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第百四十九話 ソロモンよ、私は帰ってきた!
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ここは天界。頼まれていた事を終えた俺はやり残したことが無いか確認する。すると、家で見たことがある奴がやって来た。
「やあやあホウリ君。お疲れかな?」
「疲れては無い。ただ、他の仕事も押し付けられてムカつくだけだ」
「いやー、悪いねー」
「悪いと思ってないのがありありと伝わって来るな」
この1週間、他の異世界に飛んでしまったクラスメイトに連絡を取ってサポートしてきた。しかし、それ以外の異世界の調整とかもさせられて、かなり不機嫌だ。
「それにしても、何もない所だよな」
「天界には物の概念がないしね。念じるだけで、他の世界の事が分かるし干渉ができる。ただし、娯楽が無いのが難点だけどね」
「だから良く下界に降りていくんだな?秘書さんがキレてたぞ?」
「秘書が怖くて最高神が出来るかぁ!」
「今のは秘書さんに報告しておくからな?」
「……それだけは勘弁してほしいかな?」
「うるせえ」
神の言葉を切り捨てて、俺は来ていた上着を脱ぐ。この上着は羽織るだけの簡単な作りだったが、かすかに光っており神々しさすら感じる。肌触りもこの世の物とは思えない程に良く、元の世界に持っていけば国家予算以上の値段で売れるだろう。
「返すよ」
「持ってってもいいよ?」
「いらねえよ。こんな物が下界にあったら、最悪戦争が起きる。これを着たのもお前が着ろっていったからだしな」
「似合ってたの勿体ないね。せっかく、ホウリ君の為に作ったんだけどな~」
脱いだ上着を放って渡す。神は上着を受け取ると残念そうに仕舞う。
「じゃ、さっさと元の世界に返してくれ」
「分かったよ。リンリン用の魔方陣も残しておくから、適当に放り込んでね」
「リンタロウは洗濯物かよ」
瞬間、俺の下に魔方陣が現れて徐々に視界が白んでいった。
「ホウリ君のお陰で10倍くらいの速さで仕事が進んだし、また来てもいいよ?」
「良いのか?何をするか分からないぞ?」
「ホウリ君なら大丈夫でしょ。……大丈夫だよね?」
「……………………」
「なんとか言ってくれない?」
俺は意味深に微笑みながら、俺は下界に帰っていったのだった。
☆ ☆ ☆ ☆
白んでいた視界が徐々に色を取り戻していく。完全に視界が戻って来ると、俺の部屋である事が分かった。部屋には解体されたパイプベッドが散乱していて、ラビとフランが荒らしたことが分かる。
襲撃があったと聞いているし、急いで情報を集めにいったんだろう。
パイプベッドを戻しながらどの情報の紙が無いか確認する。見たところ、リューレの情報以外は持っていかれていないみたいだ。
パイプベッドを戻して部屋からでる。だが、家の中がやけに静かだ。もう昼だから起きてはいるだろうし全員出かけているのか?
