269 / 472
第二百二十七話 俺のファンサービスを受け取れ!
しおりを挟む
通しのリハーサルにも慣れ、本番まで2週間に迫ったある日、わしは稽古終わりに声を掛けられた。
「ねえねえフランちゃん。この後、時間ある?」
声を掛けて来たのは同じ舞台に立つフォガート。長身で目元がキリっとしており、今回の舞台では真面目な憲兵を演じている。
実際はクールな役から物腰穏やかな役まで幅広い役をこなす。その容姿からファンが多く、わしもファンの一人じゃ。
「時間?何かあるのか?」
「これから皆で夜ご飯でも食べようって話をしてたの。フランちゃんもどう?」
そう問われ、わしは考える。今は6時くらい。そろそろ晩飯の時間じゃ。
本音を言えば、フォガートと食事に行きたい。じゃが、ノエルとは可能な限り食事をすると約束しておる。どうしたものか。
「とりあえず、ホウリに聞いてみるわい」
「ホウリさんって脚本家の人だよね?どうして?」
「わしはホウリと住んでおるからのう。晩飯の用意をしておったら不都合じゃろう」
「え?ホウリさんと住んでいるの?」
フォガートが頬を赤くして口を手で覆う。これは良からぬ誤解が生まれそうじゃな。
「別に二人きりで同棲しておるわけではないぞ?他にも何名か一緒に住んでおる。ルームシェアが一番近いかのう?」
「なーんだ」
途端に興味が薄れたのか、真顔に戻るフォガート。こやつは興味の無い事が分かり易くていいのう。
「少し待っておれ」
「うん」
わしはまんじゅうを頬張りながらスクロールを書いているホウリの元へ向かう。
「ホウリ」
「どうした?」
「いま他の団員に晩飯に誘われてのう。行っても良いか聞きたいんじゃ」
「別に良いぞ。団員と仲良くするのも大切だからな」
「やけにあっさりじゃな?」
「俺だって別で夕飯を食う事もあるしな。たまにはいいんじゃないか?」
ホウリはそう言ってスクロールを書く作業に戻る。別に止めて欲しい訳では無いが、もう少し何かないのか。
そう思っていると、いつまでも行かないわしを不思議に思ったのか、ホウリが顔を上げた。
「どうした?何か不満そうだな?」
「別に何でもない」
「大方、あっさりと外出の許可が出て不満に思っているのか?」
分かっとるなら言い方があるじゃろうが。
「言っておくが、誰でも許可する訳じゃないぞ?許可するのは信用があるからだ」
「信用?」
「余計なことをしないっていう信用だな。フランとミエルは信用がある。逆にノエルとロワは絶対に許可を出さない」
「むう、そうか」
わしは特別か。ミエルも同じという点は少し不満じゃが、今は良しとしよう。
「あんまり遅くなるなよ」
「善処しよう」
話を付けてフォガートの元へと戻る。
「許可が出たぞ」
「それは良かった」
「メンバーは誰がおるんじゃ?」
「私とフランちゃんとギオハとラフティよ」
「全員が女か」
「女子会ね」
女子会など久しぶりじゃな。いや?もしや初めてか?
