魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百六十八話 意☆味☆不☆明

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「これからどうします?」


 食事が終わった後、食器を片付けながらロワが聞いてくる。


「ロワはノエルと庭で特訓でもしていてくれ。わしは用事があるから出かけてくるぞ」
「私はロワさんの特訓を見ていても良い?」
「悪いが特訓の内容は機密事項じゃ。部外者に見せることは出来ん」
「そうなんですか……」


 フレズが物欲しそうにロワに視線を向ける。視線に気づいたロワは申し訳なさそうに頭を下げる。


「ごめんなさい、ホウリさんから他の人には内緒にするように言われてまして……」
「代わりと言っては何じゃが、わしと一緒に出掛けんか?今話題の劇を見に行くんじゃ」
「……分かりました。一緒に行きましょう」


 フレズはまだ不満げな様子だったが、しつこく食い下がってロワに嫌われたくないのか素直に引き下がった。フレズには聞いておきたい事もあるし丁度良かった。


「ノエルがおるから問題ないとは思うが、くれぐれも気を付けるのじゃぞ?」
「分かってるよ」
「気を付けます」


 そんなこんなでわしはフレズと2人きりになる事に成功したのじゃった。


☆   ☆   ☆   ☆


 家から出たわしらは早速、行きつけの劇場まで向かう。


「何を見るんですか?」
「今話題沸騰中の恋愛劇じゃ。脚本家、音響、出演者、全てにおいて一流が揃っておる」
「そんなに凄い劇だったら、チケットの入手も難しいんじゃないですか?」
「勿論じゃ。抽選の倍率は脅威の300倍。チケット自体も1枚100万Gで取引されておる」
「よく入手出来ましたね?」
「ホウリに無理を言って入手して貰ったんじゃ」


 わしはアイテムボックスからチケットを2枚出して笑う。念のために2枚用意しておいて良かったわい。


「フレズは演劇は見るのか?」
「あまり街に来ないから見ないですね。お兄ちゃんと旅行に来た時に偶に見ます」
「そう言えば、お主とロットは街の外に住んでおるんじゃったな」


 ロットは木こりで、フレズは切った木を加工しておるのじゃったな。それならば演劇は簡単に見られぬか。


「ならば良かったのかもしれぬのう。今日の演劇は一生の思い出になるぞ」
「そうなると良いですね」


 フレズが楽しそうに微笑む。
 話してる内にフレズと話しやすい空気が出来ておる。そろそろ本題に入っても良いかもしれぬのう。


「そういえば、昨日と様子が違うが何かあったのか?」
「何も無いですよ。ただ、考え方を変えてみただけです」
「考え方?」
「ロワさんとミエルさんは付き合っている。それはつまり……」
「つまり?」


 フレズが立ち止まって希望に満ちたような表情で指を突き出す。


「結婚するまでにロワさんを奪えば問題ないってこと!」
「それは問題じゃと思うぞ!?」


 よく見るとフレズの目の奥が笑っていない。これは本気なんじゃろう。


「この1週間で既成事実を作ってロワさんを私の物にする。協力してくれませんか?」
「出来る訳ないじゃろ!?」


 パーティーメンバーの寝取りの協力を頼むなど、こいつ正気か!?
 わしの反応が予想外だったのか、フレズが目を丸くする。


「なんでですか?昨日、私の恋を応援してくれるって言ってましたよね?」
「新しい恋の話じゃぞ!?」


 何を言っとるんじゃこいつは!?


「そうですか……、だったら私だけの力でやるしかないですね」
「いや妨害するぞ?風呂に突撃しようものなら、縛って外に放り出すからな?」
「ええ……、何もそこまでしなくてもいいじゃないですか……」
「そこまでするわい」


 フレズが不満げに口を尖らせる。ロワとミエルが何も無いと知られると行為がエスカレートする可能性があるのう。何が何でも隠さねばならんのう。


「お主のう、人の彼氏を盗ろうなど非道徳行為じゃぞ?」
「でも好きなんだもん……」


 可愛らしくそっぽを向く。見た目だけは良いのじゃがやろうとしておる事が外道すぎる。
 じゃが、束縛しすぎても反動が怖い。ある程度は縛りを緩くしたほうが良いか?


