魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百四十八話 金は命より重い

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「金が無い」


 王都全土を巻き込んだ騒動の次の日の朝、リビングで突然フランさんが言いました。


「藪から棒にどうした?」
「どうもこうもあるか。金がないんじゃ」
「昨日まではそんな素振りありませんでしたよね?どうして急にお金が無くなったんですか?」
「ホウリがいなくなってから外食ばかりじゃったろ?」
「それでお金が無くなっちゃったの?」
「そうじゃ」


 フランさんの言う通り、リンタロウさんが来てから外食しかしていません。お金は今までよりも使っているでしょう。
 そこまで聞いたリンタロウさんが不思議そうに首を傾げました。


「しかし、ミエル殿は騎士団の団長であり、フラン殿は魔王であったのでござろう?1週間外食した程度で金欠になるのでござるか?」
「昨日の襲撃で装備が壊れてしまったから新調したんだ。騎士団に予算の要請をしているが、申請が降りるのが明日になるんだ」
「それでお金が無いんですか」


 ミエルさんらしい理由だ。


「フラン殿はなぜお金が無いのでござるか?」
「なんてことはない。ギャンブルで負けまくって金を下ろしまくった結果、一時的に引き下ろしが制限されただけじゃ」
「なんてことありますよね?」


 フランさんらしい理由だ。


「ホウリさんのお金は使えないのでござるか?」
「奴は金を何処に残しているのか分からん。そもそも、金を使っているのかも怪しい」
「そう言えばそうですね」


 ホウリさんがお店の支払いをしている所は何回か見ていますが、どれだけの蓄えがあるのか知りません。どのように稼いでいるかすら見当が付きません。


「ホウリ殿に頼る訳にもいかぬでござるか」
「そういう事じゃ」
「だが、お金が無いとは言え明日にはお金が手に入る。たった1日ならば大騒ぎする程でもないだろう?」


 ミエルさんの言う通り、お金が無いのは大変ですが明日までであれば問題ないように思えます。しかし、フランさんの顔は曇ったままです。


「そうもいかん」
「え?何かありましたっけ?」
「家に食料が無い」
「へ?」


 フランさんの言葉に耳を疑います。食料が無い?今までにそんな事ありましたっけ?


「……そう言えば、パンを作った時に食料を全部使った気がします」
「お主のせいか」
「で、ですけど、皆さんも全部食べてましたよね?付け合わせのジャムとかバターも残さずに平らげてましたし?」
「分かっとる。言ってみただけじゃ」


 冗談を言えるだけの余裕はあるみたいですね。しかし、お金が無い現実は変わりません。
 そう言えば、昨日の襲撃が終わってから何も食べずに寝ちゃいました。皆さんも疲れ切って寝ちゃいましたし無理もないとは思いますけどね。


「ロワ殿はどうでござるか?」
「僕もお金はないですね。このパーティーに入ってからお給料は貰ってませんし」
「拙者が思っていたよりもこのパーティーはブラックなのでござるか?」
「必要な物はホウリさんがくれますし、必要に応じてお金もいただけますよ」


 何より何億Gもするトリシューラを5本もいただけたんです。これ以上の報酬はないでしょう。
 ですが、今はお金か食糧が欲しいですね。どうしたものでしょうか。


「拙者も金はないでござるよ」
「この世界に来たばかりのお主に期待はしておらん」
「ねーねー、今日はご飯食べられないの?」



 ノエルちゃんが潤んだ目でフランさんを見つめる。フランさんはそんなノエルちゃんを優しく撫でる。


「心配するでない。わしらで何とかするわい」
「しかし、どうするでござるか?」
「そうだ、ミエルさんのご両親にお願いするのはどうですか?」
「それはいい考えじゃな。金を借りるとは言えぬが、食料くらいは恵んでくれるのではないか?」