念のため、警戒しながら階段に足を踏み入れる。瞬間、リビングから異様な雰囲気が漂っている事に気が付いた。
「あのバカ!」
俺は急いでリビングに飛び込んで惨状を確認する。
リビングにはフラン、ミエル、ロワ、リンタロウが机や床に倒れていて、ミエルがあたふたしている。テーブルの上には焦げたパンが置いてあり、食いかけのパンが床に転がっている。
この光景から導きだされる答えはただ一つ……。
「ミエル!お前、料理しやがったな!」
「だ、だってリンタロウが料理してほしいって言って……」
「言い訳は後だ!早く対処しないと全員死ぬぞ!これを倫太郎に飲ませろ!」
「リンタロウに?ノエルじゃなくてか?」
「言う通りにしろ!全員死なせたいのか!」
ノエルでもミエルの毒は分解出来ない。だったら、倫太郎で毒を切った方が確実だ。
大量の解毒剤をミエルに持たせて、パンを全部一か所に集めて袋に詰める。毒は揮発していないみたいだが、何かの間違いが無いとは限らない。隔離しておくに越した事は無いだろう。
「倫太郎の様子はどうだ!?」
「全部飲ませたが、これで起きるのか?」
「……うーん?」
リンタロウが虚ろな目をしながら起き上がる。リンタロウは無駄に毒とかへの耐性が高い。最高級の解毒剤を大量に飲ませた時に、意識を取り戻す可能性が一番高い。
しかし、虚ろな目のリンタロウを見るにまだ状態としては危険だ。このままだと、再び意識を失うだろう。その前に手を打たないといけない。
俺はリンタロウの両肩を掴むと、しっかりとした口調で伝える。
「お前の中にある毒を切れ!」
「はえ?なんの事でござるか?」
「さっさとしろ!」
「良く分からないでござるが、分かったでござる」
倫太郎は刀を抜いて逆手に持つ。そして、腹切りの要領で刀を振るう。
能力の使用に成功したのか、目に徐々に光が戻って来た。
「……あれ?鳳梨殿?」
「言いたい事は分かるが、今は時間が無い。お前にやってほしい事がある」
「なんでござるか?」
「食事に毒を盛られた。ノエルの体内の毒を切ってくれ」
「分かったでござる」
倫太郎はノエルの前に立つと一つ息を吐くと刀に手を掛ける。
「……ふっ!」
ノエルに目掛けて刀を振り向く。刀はノエルの体をすり抜けると、そのまま刀を鞘にしまった。
「どうだ?」
「成功でござる」
倫太郎が汗を垂らしながら、歯を見せてニカッと笑う。狙った概念を切る時はかなり精神を使う。それくらい慎重にしないといけないと口を酸っぱくして言ってるから当たり前だが。
「うーん、あれ?ここは?」
「単語だけで説明するぞ。ミエル、料理」
「あ、うん。大体わかったよ」
ノエルは全てを察し、ロワとフランに向かってセイントヒールを掛ける。分解しきる事は出来ないが、進行を遅らせることは出来る。
倫太郎の力は怒っていたりする時以外には連発出来ない。だから、ノエルを先に助けた訳だ。
同じ要領でロワ、フランの順で毒を切る。とりあえず、全員の命は助かったな。
「……ホウリさん?」
「……ホウリか。帰って来たんじゃな」
「お前らそこに正座しろ」
全員が起きた事を確認して俺は全員を正座させる。全員が冷や汗を流しているのを見ながら俺は椅子に腰かけて足を組む。
「どういう状況か説明して貰おうか?ミエル?」
「……えっと、食料が無かったので買いに行きました」
俺の怒りが分かっているのか、ミエルの言葉が丁寧になっている。
「それで?」
「それで、皆で食材を買いに行って、私とリンタロウが先に帰って来た」
「ふんふん?」
俺が微笑みながら先を促すと、ミエルが震えながら話を続ける。
「リンタロウが私の料理が食べたいと言ったから、簡単にパンを作ったんだ」
「一人で料理を作るなと言ってた筈だが?」
「ホウリから禁止されてると断ったんだ。だが、リンタロウから何度も頼まれたから断れなくて」