魔国にいた時は女子会はおろか、大勢と話した記憶がない。となると、これが初めての女子会かのう。
「どうしたの?」
「なんでもない。自由を噛みしめておっただけじゃ」
心の底から魔国を出てよかったと思う。涙まで出てきそうじゃ。
「他の2人はどこにおるのじゃ?」
「先に店に行ってるわよ。行きつけの居酒屋さんなんだけどね、お酒もおつまみも美味しいの」
「それは期待できそうじゃな」
こうして、わしは居酒屋に行くことになったのじゃった。
☆ ☆ ☆ ☆
劇団から歩く事数分、「灸炎」という居酒屋にたどり着く。時間も良い感じで、中も席がいっぱいじゃ。
店員はわしらに気が付くと愛想笑いを顔に張り付けてやってきた。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか」
「ギオハの名前でもう来ていると思うんですけど」
「ギオハ様のお連れ様ですね。こちらへどうぞ」
店員に店の奥にある座敷に案内される。そこには既にギオハとラフティがいて、喋っていた。
「そこで彼に『なんで夕飯用意してないの?』って言われたんだぜ!?信じられないだろ!?」
「あらあら、それは酷いわね」
「だろ!?ムカついちゃって家出したよ」
「二人とも~。フランちゃん来たわよ~」
フォガートの言葉に2人はわしに気付いた。
「あら、フランちゃんじゃない。来てくれて嬉しいわ」
「ま、まあのう」
ラフティの微笑みにわしはドギマギする。
髪もふわふわしてて、目元も優し気で見ているだけで癒されそうじゃ。そんなラフティは見ての通り物腰穏やかな役が多い。じゃが、熱血キャラや冷血な悪役など、意外と器用にどんな役でもこなす。はっきり言って天才じゃ。
「よお!フラン!誘ってみて良かったぜ。座れよ。何か頼もうぜ」
「あ、ありがとう」
ぎこちなく礼を言って、ギオハの隣に座る。
ギオハは男勝りな印象を受ける。髪も短く纏めており、言動も荒々しい。役柄も荒々しいチンピラのような役が多い。じゃが、意外と細かい所まで見ており、他の者との息の合わせ方はギオハが一番うまい。
そう、何を隠そう、わしはこの3人の大ファンじゃ。この3人が出ている劇はもれなく全部見ておる。ものによっては複数回見る。それほどにファンじゃ。
「今日は来てくれて嬉しいわ~」
「フォガート、メニュー取ってくれ」
「はい。フランちゃんは何か飲む?」
好きな役者がわしの傍で会話しておる。これだけで胸がはちきれそうじゃ。
一緒に芝居をするようになって、毎日のように姿を見て多少は慣れた。じゃが、全員が近くにおると迫力が違う。気を抜くと気絶してしまいそうじゃ。
「フランちゃん?大丈夫?」
「……おお!すまぬ!飲み物じゃったな」
わしは止まりかけの頭を必死に動かしてメニューを凝視する。ワインは……なさそうじゃ。こういう居酒屋ではビールが良いんじゃったか?良く分からんが、何でも良いか。
「わしはビールを頼む」
「オッケー。すみませーん、ビール4つ!」
「はーい!」
注文してから30秒後、わしらのテーブルに4つのビールジョッキが運ばれてくる。
「お待たせしましたー」
「早いのう!?」
「この提供速度がここの居酒屋の売りよ」
「店員さん、唐揚げと枝豆とたこわさと刺し盛りもお願いできるかしら?」
「かしこまりました」
満員の店内でこの提供速度は早すぎる気がする。逆に怖くなってきたぞ?
わし意外は気にしておらんのか、ジョッキを掲げる。
「それじゃ、今日もお疲れさまでした。カンパーイ」
「「カンパーイ!」」
「か、カンパーイ」
わしは恐る恐る乾杯をして、ビールを口に運ぶ。炭酸のはじける感じが口に広がるが、緊張で味は分からん。
「んぐっんぐっ、ぷはー。この一杯の為に生きているって言っても過言じゃないわねー」
「そうね~。美味しいわ~」
「あ?どうしたフラン?美味しくないか?」
「い、いや、そんなこと無いぞ?」
緊張していることがバレたと思ったわしは、慌ててビールを一気飲みする。
「んぐっんぐっ」
「そんなに一気に飲んで大丈夫?」
「心配ない。わしの異常状態耐性は世界一じゃ」
本当はミエルの方が高いが、それは内緒じゃ。このスキルは戦い面では便利じゃが、酔えんくなるのが欠点じゃな。
一気にジョッキを空にする。これでバレることはないじゃろ。
「何か変だぞ?」
「気分でも悪いの?」
「いつもと様子が違うな?」
全く隠せておらんみたいじゃ。
「い、いやー。体調が悪いとかでは無いんじゃが……」
「だったらなんだ?」
3人に顔を覗かれ、思わず顔を背ける。なんと言って誤魔化せばよいか……。
「もしかして、緊張しているのか?」
