魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百四十三話 エクス……カリバー!

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 ラビ・プレンが奮闘している中、王都のいたる所で魔物による破壊活動が行われていた。
 先ほどまで落ち着いた雰囲気のカフェも魔物で荒らされており、今まさに襲われそうになっている
 唸りながらこん棒を振り上げるゴブリンを見て店員が腰を抜かす。


「ごぎゃああ!」
「う、うわあああ!」


 ゴブリンが思いっきりこん棒を振り下ろし、店員が思わず目を覆う。だが、いつまで経っても衝撃はやってこなかった。
 店員が恐る恐る目を開けると、ゴブリンと店員の間に誰かが割って入っていた。よく見てみると、その者は鎧を身に着け右手には盾を持っており、左手には身の丈程はある大剣を持っていた。


「は!」


 その者はゴブリンを切り捨てると、大剣を鞘に納めながら店員へ手を伸ばす。


「大丈夫か?」


 後ろ姿では分からなかったが、その者は女だった。長い金髪にキリッとした目、スタイルも良くモデルだと言われ手も違和感は無い。
 店員はその者に見とれていたが、手が差し出されている事に気が付くと、その手を取って立ち上がった。


「あ、ありがとうございます」
「ここは危険だ。この道を行くと避難所があるからそこに行くと良い」
「分かりました」


 店員は頭を下げると、教えて貰った方へ走っていった。
 避難する店員を見送り、女……ミエル・クランは周りに魔物がいないか警戒する。


「……ここはいないか。他の場所に向かおう」


 盾と大剣を背負って街を駆けるミエル。人国が建国してから一番大きな事件として、騎士団も駆り出されている訳だ。
 本来であれば騎士団は集団での戦いが基本だが、今回は広い範囲を守らなくてはいけないため、広い地域にまんべんなく配置している。
 ミエルは遠距離から近距離の戦闘を幅広くこなせるため、単独で行動している。
 鎧や盾を背負っているとは思えない程に機敏な動きで街を駆ける。すると、どこからかかすかに者が壊れる音が見えるの耳に届いた。
 ミエルは音がした方向へと走っていく。すると、大勢の魔物ともみ合いになりながら戦っている者達がいた。
 魔物はゴブリンやオークなど弱めの種類が主だが、とにかく数が多い。範囲が広い攻撃を使おうにも他の者もいる為、迂闊に使う事が出来ないだろう。
 ミエルはその戦闘に混ざるために盾と大剣を取り出す。
 剣を振り回しているリザードの後ろを取り、大剣で切り捨てる。


「ジャアア!」


 リーザドが断末魔を上げながら光の粒になって消える。
 大剣を振り切ったミエルの横からオークがこん棒で薙ぎ払ってくる。しかし、ミエルは盾で防ぐこともせずにそのままこん棒を受け止める。
 こん棒を受けたミエルはダメージを受けた様子もなく、オークを切り捨て光の粒にする。
 次の標的を見定めるために周りを見たミエルが顔をしかめる。


「……いくら何でも数が多すぎる」


 召喚の消費MPは少なくても60。だが、魔物の数は見えるだけでも100を超える。一人でこれだけの数の魔物を召喚出来る訳はない。多くの召喚士がいると見ていいだろう。
 召喚士を早く見つけないと、次々と魔物が襲ってくるが、今いる魔物を放置する訳にも行かない。そう考えたミエルは目の前の魔物に切りかかる。


「とはいえ、一気に減らさないとジリ貧だ。何とかしないと」


 戦いながら、今戦っている者を確認する。戦士が5人に騎士が3人、魔法使いか呪術師とみられるものが2人。全員がバラバラに戦っている所を見ると、雇われた冒険者か。
 彼らの協力を得ようと思ったミエルは敵の攻撃を盾で受け止めながら、戦っている彼らへ叫ぶ。