「拙者でござるか!?」
倫太郎が悲痛な声で自分を指さす。目を見開いている倫太郎に俺は笑いかける。
「本当か?」
「ほ、本当でござるが、まさかこんな事になるとは思ってなかったんでござるよ」
「俺から禁止されてるって事は何かしら事情がある筈だよな?知らなかった訳じゃないよな?」
「美少女の手料理が食べられるのであれば、どうでもよいかと思って……。分かってたら頼んで無かったでござるよ?」
「なるほど」
倫太郎とミエルの言い分は聞いた。次はそっちの3人だな。
「で、次は君達の話を聞こうか?」
「わ、わしらは何もしとらんぞ?」
「僕たちは、帰ってきたらパンがあったのでちょっと摘まんだだけです」
「ノエル達は悪くないよ」
「確かにその点で言えば被害者だな。だけど……」
俺は後ろの開け放たれているキッチンの扉を親指で刺す。
「なんでキッチンが開いている?」
「キッチンが開いているのがいけないのでござるか?」
「ミエル対策でキッチンには鍵を掛けている筈だ。なんで開いている?」
俺の言葉にフランとノエルがロワへ視線を向ける。
「ロワが料理したのか?」
「そ、そうです」
「鍵は?」
「掛けた記憶は無いです」
「料理した後は全員でキッチンの戸締りを確認するように言っていたよな?フランやノエルはキッチンに鍵が掛かっている事を確認したか?」
「いや……」
「やってない……」
「そうかそうか」
俺はそれ以上言わずに皆に笑いかける。皆も俺につられて薄く笑い始めた。
「あはははは」
「うふふふふ」
「えへへへへ」
皆で笑いあった後に俺は真顔で口を開く。
「で、それで全滅しかけた訳か?」
「………………」
俺の言葉に全員が再び黙った。
「今回の件は全員に責任がある。それは分かるな?」
「はい……」
「やるなって言う事には理由がある。それを理解しないと今回みたいに大変な事になるからな?」
「うむ……」
5人は俯きながら肩を落とす。皆も反省してるみたいだし、こんなものかな。
「次から気を付けろよ。今回は運が良かっただけと肝に銘じておけ」
「……終わりでござるか?」
「死にかけて懲りたろ?俺から言う事はもうない。飯を食い直すぞ」
「はーい」
俺は立ちあがってキッチンに向かう。
「食材は何がある?」
「今買ってきたので沢山ありますよ。僕も手伝いましょう」
「手伝うだなんて珍しいな?」
「たまには手伝いたいと思いまして」
ロワの様子がどこかおかしい。迷惑をかけたからって訳じゃなさそうだし、何かあったか?まあ、料理しながら聞けばいいか。
「倫太郎も食ってくだろ?」
「良いんでござるか?」
「勿論だ。この世界ではあんまり話せなかっただろ?食いながら話でもしようぜ」
「そう言う事なら甘えるでござる」
「よし、そうと決まれば腕を振るうか。何か食いたいものはあるか?」
「カレーが食べたいでござる」
「ハンバァァァァグ!」
「ポテトサラダ!」
「わしは麻婆豆腐がよいぞ」
「私はポタージュが食べたい」
「へいへい、分かったよ。ロワ、手伝ってくれ」
「分かりました」
「ノエルも手伝う!」
「私……は大人しくしてます」
「そうしろ。キッチンには一歩も入るな」
☆ ☆ ☆ ☆
食事の後、俺は部屋に倫太郎を呼んでいた。理由はもちろん、倫太郎を見送るためだ。
ちなみに、他のメンバーはいない。展開にいて話せなかったから話したい事があるだろうと、全員が気を利かせてくれたくれた訳だ。
「忘れ物はないか?」
「フラン殿と確かめたから問題ないでござるよ」
「何が入っているんだ?」
「携帯食料と水とポーションと着替えと換金用の金でござるな。マッチもあるでござるよ」
「まともだな」
「生死が掛かっているでござるからな」
「分かってくれて嬉しいよ」
俺の言葉に倫太郎が目を丸くする。なんか失礼な事考えてないか?
