魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百二十三話 道というものは自分で切り開くものだ

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 僕たちは2体目のコマンドデーモンを前に戦慄していた。
 皆であれだけの攻撃を加えてようやく倒せたのに、2体目なんて絶対に無理だ……。


「そんな……今の状態でもう一回コマンドデーモンの相手なんて……」
「俺達もここまでか……」


 全力を出し尽くした皆さんから諦めの言葉が聞こえてくる。当の僕もMPを結構使ったから、さっきみたいに戦う事は出来ない。
 皆さんが弱気になっている中で、ただ一人ミエルさんだけが諦めていなかった。


「くぅ……、まだだ……」


 MPを使い果たして疲労で立てない筈のミエルさんが、大剣を杖替わりにして立ち上がる。


「ミエルさん?」
「諦めたら全滅だ!今度は絶対に私が守る!」


 ミエルさんが大剣を引き抜いて、コマンドデーモンを睨みつける。誰よりも怖い筈なのに、体も持たない筈なのに、力強く立っている。
 これは僕が寝ている訳にはいかない。MPポーションを開けて一気に呷って、立ち上がる。
 皆さんもミエルさんの姿に鼓舞されたのか目に光が戻る。


「ミエルばっかりにいい格好させられないな」
「この借りは高くつくわよ」


 皆さんも武器を構える。けど、足元はおぼつかず、最初のような勢いはない。流石に状況は厳しいかな。
 そう思っていると、ケット先輩が後ろからコマンドデーモンに飛び出していった。


「ケット!」
「一番MPがあるのは俺だ!俺が時間を稼ぐから、お前らはさっさとMPを回復しろ!」


 そう言ってケット先輩はコマンドデーモンに切りかかる。
 MPポーションを飲んだからと言って、即座にMPが回復する訳じゃない。ポーションの質にもよるけど、全回復するまで1分くらいは時間がかかる。
 ケット先輩はさっきの戦いで誰よりもMPポーションを飲んでいた。だから、即座に戦闘に入れるって訳だ。
 正直、ケット先輩だけだと皆さんのMPが回復しきるまで持つか分からない。
 けど、僕ならMPを使わないでもエンチャントで援護することが出来ます。ヘビーウェイトで体を重くして、ベリアアローで結界を張って妨害を……
 そう思って戦闘を観察しながら矢を選ぶ。


「ぐおおお!」
「はっ、お前の攻撃はさっきの戦いで見切ってるぜ!」


 ケット先輩が余裕の表情でコマンドデーモンの拳を後ろに回避する。しかし……


「なっ!?」


 コマンドデーモンの風圧で体勢を崩し、お尻で着地してしまう。


「さっきのコマンドデーモンはそんな事してこなかったですよ!?」
「1体目よりも強いって事か……」


 僕は急いでヘビーウェイトの矢をコマンドデーモンの周りに放つ。
 僕のエンチャントは地面に矢を刺すことで発動する。効果範囲が広い代わりに味方にも効果が及ぶことがある。
 使い勝手が悪いけど、今はそんな事を言ってる場合じゃない!


「ヘビーウェイト!」


 コマンドデーモンを挟む形で2本の矢を地面に刺す。
 これで体重は約5倍、いくらコマンドデーモンでも少しは動きが遅く……


「ぐああああああ!」
「まったく効いてない!?」


 コマンドデーモンは体重が増えても意に介さず、ケット先輩に蹴りを放つ。


「ぐあっ!」


 蹴りをまともに受けたケット先輩は背後の木まで吹き飛ばされ気絶した。
 

「ケット先輩!」


 頭から血を流して気絶しているケット先輩にヒールシュートを全て打ち込む。


「回復しきれない。早く回復スキルで治療しないと……」


 その為には早くコマンドデーモンを倒さないといけない。けど、ヘビーウェイトが効かないんだったら、大半のエンチャントは効かないだろう。
 コマンドデーモンはケット先輩に止めを刺そうと拳を振り上げる。


「ケット先輩!」
「挑発!」


 瞬間、ミエルさんが挑発を使いコマンドデーモンの視線がミエルさんに向く。


「今だ!ケットの回復を急げ!」
「分かった!」


 ヒーラーがケット先輩の元へ向かい、治療を開始する。これでケット先輩は大丈夫。問題はターゲットになったミエルさんだ。


「来い!コマンドデーモン!」


 ミエルさんが飲み終わったMPポーションの瓶を投げ捨てる。


「盾も無いのに無茶ですよ!」
「だが私以外に戦える者はいない!刺し違えてもこいつを倒す!」
「ぐあああああ!」


 ミエルさんがコマンドデーモンの拳を受け止める。あまりの攻撃に鎧が砕け、ミエルさんの口から血が垂れる。
 けど、何とか受け止めて拳にしがみつく。


「くぅ……少しでも時間をかけて皆の回復に……」
「無茶しないでください!」


 僕が残り少ないトリシューラの複製をコマンドデーモンに向かって放つ。
 トリシューラの複製はコマンドデーモンの胸元に命中する。しかし、全く効いておらず、注意をこちらに向けることさえ出来ない。


「僕じゃダメなのか……」


 コマンドデーモンは拳を一振りして、ミエルさんを振り払う。ミエルさんは地面を転がり倒れ伏す。


「ぐう……まだだ……」


 ミエルさんは体に力を入れるが、全く立ち上がれない。けど、目に光は失われておらず、敵意を込めてコマンドデーモンを睨んでいる。
 これじゃミエルさんが危ない!


