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Ifストーリー えらいねー その2
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ミエルとロワが子供になってから1時間。ノエルがいた事もあり、何事も無くおままごとは進んでいた。
元凶のミントはというと、飽きたのか椅子に座ってセトゴッドをいじくっている。頭を掴んで床に叩きつけてやろうか?
わしがミントに対して並々ならぬ殺意を抱いておると、玄関が開く音が聞こえた。
「ただいまー」
「ホウリ!」
待ちわびていた声が聞こえ、嬉々として玄関まですっ飛んでいく。
「ホウリ!待っていったぞ!」
「そんなに血相を変えてどうした?」
「ロワとミエルが縮んでしまったんじゃ!」
「どこかの探偵かよ」
「『真実はいつも一つ』とか言っとる場合じゃないぞ!」
「言ってねえよ。とにかく現場を見せろ」
「こっちじゃ!」
ホウリをリビングへと引っ張っていく。
リビングの光景を見たホウリは思いっきり顔を顰めた。視線の先にはおままごとをしておるノエルと若返っておるロワとミエルがおった。椅子には暇そうなミントが座っておる。
ノエルはホウリに気が付くと、いつものように駆け寄って来た。
「ホウリお兄ちゃんおかえりなさい!」
「ただいま。ミエルとロワと遊んでいるのか?」
「うん!」
「そうか。立派にお姉ちゃんしてるな」
「えへへ」
ホウリが褒めると、ノエルが嬉しそうに笑う。そんなノエルの頭をホウリは優しく撫でる。
「もう少しだけ、あの二人と遊んでてくれないか?」
「うん分かった!ミエルちゃん、ロワくん、今度は絵本読んだり折り紙しようか」
「「うん!」」
絵本を持って2人の元に向かうノエル。すっかりお姉ちゃんじゃな。
笑顔でノエルを見送ったホウリは椅子に座っているミントへと視線を向ける。
「で、ミントの発明品でロワとミエルが若返ってるのか?」
「そう言う事じゃ」
流石ホウリ、状況の把握が早いのう。
暇そうに座っておったミントじゃったが、ホウリが帰って来たのを見ると表情を明るくした。
「ホウリじゃないか。遅かったな?」
「いつもよりも早い位だ。そんな事よりも、その発明品の説明をしろ」
「おお、この発明品に興味があるのか。流石はホウリだ。この発明品はな──」
こうして再びミントの発明品の説明が始まる。わしらにはさっぱり分からんかったが、ホウリには理解できるのか、時折頷いておりメモを取っておる。
それに気を良くしたのか、ミントの説明にも熱が入る。
「ここで俺は閃いたんだが、γ粒子をα粒子に変換すれば更に安定した効果が表れるんじゃないか……」
「大体わかった。その発明品を貸せ」
ミントの返事も聞かずにホウリがセトゴッドを奪い取る。
「まずは結論から言うぞ?この発明品は失敗作だ」
「なぜだ?実際に若返ってるぞ?」
「フラン、ミエルやロワが若返っている最中に胸を押さえてなかったか?」
「確かに押さえておったが、よく分かったのう?」
「まあな」
ホウリがセトゴッドを覗き込みながら説明を始める。
「この発明品は急激に若返りを進める結果、体に強烈な痛みが走るんだよ」
「どのくらい強烈なんじゃ?」
「声が出せずに胸を抑えるしか出来ない位だ。痛みに慣れてない奴にはトラウマになるだろうな」
「なるほど、そういう問題点があるのか」
ホウリの言葉を必死にメモに書き留めるミント。ペンが早すぎて焦げ臭いにおいが漂ってきておる。
ミントはメモを終えると、満足そうにメモ帳を閉じた。
「よし、若返りの進行を遅らせれば誰でも使えそうだな。早速、改良しないと」