「なんだ?何か変な事言ったか?」
「いや、鳳梨殿が優しい言葉をかけてくれたのが初めてで面を食らっただけでござる」
「失礼だな。俺はいつでもお前たちの事を考えているんだぜ?」
「嘘でござるな。だったらあんな死ぬような特訓はしないでござる」
「それも愛だよ」
「こんなに苦しいのなら悲しいのなら……愛などいらぬ!!」
「かなり実感がこもってるな」
元の世界の特訓を思い出して、倫太郎が肩を震わせる。倫太郎は力の使い方を特に気を付けないといけないからな。特訓が厳しいのも仕方がないよね。
「冗談はともかく、俺はお前たちの安全を一番に考えているのは事実だ。何かあれば神を通して俺に連絡してくれ。必ず力になる」
「分かったでござる」
「それとこれも渡しておく」
俺は倫太郎から預かっていた通信機を渡す。神と通信が出来なくなったから俺に壊れてないか確認してほしいと言われたのだ。
「どうだったでござるか?」
「壊れてはいないな。だが、念のためリルアに見て貰った方が良いかもしれないな」
「そもそも繋がるのでござるか?」
「天界でリルアと話したが、繋がるみたいだぞ」
リルアとは俺達のクラスメイトの発明家だ。倫太郎の通信機もリルアが作ったもので、地球上であればどこでも繋がる優れものだ。
「次はリルア殿がいる世界でござるか?」
「みたいだな。正確にはお目付け役である智也がいる世界だけどな」
「また智也殿が苦労してるのでござるか」
「と言うかあれだぞ、全ての世界を回るって事は小山とも会う事になるからな?」
「げっ、あいつとも会わないといけないでござるか」
倫太郎が嫌そうに舌をべぇと出す。やっぱり、あいつと倫太郎は仲が悪いな。
他愛もない話をしていると、ここが別の世界だって忘れてしまいそうだ。なんというか、楽しい。
「そういえば、この世界では何をしたんだ?」
「そうでござるな。フラン殿と一緒にMPを使う特訓をしたり、街に現れた魔物を倒したり、街でパフォーマンスをしたでござるよ」
「街の防衛に参加していたのはフランから聞いている。悪いな、助かった」
「ピンチの時に駆け付けるのは当たり前でござるよ」
数分間、話していると足元の魔方陣が強く輝きだした。どうやら、タイムアップみたいだ。
倫太郎は名残惜しそうに魔方陣に入る。
「次に会う時は地球でござるかな?」
「そうだな。それまでに死ぬんじゃないぞ?絶対に無事で帰ってこい」
俺の言葉に倫太郎は白い歯を見せてニカッと笑った。
「勿論でござるよ。何が何でも帰ってくるでござる。クラス目標でござるからな」
「分かってるならいい」
「じゃ、行ってくるでござる」
「おう、行ってこい」
手を振り倫太郎を見送る。魔方陣は徐々に光を増していき、遂には倫太郎と共に消えていった。
こうして、倫太郎は別の世界に旅立ったのであった。
「やあやあホウリ君。お疲れかな?」
「疲れては無い。ただ、他の仕事も押し付けられてムカつくだけだ」
「いやー、悪いねー」
「悪いと思ってないのがありありと伝わって来るな」
この1週間、他の異世界に飛んでしまったクラスメイトに連絡を取ってサポートしてきた。しかし、それ以外の異世界の調整とかもさせられて、かなり不機嫌だ。
「それにしても、何もない所だよな」
「天界には物の概念がないしね。念じるだけで、他の世界の事が分かるし干渉ができる。ただし、娯楽が無いのが難点だけどね」
「だから良く下界に降りていくんだな?秘書さんがキレてたぞ?」
「秘書が怖くて最高神が出来るかぁ!」
「今のは秘書さんに報告しておくからな?」
「……それだけは勘弁してほしいかな?」
「うるせえ」
神の言葉を切り捨てて、俺は来ていた上着を脱ぐ。この上着は羽織るだけの簡単な作りだったが、かすかに光っており神々しさすら感じる。肌触りもこの世の物とは思えない程に良く、元の世界に持っていけば国家予算以上の値段で売れるだろう。
「返すよ」
「持ってってもいいよ?」
「いらねえよ。こんな物が下界にあったら、最悪戦争が起きる。これを着たのもお前が着ろっていったからだしな」
「似合ってたの勿体ないね。せっかく、ホウリ君の為に作ったんだけどな~」
脱いだ上着を放って渡す。神は上着を受け取ると残念そうに仕舞う。
「じゃ、さっさと元の世界に返してくれ」
「分かったよ。リンリン用の魔方陣も残しておくから、適当に放り込んでね」
「リンタロウは洗濯物かよ」
瞬間、俺の下に魔方陣が現れて徐々に視界が白んでいった。
「ホウリ君のお陰で10倍くらいの速さで仕事が進んだし、また来てもいいよ?」
「良いのか?何をするか分からないぞ?」
「ホウリ君なら大丈夫でしょ。……大丈夫だよね?」
「……………………」
「なんとか言ってくれない?」
俺は意味深に微笑みながら、俺は下界に帰っていったのだった。
☆ ☆ ☆ ☆
白んでいた視界が徐々に色を取り戻していく。完全に視界が戻って来ると、俺の部屋である事が分かった。部屋には解体されたパイプベッドが散乱していて、ラビとフランが荒らしたことが分かる。
襲撃があったと聞いているし、急いで情報を集めにいったんだろう。
パイプベッドを戻しながらどの情報の紙が無いか確認する。見たところ、リューレの情報以外は持っていかれていないみたいだ。
パイプベッドを戻して部屋からでる。だが、家の中がやけに静かだ。もう昼だから起きてはいるだろうし全員出かけているのか?