「料理を振舞ったり軽度のスキンシップなら別に咎めん。好きにするが良い」
「ほんと!?」


 フレズが目を見開き飛んで喜ぶ。
 フレズが飛び跳ね過ぎて周りの人にぶつかりそうになる。わしが腕を引いて回避させるが、フレズはまだ夢見心地なのか頬を赤くして明後日を見ている。


「危ないぞ。ロワを見る前に自分の周りを見んかい」
「ロワさん……」


 ダメじゃ、わしの声がまったく届いておらん。これは面倒じゃ。


「ロワの呪いはわしらが考えているよりも面倒かもしてぬのう」


 そう呟いてわしは劇場に向かったのじゃった。


☆   ☆   ☆   ☆


 1週間後の朝、とうとうホウリが帰って来る予定の日になった。時間までは聞いておらんが、ホウリの目的を考えればそう遅くはならんじゃろう。
 門番にはホウリが来たら念話で連絡するように言っておるから、すぐに連絡が出来るじゃろう。連絡が来たらすぐにホウリに相談しよう。


「ロワさ~ん、はいあーん」
「あ、あーん……」


 目の前では相も変わらずフレズのロワへのアタックが繰り広げられておる。
 この1週間の出来事を思い出してげんなりする。フレズは想像通りロワへ猛アタックを開始した。始めはわしの言いつけを守って、料理や掃除と言った家事や軽いスキンシップに収まっていた。しかし、やがて風呂に突撃しようとしたり、夜這いを仕掛けようとしたりとエスカレートしてきた。
 わしが見つけ次第、引きはがしたり結界で守ったりしていたが、そのせいで寝不足じゃ。
 ロワも初めは普通にフレズと過ごしていたが、次第にアタックに付かれた様子じゃった。時折わしに助けを求めてくるような目を向けておったし、ロワも相当に参っておるみたいじゃ。
 そんな中でノエルは呑気に知恵の輪を弄っておる。


「フランお姉ちゃん、ホウリお兄ちゃん達はまだ帰ってこないの?」
「まだ連絡は無いのう」


 ノエルは残念そうに知恵の輪弄りに戻る。この部屋の中でノエルだけがフレズの異常に気付いておらん。
 ノエルの目の届かない所で攻防をしていたかいがあったわい。
 椅子に座りながら天井を仰いでいると、頭の中に男の声が響いてきた。


『キムラ・ホウリが王都に入りました』
『待ってました!』


 瞬間、わしは椅子から跳ねるように立ち上がる。
 当たり前じゃが大きな音が出てしまい、部屋にいる全員の視線がわしに集中する。


「ど、どうしましたか?」
「ホウリが帰って来た!早速迎えに行ってくるぞ!ノエル、一緒に来るんじゃ!」
「え?ノエルも?」
「ホウリに少しでも早く帰ってもらいたいんじゃ!良いから行くぞ!」
「う、うん」


 ノエルを連れて文字通り家を飛び出す。


「ノエル付いてこい!屋根を渡って移動するぞ!」
「え?ちょっと!?」


 そう言ってわしは建物の屋上に飛び乗る。ノエルは戸惑いながらも魔装を使ってついてくる。道を通っていては人をかわしながら進まねばならん。それではどれだけ急いでも限界がある。
 じゃから障害が無い屋根を渡る。全く持って合理的な考えじゃ。


