魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百五十六話 俺のDAーーーー!

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「あれ?何してるの?」

 男の人に正座させて、目の前で仁王立ちしていると、後ろからリンお姉ちゃんの声が聞こえた。
 振り向いてみると、いっぱいの缶ジュースを抱えたリンお姉ちゃんがいた。


「その人誰?なんで制服着てるの?そこの壊れたロボットは何?」
「あ、リンお姉ちゃん」


 手を振って答えると、リンお姉ちゃんが小走りでやって来た。


「わあ!いっぱいジュースあるね!どれも美味しそう!」
「そんなことより、この状況を説明してくれない?」
「うん!」


 ノエルは今まであったことをリンお姉ちゃんに詳しく説明する。


「それでね、服がボロボロになっちゃったから、制服に着替えたんだ」


 ボロボロになった服をリンお姉ちゃんに差し出して、頭を下げる。


「ボロボロにしちゃってごめんなさい」


 差し出した服は、もう服とは言えないくらい焦げたり、破れていたりしている。服っていうより雑巾の方が近いかな。
 リンお姉ちゃんは、ベンチに缶ジュースを置いて、なんでも無いように服を受け取る。


「孤児院で使ってなかった服だし、気にしなくていいわよ。それよりも、そいつの処遇よね」
「この人どうなっちゃうの?」
「こういう表立って逮捕できない人を逮捕する機関があるのよ。そこに連絡するわ。ちょっと待っててね」


 そう言ってリンお姉ちゃんはスマートフォンを取り出して電話を掛ける。
 電話ってどういう感じなんだろ?ノエルも掛けてみたいなぁ。


「……はい、はい。そうです。場所は岩谷公園です。被害はほぼ0です。はい、お願いします」


 電話を切って、リンお姉ちゃんが男の人に視線を向ける。


「今から警察みたいな人達が来るわ。それまで大人しくしてなさい」
「どんな人達なの?」
「超能力者とか悪の組織とか、非科学的とされている存在を捕獲する人たちよ」
「……私はどうなるのでしょうか?」
「知らないわ。まあ、大きな被害は無いんだし、殺されることは無いと思うわ。……多分」
「そういえばさ、あなたのお名前は何っていうの?」
「……沢井修二さわいしゅうじ


 シュウジおじちゃんは猫背で、ぼそりと呟くように答える。


「シュウジおじちゃんは、なんでノエルを攫おうとしたの?」
「……話したところで理解できませんよ」
「聞かないと分からないでしょ!良いから話して!」
「はい!」


 ノエルの言葉に背筋をピンと伸ばし、シュウジおじちゃんは話を始める。


「私がお嬢ちゃんを攫おうとしたのは、莫大なエネルギーが必要だったからだ」
「そういえば、戦ってるときも言ってたっけ。なんでノエルにエネルギーがあるって分かったの?」


 ノエルがこの世界にきてから3時間くらいしか経ってない。ホウリお兄ちゃん並みの情報収集能力があるとしても早すぎる。
 ノエルの質問にシュウジおじちゃんはダウジングマシーンを取り出した。


「なにそれ?」
「これは高濃度のエネルギーを観測する装置です。この街の中に高濃度のエネルギーの物体が現れたときに備えて、常に装置を起動していたのです」
「それでノエルのところに来たんだ」


 ノエルが来たのを知って襲った訳じゃなくて、エネルギーの反応があったから襲ったんだ。だから、ノエルの能力については知らなかった、これで納得がいった。


「エネルギーはどのくらい必要だったの?」
「日本で使われるエネルギーの3年分だ」
「それって多いの?」
「多いなんてものじゃないわ。莫大すぎて眩暈がするレベルね。そんなに大量のエネルギーを何に使うつもりだったのかしら?」
「俺をバカにした奴らに復讐するためさ!」


 シュウジおじちゃんが急に目を血走らせて叫ぶ。


「私の発明をガラクタとか役立たずとか、蔑んだ奴らを全員跪かせる!そのために私は生きているのだ!」


 戦っているときのように興奮しながら叫ぶシュウジおじちゃん。顔も真っ赤になっているし、手も空に掲げたりしている。シュウジおじちゃんにとって余程大切なものなんだと思う。


「具体的には何をするつもりだったのかしら?」
「鋼鉄のロボット軍団を作り日本を制圧する!そして行く行くは、世界すらも私のものにする!私をバカにする奴らの恐怖する表情が目に浮かぶようだ!」


 口から唾が飛ぶのも気にせずに、シュウジおじちゃんは熱弁を続ける。
 そんなシュウジおじちゃんをリンお姉ちゃんは冷めた視線を向ける。


「そんなの成功するわけないでしょ。いくら強いロボットを作っても、それを超える奴らなんてゴロゴロいるものよ」


 リンお姉ちゃんの言葉に、饒舌だったシュウジおじちゃんは猫背で俯く。


「……そのようだ。現に私のロボットは、こんなに小さなお嬢さんに負けてしまった。私の30年は無駄だった訳だ」
「30年!?」


 衝撃の事実にノエルは思わず叫んでしまう。それを受けてシュウジおじちゃんは自虐的に笑う。


「そうだ。あんなガラクタに30年も費やしたのだ。もはや笑われるくらいしか価値など……」
「凄いね!たった30年であんなに強いロボットが出来るんだ!」
「……へ?」


 ノエルの熱弁にシュウジおじちゃんの目が丸くなる。あれ?変なこと言ったかな?