「待て、話は終わってないぞ」
リビングを出て行こうとしたミントをホウリが引き留める。
「なんだ?まだ何かあるのか?」
「ある。というか、こっちが大きな理由だ」
「聞かせて貰おうか?」
ミントが再びメモを構える。その様子を見たホウリは更に説明を続けた。
「細かいことはすっ飛ばすが、この発明品を使った奴は寿命が短くなる」
「……もう一回言ってもらえるか?」
「寿命が短くなる」
「若返るなら寿命は長くなるんじゃないのか?」
「そんな美味い話がある訳ないだろ。若返りの時間が長い程、若返りの年数が大きい程、減る寿命は大きくなるんだよ」
ホウリ曰く、人の寿命は肉体の年齢だけでなく、魂に内蔵されているエネルギーによっても左右されるらしい。若返りはその魂のエネルギーを使って肉体を新しくする技術。外側が新しくても中身が古くなるみたいじゃ。迂闊に使わんで良かったわい。
「待たんかい、ホウリの説明じゃと、ロワとミエルの寿命が短くなるのではないか!?」
「それは大丈夫だ。魂のエネルギーが尽きる前に肉体が耐えられなくなるから、少し使っただけじゃ心配はいらない。だが、これを使い過ぎると体は若いまま老衰する」
「なるほど、つまり魂のエネルギーを補充できれば使い放題という訳だな?」
ホウリの言葉にミントの目がキラリと光る。その目をホウリが鋭く睨み返した。
「魂に干渉すると神から目を付けられるぞ?最悪の場合、ラミスも巻き込まれるからな?」
ホウリの言葉にミントのメモを取る手が止まる。
「分かったら、若返りの研究は止めておけ。例え、ラミスの為だとしてもな」
「…………」
「なんじゃと?」
思わぬ事実にわしは耳を疑う。こんな朴念仁が嫁の為に発明するとは思えん。
半信半疑でミントに視線を移すと、メモで顔を覆って反対方向を向いておった。メモの性で顔は見えんが、耳が真っ赤になっておる。
ここで察したわしはミントの肩に腕を置く。ホウリもミントの肩に腕を置き、わしと共にミントの顔を覗き込む。
「おやおや~?どういう風の吹き回しじゃ~?」
「なにやら~?近所の人達が若返りたいって言ってたから~?ラミスも欲しいんじゃないかって~?思ったみたいだな~?」
「ええい!うっとおしいぞ!」
ミントが真っ赤な顔でわしらを振り解く。
「もういい!俺はもう行くぞ!」
顔を真っ赤にしたミントがリビングから出ていこうとする。しかし
「痛っ」
鈍い音と共にミントのデコに衝撃が走る。
「なんだこれ……」
ミントがリビングの出入り口に手をやると、透明な固い壁が行く手を阻んでおった。
「これは結界か?」
「その通りじゃ。わしがお主を閉じ込めた」
「はぁ?何のために?」
「決まってるだろ」
そう言ってホウリがセトゴッドをミントに向ける。ホウリが何をする気か悟ったミントは顔を引きつらせる。
「ちょっと待て、まさかそれを俺に使うつもりじゃないよな?」
「察しがいいな、その通りだ」
「それって滅茶苦茶痛いんだろ!?なんで俺に使おうとしてるんだ?」
「パーティーメンバーを発明品の実験台にして苦痛を与えたからだが?まさか、ただで帰れるとは思ってないよな?」
そう言ってホウリが笑いながらミントに迫る。顔は笑顔じゃが、目が笑っていないのがなんとも不気味じゃ。
そんなホウリから逃げるようにミントが後ずさっていく。
「話せばわかる!」
「分かるのは俺の怒りだけだと思うぞ?こっちはパーティーメンバーを危険な目に会わせてられて、腸煮えくり返ってるんだよ」
そう言ってホウリがミントににじり寄っていく。これは本気じゃな。
「や、やめろ!」
「問答無用!」
ホウリがセトゴッドをミントに向けてスイッチを押す。
