魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百五十四話 おめえも頑張んだよ

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「へぇ、ノエルちゃんも特別な力を持ってるんだ」
「ああ。回復と超怪力、これが使える限りノエルは負けない。しかも、エネルギーが無限だから、体力と集中力が続く限り使える」


 ご飯を食べている間、ホウリお兄ちゃんはノエルの能力を説明する。
 ノエルの能力はあまり話さない方が良い。けど、リンお姉ちゃんは別の世界の人だし、しばらくは一緒にいる訳だし、説明した方が良い。そうホウリお兄ちゃんは言ってた。
 ノエルは話を半分聞きながら、ハンバーグを口に入れる。トロリと濃厚なチーズと肉汁がたまらない。


「その能力ってどのくらいの強さなの?」
「回復能力は全身が細切れにされても再生できるくらいの強さで、自分にも他人にも使える」
「強すぎない?チートでしょ?」
「そうだな。で、超怪力の方は力と防御力が上がる」
「回復能力に比べて地味ね」
「発動時間は最大5時間。威力は戦車を破壊できるくらいだな」
「前言撤回。やっぱり異常だったわ」


 この世界のチーズは、あっちの世界よりも癖が少ない。これならいっぱい食べられそうだ。


「継続戦闘も出来て、傷も癒せる。確かに強いわね。能力を切れる倫太郎君じゃないと勝てないのも納得だわ」
「それに銃とかの武器も使えるからな」
「こんな小さい子がねぇ」


 このハンバーグ、ご飯とも合う。コーンスープも甘くて美味しい。
 この世界の通貨は良く分からないんだけど、これで安いならお得だ。


「こう見えても苦労してんだぞ?」
「そうなの?」
「エネルギーが無限って言っただろ?それを悪用しようとする奴もいるんだよ」
「聞いた限りだと、襲われても大丈夫なんじゃない?」
「最初から強かったわけじゃないからな。訓練を重ねて、それだけの力を手に入れたんだよ」
「鳳梨君が特訓しているの?」
「ああ」


 最後のハンバーグのかけらを口の中に押し込み、ご飯をかき込む。


「ごちそうさまでした」
「お待たせしました。キャラメルパフェです」
「ありがとうございまーす」


 ノエルの前にキャラメルパフェが置かれる。パフェ特有の長いスプーンを持って上のアイスクリームを食べてみる。牛乳の自然の甘みが口の中に広がる。今まで食べて来たパフェの中で一番美味しいかも。


「鳳梨君の特訓ねぇ?酷いことしてないでしょうね?」
「酷いことはしてない。容赦もしてないけどな」
「不安ね」


 あ、ナッツが下の方に入ってる。香ばしくてキャラメルと会うなぁ。


「ノエルにこの世界の常識は無いからな。すまないが、サポートしてやってくれ」
「可愛い子と一緒にお出かけ出来るし、構わないわよ。けど、2人で生活するとなると先立つものが必要よね?」
「分かってるよ。とりあえず10万円でいいか?」
「……もう一声」
「欲を出すな。10万円で我慢しろ」
「ちぇー」
「ごちそうさまでした!」


 食べ終わったパフェの容器にスプーンを入れて手を合わせる。美味しかったぁ~。
 満足そうにお腹をさすっていると、リンお姉ちゃんがすまーとふぉんを取り出した。


「誰かとお話するの?」
「違うわよ。スマートフォンは動画とかSNSも見られるの」
「えすえぬえす?」
「んー、SNSの説明って難しいわね?」
「実際に見せたらどうだ?」
「それもそうね」


 リンお姉ちゃんは身を乗り出してスマートフォンを見せて来る。


「いっぱい文字が書いてあるね?」
「周りで起こった事とかを皆に公開して、反応をかき込んだりするんだ」
「色んな人の事が見られるのは良いね」
「でしょ?ついつい見ちゃうのよね」
「見るのは良いが、そろそろ行くぞ。準備しろよ」
「はーい」


 リンお姉ちゃんがスマートフォンをバッグに仕舞う。残念、もっと見たかったのに。


「会計してくる。先に外に出ててくれ」
「今更なんだけど、メニューのスイーツを全部頼んだホウリ君が、私達よりも食べるの早いのはなんでなの?」
「食べるのが早いからだ」
「明解な理由ね」


 ホウリお兄ちゃんが伝票を持ってレジに向かう。
 ノエルはリンお姉ちゃんと一緒に外に出る。


「美味しかったねー」
「そうね」


 リンお姉ちゃんと笑いあっていると、ホウリお兄ちゃんが暗い顔で出て来た。


「何かあったの?」
「ああ。この近くで敵が確認されたらしい」
「どっちの敵?」
「悪の秘密結社。団員は1人みたいだが、滅茶苦茶強いロボットを持っているらしい」
「滅茶苦茶強いロボットって、頭悪そうね」
「そういう風にしか聞いてないからな。出歩くときは気を付けてくれ」
「はーい」
「あと、ノエル」