「皆!ここは協力して一気に蹴散らそう!」
「何か策があるのか!?」
「私が全員を引き付ける。その間に高威力で範囲が広い攻撃がある奴は、使って敵を一掃してくれ」
「あんたはどうするんだ!?」
「スキルでなんとかするから心配いらない。合図をしたら遠慮なくぶっ放してくれ」


 ミエルはそう言うと、挑発のスキルを発動する。瞬間、周りの魔物の視線が一斉にミエルに注がれる。そして、一斉にミエルに向かって武器を振り下ろしてくる。
 ミエルは全ての攻撃を盾や鎧で受け、大剣で何匹か倒す。しかし、どれだけ大剣を振っても攻撃は少しも緩まない。それだけ魔物の数が多いのだ。
 一人に100の魔物が群がる光景は、何も知らない者が見たら絶望するだろう。しかし、ミエルの防御力を持ってすれば、ゴブリンやオークの攻撃をいくら受けてもダメージにもならない。だからこそ、ミエルは囮役を買って出たのだ。
 ミエルは戦いながらも全員が準備を終えるか確認する。
 1か所に全員が集まり、それぞれの武器にMPを込めていく。それを見たミエルは魔物の攻撃を盾で防ぎながら声を張り上げる。


「今だ!」
「水の息吹!」
「フレイムアロー!」
「スラッシュ!」
「エムジバ!」


 合図を受けた皆が一斉に最大級の攻撃を放つ。
 4人の全力の攻撃を受けた魔物達は残らず光の粒になって消え、跡には見えるだけが残った。
 大丈夫と言う言葉を聞いていたと言え、全くの無傷であるミエルを見た皆が目を丸くする。ミエルはプロフェクションガードでダメージを無効化していた訳だが、知らない者から見たらただの化け物に見えるだろう。
 魔物は周囲にいない事を確認したミエルは、MPポーションを飲みながら皆の元へ歩み寄る。


「全員無事か?」
「は、はい」
「よかった。HPやMPを消耗している者がいるのならポーションで回復しておいてくれ。ポーションが無い者は騎士団本部に行くといい。治療やポーションを配布している。特にエムジバを使った君」


 ミエルは大の字に倒れている戦士の一人を指さす。


「エムジバはMPを全て消費して威力を上げるスキルだろう?誰かに護衛してもらいながら騎士団本部に向かった方がいい」
「分かりました。ありがとうございます」


 皆がポーションで回復を図る。
 ミエルは別の戦闘地に向かおうと踵を返す。すると、道のど真ん中に白いローブを着た者がいた。避難が遅れた市民かと思ったミエルは、避難を促そうと白ローブに近付こうとする。


「ここは危険だ、安全な場所に───」


 だが、一歩踏み込んだ瞬間にミエルは白ローブが発する異様な雰囲気を感じ取る。
 ミエルは盾と大剣を構えて白ローブを睨みつける。


「貴様、何者だ?」


 ミエルの問いかけに白ローブは何も答えない。
 何かされる前に攻撃を仕掛けた方が良い、そう思ったミエルは大剣を振りかぶりながら白ローブに接近する。
 すると、白ローブが軽く手を挙げた。瞬間、白ローブの目の前に巨大な魔方陣が現れ光を放ち始めた。こいつが魔物を召喚している張本人だと理解したミエルは、スラッシュで先制攻撃を仕掛ける。
 しかし、スラッシュは白ローブに直撃する瞬間に跡形もなく消え去った。


「何!?」


 耐えるでも防ぐでもなく無効化。その事実にミエルの行動が一瞬遅れる。
 その隙に魔方陣は光を増していき、巨大な魔物が這い出て来た。その体は2階建ての家ほどあり体を岩で覆われている、ゴーレムと呼ばれる魔物だった。
 盾を構えながらミエルはゴーレムを見据える。その見た目通りゴーレムは物理攻撃が通りにくい上に、体の中にあるコアを破壊しないと倒し切れない。それに加えて厄介な特性もあり、倒すのに骨が折れる敵だ。しかも、さっきの殲滅戦でこちらのMPの消耗が激しい。
 ゴーレムは緩慢な動きでミエルに近付き、剛腕を振り下ろす。ミエルはゴーレムの腕を盾で受け止める。