 他の人には頼みにくい事ですが、自身の両親であれば頼みやすいでしょう。これでなんとかなりそうです。
 そう思っていたらミエルさんが顔を曇らせました。


「パパとママは旅行に出かけている。家には誰もいない」
「あ、もう駄目ですね。皆で仲良く明日まで我慢しましょう」
「諦めが早くないか?」
「ですけど、他に方法があるんですか?」
「誰かに頼るのはいい案だと思うぞ?問題は誰を頼るかだ」
「誰か良い知り合いはいないでござるか?」
「良い知り合いかー」


 頼んだらご飯を恵んでくれるくらいに親しい知り合い、そんな人が簡単に見つかる訳が……


「そうだ、銀の閃光はどうだ?一応、A級パーティーなんだろう?頼めば金を貸りたり、食べ物を貰ったりは出来そうじゃないか?」
「そうじゃな、奴ら───主にナップには迷惑を掛けられたからのう。それ位の要求は通るじゃろう」
「そうと決まれば、兄貴たちの拠点に行きましょう。ここからすぐですよ」
「お主は行った事があるのであったな?」
「兄貴に呼ばれた事がありまして、その時に行きました」
「それは都合が良い。ロワに案内してもらうとしよう」
「任せてください」


 こうして僕たちは銀の閃光の拠点へと向かう事になったのでした。


☆   ☆   ☆   ☆


 家から歩く事5分、僕たちは銀の閃光の拠点へとやってきました。銀の閃光の拠点は1階建ての小さな一軒家で、住宅街にある家の一つです。というのも、ここは独り身である兄貴の家で、他の皆さんは普段は別の家で生活しているみたいです。
 何か相談事があれば兄貴の家に集まる事になってますし、今も銀の閃光の皆さんがいるかもしれません。
 僕は扉を叩いて家の中に響くように大きな声を出します。


「あにきー!いますかー!」


 僕が叫ぶと家の中からドタバタと世話しない音が聞こえてきました。
 しばらくして、家の中からナップ兄貴が慌ただしく出て来ました。兄貴はずだ袋を背負って焦っている様子です。


「どうしたんですか兄貴?」
「ロワか。どうした?」
「兄貴こそどうしたんですか?」
「これからオダリムに向かうんだ。ロワは俺に何か用か?」
「実は……」


 兄貴にこれまでの経緯を軽く話します。


「……という訳です。食べ物かお金を恵んでくれませんか?」
「断れば身ぐるみを剥ぐと思え」
「盗賊か何かかお前らは」
「更に断れば家ごと持っていくぞ?」
「フランさんが言ったら冗談に聞こえないんですよ」


 お腹が空いているからか、お二人の目が血走っている気がします。


「俺も可愛い弟分を助けたい所だが、金も食料も無いんだ」
「何かあったんですか?」
「とある理由によりミル達に借金しててな。食料も持っている物だけで全部だ」
「金が無いのになぜオダリムに行くんじゃ?」
「ディーヌさんに会いに行くんだよ。言わせんな恥ずかしい」


 お金が無いのにオダリムまで行くだなんて、兄貴は本当にディーヌさんが好きなんですね。


「それなら仕方ないですね」
「ロワや、ここで引いてはならん。奪い取ってでも食料を手に入れるんじゃ」
「お前らどれだけ飢えてんだ」
「すみません兄貴。フランさんが本当に襲い掛からない内に出発してください」
「そうさせてもらおう」


 兄貴は荷物を背負って足早に去っていきました。いや、足早と言うには全力疾走ぎみな気がします。


「それで、獲物は逃げてしまったがどうする?」
「兄貴の事を獲物っていうの止めてくれませんか?」


 兄貴を早めに逃がして良かったかもしれない。


「そうですね……、他の銀の閃光の方々の居場所は分かりませんし、どうしましょうか?」


 フランさんの言う通り頼る人がいなくなってしまいました。これからどうすればいいのでしょうか?