「MPが回復した人はすぐに攻撃してください!」
「けど……」
「このままだとミエルさんがやられます!早くこっちに気を逸らせないと!」
「あいつがこっちに来たあとはどうするのよ!」
「僕を信じてください!」
「わ、わかったわ!」


 僕の思いが伝わり、リン先輩たちが杖にMPを込め始める。
 僕自身もトリシューラの複製にMPを込めてコマンドデーモンに狙いを定める。


「くらええええ!」


 さっきよりも勢いの無い魔法や手裏剣、矢がコマンドデーモンに襲い掛かる。


「ぐぎゃ?」


 コマンドデーモンは表情一つ変えずに受けて、こちらに視線を向けて来る。
 さっきよりもMPが込められなかったとはいえ、ダメージが0!?やっぱりさっきの奴よりも強い!?


「で、あいつの狙いがこちらに来たわよ。ここからどうするつもり?」
「……どうしましょう?」
「考えてないの!?」
「だって!ミエルさんのピンチですよ!?後先なんて考えられるわけないですよ!」
「自信満々に任せろって言ったのはロワ君だよね!?」


 言い争っている間にもコマンドデーモンはこちらに突進してくる。攻撃も効かない、回復も追いつかない、逃げても追いつかれる。これじゃ、全滅するのも時間の問題だ!


「ぐううう、ベリアアロー!クラウドショット!」


 ベリアアローをクラウドショットで増殖させて、コマンドデーモンの間に数十枚の結界を張る。1枚でも銃弾を防ぎきれるほどの固さだ。数十枚あれば、少しくらいは防ぎきれる筈……


「ぐああああ!」


 しかし、コマンドデーモンは薄い氷を割るかのごとく、たやすく結界を破壊する。


「ごああああ!」
「皆さん防御を───」


 コマンドデーモンの速さの前に回避も防御も出来ずに突進を受け吹き飛ぶ。
 皆さんも突進に巻き込まれ、全員が地面に倒れ伏した。防御力が低い人はミエルさんみたいに血を吐いて気絶している。
 そういう僕も普段からフランさんの攻撃を受けていなかったら死んでいたかもしれない。


「ううう……これだけは使いたくなかったけど……」


 僕は袖に縫い付けていた錠剤をむしり取って口の中に放り込む。瞬間、体のダメージが一瞬にして消え立てるようになるまで回復した。
 この錠剤はHPポーションを濃縮したもので、携帯できて回復も即座に行われる優れものだ。だけど、重大な欠点が一つあって……


「う、オロロロロロ」


 僕は急激な眩暈を感じて、胃の中を全て吐き出す。急な回復に体が付いてこられず、自律神経に異常をきたす、それがこの錠剤のデメリットだ。
 あまりの眩暈でまともに弓を使える気がしない。けど、あの状況から助かるにはこれしかない。
 眩暈に耐えていると、唐突にホウリさんの言葉がフラッシュバックした。


『この錠剤を使っても戦えるように訓練しておいたほうが良いぞ。回復してもまともに戦えなかったら意味ないからな』
『えー、気持ち悪くなるから嫌ですよー』
『確かに優先順位は低いかもしれないが、必要な時がくるかもしれない。慣れておいた方がいいぞ?』
『気が向いたらやりますよ』


 ……帰ったらホウリさんに土下座かな。


「帰れたらだけどね」


 眩暈で倒れそうになる中、食いしばってなんとか弓を構える。
 けど、今の状況は絶望的だ。エンチャントもトリシューラの複製も効かない、仲間は全員が戦闘不能、逃げる事も出来ない。ここから生きて帰るなんて無理じゃないだろうか。


「けど、諦める訳にはいかないんだよね」


 ここで諦めたら死んでも死にきれない。どんなに醜くても最後まであがく!


「いくぞ!」
「ぐが!」


 グルグルする視界の中で前を向くと、コマンドデーモンの拳が目の前に迫っていた。
 しまった、戦闘態勢に入るのに時間がかかりすぎたこれは死んだでも諦めないって決めて弓を引いて矢を放つけどコマンドデーモンには効かないし僕が負けたら皆さんが死んでホウリさんに謝らないとまだ父さんに近づけてないしやり残したことがミエルさんごめんなさい弓が効かない相手になにをすればけど負ける訳には


「ロワァァァァァァァ!」


 死を目の前にして頭がぐちゃぐちゃになっている中で、聞こえてきたのはミエルさんの叫びでだった。
 コマンドデーモンの拳が近づいてくるのが遅く見える。これが走馬灯?
 反射的に弓を構えようとするが、明らかに拳の方が早い。まだだ、まだ何か出来ることが……。
 矢を引きながらコマンドデーモンを見据える、その後ろでミエルさんが必死の形相で僕に手を伸ばしていた。