セトゴッドから光が放たれミントに命中する。瞬間、ミントの顔が苦痛に歪み胸を押さえて膝を付く。そして、ミエルやロワと同じように体が縮み始めた。
「始まったようじゃな」
「だな」
しばらくすると、ミントの体が縮みきり子供くらいの背丈になる。着ていた白衣はブカブカになり、袖が萌え袖みたいになっておる。
そんなミントはゆっくりと顔を上げる。
「…………?」
ミントは何も言わずに首だけを傾げる。
幼いミントはいつもと同じように不機嫌そうな目をしており、まったく可愛げが無い。それに加えてこちらを観察するように見てくる。とりあえず、話しかけてみるか。
「大丈夫か?わしらが分かるか?」
「……何が起こった?」
「お前が作った発明品で5歳まで若返った。これで理解できるか?」
ホウリの言葉にミントは宙を見て考えていたようだったが、納得したように手を打った。
「なるほど、やはり俺はてんさいだったか」
「こいつは子供の時から相変わらずじゃのう」
その後、ミントは自分の体を揉みつつ、感じた事をメモ帳に書き留めていく。
「イワカンはあまり無いな。きおくも5歳までしかない……と」
「こやつは放っておいてよいな」
「そうだな、時間切れまでそのままでいいだろう」
「それにしても、この発明品の効果は凄いのう」
「デメリットがデカすぎるけどな」
わしがセトゴッドを持って眺めてみる。
「なあホウリ。お主でもこの発明品のデメリットを消せぬのか?」
「出来ない事も無い。が、別のデメリットが出てくるからやらない」
「他のデメリット?」
「体がドロドロに溶けてゾンビみたいなる。それに加えて、魂が天界に帰った後に神が転生出来ないように粉々にするだろう。そこまでして生きたいか?」
ホウリの言葉にわしは首を横に振る。
この発明品で寿命を延ばせれば良かったんじゃが、そう上手くはいかないか。
「寿命って言うのは意図的に伸ばしてはいけない物だ。下手に伸ばすと相応のデメリットがある」
「肝に銘じておくわい」
わしは再びセトゴッドを見つめる。すると、心の中に悪戯ごころが湧いてきた。
ホウリって子供の頃はどうだったんじゃろうな?
瞬間、わしはホウリに向かってチェーンロックを発動する。
「いきなりなんだ!?」
壁や天井から伸びてくる鎖をホウリは躱し続ける。しかし、周りに皆がいるからか爆破といった手段が取れず、ついに鎖に絡めとられる。
怒るかと思ったが、ホウリは冷静な表情でわしを見据えてくる。
「……やめろよ?」
ホウリはわしが何をするのか察したのか、宥めるような優しい声で話し掛けてくる。
しかし、わしは自分の中に湧いてきた悪戯ごころが押さえきれん。我慢出来ないわしはホウリに向かってセトゴッドを向けてスイッチを押す。
光がホウリを捕らえ、ホウリの体がどんどん縮んでいく。やはりホウリは痛みに強いのか、縮む時にあまり表情が変わらなかった。
ホウリも子供になったが、他の者とは違い10歳くらいだった。そうしてホウリが縮むのが止まったのを確認して拘束を解除する。怪我せないために足から着地させる。
「さてと、ホウリはどんな子供じゃったのかのう」
わしはホウリの顔を覗き込む。
ホウリの顔は、今のホウリを幼くしたような特徴の無い顔じゃった。子供じゃからそれなりに可愛いが、良くも悪くも普通じゃった。
「むう、面白みがないのう?」
ホウリの容姿の不変さに落胆したが、ホウリの特徴は容姿ではなく言動じゃ。ここからどういう行動をとるかが見物じゃな。
わしがわくわくしながら見ておると、ホウリが口を開いた。
「……ここは?」
「お主の家じゃよ。お主はこの発明品で若返ったんじゃ」
さて、この説明でホウリはどうする?警戒するか?逃げるか?質問でもするか?