「思ったのでござるが、誰かから食料を恵んでもらうのではなく、お金を稼いだ方が早いのではないのでござるか?」
「だが、どうやって稼ぐ?」
「拙者にいい考えがあるでござる」


 リンタロウさんが自信満々で胸を張ります。こんなに自信があるリンタロウさんは初めてです。これは期待できますね。


「どんな考えですか?」
「ふっふっふ、ズバリ!ロワ殿のブロマイドを売り払うのでござる!」
「「却下だ!」」


 フランさんとミエルさんがもの凄い形相で詰め寄ります。そんなお二人にリンタロウさんは後ずさります。


「な、なんでござるか?拙者、何か変な事を言ったでござるか?」
「ロワの写真だと!?そんなの世に出したらどうなるのか分かっているのか!?」
「詳しいことは省くが、ロワを巡る戦争が世界中で起こるらしい」
「……それは誰が言っていたでござるか?」
「ホウリに決まっておろう」
「やはりホウリ殿か。ならば仕方ないでござるな」


 ミエルさんとフランさんの言葉にリンタロウさんが納得したように頷きます。ホウリさんの名前の説得力は伊達じゃないですね。


「では、他の手段でお金を稼ぐしかないでござるな?」
「何かいい案があるものはいないか?」
「そう言えば、お金はどの位あればいいんですか?」
「5000Gもあれば足りるじゃろう」


 5000G、少ない気がするけどすぐに集まる金額じゃない。うーん、何も思いつかない。
 皆で唸っていると、ノエルちゃんが元気よく手を挙げた。


「はい!皆で大道芸をするのはどう?」
「大道芸?」
「うん!ロワお兄ちゃんが的あてしたり、ミエルお姉ちゃんとリンタロウお兄ちゃんが戦ったり、フランお姉ちゃんが凄い事したり」
「わしだけ具体性が無いんじゃが?」
「フランさんは何でも出来ますからね」
「この世界は大道芸で稼いでもいいのでござるか?」
「5000Gくらいであれば問題なかろう。問題は何をやるかじゃ」
 

 やるとしても、思わずお金を入れてしまうような物じゃないといけない。どうしようか?


「ロワはハープが得意じゃったな?演奏すれば良いと思うぞ?」
「フランさんが座ったままの姿勢のままで跳躍すれば、凄いと思いますよ?」
「ミエルがわしの攻撃を受けるのはどうじゃ?かなりインパクトあるぞ?」
「リンタロウお兄ちゃんが色々な物を切れば、皆凄いと思うよ?」
「ノエル殿が踊るだけでお捻りがっぽがっぽでござらぬか?」


 アイディアは沢山あるけど、一向にまとまる様子を見せない。話し合いだけで日が落ちそうだ。


「どうする?案がまとまる気がしないぞ?」
「何も1つの案だけ実行しなくてはいけない訳ではない。各々が思い思いの方法で稼げばよかろう」
「確かにそうでござるな」


 言われてみればフランさんの言う通りだ。僕らが別々の事をしても問題はない。なんなら、他の誰かと一緒にやっても問題ない訳だ。


「ノエルちゃんは踊るんだったら僕が演奏しようか?」
「いいの?やったー!」
「じゃったら、わしらは3人でやるぞ。派手に動けばそれなりに楽しめるじゃろう」
「決まりだな。5000Gであれば1時間で集まるだろう」
「では1時間後、ここに集合でござるな」
「分かりました。いこう、ノエルちゃん」
「うん!」


 ノエルちゃんを連れて人通りの多い大通りへと歩く。
 昨日あんな襲撃があったのにもう多くの人が通りを行きかっている。この辺りはフランさんが守っていたからあまり壊れていないけど、襲撃の翌日に堂々と街を歩く。この街の人達はかなり強いみたいだ。


「どこでやろうか?」
「そうだねー」


 僕たちは演奏とダンスが出来そうなスペースを探す。
 いつもよりも人の数は少ないけど、それでも人通りは多い。そんな中でダンスと演奏が出来るスペースがありながらも、すぐに許可が取れそうな場所が好ましい。けど、そんなに都合のいい場所なんて……。