「ああああああああ!」


 コマンドデーモンの拳は数㎝まで迫る。瞬間、僕の目が不思議な光景を捉えた。
 叫んでいたミエルさんの体から力が抜け目が閉じられる。そして、次にミエルさんが目を開けた時、瞳が金色に輝き始めた。
 何が起こったのか分からずにいると、ミエルさんの口が動いた。


「シン・ダブルプロフェクション」


 言葉は聞こえなかったが、何故かはっきりと言葉が理解できた。
 そして次の瞬間、僕の前に白く輝く盾が現れた。盾は全くビクともコマンドデーモンの拳を受け止めた。
 それに加えて、なぜかコマンドデーモンの拳から血が噴き出した。


「な……」


 あまりの展開に立ち尽くしていると、ミエルさんが再び言葉を紡ぎ始めた。


「ロワ、聞こえているか?」
「は、はい。これはミエルさんが?」
「ああ。この白き盾は私の思った所に出現させられる。そして、攻撃を完全に防ぎ、威力を倍にして跳ね返すことができる」
「す、すごいですね……」


 ビックリしすぎてそれ以外の言葉が見つからない。


「こ、このスキルはいったい?」
「悪いがこのスキルは長く持たない。説明は目の前の敵を倒してからだ」
「分かりました。けど、どうやって?」
「この盾は同時に5つまで展開できる」
「ああ、なるほど」


 そこまで言われてミエルさんが何をしたいのかが理解できた。
 僕は最後のトリシューラの複製を取り出してMPを込める。
 すると、ダメージを受けて怒ったコマンドデーモンが、僕を踏んづけようと足を上げた。僕は動かずにそのままMPを込め続ける。


「ぐううああああああああああ!」


 コマンドデーモンによって僕が踏みつぶされる。と思った瞬間、ミエルさんの白い盾が僕とコマンドデーモンの間に割って入ってきた。


「ごぎゃああああ!?」


 今度は足にダメージを受けるコマンドデーモン。思わず後ろに下がって膝を付いた。
 強すぎる。正直、このスキルだけでも勝てるんじゃないかとは思うけど、時間切れで仕留めきれるかは分からない。
 ここは積極的に仕留めにいかないと。
 大丈夫、MPを込める練習はかなりやってきた。いつも通りやれば大丈夫。
 自分の中にある全てのMPをトリシューラの複製に込める。


「ミエルさん!」
「わかった!」


 ミエルさんに声を掛けた瞬間、膝を付いているコマンドデーモンの周りに5つの白い盾が現れた。
 角度……よし、コマンドデーモンの体勢……よし、これなら!
 確信を持ち、白い盾に向かって矢を放つ。矢は白い盾に命中し威力が2倍になって跳ね返る。跳ね返った先には別の白い盾があり、更に跳ね返って威力が倍になる。
 盾で跳ね返されていく毎に、トリシューラの複製は完全に純正のトリシューラと同じ、青い光へと変わっていく。


「ごぎゃ!?」


 動けないコマンドデーモンは矢を目で追おうとするが、全く付いていけてない。
 そして、5回目の跳ね返りの後、完全に青い光へと変わった矢がコマンドデーモンに突き刺さる。
 コマンドデーモンの頭は割られたスイカのごとく破裂し、声もなく絶命した。
 光の粒へになり天へと昇るコマンドデーモンを見て、僕は弓を落とす。


「し、死ぬかと思った……」


 今になって怖くて手が震えて来た。本当に生きててよかった。
 こうして僕たちは全員生きて戦闘を終えたのだった。



☆   ☆   ☆   ☆


 コマンドデーモン2体との死闘の後、僕たちは帰路についていました。


「今回ばかりは本当にダメかと思ったぜ」
「そうね。というか、ケットは1回死んだでしょ?」
「だな」
「回復が間に合ってよかったな」
「そう言えば、ミエルさんのあのスキルはなんですか?」
「私にも分からん。ただ、ロワを助けたい一心で必死だっただけだ」
「詳しいことはホウリさんに聞いてみますか」
「それよりも長官への報告が先だろ」
「そうね。コマンドデーモンを2体も倒したなんて、伝説になっちゃうわよ」
「倒し方を聴かれる時の事を考えると、胃がキリキリするがな」
「詳しい事は分かりません、ですもんね」
「まあ、ドロップ品も持ってるんだし、嘘だとは思われないわよ」
「しかしまあ、ゴブリン討伐のつもりが、こんな事になるなんてな」
「そうですよね。こんなことならもっと準備し……て?」
「どうしたんだロワ?」
「……肝心のゴブリン討伐してませんよね?」
「………………」
「………………」
「………………」
「全員に告ぐ!さっさと戻ってゴブリンを討伐するぞ!」
「急げー!」
「さっさと終わらせてさっさと王都に帰るわよ!」
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