そう思っていると、ホウリは自分の持ち物を確認する。メモ帳を見つけたホウリは開けて中を読み始める。
中身が気になったわしはホウリの後ろから覗き込んでみる。じゃが、中身は数字の羅列だったり、見たことも無い記号だったりで内容が全く分からん。
じゃが、当の本人は内容が分かるのか次々とページを捲っていく。
最後のページまで読み終えたホウリはメモ帳を閉じると大きく息を吐いた。
「何が書いてあったんじゃ?ホウリお姉ちゃんに教えてみい」
わしがそう言うと、ホウリは縛られていた時と同じような冷静な視線をわしに向けてくる。そして、大きく息を吸って……
「うわあああああん!」
大声で泣き始めた。予想外の事態に唖然としているとホウリがミエルとロワとノエルの元へと走っていった。
「うわあああん!」
「え?どうしたの?」
3人は突然の出来事に固まる。
すると、ホウリが走った拍子にノエルの手に持っていた絵本の角が、ミエルの眉間に直撃した。
眉間を赤くしたミエルは目に涙を溜めると大きな声で泣き出した。
「うえええええん!」
「ミエルちゃん大丈夫?」
ロワがミエルを心配して立ち上がると、足元に転がっておった折り紙を踏みつける。そのまま滑ったロワは後頭部を思いっきりテーブルの角へぶつけた。
「うわああああん!」
案の上、あまりの痛さからロワも泣きじゃくる。
部屋の中に泣き声が響く中、必死にメモを取っていたミントが苛立ったように叫ぶ。
「しずかにしろ!大切な研究のとちゅうだ!」
「うわああああああん!」
そんなミントに泣いているホウリが突撃する。そして、ホウリがぶつかってペンがミントの唇に直撃する。
「……うわああああん!」
流石のミントも痛かったのか、他の子と同様に泣きじゃくる。
こうして、子供4人が泣き声のカルテットを奏でる地獄絵図が完成したのじゃった。
「……フランお姉ちゃん、これどうする?」
「……なんとかしよう」
それから2時間、わしとノエルで泣き止まぬ子供たちと格闘することになったのじゃった。
わしは、人が嫌がるような事はしないようにしようと心に決めたのじゃった。
元凶のミントはというと、飽きたのか椅子に座ってセトゴッドをいじくっている。頭を掴んで床に叩きつけてやろうか?
わしがミントに対して並々ならぬ殺意を抱いておると、玄関が開く音が聞こえた。
「ただいまー」
「ホウリ!」
待ちわびていた声が聞こえ、嬉々として玄関まですっ飛んでいく。
「ホウリ!待っていったぞ!」
「そんなに血相を変えてどうした?」
「ロワとミエルが縮んでしまったんじゃ!」
「どこかの探偵かよ」
「『真実はいつも一つ』とか言っとる場合じゃないぞ!」
「言ってねえよ。とにかく現場を見せろ」
「こっちじゃ!」
ホウリをリビングへと引っ張っていく。
リビングの光景を見たホウリは思いっきり顔を顰めた。視線の先にはおままごとをしておるノエルと若返っておるロワとミエルがおった。椅子には暇そうなミントが座っておる。
ノエルはホウリに気が付くと、いつものように駆け寄って来た。
「ホウリお兄ちゃんおかえりなさい!」
「ただいま。ミエルとロワと遊んでいるのか?」
「うん!」
「そうか。立派にお姉ちゃんしてるな」
「えへへ」
ホウリが褒めると、ノエルが嬉しそうに笑う。そんなノエルの頭をホウリは優しく撫でる。
「もう少しだけ、あの二人と遊んでてくれないか?」
「うん分かった!ミエルちゃん、ロワくん、今度は絵本読んだり折り紙しようか」
「「うん!」」
絵本を持って2人の元に向かうノエル。すっかりお姉ちゃんじゃな。
笑顔でノエルを見送ったホウリは椅子に座っているミントへと視線を向ける。
「で、ミントの発明品でロワとミエルが若返ってるのか?」