「あ、あそこなんてどう?」


 ノエルちゃんがいつも行っている八百屋さんの前を指さします。確かに人の目に付きやすいし、許可も取りやすそうな場所だ。


「良いね。八百屋のご主人にお願いしてみようか」
「うん!」


 いつも通り八百屋ご主人に話しかけてみる。


「いらっしゃい!いらっしゃい!新鮮な野菜や果物が安いよー!」
「ご主人」
「お、ロワにノエルちゃんじゃないか。買い物かい?」
「いえ、少しお願いがありまして」
「お願い?」


 僕はお金が必要な事とお店の前を使わせてほしい事をご主人に伝えた。僕のお願いを聞いたご主人は考えもせずに笑顔で即答した。


「芸をしてくれるんだったら客寄せにもなるだろうし良いよ」
「ありがとうございます」
「やったー!おじちゃんありがとう!」


 ご主人にお礼を言って早速準備を始める。お金を入れる物が必要だから適当な箱でも置いておこう。紙に『良いと思ったらお金をお願いします』って書いて、これでよし。
 楽器であるハープを取り出した所で、とある事が引っかかる。


「そういえばさ、演奏とダンスをするって事だけど、具体的に何の曲を弾けばいいの?」
「え?タンパンマンじゃないの?」
「僕、ホウリさんから教えてもらった曲しか弾けないよ?」
「タンパンマン弾けないの?」
「無理だね」
「じゃあ何が弾けるの?」
「ハロウィンの時に弾いた時みたいな曲がほとんどかな」


 タンパンマンのようなポップな曲じゃなくて厳かな雰囲気の曲しか弾けない。これじゃ、ノエルちゃんが踊りにくいかな?


「どうしようか?タンパンマンの曲じゃないと踊りにくいんだったら他の事を考えようか?」
「ううん、ロワお兄ちゃんの演奏好きだから大丈夫!」
「そっか。それは良かったよ」


 ノエルちゃんに笑いかけて僕はハープに手を掛ける。


「じゃあ行くよ?」
「うん!」


 ノエルちゃんと頷きあってハープの弦を弾く。ハープの優し気な音が絡みあって曲となっていく。ホウリさん曰く、森の恵みに感謝をささげるエルフの曲らしいです。
 行きかう人にも曲が届いたのか、何人かが立ち止まって僕たちの方を向いた。


「ルルルル~♪」


 曲に合わせてノエルちゃんが鼻歌を歌いながら体を揺らしていきます。そして、曲に合わせて跳ねたり回ったりとして、楽しそうに踊り始めた。
 見ている人を楽しくさせるような軽快さでありながら、どことなく神々しさも感じる。なんとも不思議な感じがするダンスです。
 行きかう人たちも思わず足を止めて僕たちの方を見てきます。


「ララララ~♪」


 その様子を知ってか知らずか、ノエルちゃんの動きが大きくなっていく。僕はノエルちゃんの踊りに見とれて演奏を止めないように気を付ける。
 曲を弾き切りノエルちゃんもポーズを取って決める。


『わああああああ!』


 演奏が終わった瞬間に、皆さんから割れんばかりの歓声が上がります。中には、硬貨を箱に入れてくれている人もいます。見たところ5000G以上はありそうですし、これで今日のご飯の心配をする必要はなさそうです。


「ありがとうございます」
「皆、ありがとー!」


 拍手が巻き起こる中、僕たちは皆さんに頭を下げたり手を振ったりする。なるべく僕たちが感謝している事を伝えないとね。
 長めに声援に答えた後に、お金の入った箱を取ろうとしゃがみます。


「アンコール!アンコール!」
 

 すると、周りの人達からアンコールの声が上がりました。
 ノエルちゃんと顔を見合わせると、互いに頷きあう。


「それではもう一曲いきます。ノエルちゃん準備は良い?」
「うん!」


 僕は再びハープを構えてノエルちゃんも手を広げる。


「いくよ、せーの」


 僕はハープの弦に指を掛け旋律を奏でようとする。瞬間、誰かが僕たちの前をもの凄い速さで通り抜けていきました。
 驚いて姿を目で追うと、人込みを縫うように凄い速さで走り去る子供が見えた。手にはお金が入った箱を持って───