念のため、警戒しながら階段に足を踏み入れる。瞬間、リビングから異様な雰囲気が漂っている事に気が付いた。
「あのバカ!」
俺は急いでリビングに飛び込んで惨状を確認する。
リビングにはフラン、ミエル、ロワ、リンタロウが机や床に倒れていて、ミエルがあたふたしている。テーブルの上には焦げたパンが置いてあり、食いかけのパンが床に転がっている。
この光景から導きだされる答えはただ一つ……。
「ミエル!お前、料理しやがったな!」
「だ、だってリンタロウが料理してほしいって言って……」
「言い訳は後だ!早く対処しないと全員死ぬぞ!これを倫太郎に飲ませろ!」
「リンタロウに?ノエルじゃなくてか?」
「言う通りにしろ!全員死なせたいのか!」
ノエルでもミエルの毒は分解出来ない。だったら、倫太郎で毒を切った方が確実だ。
大量の解毒剤をミエルに持たせて、パンを全部一か所に集めて袋に詰める。毒は揮発していないみたいだが、何かの間違いが無いとは限らない。隔離しておくに越した事は無いだろう。
「倫太郎の様子はどうだ!?」
「全部飲ませたが、これで起きるのか?」
「……うーん?」
リンタロウが虚ろな目をしながら起き上がる。リンタロウは無駄に毒とかへの耐性が高い。最高級の解毒剤を大量に飲ませた時に、意識を取り戻す可能性が一番高い。
しかし、虚ろな目のリンタロウを見るにまだ状態としては危険だ。このままだと、再び意識を失うだろう。その前に手を打たないといけない。
俺はリンタロウの両肩を掴むと、しっかりとした口調で伝える。
「お前の中にある毒を切れ!」
「はえ?なんの事でござるか?」
「さっさとしろ!」
「良く分からないでござるが、分かったでござる」
倫太郎は刀を抜いて逆手に持つ。そして、腹切りの要領で刀を振るう。
能力の使用に成功したのか、目に徐々に光が戻って来た。
「……あれ?鳳梨殿?」
「言いたい事は分かるが、今は時間が無い。お前にやってほしい事がある」
「なんでござるか?」
「食事に毒を盛られた。ノエルの体内の毒を切ってくれ」
「分かったでござる」
倫太郎はノエルの前に立つと一つ息を吐くと刀に手を掛ける。
「……ふっ!」
ノエルに目掛けて刀を振り向く。刀はノエルの体をすり抜けると、そのまま刀を鞘にしまった。
「どうだ?」
「成功でござる」
倫太郎が汗を垂らしながら、歯を見せてニカッと笑う。狙った概念を切る時はかなり精神を使う。それくらい慎重にしないといけないと口を酸っぱくして言ってるから当たり前だが。
「うーん、あれ?ここは?」
「単語だけで説明するぞ。ミエル、料理」
「あ、うん。大体わかったよ」
ノエルは全てを察し、ロワとフランに向かってセイントヒールを掛ける。分解しきる事は出来ないが、進行を遅らせることは出来る。
倫太郎の力は怒っていたりする時以外には連発出来ない。だから、ノエルを先に助けた訳だ。
同じ要領でロワ、フランの順で毒を切る。とりあえず、全員の命は助かったな。
「……ホウリさん?」
「……ホウリか。帰って来たんじゃな」
「お前らそこに正座しろ」
全員が起きた事を確認して俺は全員を正座させる。全員が冷や汗を流しているのを見ながら俺は椅子に腰かけて足を組む。
「どういう状況か説明して貰おうか?ミエル?」
「……えっと、食料が無かったので買いに行きました」
俺の怒りが分かっているのか、ミエルの言葉が丁寧になっている。
「それで?」
「それで、皆で食材を買いに行って、私とリンタロウが先に帰って来た」
「ふんふん?」
俺が微笑みながら先を促すと、ミエルが震えながら話を続ける。
「リンタロウが私の料理が食べたいと言ったから、簡単にパンを作ったんだ」
「一人で料理を作るなと言ってた筈だが?」
「ホウリから禁止されてると断ったんだ。だが、リンタロウから何度も頼まれたから断れなくて」