「そう言う事じゃ」
流石ホウリ、状況の把握が早いのう。
暇そうに座っておったミントじゃったが、ホウリが帰って来たのを見ると表情を明るくした。
「ホウリじゃないか。遅かったな?」
「いつもよりも早い位だ。そんな事よりも、その発明品の説明をしろ」
「おお、この発明品に興味があるのか。流石はホウリだ。この発明品はな──」
こうして再びミントの発明品の説明が始まる。わしらにはさっぱり分からんかったが、ホウリには理解できるのか、時折頷いておりメモを取っておる。
それに気を良くしたのか、ミントの説明にも熱が入る。
「ここで俺は閃いたんだが、γ粒子をα粒子に変換すれば更に安定した効果が表れるんじゃないか……」
「大体わかった。その発明品を貸せ」
ミントの返事も聞かずにホウリがセトゴッドを奪い取る。
「まずは結論から言うぞ?この発明品は失敗作だ」
「なぜだ?実際に若返ってるぞ?」
「フラン、ミエルやロワが若返っている最中に胸を押さえてなかったか?」
「確かに押さえておったが、よく分かったのう?」
「まあな」
ホウリがセトゴッドを覗き込みながら説明を始める。
「この発明品は急激に若返りを進める結果、体に強烈な痛みが走るんだよ」
「どのくらい強烈なんじゃ?」
「声が出せずに胸を抑えるしか出来ない位だ。痛みに慣れてない奴にはトラウマになるだろうな」
「なるほど、そういう問題点があるのか」
ホウリの言葉を必死にメモに書き留めるミント。ペンが早すぎて焦げ臭いにおいが漂ってきておる。
ミントはメモを終えると、満足そうにメモ帳を閉じた。
「よし、若返りの進行を遅らせれば誰でも使えそうだな。早速、改良しないと」
「待て、話は終わってないぞ」
リビングを出て行こうとしたミントをホウリが引き留める。
「なんだ?まだ何かあるのか?」
「ある。というか、こっちが大きな理由だ」
「聞かせて貰おうか?」
ミントが再びメモを構える。その様子を見たホウリは更に説明を続けた。
「細かいことはすっ飛ばすが、この発明品を使った奴は寿命が短くなる」
「……もう一回言ってもらえるか?」
「寿命が短くなる」
「若返るなら寿命は長くなるんじゃないのか?」
「そんな美味い話がある訳ないだろ。若返りの時間が長い程、若返りの年数が大きい程、減る寿命は大きくなるんだよ」
ホウリ曰く、人の寿命は肉体の年齢だけでなく、魂に内蔵されているエネルギーによっても左右されるらしい。若返りはその魂のエネルギーを使って肉体を新しくする技術。外側が新しくても中身が古くなるみたいじゃ。迂闊に使わんで良かったわい。
「待たんかい、ホウリの説明じゃと、ロワとミエルの寿命が短くなるのではないか!?」
「それは大丈夫だ。魂のエネルギーが尽きる前に肉体が耐えられなくなるから、少し使っただけじゃ心配はいらない。だが、これを使い過ぎると体は若いまま老衰する」
「なるほど、つまり魂のエネルギーを補充できれば使い放題という訳だな?」
ホウリの言葉にミントの目がキラリと光る。その目をホウリが鋭く睨み返した。
「魂に干渉すると神から目を付けられるぞ?最悪の場合、ラミスも巻き込まれるからな?」
ホウリの言葉にミントのメモを取る手が止まる。
「分かったら、若返りの研究は止めておけ。例え、ラミスの為だとしてもな」
「…………」
「なんじゃと?」
思わぬ事実にわしは耳を疑う。こんな朴念仁が嫁の為に発明するとは思えん。
半信半疑でミントに視線を移すと、メモで顔を覆って反対方向を向いておった。メモの性で顔は見えんが、耳が真っ赤になっておる。
ここで察したわしはミントの肩に腕を置く。ホウリもミントの肩に腕を置き、わしと共にミントの顔を覗き込む。
「おやおや~?どういう風の吹き回しじゃ~?」