「ノエルちゃん!泥棒だ!」
「!?、追いかけよう!」


 ノエルちゃんに声をかけて泥棒を追いかける。泥棒の足は早くはないけど上手く人込みを抜けている。普通の道だったら僕のワープアローとかノエルちゃんの魔装で追いつけるけど、人が多いとそうもいかない。このままだと逃げられる。


「フランお姉ちゃんに連絡する?」
「あっちがどういう状況か分からないし、僕たちでなんとかしよう」


 とはいえ、今も泥棒との距離は離れて行っている。どうにかしないと……。


「誰か~!その人捕まえて~!」
「その人、泥棒なんです~!」


 とりあえず叫んで周りの人に捕まえて貰えないか画策してみる。
 狙い通り、何人かが泥棒を捕らえようとしてしてくれる。しかし、泥棒は上手くかわして、そのまま逃げ続ける。


「まったく追いつける気配がしないね……」
「追いかけやすい場所に行かないと逃げられちゃう!」


 けど、泥棒もそれを分かっている筈。どうにかして追いかけやすい場所に誘い込まないと僕たちのご飯がなくなっちゃう。


「それは嫌だ!」


 僕のお腹も同意するように低く鳴り響く。ここは全力で狩りに行く!


「ノエルちゃん!例の奴行くよ!」
「分かった!」


 ひそかに練習していた連携を試す時!手段は選んでられない!
 ノエルちゃんが僕の前に出てバレーのトスの体制を取る。


「ロワお兄ちゃん!」
「了解!」


 僕はノエルちゃんの手に飛び乗る。


「魔装!」


 ノエルちゃんが魔装でステータスを強化して、僕の体を跳ね上げる。それに合わせて僕もジャンプし、天高く飛び上がる。
 周りの建物よりも高く飛び上がった僕は携帯弓を取り出してワープアローを番える。あの子はどこに……いた!
 パン屋の前を走り去る泥棒が見えた。ここからなら狙える!
 落ちながら弓を弾いて狙いを付ける。上手く地面に当たるように……ここだ!
 泥棒の前に刺さるように行きかう人の間を狙ってワープアローを放つ。ワープアローは真っすぐと地面に向かい、誰にも当たらずに地面に突き刺さった。瞬間、僕の視界が空中から人込みの中へと変わった。ワープアローと僕の位置が入れ替わったんだ。
 僕は急いで振り返って目を丸くしている泥棒の前に立ちふさがる。


「もう逃げられないよ。おとなしくそのお金を返して」
「…………」


 泥棒が僕に背を向けて逃げようとします。しかし、すぐ後ろにノエルちゃんが手を広げて通せんぼしていた。


「ノエル達のお金返して!」
「…………!」


 泥棒は驚いた様子だったが、すぐに脇道へと逃げていった。大通りとは違い、脇道は人通りが少なくなる。偶然だけど僕たちが追いかけやすくなった。
 僕たちはそのまま泥棒を追いかける。さっきとは違って距離は徐々に縮まっていく。


「このまま行けば……」


 僕の記憶が正しければこの先は行き止まりだ。そうなれば捕まえる事が出来るはずだ。
 予想通り脇道の先は展望台になっており、柵の向こうは高さ10mの崖になっている。下は川になっているのでここから落ちて平気な人はそうそういないでしょう。フランさんとかノエルちゃんとかミエルちゃんとかラビさんとか……結構いますね?
 ともあれ、ここまで追い詰めたらもう逃げられないだろう。
 泥棒は箱を抱えながら柵を背にして僕らを睨んでくる。