「拙者でござるか!?」
倫太郎が悲痛な声で自分を指さす。目を見開いている倫太郎に俺は笑いかける。
「本当か?」
「ほ、本当でござるが、まさかこんな事になるとは思ってなかったんでござるよ」
「俺から禁止されてるって事は何かしら事情がある筈だよな?知らなかった訳じゃないよな?」
「美少女の手料理が食べられるのであれば、どうでもよいかと思って……。分かってたら頼んで無かったでござるよ?」
「なるほど」
倫太郎とミエルの言い分は聞いた。次はそっちの3人だな。
「で、次は君達の話を聞こうか?」
「わ、わしらは何もしとらんぞ?」
「僕たちは、帰ってきたらパンがあったのでちょっと摘まんだだけです」
「ノエル達は悪くないよ」
「確かにその点で言えば被害者だな。だけど……」
俺は後ろの開け放たれているキッチンの扉を親指で刺す。
「なんでキッチンが開いている?」
「キッチンが開いているのがいけないのでござるか?」
「ミエル対策でキッチンには鍵を掛けている筈だ。なんで開いている?」
俺の言葉にフランとノエルがロワへ視線を向ける。
「ロワが料理したのか?」
「そ、そうです」
「鍵は?」
「掛けた記憶は無いです」
「料理した後は全員でキッチンの戸締りを確認するように言っていたよな?フランやノエルはキッチンに鍵が掛かっている事を確認したか?」
「いや……」
「やってない……」
「そうかそうか」
俺はそれ以上言わずに皆に笑いかける。皆も俺につられて薄く笑い始めた。
「あはははは」
「うふふふふ」
「えへへへへ」
皆で笑いあった後に俺は真顔で口を開く。
「で、それで全滅しかけた訳か?」
「………………」
俺の言葉に全員が再び黙った。
「今回の件は全員に責任がある。それは分かるな?」
「はい……」
「やるなって言う事には理由がある。それを理解しないと今回みたいに大変な事になるからな?」
「うむ……」
5人は俯きながら肩を落とす。皆も反省してるみたいだし、こんなものかな。
「次から気を付けろよ。今回は運が良かっただけと肝に銘じておけ」
「……終わりでござるか?」
「死にかけて懲りたろ?俺から言う事はもうない。飯を食い直すぞ」
「はーい」
俺は立ちあがってキッチンに向かう。
「食材は何がある?」
「今買ってきたので沢山ありますよ。僕も手伝いましょう」
「手伝うだなんて珍しいな?」
「たまには手伝いたいと思いまして」
ロワの様子がどこかおかしい。迷惑をかけたからって訳じゃなさそうだし、何かあったか?まあ、料理しながら聞けばいいか。
「倫太郎も食ってくだろ?」
「良いんでござるか?」
「勿論だ。この世界ではあんまり話せなかっただろ?食いながら話でもしようぜ」
「そう言う事なら甘えるでござる」
「よし、そうと決まれば腕を振るうか。何か食いたいものはあるか?」
「カレーが食べたいでござる」
「ハンバァァァァグ!」
「ポテトサラダ!」
「わしは麻婆豆腐がよいぞ」
「私はポタージュが食べたい」
「へいへい、分かったよ。ロワ、手伝ってくれ」
「分かりました」
「ノエルも手伝う!」
「私……は大人しくしてます」
「そうしろ。キッチンには一歩も入るな」
☆ ☆ ☆ ☆
食事の後、俺は部屋に倫太郎を呼んでいた。理由はもちろん、倫太郎を見送るためだ。
ちなみに、他のメンバーはいない。展開にいて話せなかったから話したい事があるだろうと、全員が気を利かせてくれたくれた訳だ。
「忘れ物はないか?」
「フラン殿と確かめたから問題ないでござるよ」
「何が入っているんだ?」
「携帯食料と水とポーションと着替えと換金用の金でござるな。マッチもあるでござるよ」
「まともだな」
「生死が掛かっているでござるからな」
「分かってくれて嬉しいよ」
俺の言葉に倫太郎が目を丸くする。なんか失礼な事考えてないか?
