魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百六十七話 俺があきらめるのをあきらめろ

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 フレズがロワにフラれた次の日の朝、わしは重い頭を引きずりながらベッドから起き上がる。
 昨日は傷心したフレズの酒に付き合い、帰りにカラオケに行ってきた。毒耐性のスキルがあるから酒は苦痛ではない。問題はカラオケの方じゃ。
 フレズは外見に似合わずロックが好きみたいで、3時間叫びっぱなしじゃった。それだけでなく、かなりの音痴で、キンキンとした高音が頭に響いてきた。流石のわしでも3時間も高音の叫び声を聞いたら、頭が痛くなってしまうわい。
 ズキズキと痛む頭を抱えながら、パジャマから着替える。
 頭が痛むのはもう一つ理由がある。ロワとフレズの間には気まずい雰囲気が流れておるじゃろう。そんな中での生活など、考えただけでも憂鬱じゃ。


「ホウリが帰って来るまでの我慢じゃな」


 1週間だけと考えれば耐えようもある。ノエルには苦労を掛けるが、少し我慢してもらおう。
 覚悟を決めて、わしは自分の部屋から出て2階に降りる。朝食の準備をするためにリビングに向かう。すると、キッチンから何かを切ったり焼いたりする音が聞こえてきた。


「ロワか?」


 不思議に思ってキッチンの扉を開ける。すると、そこには上機嫌に料理をしているフレズがいた。
 昨日あれほど落ち込んでいたフレズが鼻歌を歌いながら料理をしておる。どういう心境の変化なんじゃ?
 フレズはスープの味見をすると、後ろにいるわしに気が付いたの笑顔で振り向いた。


「あ、フランさん。おはようございます」
「お、おはようじゃ」
「もうすぐ朝ご飯が出来ますからね」


 フレズはそう言うと再び鍋へと向き直る。


「ふふふ~ん」


 楽しそうなフレズを残してわしはキッチンを後にする。なんだか不気味じゃ。これなら昨日のように泣きじゃくっていた方がマシじゃ。
 大人しく椅子に座って待っておると、ロワがリビングに入って来た。


「おはようございます」
「おはようじゃ」
「あれ?誰か料理してるんですか?」
「フレズが上機嫌で朝食を作っておる。不気味なくらいに上機嫌じゃ」
「え?気まずくなる事を覚悟してきたんですけど?」
「わしもじゃよ。針のむしろを覚悟で来た」


 このまま和やかなムードで食事できればいいが、そうもいかないじゃろう。


「何が起こっても良いように警戒しておくんじゃ」
「分かりました」


 ロワと話していると、ノエルもリビングに入って来た。


「おはよー」
「おはよう」
「おはようじゃ」


 寝ぼけ眼でテーブルに着くノエル。いつも元気いっぱいのノエルには珍しくかなり眠そうじゃ。


「何かあったの?かなり眠そうだね?」
「コアコちゃんと話してたら学校が楽しみになっちゃって。学校の事を考えてたら眠れなくなっちゃった」


 楽しそうに笑うノエル。眠そうではあるが生き生きとしておる。なんだか悔しいのう。
 大きく欠伸をしたノエルじゃったが、何かに気が付くとキョロキョロと辺りを見渡した。


「今ご飯作ってるのってフレズお姉ちゃん?」
「そうじゃよ」
「フレズお姉ちゃんってお料理得意なの?」
「作ってる所を見たが、かなりの手際じゃったぞ」
「へぇー、じゃあミエルお姉ちゃんみたいに食べたら死んじゃう事は無いんだね。よかったー」
「あんなのがポンポン出て来てたまるか」


 ノエルの言葉をわしは一笑するが、瞬間ホウリのとある言葉が頭に響いてきた。


『のうホウリ。最悪、ロワが殺されると聞いたが、そんな奴がおるのか?』
『そんな奴は少ない。が、ロワの顔は理性を狂わせるから、普段よりも狂気じみた発想になる奴もいる。手に入らないんだったら無理心中、そんな奴もいるかもな』


 ……もしや、ロワの食事に毒を入れて殺そうとしているのか?そんな事ないと思いたい所じゃが、ロワの顔で結構なトラブルが起きておるし、ありえん話ではない。警戒しておくに越した事は無いじゃろう。
 ロワには言わぬ方が良いな。変に怖がらせてしまうじゃろう


「フランさん?顔が怖いですよ?」
「おっと」


 無意識に力んでおったらしい。これではノエルを怖がらせてしまうのう。わしは無理に笑顔を作る。


「このまま平和に終わるのであればよいではないか」
「そうですね」


 ロワが安心したように溜息を吐く。このままロワには何も知らせずに安全に1週間過ごす。……わしの負担がすさまじく大きくないか?


