロワさんはこちらに向かって矢を放ってくる。結界に阻まれると思った矢はそのまま結界を通り過ぎて倒れている魔物に刺さった。


「本当にありがとうございます」


 ロワさんに深々と頭を下げてゴールドウルフに向かって構える。
 鼻が余程痛いのか、ゴールドウルフはしきりに頭を振っている。その隙に視界の外からキックを繰り出す。


「ぐぎゃああ!」


 断末魔を叫びながらゴールドウルフが動かなくなる。これで奥からやって来る魔物に集中できる。
 人々への脅威は無くなった。後は私のエンチャントが無くなる前に倒し切るだけだ。……なんだけど


「……流石に多すぎない?」


 道の向こうから魔物が続々とやって来る。目に見えるだけで50体はいる。しかも、ガーゴイルジュニアとかミニドラゴンとかの強力な魔物も見える。
 エンチャントが無くなる時間は分からないけど、切れる前に倒せる自信はない。


「……けどやるしかないなぁ」


 昨日までの私だったら戦えないから避難誘導や調査に回っていた所だ。でも、今は(不本意ながら)フランさんの次に戦える存在になってしまった。王都の危機に戦わないという選択はないだろう。


「ロワさん、皆さんの護衛は任せていいですか?」
「分かりました。僕が皆さんを守りますので安心してください」


 ロワさんがいるなら安心だ。私は安心して魔物の軍勢に向かって走りだす。


「やああああ!」


 助走をつけて蹴りを繰り出す。
 私の戦いはこれからだ!
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