「さあ、そのお金を返してください」
「ノエル達のご飯!早く返して!」
「…………」


 泥棒は僕たちを睨んだまま後ろに下がる。


「無駄ですよ。返してくれたら憲兵には突き出しません。だから、こちらに来てください」


 敵意が無い事を伝える為に笑いかけてみるけど、泥棒は後ろににじり寄っていく。しかし、すぐ背中が柵に触れる。泥棒はそれでも箱を抱えて後ろに下がろうとする。
 自分で返してくれればよかったけど、返す気はないみたいだ。しょうがない、ここは無理やり取り返そう。
 そう思って僕は泥棒に歩み寄る。しかし、僕の思惑が漏れてしまったのか、泥棒は目を鋭くして更に下がろうと身をよじる。瞬間、


「…………!?」


 泥棒に持たれかかっている柵が音を立てて崩れ去っていった。
 日の光に反射されコインがキラキラと光る中で、驚いたように目を見開いた泥棒が落ちていく。


「マズい!」


 僕はワープアローを取り出して崖から飛び降りる。


「ロワお兄ちゃん!」


 ノエルちゃんの叫びを後ろに聞きながら泥棒に手を伸ばす。コインが次々と川に流されていく。落ちたら助からないだろう。


「あとちょっと……よし」


 泥棒を抱き寄せてさっきいたところに向かって矢を引き絞る。これを外したら僕たちは死ぬ。けど、助けるにはこれしかない!
 丁寧に、けど素早く狙いを付けて矢を放つ。矢は真っすぐと崖の縁へと命中し僕らは上にワープする。しかし、角度が悪くて完全に上がり切る事は出来ず縁を掴む形になる。上がる事は出来たけど、このままだと落ちるのは時間の問題だ。
 そう思っていると、ノエルちゃんが焦った様子で覗き込んできた。


「ロワお兄ちゃん!?大丈夫!?」
「ノエルちゃん、引き上げてくれない……?」
「分かった!」


 ノエルちゃんが魔装を使って僕達を引き上げてくれる。た、助かった……。
 僕は息が荒い泥棒を地面に寝かせる。


「何とかなったね……」
「でもお金が……」


 ノエルちゃんの言う通りお金は全部川に落ちてしまった。これじゃ稼ぎは0だ。


「この子どうしようか?」
「逃がす訳にも行かないし、とりあえず連れて行こうか」
「………………」


 泥棒の子は相変わらず、何も話そうとしない。僕は自分の腕と泥棒の腕をロープで結ぶ。どうするかは皆さんと相談して決めよう。


「お金はどうしよっか?また踊る?」
「もう、道端で芸を出来ない時間だからやめておこっか。待ち合わせの場所に向かおう」
「分かった!」


 ノエルちゃんに笑いかけて大通りに戻る。しかし、内心はやらかしてしまったと冷や冷やものだ。なんとか、フランさん達が稼げてるといいけど。
 今までにない程に祈りながら、待ち合わせ場所であるナップ兄貴の家の前に到着する。すると、フランさん達が既に到着していました。リンタロウさんは壁にもたれ掛かりながら肩で息をしています。


「お待たせしました」
「遅かったのう。ん?誰じゃそいつ?」
「実はですね……」


 僕は今までの出来事を説明します。


「……という訳です」
「なるほど、つまりそやつのせいで金を川に落とした訳か」


 フランさんが鋭い目で泥棒を睨みつける。今日のご飯が掛かっている訳ですし、無理もないですね。


「皆さんはどうでしたか?」
「全然ダメだ。フランが本気でやり過ぎてショーの域を超えてしまった」
「それで憲兵が来たので必死に逃げて来たのでござる。あれではお捻りなんて貰えないでござるよ」
「つい熱くなってしまったんじゃ。そう言う事は誰だってあるじゃろう?」
「熱くなっても即死スキルは連発しないと思うんだが?」
「何回か死んだって思ったでござるよ……」
「大変でしたね」


 フランさんは相変わらずみたいだ。僕たちは家に帰りながらどうするか相談します。


「で、これからどうする?」
「ノエルお腹空いた~」
「こんだけ雁首を揃えても飯一つ手に入れられぬとは、情けないのう」
「お茶でも飲んで飢えをしのぐでござるか」
「そうするしかないですね」
「ホウリが大切にしているお菓子ならあるが?」
「死にたくないから遠慮するでござる」


