魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百五十七話 それは流石に嘘だよ

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 お腹も空いたし、お昼ご飯を食べることになった。ノエルにとっては夜ご飯なんだけどね。
 ホウリお兄ちゃんが立ち上がると、リンお姉ちゃんに手を伸ばした。


「凛、飯に行く前に、あれを出してくれるか?」
「オッケー」
「あれって何?」
「この世界にいる間、ずっと制服でいるわけにはいかないだろ?だから、凛に子供服を持ってきてもらったんだよ」


 そういえば、洋服も何も持ってきてなかったや。流石はホウリお兄ちゃんだ。


「孤児院でいらない洋服を貰ってきたわ」
「助かる。俺は先に外に出ておくから着替えたら出てきてくれ」
「はーい」


 ホウリお兄ちゃんがリビングのドアノブに手を掛ける。


「あ、そうだ」


 何かを思い出したのか、ホウリお兄ちゃんが振り向く。


「家探ししようと思うなよ?最悪死ぬからな?」
「そ、そんな下品なことしないわよ」
「だったらいいんだ」


 リンお姉ちゃんの額から汗が流れ落ちる。まだ暑いのかな?
 ホウリお兄ちゃんが居なくなったリビングで、リンお姉ちゃんは汗を拭く。そして、バッグの中からピンポン玉くらいの玉を取り出した。よく見ると中心には切れ込みが入っている。


「なにこれ?」
「これはね、知り合いの発明家が開発した『携帯化カプセル』よ。ある程度の大きさのものだったら、このカプセルの中に入れて持ち運べるの」
「どうやって使うの?」
「切れ込みに沿って捻ればいいのよ」


 リンお姉ちゃんがカプセルを捻ると、ポンという弾ける音と共に洋服が飛び出してきた。


「わあ!」
「凄いでしょ?これがあれば物をかさ張らずに持ち運べるのよね」
「凄いね!お洋服も可愛い!」


 出て来た洋服は白いワンピースだった。肩の紐は黒になっていて、腰の部分には黒のリボンが付いている。


「気に入ってくれたようで嬉しいわ。じゃあ、今着ている洋服はカプセルに入れて私が預かっておくわね」
「自分で持っておくから大丈夫!」
「でも、ノエルちゃんってバッグも何も持っていないでしょ?」
「アイテムボックスに仕舞うから大丈夫だよー」
「アイテムボックス?」


 リンお姉ちゃんが首を捻る。まるで、始めて聞く単語に対する反応みたいだ。


「もしかしてさ、アイテムボックスってこの世界に無い?」
「私は聞いたことないかな?どういう物?」
「説明するよりも、見て貰った方が早いかな?」


 アイテムボックスを出して、その中からガムテープを取り出す。


「え?なにも無いところからガムテープ!?」
「こういう感じでアイテムを入れておくものなんだ」
「手品じゃないわよね?」


 リンお姉ちゃんがノエルの目の前の空間に手をブンブンさせる。この反応を見るに、この世界にはアイテムボックスは無いみたい。


「手品じゃないよー」
「じゃあ、本当にバッグとかいらないの?」
「うん」
「便利ね~。私も欲しいわ。物はいくつ入るの?」
「ノエルは15個」
「結構入るわね」


 リンお姉ちゃんから羨ましいそうな視線を向けられる。そっか、アイテムボックスが無い世界もあるんだ。
 アイテムボックスが無い生活なんて、考えたことも無い。アイテムを全部持って歩く必要があるんだよね?とっても大変そうだ。


「話しすぎちゃったわね。鳳梨君を待たせちゃ悪いし、そろそろ着替えようか?」
「はーい」


 貰った洋服に着替えて、制服はアイテムボックスに仕舞う。これでよし。


「準備オッケー」
「やっぱり可愛いわね。この洋服を持って来たかいがあったわ」
「えへへ、ありがと」


 リンお姉ちゃんと仲良く手を繋いで家を出る。
 扉を開けると、ホウリお兄ちゃんが壁にもたれかかって板のようなものを触っていた。


「お待たせ」
「おう。じゃあ行くか。何か食べたい物あるか?」
「ハンバァァァァグ!」
「私はパスタが良いわね」
「じゃあファミレスだな」
「鳳梨君のおごり?」
「勿論」
「じゃあパフェも食べていい?」
「何十杯でも食って良いぞ」
「1杯で良いわよ」