「ホウリお兄ちゃんがどこにいるか分かるの?」


 魔装を使って並走しているノエルが聞いてくる。


「ホウリから帰ってきたら何処に行くかを聞いておる。そこに先回りするんじゃ」


 わしは答えながらも速度を上げる。ノエルの魔装の技術が思ったよりも上達しておる。これならば多少早くしても付いてこれるじゃろう。
 そうこうしている内に目的地が見えて来た。その店は人通りが多い道にあり、入り口には行列が出来始めておる。


「あそこの行列の店が目的地じゃ」
「なんのお店なの?」
「ホウリが帰ってきて家に寄らず直行する店じゃぞ?そんなの一つしかあるまい」
「もしかして、お菓子屋さん?」


 わしは建物と建物の間の数十メートルの間を飛び越えつつ頷く。
 あの店は本日オープンの話題の店らしい。ホウリの事前調査によるとパティシエの腕も良く、素材も一流品を取り揃えているらしい。しかも、オープン記念に特別な商品も用意しているらしい。ホウリが急いでおるのも当たり前といった所か。
 そう思っていると、反対側の道にある建物から誰からワイヤーを用いて飛んでくるのが見えた。
 ノエルも気が付いたのか、その者を指さす。


「あれってホウリお兄ちゃん?」
「じゃろうな。あんな芸当が出来る者が他にいるとは思えん」


 わしは念話を使って向かってくるホウリと対話を試みる。


『ホウリ、聞こえるか?』
『フランじゃねぇか。かなり焦っているみたいだがどうした?』
『実はかなりマズい事になってのう』
『詳しく聞かせろ』


 わしは1週間の経緯を説明する。その間もわしらは移動を続ける。そして、説明が終わると同時にわしとノエル、ホウリは店の前に着地した。
 周りの通行人が驚いたようにこちらを凝視してくるが、わしらは無視してお互いに対面する。


「説明は以上じゃ」
「あのバカ、とうとうやりやがったな」
「菓子はわしが買っておく。お主はノエルの力を借りて家に直行してくれ」
「分かった。ノエル、コネクトを頼む」
「りょーかい!」


 ノエルがホウリの背中にしがみ付く。瞬間、ホウリの体がバチバチと放電し始めた。
 コネクトでノエルのMPを分けて貰って、雷装で高速移動をする。何かあった時の切り札なのじゃが、今はそれだけの緊急事態なのじゃ。


「行くぞ!」
「しゅっぱーつ!」


 文字通り雷となった2人は街の奥に消えていったのじゃった。これで一安心じゃな。
 肩の荷が下りたわしは菓子屋の列に並ぶ。そう言えば、何を買うかを聞いておらんかったのう?
 まあ、全ての商品を2つずつ買えばよいじゃろう。ホウリが居れば多すぎるという事は無い筈じゃ。



☆   ☆   ☆   ☆



 菓子を買った帰り、わしは行きとは違いゆっくりと歩道を進んで帰っていた。
 あの菓子屋は洋菓子が主じゃったが、まさか羊羹も置いてあるとは思わなかったのう。洋風の羊羹、中々に気になるのう。
 呑気に買ってきたスイーツに心躍らせながら玄関の扉を開ける。


「ただいま戻ったぞー」


 皆がいるであろうリビングに入った瞬間、衝撃の光景が飛び込んできた。
 そこにはミエル振り下ろした大剣をロットが斧で受け止めており、部屋の隅にはワイヤーで縛られ衣服が乱れたフレズが転がっていた。ホウリはそんなフレズを後ろに置いて庇うように木刀と手甲を装備しており、その横にはロワが大の字になっていてノエルの治療を受けていた。


「退け!!!!!!そいつは私が殺す!!!!」
「……させるか」
「ったく、数秒遅かったか」
「ロワお兄ちゃん大丈夫?」
「ありがとうノエルちゃん。もう大丈夫だよ」


 ……これはどういう状況なんじゃ?とりあえずミエルを止めた方が良いか?
 そう思ったわしはミエルに対してチェーンロックを発動する。ミエルの四肢にチェーンロックが巻き付き、行動を大きく制限する。
 それを見たロットは大剣を弾くと、ミエルの腹に拳を叩き込んだ。