 ホウリお兄ちゃんがしゃがんでノエルに視線を合わせる。


「最初に武器は使うなって言ったな?」
「うん。覚えてるよ」
「前言撤回だ。必要と感じたら容赦なく使え」
「そんなに強いの?」
「多分な。一番は出会わないことだが、出会ったら全力で戦え」
「分かった」
「話は以上だ。俺は天界に行ってくる」


 ホウリお兄ちゃんは立ち上がって黄色っぽい透明な石を取り出す。


「神様の手伝いだっけ?鳳梨君も大変ね」
「世界を管理している奴が頼りないからな。今まで管理を出来ていたのが不思議なくらいだ」
「この世界の命運は鳳梨君に掛かってるわけね」
「あながち間違いじゃないな」


 ホウリお兄ちゃんがノエルの頭を優しく撫でる。


「じゃあ、行ってくる」
「ヤダ」


 行ってしまわないように、ホウリお兄ちゃんの足にしがみつく。


「ノエルちゃん?」


 後ろからリンお姉ちゃんの困惑した声が聞こえる。けど、ノエルはホウリお兄ちゃんから離れない。
 頭上からホウリお兄ちゃんの変わらない優しい声がする。


「どうした?」
「行っちゃヤダ」
「数日で帰ってくる。だから、少しだけ我慢してくれないか?」
「ヤダ」
「どうしてもか?」
「どうしてもヤダ」
「そうか」


 頭上でホウリお兄ちゃんが頭を掻く気配がする。


「確かに勝手を知らない世界で、知り合いがいないのは心細いとは思う。だけどな、下手したら世界全体の危機になりかねないんだ」
「でもヤダ」
「ノエルがそんなに我儘を言うなんて珍しいな」
「だって……」


 我慢しないといけないって言うのは分かる。けど、どうしても行って欲しくない。


「うう……寂しいよぉ……ノエルを置いていかないでよぉ……」


 涙があふれて来る、しがみつく腕に力がこもる、言葉が詰まる。いつもとは違うノエルに身を任せながら、ホウリお兄ちゃんに気持ちをぶつける。


「もう一人は嫌だよぉ……行かないでよぉ……」


 記憶の奥から村で暮らしていた時の記憶が溢れて来る。お母さんとお父さんの最期、真っ暗な壺の中で震えながら聞く怒号や悲鳴、打って変わって一切の物音が聞こえなくなった村。
 もしかして、もう会えないんじゃないか。そう思うと堪らなく怖いし寂しい。


「うう……ひぐっ……」


 言葉も出なくなって、ノエルは泣くしか出来なくなる。
 ホウリお兄ちゃんの足にしがみついて、何も出来ずに泣きじゃくる。


「……鳳梨君、天界に行くのって今じゃないといけないの?」
「早めに対処しないと、こっちとあっちの世界が大変なことになる可能性がある。凛にノエルの説明も済ませたし、早めに天界に行っておきたい」
「そう……」
「ノエル」


 ホウリお兄ちゃんはしゃがんでノエルを抱きしめてくる。


「俺だってノエルを残していくのは辛い。けどな、ノエルを信用しているからこそ、この世界に残せしていけるんだ」
「……ぐすっ」
「それに、俺がいかないとノエルの友達も危ないかもしれない。それは嫌だろ?」
「…………いつ帰ってくるの?」
「最大でも2日では帰ってくる」
「ほんと?」
「勿論だ。俺が約束を破ったことがあるか?」
「……分かった」


 ホウリお兄ちゃんから解放され、ノエルは足から離れる。
 ホウリお兄ちゃんは優しく微笑むと、リンお姉ちゃんのほうを向いた。


「何かあったら、通信機で俺に連絡してくれ」
「分かったわ」
「ノエルを頼んだぞ」
「勿論よ。何なら1ヶ月後に帰ってきてもいいわよ」
「必ず2日で帰ってくるからな?」
「ふふ、冗談よ。頑張ってね」
「おう」


 ホウリお兄ちゃんは黄色のクリスタルを構えて、ノエル達に微笑む。


「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい」


 ホウリお兄ちゃんは黄色の光に包まれると、姿を消したのだった。


「……リンお姉ちゃん」
「何かしら?」
「ギュってしてもいい?」


 リンお姉ちゃんは頷き、ノエルは力いっぱい抱き着く。リンお姉ちゃんは何も言わずにノエルを抱きしめてくれる。
 ホウリお兄ちゃんがいないけど、頑張らないと。
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