「出来ましたよー」


 気付きたくない事に気付いたわしが呆然としていると、キッチンから料理を持ったフレズがやって来た。
 鑑定で調べてみるが毒は入っていないみたいじゃ。食器も念のため調べてみるが、不審な所はない。
 ホウリにレモの実の悪戯をされるようになってから、こういう警戒が強くなってきておる。嬉しくはないのう。


「今並べますね」


 フレズは手に持っていたスープやパンを食卓に並べながら、ロワにこっそりウインクする。諦めた奴の行動には見えん。
 フレズは料理を並べ終えると、ロワの隣に陣取った。


「さあ、いただきましょう」
「「「いただきます」」」


 こうして、いつもと違う朝食が始まる。


「……ぐー」
「これこれ、食べている時に寝るでない」
「……はっ!」


 船を漕いでいたノエルが、わしに起こされてスプーンを落とす。
 ノエルがスプーンを拾ってスープに口を付ける。しかし、すぐに目を閉じて眠りはじめる。


「ノエル!」
「ひゃい!」


 わしの声にびっくりしたノエルが飛び起きて再びスプーンを落とす。


「学校が楽しみなのは分かるが、この有様はひどすぎるぞ」
「ご、ごめんなさい……」
「入学まで2週間はある、それまでに生活リズムを立て直すのじゃ」
「ふぁーい……」


 欠伸をしながら返事をするノエル。これは見過ごせぬ。食事の後に目覚ましがてら庭で特訓でもするか。
 わしはパンを齧りながら、正面へ目を向ける。


「ロワさん、あーん」
「あ、あーん……」


 ニコニコ顔でサラダをロワの口に運ぶフレズ。ロワは困りながらもサラダを口に含む。


「どうですか?」
「美味しいです」
「良かったー。ロワさんの好みの味のドレッシングを作ったんですよ」
「そうだったんですね~」


 ロワは警戒する事を忘れてフレズと楽しそうに話している。ロワの辞書には警戒心という言葉が無いらしい。
 楽しそうに会話をしていたロワだったが、わしへと視線を向けると不思議そうに首を傾げた。


「あれ?フランさん何食べてるんですか?」
「お主らと同じものじゃ。何がおかしい?」


 わしも首を傾げながらパンを口に運ぶ。ロワはわしが持っているパンを指さす。


「だって、ホウリさんに炭水化物を禁止されてなすよね?食べていいんですか?」
「…………あ」


 あまりのショックに持っていたパンがテーブルに落ちる。隣にいたノエルが心配そうにわしの顔を覗き込んできた。


「確かお約束を守らなかったら、目標が大きくなるんだっけ?」
「……黙ってればバレんじゃろ?」
「ホウリさんに隠し事は出来ないと思いますけどね?」


 そんなのわしが良く知っておる。
 わしが頭を抱えているとフレズが申し訳なさそうに頭を下げた。


「ご、ごめんなさい。私、知らなくって……」
「別に良い。迂闊に食ったわしが悪いんじゃ」


 とはいえ、ホウリにバレたら目標の減量数がどれだけ増やされるか分かった物ではない。しかし、ホウリには隠し事をする事は得策ではない。


「こうなれば、ホウリに会った瞬間に謝り倒すしかない。わしの華麗なる土下座をみせてやるわい」
「ホウリさんってそんなに怖い人なんですか?」
「約束を破った時はかなり怖いですよ。何もしてなくても謝りたくなるような迫力があります」
「そうなんだ~」
「下手に隠し事をすれば更に怖くなるからのう」
「そうなんだよー。ノエルがホウリお兄ちゃんのスイーツを食べたら殺気を撒き散らしながら追って来たんだよ?あれは怖かったなー」
「あれはノエルちゃんが悪いと思うな」
「あればっかりはわしも擁護出来んのう」


 城中をめちゃくちゃにされたと報告を受けた時は開いた口が塞がらんかったわい。
 こうして、想像とは異なる形でフレズとの生活は始まったのじゃった。
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