「なにやら~?近所の人達が若返りたいって言ってたから~?ラミスも欲しいんじゃないかって~?思ったみたいだな~?」
「ええい!うっとおしいぞ!」
ミントが真っ赤な顔でわしらを振り解く。
「もういい!俺はもう行くぞ!」
顔を真っ赤にしたミントがリビングから出ていこうとする。しかし
「痛っ」
鈍い音と共にミントのデコに衝撃が走る。
「なんだこれ……」
ミントがリビングの出入り口に手をやると、透明な固い壁が行く手を阻んでおった。
「これは結界か?」
「その通りじゃ。わしがお主を閉じ込めた」
「はぁ?何のために?」
「決まってるだろ」
そう言ってホウリがセトゴッドをミントに向ける。ホウリが何をする気か悟ったミントは顔を引きつらせる。
「ちょっと待て、まさかそれを俺に使うつもりじゃないよな?」
「察しがいいな、その通りだ」
「それって滅茶苦茶痛いんだろ!?なんで俺に使おうとしてるんだ?」
「パーティーメンバーを発明品の実験台にして苦痛を与えたからだが?まさか、ただで帰れるとは思ってないよな?」
そう言ってホウリが笑いながらミントに迫る。顔は笑顔じゃが、目が笑っていないのがなんとも不気味じゃ。
そんなホウリから逃げるようにミントが後ずさっていく。
「話せばわかる!」
「分かるのは俺の怒りだけだと思うぞ?こっちはパーティーメンバーを危険な目に会わせてられて、腸煮えくり返ってるんだよ」
そう言ってホウリがミントににじり寄っていく。これは本気じゃな。
「や、やめろ!」
「問答無用!」
ホウリがセトゴッドをミントに向けてスイッチを押す。
セトゴッドから光が放たれミントに命中する。瞬間、ミントの顔が苦痛に歪み胸を押さえて膝を付く。そして、ミエルやロワと同じように体が縮み始めた。
「始まったようじゃな」
「だな」
しばらくすると、ミントの体が縮みきり子供くらいの背丈になる。着ていた白衣はブカブカになり、袖が萌え袖みたいになっておる。
そんなミントはゆっくりと顔を上げる。
「…………?」
ミントは何も言わずに首だけを傾げる。
幼いミントはいつもと同じように不機嫌そうな目をしており、まったく可愛げが無い。それに加えてこちらを観察するように見てくる。とりあえず、話しかけてみるか。
「大丈夫か?わしらが分かるか?」
「……何が起こった?」
「お前が作った発明品で5歳まで若返った。これで理解できるか?」
ホウリの言葉にミントは宙を見て考えていたようだったが、納得したように手を打った。
「なるほど、やはり俺はてんさいだったか」
「こいつは子供の時から相変わらずじゃのう」
その後、ミントは自分の体を揉みつつ、感じた事をメモ帳に書き留めていく。
「イワカンはあまり無いな。きおくも5歳までしかない……と」
「こやつは放っておいてよいな」
「そうだな、時間切れまでそのままでいいだろう」
「それにしても、この発明品の効果は凄いのう」
「デメリットがデカすぎるけどな」
わしがセトゴッドを持って眺めてみる。
「なあホウリ。お主でもこの発明品のデメリットを消せぬのか?」
「出来ない事も無い。が、別のデメリットが出てくるからやらない」
「他のデメリット?」
「体がドロドロに溶けてゾンビみたいなる。それに加えて、魂が天界に帰った後に神が転生出来ないように粉々にするだろう。そこまでして生きたいか?」
ホウリの言葉にわしは首を横に振る。
この発明品で寿命を延ばせれば良かったんじゃが、そう上手くはいかないか。
「寿命って言うのは意図的に伸ばしてはいけない物だ。下手に伸ばすと相応のデメリットがある」
「肝に銘じておくわい」
わしは再びセトゴッドを見つめる。すると、心の中に悪戯ごころが湧いてきた。
ホウリって子供の頃はどうだったんじゃろうな?