「だってさ、あのロボットって色んなことが出来るでしょ?」
「あ、ああ。時空ごと物を切り裂いたり、毒ガスを撒き散らしたり、重力を操作出来たり……」
「待って、あのロボットってそんなにヤバい機能が付いてたの?」
「他にも対象のバイタルを可視化したり、腕を1㎞伸ばしたり、強固な装甲の中に対象を収納できたりする」
「高性能すぎるわね。それに勝てるノエルちゃんって何者なのよ」
「捕獲じゃなくて、命を狙われてたら危なかったね~」


 初めに体を真っ二つにされたらセイントヒールする間も無く、やられていたかもしれない。手りゅう弾が無かったら脱出も出来なかったし、勝てたのってかなり運が良かったかも?


「そんな凄いロボットをたった30年で作ったんだよ!?それって凄いでしょ!無駄なんかじゃないよ!」
「確かにね。技術力だけは認めるわ」
「……だが、計画が潰れた今となっては何の意味も無い」
「そんなことないよ。だってさ」


 ノエルはしゃがんでシュウジおじちゃんを目を合わせる。


「シュウジおじちゃんの本当にやりたいことって世界征服じゃないでしょ?」
「!?」


 シュウジおじちゃんの顔に動揺が現れる。うん、ノエルの考えは間違ってないみたい。


「そ、そんなことは……」
「だってさ、シュウジおじちゃんの目的って最終的に『見返したい』っていうことなんでしょ?つまりさ、世界征服は見返すための手段であって目的じゃない、でしょ?」
「そんな……ことは……」


 シュウジおじちゃんはひたすらに目を泳がせる。
 これは、フランお姉ちゃんがホウリお兄ちゃんに嘘を吐くときと同じ反応だ。ノエルの考えは当たってるみたい。


「見返すんだったらさ、もう目的は達成出来るんじゃない?あんなに凄いロボットを作れるんだからさ」
「……そうか、私の望みはそんな簡単なことだったのか」
「ん?」


 なんか思ってた反応じゃないみたい。まるで、自分がやりたいことが分からないって感じだ。
 首を傾げていると、俯いていたシュウジおじちゃんが顔を上げた。


「思い出したよ。始めは皆を驚かせるために発明をしたんだ。私は凄いんだぞ、こんな発明が出来るんだぞ、ってね。だが、周りから認められない焦りから、いつの日か目的が歪んでしまった」
「それで世界征服って訳ね」
「今更思い出しても遅いがね。これで私の30年が本当に無駄になってしまった訳だ」
「だーかーら!無駄じゃないって言ってるでしょ!」


 ノエルは頬を膨らませてシュウジおじちゃんに抗議する。


「目的が間違ってても、出来た物は凄いんだから!ノエルがこの世界で見て来た中で、あのロボット以上に凄いものは無かったんだよ!だから悪く言わないで!」
「なんで製作者じゃなくてノエルちゃんが怒ってるのよ」
「ムッキー!」
「言葉を忘れるほどなの!?」
「……あ、そうだ」


 地団駄を踏んで怒りを表現していると、とある考えが頭に浮かんだ。


「今からその人達のところに行こうよ。で、ロボットを見せつけて『凄いだろー』って自慢しようよ」
「は?」
「場所はホウリお兄ちゃんなら知ってると思うし、すぐに行こうか」
「え、いや、でも……」
「あ、ノエルも付いていこうか?使用者の意見もあった方が商品の良さが伝わるよね」
「戦闘用のロボットを商品扱いしないで!?」
「あ、そっか。ロボット壊れちゃってるのか。修理ってどのくらいかかる?」
「そういう問題じゃないよ!?ちょっと落ち着いて!?」


 リンお姉ちゃんが強制的にノエルを自分の方へ向け、肩に手を置く。


「いい?ノエルちゃんはこの人に攫われそうになったのよ?」
「うん」
「だから、この人はこれから捕まるの」
「うん」
「ロボットも危険なものだから修理なんてもっての他なの」
「うん」
「だから、ロボットの自慢なんて出来ないの」
「えー?なんでー?」
「今説明したよね!?」
「だってさ、もう悪いことしないでしょ?ちょっとくらい良いでしょ」
「それがダメなの!もう一回説明するけど───」