「……少し眠っていてもらおう」


 終わったと思い、ミエルから拳を話すロット。


「まだじゃ!」


 しかし、ミエルは目を血走らせたままフレズに近付こうと藻掻く。


「お前だけは私が殺す!」


 瞬間、わしのチェーンロックからミシミシという嫌な音が聞こえてきた。嘘じゃろ!?結構MPを使ったチェーンロックが破られるのか!?
 焦ったわしはすぐさま本気のチェーンロックを追加し、ミエルをグルグル巻きにする。簀巻きの状態になったミエルは流石に動けんくなり、床に倒れ伏した。しかし、目はフレズを睨みつけたままじゃ。執念が恐ろしい。


「グルルル……」
「とりあえず落ち着いたな」
「この状況のどこが落ち着いておるんじゃ」
「危険人物を2人取り押さえてんだ。落ち着いただろ?それよりもスイーツはどうだった?」
「この状況でスイーツの心配かい」
「重要だろ。何のために1週間でゴーレム倒しに行ったと思ってる?」
「……急いでいる理由とはスイーツだったのか?」


 ホウリは木刀と手甲を仕舞いながら頷く。ロットは呆れ半分、感心半分といった様子で斧を仕舞う。
 わしらは慣れたが普通はこういうリアクションじゃよな。


「全商品を2つずつ買ってきた。勿論、限定商品もじゃ」
「ナイス!」
「そんな事よりも何が起こったか説明せい。何がどうなってこうなったんじゃ」
「こればっかりはタイミングがというかな……」


 ホウリ曰く、まずわしとノエルが出ていった後にフレズがロワに痺れ薬を盛り押し倒した。その後、既成事実を作ろうとしたフレズじゃったが、ロワは何とか抵抗する。
 その光景を帰って来たミエルが目撃し激昂し、フレズに大剣を向ける。しかし、一緒に帰って来たロットがミエルを抑える。
 その間にホウリとノエルが帰ってくる。ホウリはフレズをワイヤーで拘束し、ノエルはロワの麻痺を治療。ホウリは念のため、装備を整えてフレズの前に出ていつでも庇えるように陣取る。


「そこにわしが帰って来た訳か」
「そう言う事だ。室内でミエルを無力化するのはロットでも難しいからな。来てくれて助かったぜ」
「むう、フレズとロワを2人きりにしたのはマズかったか」
「確かにそうだな。だが、その様子だと碌に寝てないんだろ?だったら無理もない所もあるだろうから気にすんな」
「そう言ってくれると助かる」
「さて、とりあえずは……」


 ホウリが縛られているフレズに目を向ける。


「こいつの処遇をどうするかだな」


 この後、ロットに事情を説明したり、ミエルを落ち着けたり、フレズの事について話し合ったりしたが、夕方までかかったら細かい事は割愛する。
 結論から言うと、フレズへの処罰は無いが極力ロワへ近づかせない事になった。ロットはわしらに平謝りしながらフレズを連れて帰っていった。
 フレズはと言うと、ロワと離れたくないと駄々をこねていたが、わしとホウリの催眠術で記憶を消して、1週間前の状態に戻した。ロワへの想いが無いフレズはまるで別人のようで落ち着いた普通の女の子になっていたのにはびっくりしたわい。
 で、残ったのは警戒心が足りず騒ぎを引き起こしてしまったロワへの罰じゃった。
 ちなみに、わしがパンを食べてしまった罰は無かった。ほぼ寝ずにロワを守った事と、ストレスで食事が喉を通らんくなって減量したのが大きな要因じゃった。
 それどころか買ってきたスイーツをいくつか食わせてくれたりもした。これだけでは到底わりに合わぬ気もするが、今は事態を収束出来ただけ良しとするか。
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