「くっ……流石に厳しいな」


 ミエルがゴーレムの攻撃を受けとめながら、ミエルが脂汗を流す。ミエルといえども少なからずダメージを受けている、それは他の者が受けると致命傷になる事を表している。


「ひ、火球!」
「!?、待て!」


 ミエルの後ろにいた魔術師がなけなしのMPで火球を放つ。その様子を見たミエルは思わず叫ぶが、既に火球はゴーレムへ放たれていた。
 ゴーレムに向かった火球はそのままゴーレムの体に吸い込まれていった。そして、ゴーレムの動きが少しだけ早くなる。
 ゴーレムは魔法を吸収し攻撃力と敏捷性を向上させる。よって、倒す時は魔法を使わない事は鉄則だ。


「どうする……」


 ここで撤退すれば街が破壊されていくだろう。下手したら他の戦闘地に行かれて被害が拡大するかもしれない。
 そう考えたミエルはゴーレムを抑える事を選択する。


「さあ来い!」
「………………」


 ゴーレムは静かに、だが力強くミエルに腕を振り下ろす。ミエルはゴーレムの腕を受け止めながら、後ろの冒険者達に視線を向ける。
 皆、武器を構えていて闘志を失ってはいないみたいだ。となれば、正気はまだある。


「皆!こいつを倒すのを手伝ってくれ!」
「な、何をすればいいんですか?」
「まずはMPを回復してくれ!時間は私が稼ぐ!」


 ミエルはそう言うと、大剣を仕舞ってポーションを取り出す。MPポーションを片手で器用に開けながらミエルは回復を図る。


「くっ……」


 いくら防御力が高いミエルでも片手ではダメージが大きくなってしまう。直撃しないように攻撃をいなそうとしているが、勢いは殺し切れていない。
 ミエルがゴーレムを抑えている間に、冒険者たちはポーションで回復していく。
 ミエルはある程度回復したと判断すると、冒険者たちへ次の指示を出す。


「全員、全力の
「え?でも……」
「いいからやってくれ!」


 魔法を放つ事に躊躇している冒険者にミエルは叫ぶ。
 最初は躊躇っていた冒険者だったが、必死にゴーレムを抑えているミエルの言葉に杖や武器を構える。


「炎の息吹!」
「水の息吹!」
「風の息吹!」


 レベル3の魔法がゴーレムへ放たれ、そのままゴーレムへと吸収される。魔法を受けたゴーレムは白い煙を出しながら、さっきよりも素早い動きで殴りかかって来る。
 するとミエルは何を思ったか、盾を捨てて大剣を握り直す。
 ゴーレムの剛腕がミエルに直撃しそのまま吹き飛ばされる……かと思いきやミエルの体が虹色に輝いていてダメージを受けている様子はない。ダメージを無効化するプロフェクションガードだ。
 ミエルを覆っていた虹色の光が大剣に移動していき、まばゆく光り輝く。


「はあああああ!」


 ミエルが渾身の一撃をゴーレムに放つ。
 大剣がゴーレムの体に命中し、ゴーレムの岩を砕いていき、中のコアを破壊した。
 ゴーレムの体が崩れていき、そのまま光の粒になっていく。


「……ふぅ」


 ゴーレムを倒した事を確認したミエルは体から力を抜く。プロフェクションガードで攻撃を無効化し相手の攻撃の2倍の威力を上乗せするダブルアップのコンボでの攻撃。
 ただし、それだけだと防御力の高いゴーレムを倒し切れない可能性があったと考えたミエルは、あえて魔法でごれーむの攻撃力を上げた。結果的にゴーレムを一撃で粉砕することが出来たのだった。


「さて、あいつはどこだ?」


 ミエルが油断なく周りを見回すが白ローブの姿はない。
 この襲撃がただ事ではない、ミエルはそう感じたのだった。
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