 同じ説明を何回も聞きながら、ノエルはソッポを向く。ちょっと、ロボットを自慢するだけじゃん。逃げる訳じゃないんだし。


「こら!真面目に聞きなさい!」
「ヤダ!今じゃないとシュウジおじちゃんがロボットを自慢できる機会なんてないもん!」
「それは……そうだけど……」


 押し問答をしていると、後ろから沢山の人の気配を感じた。振り返ってみると、黒いスーツとサングラスを付けた人が4人やってくるのが見えた。


「どうやら、時間のようね」
「むぅ、もっと遅くても良かったのに……」
「そういう訳にもいかないのよ」


 サングラスの人の一人が、ノエル達の方にやってきた。


「通報の人物はこいつですか?」
「そうです」
「ご協力感謝します。ほら立て!」


 サングラスの人達はシュウジおじちゃんを立ち上がらせると、公園の外へと連れて行こうとする。シュウジおじちゃんも抵抗せずに立ち上がった。
 どうしよう、このままだとシュウジおじちゃんに何も出来ないまま、お別れになっちゃう。
 頭を回しても何のアイディアも浮かばない。だったら……
 

「ノエルちゃん!?」


 ノエルはシュウジおじちゃんの元へ駆けだして、腰に抱き着く。驚いてノエルの方を向いたシュウジおじちゃんにノエルは満面の笑みを向ける。


「シュウジおじちゃんは凄いんだから大丈夫!これから何があっても負けないでね!」
「……ああ。ありがとう」


 シュウジおじちゃんは少しだけ笑う。ノエルはサングラスの人に引きはがされ、シュウジおじちゃんは公園の外に連れていかれた。


「少しでも力になれたかな」


 連れて行かれるシュウジおじちゃんを見ながら、ノエルは呟いた。


☆   ☆   ☆   ☆


「鳳梨君、少し良いかしら?」
『別に良いがどうした?何かあったのか?』
「ノエルちゃんの事で少しね」
『ただ事じゃなさそうだな。何があった?』
「天界に行く前に、敵対勢力の情報があったでしょ?」
『ああ。まさか、襲われたか?』
「そのまさかよ」
『二人とも無事か?』
「ええ。襲われたのはノエルちゃんだけだったんだけど、なんとか撃退できたわ。ノエルちゃんったら、帰ってくるなり疲れて寝ちゃって。よほど激しい戦いだったのね」
『無事そうで良かった。で、敵はどんな奴だったんだ?』
「次元ごと切る機能とか、重力を操るロボットよ。それ以外にも厄介な機能があったみたいね」
『聞いた限り、ギリギリだっただろ?』
「戦闘を直接見た訳じゃないけど、そうみたいよ。ノエルちゃんは運が良かったって言ってた」
『そうか。詳しいことは帰ってから本人から聞くとしよう。で、要件はこれだけじゃないんだろ?』
「流石鳳梨君ね。私が聞きたいのは、今回の敵ことよ」
『俺はあんまり知らないぞ?調べる時間もなかったしな』
「本当に?」
『嘘ついてどうする』
「嘘を吐く理由は知らないけど、今回の襲撃は鳳梨君が仕組んだものじゃないかって個人的には思ってるわ」
『そう思った理由は?』
「完全に勘よ。違うの?」
『当たらずとも遠からずだな』
「どういう事?」
『正しくは「襲われる可能性があったが放置した」だ。俺が手引きした訳じゃない』
「はぁ、鳳梨君ってそういう所あるわよね。どうせ、ノエルちゃんのためって事なんでしょうけど、もう少し手心とか無いのかしら?」
『ああいう敵は元の世界には少なからずいる。今のうちに慣れておかないとな』
「だったら元の世界でやりなさいよ。なにも来たんばかりの世界でやる必要は無いじゃない」
『元の世界にはノエルの味方が多いからな。中々ピンチにならないんだよ。それに、もう一つ目的があったしな』
「目的?」
『ノエルって優しい子だったろ?』
「ええ。自分を攫おうとした奴を慰めてたわ。あんなに純粋で優しい子っているねの」
『その優しさは、あまり悪意に触れてこなかった故のものだ』
「悪意?」
『詳細は省くが、ノエルは両親を殺されたんだ。悪意に触れたのはそれ切りで、その時の記憶もほとんどない。それ以降は必ず愛情を注いでくれる奴が傍にいた。勿論、今も仲間や友達が周りにいる』
「もしかして、ノエルちゃんの人生って激動だったりする?」
『お前らとどっこいどっこいって感じだな。そんな訳で、小さなころから少しずつ悪意に慣れて貰おうと思って訳だ』
「それで何の手も打たなかった訳ね。言いたい事は色々とあるけど、何も知らない私が口を出すのはやめておくわ」
『それに今ノエルは悪意に立ち向かおうとしているしな。今回の経験は必ず役に立つだろうよ』
「悪意に立ち向かう?」
『気になるなら本人に聞け。ただし、直接は聞くなよ?』
「分かってるわよ」
『まだ聞きたい事はあるか?』
「無いわ。また何かあれば連絡するわ」
『了解。じゃあおやすみ』
「おやすみ」
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