「そんなバカな。毎日会っているのに緊張する事なんてあるか?」
フォガートの言葉をギオハが笑い飛ばす。が、わしはフォガートの言葉にビクリと体を震わせる。
その様子を見たギオハから笑みが消える。
「まさか本当か?」
「……悪いか!?わしはお主らのファンじゃぞ!?緊張するなという方が無理じゃぞ!?」
「キャパが超えて怒ったわね」
「人って緊張が過ぎると怒りが出てくるのか」
どうしていいか分からずに怒鳴ると、3人は意外にもサラッと受け流した。もっと引かれるものと思ってたんじゃがな。
冷静さを取り戻し一息つく。
「ふぅ」
「落ち着いた?」
「うむ。急に怒鳴って済まんかったのう」
「別に気にしてないわよ~」
「けどよ、なんで今更緊張してるんだ?毎日会ってるだろ?」
ギオハが不思議そうに首をかしげる。
「むう、言いにくいんじゃが、わしはかなり劇が好きでのう。特にお主ら3人は上位に位置する役者じゃ」
「そこまで真っすぐ言われると照れるな」
「そうね~。お客さんの感想を面と向かって言われる機会なんて、意外と無いものね」
「そうだな。ちなみに、どんな劇を見てるんだ?」
「お主らの劇は全部見ておるぞ?」
「全部?もしかして、私の初舞台もか?」
顔を引きつらせるフォガートにわしは頷く。
「勿論じゃ。劇の名前は『海の底で貝を食べるには』じゃろ?」
「初日の観客が10人くらいのマイナーな劇だぞ?よく見ていたな?」
「ここ30年くらいの劇は全て見ておるからな」
本当は500年前から劇は全て見ておるんじゃが、そこまで言う必要はないじゃろう。
「え?30年前ってフランちゃんって何歳なの?」
「女性に年を聞くのは野暮じゃろ?」
「30年前から劇を見てるって事は、私よりも年上ね」
「今からでも敬語使った方がいいか?」
「別にどんな呼び方でも構わんぞ?」
「お待たせしましたー」
さらなる追求が入りそうになった瞬間、店員が頼んでいた料理を運んできた。
「ビールのおかわりを頼む」
「かしこまりました」
追加の注文も済ませ、唐揚げを頬張る。味はそこそこじゃな。
「じゃあさ、フランちゃんが一番印象に残った劇ってなに?」
「一番か。難しいのう?」
今思いつくだけでも、10個は浮かんでくる。その中から一つだけを選ぶなんて酷じゃ。
「あ、印象に残った劇ならあるぞ?」
「なになに?」
「『海の底で貝を食べるには』の初回公演」
瞬間、フォガートが飲んでいたビールを噴き出す。
「ふ、フラン!何を言う気だ!」
「大したことではない。終盤の盛り上がりでセリフを盛大に噛んだ奴がおっただけじゃ」
「フラン!?」
あたふたするフォガートをラフティとギオハはニヤつきながら眺める。
「へぇ~。どんな役者なんでしょうね?」
「本当だよな。どこのフォガートが噛んだんだろうな?」
「お前ら!分かってて言ってるだろ!」
白々しく話すわしらに怒鳴るフォガート。顔が赤いのは酒のせいかのう?
なんだかんだ話している内に緊張もほぐれて来たのう。そうじゃ、良いことを思いついた。
「のう、その劇の様子を実際に見たくはないか?」
「は?そんなこと出来るのか?」
「出来るぞ。『メモリアルバック』」
わしが空中に手をかざすと、光る板のような物が出て来た。板には若き日のフォガートが部隊に立っていた。
「これって?」
「見聞きした物を可視化するスキルじゃな。一度見た物であれば忘れておっても可視化できる便利なスキルじゃ」
「確かに便利だ。……ん?」
感心したように頷くフォガートだったが、何かに気が付いたのか顔を青くしていった。
「待て、それって……」
「皆でフォガートの初舞台でも見ながら酒を飲もう」
「良いわね」
「はっはっは!面白そうだな!」
「待て!私は許可してないぞ!」
「お主の許可がいるのか?」
「本人の許可がいらない訳ないだろう!?私が訴えれば勝てるぞ!?」
「一理あるのう」
「訴えられたら困るわね」
「確かにな」
「それは置いておいて再生するぞ」
「一切合切を無視した!?」
騒ぐフォガートを無視して、わしは映像を再生する。映像の中のフォガートが高らかと喋り始める。
『私はマリン。海が大好きなの』
「今より声が若いわね」
「演技もたどたどしいな」
「やめてくれ!未熟な時の演技を見られることは何よりも恥ずかしいんだ!」
「そんなの誰だって同じよ?」
「知っててやってるに決まってるだろ」
「余計にたちが悪いな!?」
「叫ぶと周りの客に迷惑じゃぞ?」
「誰のせいだ!」
こうして、わしらはフォガートの初舞台の鑑賞会で盛り上がったのじゃった。
この日以来、わしは3人と友達になり、たまに遊びにいくようになったのじゃった。