 そんなやり取りをしながら、階段を下りる。
 さっきは気付かなかったけど、階段も金属だ。元の世界にはあんまり無いし珍しい。


「階段が珍しいの?」


 ノエルの視線が階段に向いているのに気付いたのか、リンお姉ちゃんが聞いてくる。


「うん。金属の階段ってあんまり見ないから珍しくって」
「そっちの世界って金属の階段ないの?」
「あの世界は武器が必要だからな。建物とかには木が使われることが多い」
「へぇー、『お国柄』ならぬ『お世界柄』って奴ね」


 そっか。この世界には魔物がいないんだ。だったら、武器を作る必要もないんだ。


「そういうことだ。ノエル、この世界では銃とナイフは出すなよ」
「えー、なんで?」
「所持が禁止されているからだ」
「ぶうー」
「ぶうたれてもダメだ。戦う時は拳でなんとかしろ」
「……はーい」


 ナイフと銃、使い慣れててお気に入りだったんだけどなぁ。


「ノエルちゃん戦えるの?」
「うん」
「結構強いぞ」
「どのくらい?」
「クラスの中で、倫太郎以外には負けないくらいだな」
「化け物じゃない……」
「色々と特別だからな」
「良く分からないけど、ノエル褒められてる?」
「そうだな」
「わーい!」


 そんなこんなで、ノエル達は街の中へと繰り出した。


☆   ☆   ☆   ☆


 街の中は、珍しいもので溢れていた。道行く人が来ている物はカラフルで個性的だし、建物は形も高さも様々だ。
 それに何より、車がとっても多い!


「わあ!車がいっぱいだ!」
「あっちの世界でも車ってあるの?」
「あるが数は少ないな。まだ馬車が主流だ」
「ねぇねぇ、あの細長いものは何?」
「あれは電車だ。線路を引いて、その上を移動する乗り物だ」
「電車は知らないのに線路は知ってるのね」
「トロッコはあるからな」


 ノエルとリンお姉ちゃんの質問をホウリお兄ちゃんが答えていく。


「ねえねえ、あの赤と緑色のやつ何?」
「あれは信号だ。車が多いから向こうの道まで行くのが大変だろ?あの信号で車と人が通れる時間を切り替えるんだ」
「そっちの世界の魔物ってどんなのなの?」
「人を襲う獣って考えで良い。有名なスライムとかもいるぞ」
「ねぇねぇ、板みたいなものを持っている人が多いけど、あれ何?」
「スマートフォンだ。あれを使えば情報を収集したり、遠隔で医師の疎通が図れる」
「凄い!ノエルも欲しい!」
「後で貸してやるから我慢しろ」
「異世界ってどれくらいの生活水準なの?」
「衛生面と食は完璧だ。治安は少し悪いが、街中でいきなり刺されたりとかはない」


 ホウリお兄ちゃんに質問しながら、歩いていると『ギークーン』という赤い看板が見えてきた。


「あそこが目的地だ」
「『ふぁみれす』だっけ?」
「そうよ。ハンバーグからパフェまで色んなメニューがあるわ」
「凄い!楽しみ!」


 お店の壁がガラス張りになっていて、中の様子が丸見えだ。お店の中もかなり広く、100人以上は入れそうだ。
 今いるお客さんは70人くらいかな?待たないで入れそうだ。
 そう思いつつ、お店の入口に立ち、ノエルは首を捻る。


「あれ?扉が無いよ?」


 レジとかが見えるし、ここが入口だと思うけど入れそうなところが無い。あるのはガラスの壁だけだ。ガラスの壁には縦に隙間がある。引き戸だとしても取っ手もないし、どうするんだろ?