「なんだ?何か変な事言ったか?」
「いや、鳳梨殿が優しい言葉をかけてくれたのが初めてで面を食らっただけでござる」
「失礼だな。俺はいつでもお前たちの事を考えているんだぜ?」
「嘘でござるな。だったらあんな死ぬような特訓はしないでござる」
「それも愛だよ」
「こんなに苦しいのなら悲しいのなら……愛などいらぬ!!」
「かなり実感がこもってるな」
元の世界の特訓を思い出して、倫太郎が肩を震わせる。倫太郎は力の使い方を特に気を付けないといけないからな。特訓が厳しいのも仕方がないよね。
「冗談はともかく、俺はお前たちの安全を一番に考えているのは事実だ。何かあれば神を通して俺に連絡してくれ。必ず力になる」
「分かったでござる」
「それとこれも渡しておく」
俺は倫太郎から預かっていた通信機を渡す。神と通信が出来なくなったから俺に壊れてないか確認してほしいと言われたのだ。
「どうだったでござるか?」
「壊れてはいないな。だが、念のためリルアに見て貰った方が良いかもしれないな」
「そもそも繋がるのでござるか?」
「天界でリルアと話したが、繋がるみたいだぞ」
リルアとは俺達のクラスメイトの発明家だ。倫太郎の通信機もリルアが作ったもので、地球上であればどこでも繋がる優れものだ。
「次はリルア殿がいる世界でござるか?」
「みたいだな。正確にはお目付け役である智也がいる世界だけどな」
「また智也殿が苦労してるのでござるか」
「と言うかあれだぞ、全ての世界を回るって事は小山とも会う事になるからな?」
「げっ、あいつとも会わないといけないでござるか」
倫太郎が嫌そうに舌をべぇと出す。やっぱり、あいつと倫太郎は仲が悪いな。
他愛もない話をしていると、ここが別の世界だって忘れてしまいそうだ。なんというか、楽しい。
「そういえば、この世界では何をしたんだ?」
「そうでござるな。フラン殿と一緒にMPを使う特訓をしたり、街に現れた魔物を倒したり、街でパフォーマンスをしたでござるよ」
「街の防衛に参加していたのはフランから聞いている。悪いな、助かった」
「ピンチの時に駆け付けるのは当たり前でござるよ」
数分間、話していると足元の魔方陣が強く輝きだした。どうやら、タイムアップみたいだ。
倫太郎は名残惜しそうに魔方陣に入る。
「次に会う時は地球でござるかな?」
「そうだな。それまでに死ぬんじゃないぞ?絶対に無事で帰ってこい」
俺の言葉に倫太郎は白い歯を見せてニカッと笑った。
「勿論でござるよ。何が何でも帰ってくるでござる。クラス目標でござるからな」
「分かってるならいい」
「じゃ、行ってくるでござる」
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死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
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三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
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不死身のボッカ
暁丸
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逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。
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割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。
※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。
※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。
※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。
※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。
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