「ねえねえフランちゃん。この後、時間ある?」
声を掛けて来たのは同じ舞台に立つフォガート。長身で目元がキリっとしており、今回の舞台では真面目な憲兵を演じている。
実際はクールな役から物腰穏やかな役まで幅広い役をこなす。その容姿からファンが多く、わしもファンの一人じゃ。
「時間?何かあるのか?」
「これから皆で夜ご飯でも食べようって話をしてたの。フランちゃんもどう?」
そう問われ、わしは考える。今は6時くらい。そろそろ晩飯の時間じゃ。
本音を言えば、フォガートと食事に行きたい。じゃが、ノエルとは可能な限り食事をすると約束しておる。どうしたものか。
「とりあえず、ホウリに聞いてみるわい」
「ホウリさんって脚本家の人だよね?どうして?」
「わしはホウリと住んでおるからのう。晩飯の用意をしておったら不都合じゃろう」
「え?ホウリさんと住んでいるの?」
フォガートが頬を赤くして口を手で覆う。これは良からぬ誤解が生まれそうじゃな。
「別に二人きりで同棲しておるわけではないぞ?他にも何名か一緒に住んでおる。ルームシェアが一番近いかのう?」
「なーんだ」
途端に興味が薄れたのか、真顔に戻るフォガート。こやつは興味の無い事が分かり易くていいのう。
「少し待っておれ」
「うん」
わしはまんじゅうを頬張りながらスクロールを書いているホウリの元へ向かう。
「ホウリ」
「どうした?」
「いま他の団員に晩飯に誘われてのう。行っても良いか聞きたいんじゃ」
「別に良いぞ。団員と仲良くするのも大切だからな」
「やけにあっさりじゃな?」
「俺だって別で夕飯を食う事もあるしな。たまにはいいんじゃないか?」
ホウリはそう言ってスクロールを書く作業に戻る。別に止めて欲しい訳では無いが、もう少し何かないのか。
そう思っていると、いつまでも行かないわしを不思議に思ったのか、ホウリが顔を上げた。
「どうした?何か不満そうだな?」
「別に何でもない」
「大方、あっさりと外出の許可が出て不満に思っているのか?」
分かっとるなら言い方があるじゃろうが。
「言っておくが、誰でも許可する訳じゃないぞ?許可するのは信用があるからだ」
「信用?」
「余計なことをしないっていう信用だな。フランとミエルは信用がある。逆にノエルとロワは絶対に許可を出さない」
「むう、そうか」
わしは特別か。ミエルも同じという点は少し不満じゃが、今は良しとしよう。
「あんまり遅くなるなよ」
「善処しよう」
話を付けてフォガートの元へと戻る。
「許可が出たぞ」
「それは良かった」
「メンバーは誰がおるんじゃ?」
「私とフランちゃんとギオハとラフティよ」
「全員が女か」
「女子会ね」
女子会など久しぶりじゃな。いや?もしや初めてか?
魔国にいた時は女子会はおろか、大勢と話した記憶がない。となると、これが初めての女子会かのう。
「どうしたの?」
「なんでもない。自由を噛みしめておっただけじゃ」
心の底から魔国を出てよかったと思う。涙まで出てきそうじゃ。
「他の2人はどこにおるのじゃ?」
「先に店に行ってるわよ。行きつけの居酒屋さんなんだけどね、お酒もおつまみも美味しいの」
「それは期待できそうじゃな」
こうして、わしは居酒屋に行くことになったのじゃった。
☆ ☆ ☆ ☆
劇団から歩く事数分、「灸炎」という居酒屋にたどり着く。時間も良い感じで、中も席がいっぱいじゃ。
店員はわしらに気が付くと愛想笑いを顔に張り付けてやってきた。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか」
「ギオハの名前でもう来ていると思うんですけど」
「ギオハ様のお連れ様ですね。こちらへどうぞ」
店員に店の奥にある座敷に案内される。そこには既にギオハとラフティがいて、喋っていた。
「そこで彼に『なんで夕飯用意してないの?』って言われたんだぜ!?信じられないだろ!?」
「あらあら、それは酷いわね」
「だろ!?ムカついちゃって家出したよ」
「二人とも~。フランちゃん来たわよ~」
フォガートの言葉に2人はわしに気付いた。
「あら、フランちゃんじゃない。来てくれて嬉しいわ」
「ま、まあのう」
ラフティの微笑みにわしはドギマギする。
髪もふわふわしてて、目元も優し気で見ているだけで癒されそうじゃ。そんなラフティは見ての通り物腰穏やかな役が多い。じゃが、熱血キャラや冷血な悪役など、意外と器用にどんな役でもこなす。はっきり言って天才じゃ。
「よお!フラン!誘ってみて良かったぜ。座れよ。何か頼もうぜ」
「あ、ありがとう」
ぎこちなく礼を言って、ギオハの隣に座る。