瞬間、わしはホウリに向かってチェーンロックを発動する。
「いきなりなんだ!?」
壁や天井から伸びてくる鎖をホウリは躱し続ける。しかし、周りに皆がいるからか爆破といった手段が取れず、ついに鎖に絡めとられる。
怒るかと思ったが、ホウリは冷静な表情でわしを見据えてくる。
「……やめろよ?」
ホウリはわしが何をするのか察したのか、宥めるような優しい声で話し掛けてくる。
しかし、わしは自分の中に湧いてきた悪戯ごころが押さえきれん。我慢出来ないわしはホウリに向かってセトゴッドを向けてスイッチを押す。
光がホウリを捕らえ、ホウリの体がどんどん縮んでいく。やはりホウリは痛みに強いのか、縮む時にあまり表情が変わらなかった。
ホウリも子供になったが、他の者とは違い10歳くらいだった。そうしてホウリが縮むのが止まったのを確認して拘束を解除する。怪我せないために足から着地させる。
「さてと、ホウリはどんな子供じゃったのかのう」
わしはホウリの顔を覗き込む。
ホウリの顔は、今のホウリを幼くしたような特徴の無い顔じゃった。子供じゃからそれなりに可愛いが、良くも悪くも普通じゃった。
「むう、面白みがないのう?」
ホウリの容姿の不変さに落胆したが、ホウリの特徴は容姿ではなく言動じゃ。ここからどういう行動をとるかが見物じゃな。
わしがわくわくしながら見ておると、ホウリが口を開いた。
「……ここは?」
「お主の家じゃよ。お主はこの発明品で若返ったんじゃ」
さて、この説明でホウリはどうする?警戒するか?逃げるか?質問でもするか?
そう思っていると、ホウリは自分の持ち物を確認する。メモ帳を見つけたホウリは開けて中を読み始める。
中身が気になったわしはホウリの後ろから覗き込んでみる。じゃが、中身は数字の羅列だったり、見たことも無い記号だったりで内容が全く分からん。
じゃが、当の本人は内容が分かるのか次々とページを捲っていく。
最後のページまで読み終えたホウリはメモ帳を閉じると大きく息を吐いた。
「何が書いてあったんじゃ?ホウリお姉ちゃんに教えてみい」
わしがそう言うと、ホウリは縛られていた時と同じような冷静な視線をわしに向けてくる。そして、大きく息を吸って……
「うわあああああん!」
大声で泣き始めた。予想外の事態に唖然としているとホウリがミエルとロワとノエルの元へと走っていった。
「うわあああん!」
「え?どうしたの?」
3人は突然の出来事に固まる。
すると、ホウリが走った拍子にノエルの手に持っていた絵本の角が、ミエルの眉間に直撃した。
眉間を赤くしたミエルは目に涙を溜めると大きな声で泣き出した。
「うえええええん!」
「ミエルちゃん大丈夫?」
ロワがミエルを心配して立ち上がると、足元に転がっておった折り紙を踏みつける。そのまま滑ったロワは後頭部を思いっきりテーブルの角へぶつけた。
「うわああああん!」
案の上、あまりの痛さからロワも泣きじゃくる。
部屋の中に泣き声が響く中、必死にメモを取っていたミントが苛立ったように叫ぶ。
「しずかにしろ!大切な研究のとちゅうだ!」
「うわああああああん!」
そんなミントに泣いているホウリが突撃する。そして、ホウリがぶつかってペンがミントの唇に直撃する。
「……うわああああん!」
流石のミントも痛かったのか、他の子と同様に泣きじゃくる。
こうして、子供4人が泣き声のカルテットを奏でる地獄絵図が完成したのじゃった。
「……フランお姉ちゃん、これどうする?」
「……なんとかしよう」
それから2時間、わしとノエルで泣き止まぬ子供たちと格闘することになったのじゃった。
わしは、人が嫌がるような事はしないようにしようと心に決めたのじゃった。
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死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
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三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
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40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
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なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
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