「ねえねえ、何処から入るの?」
「ここからだ。俺達についてこい」


 言われた通りホウリお兄ちゃんとリンお姉ちゃんに付いていく。
 すると、ガラスの壁が独りでに開いた。


「え!?なんで!?」
「人が近づいたときに自動で開く扉だ。不思議だろ?」
「うん」


 ミントお兄ちゃんに見せたら、興奮しながら分解しそうだ。あとで、どういう仕組みか聞いておこっと。
 お店に入ると、店員さんに席まで案内される。ノエルが窓際の席にすわると、隣にはホウリお兄ちゃん、正面にはリンお姉ちゃんが座った。


「こちらがメニューでございます」


 皆の前に写真つきのメニューが置かれ、店員さんは去っていった。


「おお!メニューに写真が付いてる!豪華だ!」
「写真が珍しいの?」
「写真が、というよりはメニューに写真が載っているのが珍しい。あっちだと文字だけだ」
「不便ねぇ」


 ノエルが夢中になってメニューをめくる。ハンバーグは……あった!


「チーズハンバーグとキャラメルパフェ!」
「私はカルボナーラとフォンダンショコラにしようかしら」
「俺はガーリック焼き肉丼の大盛り。デザートは全部だな」
「決まりだね。すみま……」
「ちょっと待った」


 店員さんを呼ぼうと上げようとした手をホウリお兄ちゃんに止められる。


「どうしたの?」
「わざわざ声を出さなくても店員を呼ぶ方法があるんだ」
「え?どうするの?」


 ホウリお兄ちゃんがテーブルにあったスイッチをノエルの前に置く。


「これを押せば店員がやってくるぞ」
「うっそだー。ボタンを押しただけで店員さんが来るわけない訳ないよ」
「本当だ。やってみろ」
「大丈夫?自爆ボタンとかじゃないよね?」
「今回は大丈夫だ」
「『今回は』?普段は自爆スイッチを押させてるように聞こえるけど?」
「ははは」
「えへへ」
「噓でしょ!?」


 一応、何があっても良いように魔装しながらボタンを押す。
 すると、厨房の方でポーンという音がして、店員さんがやって来た。


「お待たせしました」
「え?え?」
「チーズハンバーグとカルボナーラと───」


 ホウリお兄ちゃんが注文をしている間、ノエルはボタンと店員さんを交互に見る。


「───以上で」
「かしこまりました」
「あ、あの……」
「ん?何かな?」


 注文を聞き終わった店員さんが、しゃがんでノエルと目線を合わせてくれる。


「なんでこのボタンを押したら店員さんが来たんですか?」
「このボタンを押すと、厨房に合図が行くの。それを見て私が来たの」
「へぇー、凄いですね!」
「ふふっ、ありがと」


 微笑ましそうに笑った店員さんは、厨房へと戻っていった。


「これってかなり便利だよね。あっちの世界でも出来ないの?」
「あっちは電波とかの出力がこっちよりも弱いからな。そこを改善するか、ケーブルでつなぐかしないと無理だな」
「ちぇー。便利なのにー」


 そういえば、最初の人達もこの世界との違いに苦労したって言ってたっけ。やっぱり、違うって大変なんだ。


「そういえばさ、ここの店員さんはホウリお兄ちゃんがスイーツ全部を頼んでも驚かなかったね?」
「行きつけだからな。慣れたんだろ」
「私も良く来るわ。安くて美味しいのよね」
「あと1ヶ月で期間限定メニューも変わるしな。次は梨のデザートらしいぞ」
「当たり前のように公開前の情報を把握してるのね。もう驚かないけど」


 お話を聞いている限り、ホウリお兄ちゃんはこの世界でも似たようなものらしい。なんだか安心する。
 そんなこんなで、ノエル達はお昼ご飯を楽しんだのだった。
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