ギオハは男勝りな印象を受ける。髪も短く纏めており、言動も荒々しい。役柄も荒々しいチンピラのような役が多い。じゃが、意外と細かい所まで見ており、他の者との息の合わせ方はギオハが一番うまい。
そう、何を隠そう、わしはこの3人の大ファンじゃ。この3人が出ている劇はもれなく全部見ておる。ものによっては複数回見る。それほどにファンじゃ。
「今日は来てくれて嬉しいわ~」
「フォガート、メニュー取ってくれ」
「はい。フランちゃんは何か飲む?」
好きな役者がわしの傍で会話しておる。これだけで胸がはちきれそうじゃ。
一緒に芝居をするようになって、毎日のように姿を見て多少は慣れた。じゃが、全員が近くにおると迫力が違う。気を抜くと気絶してしまいそうじゃ。
「フランちゃん?大丈夫?」
「……おお!すまぬ!飲み物じゃったな」
わしは止まりかけの頭を必死に動かしてメニューを凝視する。ワインは……なさそうじゃ。こういう居酒屋ではビールが良いんじゃったか?良く分からんが、何でも良いか。
「わしはビールを頼む」
「オッケー。すみませーん、ビール4つ!」
「はーい!」
注文してから30秒後、わしらのテーブルに4つのビールジョッキが運ばれてくる。
「お待たせしましたー」
「早いのう!?」
「この提供速度がここの居酒屋の売りよ」
「店員さん、唐揚げと枝豆とたこわさと刺し盛りもお願いできるかしら?」
「かしこまりました」
満員の店内でこの提供速度は早すぎる気がする。逆に怖くなってきたぞ?
わし意外は気にしておらんのか、ジョッキを掲げる。
「それじゃ、今日もお疲れさまでした。カンパーイ」
「「カンパーイ!」」
「か、カンパーイ」
わしは恐る恐る乾杯をして、ビールを口に運ぶ。炭酸のはじける感じが口に広がるが、緊張で味は分からん。
「んぐっんぐっ、ぷはー。この一杯の為に生きているって言っても過言じゃないわねー」
「そうね~。美味しいわ~」
「あ?どうしたフラン?美味しくないか?」
「い、いや、そんなこと無いぞ?」
緊張していることがバレたと思ったわしは、慌ててビールを一気飲みする。
「んぐっんぐっ」
「そんなに一気に飲んで大丈夫?」
「心配ない。わしの異常状態耐性は世界一じゃ」
本当はミエルの方が高いが、それは内緒じゃ。このスキルは戦い面では便利じゃが、酔えんくなるのが欠点じゃな。
一気にジョッキを空にする。これでバレることはないじゃろ。
「何か変だぞ?」
「気分でも悪いの?」
「いつもと様子が違うな?」
全く隠せておらんみたいじゃ。
「い、いやー。体調が悪いとかでは無いんじゃが……」
「だったらなんだ?」
3人に顔を覗かれ、思わず顔を背ける。なんと言って誤魔化せばよいか……。
「もしかして、緊張しているのか?」
「そんなバカな。毎日会っているのに緊張する事なんてあるか?」
フォガートの言葉をギオハが笑い飛ばす。が、わしはフォガートの言葉にビクリと体を震わせる。
その様子を見たギオハから笑みが消える。
「まさか本当か?」
「……悪いか!?わしはお主らのファンじゃぞ!?緊張するなという方が無理じゃぞ!?」
「キャパが超えて怒ったわね」
「人って緊張が過ぎると怒りが出てくるのか」
どうしていいか分からずに怒鳴ると、3人は意外にもサラッと受け流した。もっと引かれるものと思ってたんじゃがな。
冷静さを取り戻し一息つく。
「ふぅ」
「落ち着いた?」
「うむ。急に怒鳴って済まんかったのう」
「別に気にしてないわよ~」
「けどよ、なんで今更緊張してるんだ?毎日会ってるだろ?」
ギオハが不思議そうに首をかしげる。
「むう、言いにくいんじゃが、わしはかなり劇が好きでのう。特にお主ら3人は上位に位置する役者じゃ」
「そこまで真っすぐ言われると照れるな」
「そうね~。お客さんの感想を面と向かって言われる機会なんて、意外と無いものね」
「そうだな。ちなみに、どんな劇を見てるんだ?」
「お主らの劇は全部見ておるぞ?」
「全部?もしかして、私の初舞台もか?」
顔を引きつらせるフォガートにわしは頷く。
「勿論じゃ。劇の名前は『海の底で貝を食べるには』じゃろ?」
「初日の観客が10人くらいのマイナーな劇だぞ?よく見ていたな?」
「ここ30年くらいの劇は全て見ておるからな」
本当は500年前から劇は全て見ておるんじゃが、そこまで言う必要はないじゃろう。
「え?30年前ってフランちゃんって何歳なの?」
「女性に年を聞くのは野暮じゃろ?」
「30年前から劇を見てるって事は、私よりも年上ね」
「今からでも敬語使った方がいいか?」
「別にどんな呼び方でも構わんぞ?」
「お待たせしましたー」