 もう日も沈みきって星が見えてきています。もう、食料もお金も調達するのは厳しそうです。


「この子はどうしましょうか?」
「憲兵に突き出せばよいじゃろ」
「この近くに憲兵所はあったか?」
「少し遠い場所にありますね」


 まずはこの子を送り届けて、それから帰宅。ミエルさんが明日、お金を持ってくるまではお茶で我慢する。かなり厳しいですけど、今までのツケとしましょう。
 皆で力なく家に向かって歩きます。


「ん?誰か家の前にいませんか?」


 家の前に誰かが立っているのが見えました。手には大きな紙袋を持っています。


「あれは……ラビ殿ではござらんか?」


 リンタロウさんの言う通り、あれはラビさんです。大きな紙袋を持って家の中に誰かいないか覗こうとしています。
 ラビさんは諦めて帰ろうと踵を返すと、僕たちと目があいました。
 ラビさんは小走りで近付いて来て満面の笑みになります。


「あ、皆さん。探しましたよ」
「ラビではないか。どうしたんじゃ?」
「実はですね……」


 ラビさんが説明しようとすると、僕の横にいる泥棒の子を見て目を見開きました。


「なんでこの子がいるんですか!?」
「この子を知ってるんですか?」
「知ってますよ!有名な置き引き常習犯の子です!」
「そうなんですか?」


 ラビさん曰く、この子は耳が聞こえないらしく治療にもお金が大量に必要みたいです。孤児院にいるんですが、治療の目途も立っていないので自分でお金を稼ぐべく、置き引きとかを繰り返しているみたいです。どおりで、僕の言葉になんの反応も無かったわけです。


「そんな……、大人の人に頼れば……」
「過去に大人にひどい目にあったみたいで、大人は信用できないみたいなんです。コミュニケーションを取ろうとしても、警戒されてまともに出来なくて……」
「…………」


 泥棒の子はラビさんを睨みつけています。この子は何を思っているんでしょうか。


「とりあえず、その子は私が預かります」
「分かりました」


 結んでいた縄を外して、泥棒の子をラビさんに引き渡します。
 僕がこの子に出来ることは無いでしょうか?


「ラビさん、手術に必要なお金ってどれくらいですか?」
「3億Gくらいです」
「……結構しますね」
「とりあえず、この子の事は私が何とかしてみます」
「して、ラビはわしらに何か用か?」
「あ、そうでした。これをビタルさんから貰ったのですが、お世話になったのでスターダストの皆さんにも持っていくように言われまして」


 そう言われてフランさんはラビさんから紙袋を受け取りました。
 フランさんは紙袋の中を覗くと目を大きく見開いた。


「これは……」
「何が入っていたんだ?」
「……『劉弦』の焼肉弁当じゃ」
「本当ですか!?」


 紙袋から取り出してみると、確かに『劉弦』の焼肉弁当でした。しかも、一番高い弁当が7つもあります。


「良かったら皆さんで食べてください」
「ラビ……お主はわしらの天使じゃ」
「うっ……これで飢える事は無くなるんだな……」
「良かったね、お姉ちゃん!」
「そうじゃな!」
「涙ぐむ程ですか?」


 ラビさんが不思議そうに首を傾げますが、僕らにとっては本当に有難いです。


「良ければラビも食っていくか?弁当は余分にあるようじゃしな」
「いいんですか?」
「皆で食べた方が美味しいですしね」
「茶くらいなら入れるでござるしな」
「そっちの泥棒も食べていけばいい。丁度7人前ある」
「………………」


 泥棒は相変わらず睨みつけているけど、どこか目を輝かせている気がする。聞こえていない筈なんですけどね?


「ではお邪魔しますね」
「これで明日まで持ちますね」
「薄々気が付いてますけど、何かあったんですか?」
「実はですね……」


 ラビさんに説明しながら家に入ります。
 こうして、僕たちはスターダスト最大のピンチを何とか切り抜けられたのでした。
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