さらなる追求が入りそうになった瞬間、店員が頼んでいた料理を運んできた。
「ビールのおかわりを頼む」
「かしこまりました」
追加の注文も済ませ、唐揚げを頬張る。味はそこそこじゃな。
「じゃあさ、フランちゃんが一番印象に残った劇ってなに?」
「一番か。難しいのう?」
今思いつくだけでも、10個は浮かんでくる。その中から一つだけを選ぶなんて酷じゃ。
「あ、印象に残った劇ならあるぞ?」
「なになに?」
「『海の底で貝を食べるには』の初回公演」
瞬間、フォガートが飲んでいたビールを噴き出す。
「ふ、フラン!何を言う気だ!」
「大したことではない。終盤の盛り上がりでセリフを盛大に噛んだ奴がおっただけじゃ」
「フラン!?」
あたふたするフォガートをラフティとギオハはニヤつきながら眺める。
「へぇ~。どんな役者なんでしょうね?」
「本当だよな。どこのフォガートが噛んだんだろうな?」
「お前ら!分かってて言ってるだろ!」
白々しく話すわしらに怒鳴るフォガート。顔が赤いのは酒のせいかのう?
なんだかんだ話している内に緊張もほぐれて来たのう。そうじゃ、良いことを思いついた。
「のう、その劇の様子を実際に見たくはないか?」
「は?そんなこと出来るのか?」
「出来るぞ。『メモリアルバック』」
わしが空中に手をかざすと、光る板のような物が出て来た。板には若き日のフォガートが部隊に立っていた。
「これって?」
「見聞きした物を可視化するスキルじゃな。一度見た物であれば忘れておっても可視化できる便利なスキルじゃ」
「確かに便利だ。……ん?」
感心したように頷くフォガートだったが、何かに気が付いたのか顔を青くしていった。
「待て、それって……」
「皆でフォガートの初舞台でも見ながら酒を飲もう」
「良いわね」
「はっはっは!面白そうだな!」
「待て!私は許可してないぞ!」
「お主の許可がいるのか?」
「本人の許可がいらない訳ないだろう!?私が訴えれば勝てるぞ!?」
「一理あるのう」
「訴えられたら困るわね」
「確かにな」
「それは置いておいて再生するぞ」
「一切合切を無視した!?」
騒ぐフォガートを無視して、わしは映像を再生する。映像の中のフォガートが高らかと喋り始める。
『私はマリン。海が大好きなの』
「今より声が若いわね」
「演技もたどたどしいな」
「やめてくれ!未熟な時の演技を見られることは何よりも恥ずかしいんだ!」
「そんなの誰だって同じよ?」
「知っててやってるに決まってるだろ」
「余計にたちが悪いな!?」
「叫ぶと周りの客に迷惑じゃぞ?」
「誰のせいだ!」
こうして、わしらはフォガートの初舞台の鑑賞会で盛り上がったのじゃった。
この日以来、わしは3人と友達になり、たまに遊びにいくようになったのじゃった。
0
あなたにおすすめの小説
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~
めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。
しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。
そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。
その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。
(スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)
社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。
本条蒼依
ファンタジー
山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、
残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして
遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。
そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を
拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、
町から逃げ出すところから始まる。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる