魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百五十七話 迷ったなら『撃つな』......だ!

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 シュウジおじちゃんとの激闘の後、ノエルはホウリお兄ちゃんの家に帰ってすぐに眠った。
 小鳥のさえずる声で目を覚ますと、同じベッドでリンお姉ちゃんが寝ていた。


「リンお姉ちゃん?」
「……ん?」


 ノエルが声をかけると、リンお姉ちゃんがゆっくりと目を覚ました。


「んー、おはよノエルちゃん」
「おはよ」


 伸びをしているリンお姉ちゃんに挨拶して、ベッドから降りる。なんとなくだけど、元の世界のベッドよりも眠りやすかった気がする。
 リンお姉ちゃんもベッドから降りて、時計に視線を向ける。


「良い時間だし、朝ごはんにしよっか。パンとご飯、どっちがいい?」
「いつもはパンだから、ご飯が良い!」
「環境が違うと、いつもと別の物が食べたくなる。分かるわ」
「でしょ?」
「お箸は使える?」
「使えるよ」
「じゃあ、ウインナーと玉子焼きとお味噌汁ね」
「ウインナー!」


 ご飯とウインナー!最強の組み合わせ!この世界に来て良かった!


「ちゃちゃっと作っちゃうね」
「お隣で見てて良い?」
「良いけど面白くないわよ?」
「大丈夫!」
「ノエルちゃんが良いなら、別に良いわよ」
「わーい」


 キッチンでリンお姉ちゃんが冷蔵庫から食材を取り出す。


「ノエルちゃんって冷蔵庫は知ってる?」
「うん。元の世界にもあったよ。あとはコンロとか炊飯器とかもあったよ」
「じゃあ、設備の説明はいらないわね」


 鍋にお水を入れて、ウインナーをゆで始める。


「ウインナーは多めが良いなぁ」
「ふふっ、分かったわ」


 リンお姉ちゃんは、そのまま玉子焼きやお味噌汁を手際よく作っていく。


「料理上手だね?」
「独り暮らしが長いからね。簡単なものくらいは作れるわ」
「すっごーい!スターダストの皆よりも上手いかも!」
「鳳梨君は料理つくらないの?」
「作るけど出来は普通だよ?」
「なんでも出来そうなのに意外ね?……ああ、意図的にクオリティを下げてるのか」
「そうなの?」
「多分ね。鳳梨君が本気を出せば三ツ星シェフなんて目じゃないでしょ。美味しすぎるのが当たり前にならない用に手を抜いてるのよ」


 なんだか良く分からないけど、ホウリお兄ちゃんは色んなことを考えているって事かな?


「私も鳳梨君の考えてること全部は分からないわ。けど、ノエルちゃんの事を考えているのは確実よ」
「それは分かるよ」


 お話をしつつ、出来上がったお味噌汁がお椀に盛られる。ウインナーと玉子焼きもお皿に盛られ、朝ごはんの準備が整う。


「リビングに持ってってくれる?」
「はーい」


 お味噌汁とウインナー、玉子焼きをリビングのテーブルに持っていく。熱々でどれも美味しそうだ。
 そこまで考えて、ふと疑問が湧き上がる。
 肝心なご飯が用意できてない。今から炊くとお味噌汁とかが冷めちゃう。これは由々しき問題だ。


「リンお姉ちゃん!ご飯が無いよ!」
「今準備してるから大丈夫よ」


 リンお姉ちゃんはあんまり焦ってない。もしかして、この世界には瞬時にご飯を炊けるのかも。
 そう思って、キッチンに行ってみると、リンお姉ちゃんが小さな箱の機械の中を見ていた。
 半透明の扉から機械の中にオレンジ色の明かりが付いていて、何かが回っているのが見える。


「何それ?」
「これ?電子レンジよ」
「電子レンジ?」


 聞き覚えが無い単語に首を傾げる。


「食材を温められる機械よ。そっちの世界には無いの?」
「無いね」
「へぇ、この家電は使うと手放せなくなるわよ」


 確かに冷めたご飯を温められるのは便利だ。あっちの世界でも使えないかな?ミントお兄ちゃんに頼んでみようかな。
 ピーという音と共に電子レンジから光が消え、リンお姉ちゃんが扉を開ける。中からは白い容器に入った薄い膜で蓋をされている物が出てくる。


「何それ?」
「パックご飯よ」
「パックご飯?」
「炊いたご飯をパックに詰めた物よ。これも無いの?」
「無い」
「世界の違いって結構大きいのね」


 パックご飯をリビングまで持っていき、今度こそ朝ご飯の準備が出来る。


「フィルムを剥がして中のご飯を食べるのよ」


 言われた通り上の幕を剥がしてみると、ホカホカのご飯が入っていた。


「炊かないですぐにご飯が食べられるのは良いね」
「でしょ?味も良いのよ」


 リンお姉ちゃんがご飯を口に入れて、お味噌汁を啜る。ノエルもご飯を食べてみる。


「炊き立てのご飯みたいに美味しいね」
「気に入ってくれて嬉しいわ。いっぱい食べてね」


 口いっぱいにご飯を頬張って、ウインナーをかじる。ジューシーな肉汁がご飯とよく合う。


「うーん、美味しい」
「そういえばさ、元の世界ってどんな所なの?」
「どんな所って?」
「ほら、この世界とどう違うのかなって思ってさ」
「魔物とかスキルとかあるよ」
「鳳梨君もそんなこと言ってたっけ。けど、詳しくは聞いてないのよね」
「んーとね、一人ひとりにステータスが割り当てられていて、魔物を倒すと───」


 スキルとか魔物とか、自分で思いつくことを取り留めも無く説明する。
 分かりにくい説明をリンお姉ちゃんは笑顔で聞く。


「───でね、小学校に入ってからはお友達がいっぱい出来たんだ」
「そうなんだ。ノエルちゃんってお友達も多そうだね?」
「まあね。毎日、皆と遊んでいるんだ」
「楽しいのは良い事ね。でも、何か悩み事とか無いの?」
「悩み事?」


 悩み事って言葉を聞いて、始めに頭に浮かんだのはフロランちゃんの顔だった。
 ノエルはお箸をテーブルに置いて俯く。


「実はね、お友達になりたい子から嫌われてるの」
「どんな子?」
「お金持ちの子なんだけどね、なんでだかノエルのことが嫌いみたい。何回か遊びに誘ったんだけど、断られちゃったんだ」


 ハイファイのお土産も受け取って貰えなかったし、仲良くするのは無理なのかも。


「ノエルちゃんは、なんでその子と仲良くしたいの?」
「なんで?」


 そう言えば、なんで仲良くしたいのかなんて考えたことも無かった。


「だって、皆と仲が良い方が楽しいかなって」
「それだけ?」


 今言ったことは本心だ。けど、フロランちゃんにはもっと別の何かがある気がする。
 今までの事を必死に思い出して、自分の気持ちを探る。
 入学式での新入生代表挨拶、体育の時間の模擬戦闘、テストの結果が出た時、フロランちゃんを見てノエルはどう思った?どう感じた?


「……そっか」


 やっと、ノエルがフロランちゃんと友達になりたいと思った理由が分かった。


「フロランちゃんは傷つけているんだ」


 誰も寄せ付けないという雰囲気を見て感じたんだ。フロランちゃんは誰も信用しないで、自分だけで頑張っている。それは、仲良くしようと近づいてくる子や、戦うべき人、そして自分自身も傷つけているんだ。
 だから、ノエルはフロランちゃんを助けたいと思った。だから、ノエルはフロランちゃんとお友達になりたいと思った。
 お友達になって体の傷も、心の傷も癒したい、そう思ったんだ。
 今分かったことをリンお姉ちゃんにも伝える。すると、少し驚いた表情になった。


「一年生なのに過酷な人生を歩んでいるみたいね」
「どうしたらフロランちゃんとお友達になれるのかな?」
「そうね」


 リンお姉ちゃんは自分のご飯を綺麗に食べて手を合わせる。
 そして、ノエルを真っすぐと見つめて来た。


「実はね、私にもフロランちゃんみたいな子がいるの」
「え?本当?」
「本当よ。私って両親がいなくて、物心ついたときから孤児院にいたの。その個人を運営していた夫婦の子供よ」
「へぇ、どんな子だったの?」
「最初は普通に明るい子だったわよ。ただ、あの事件をきっかけに人を寄せ付けなくなったの」
「あの事件?」
「孤児院全焼事件。私とその子以外は皆死んだわ。その子は両親も見つかってない」
「……え?」


 あまりの出来事にノエルは言葉を失う。リンお姉ちゃんは更に話を続けた。


「その子は孤児院に火をつけたのが、人為的なものだと思ったの。その時から、その子は復讐に取りつかれた。自分に近づく人を敵だと思うくらいには人間不信になったわ」


 ノエルは何て言って良いか分からず目を伏せる。


「けどね、私はその子の傍から離れなかった」
「……なんで?」
「フロランちゃんと同じ。自分を傷つけていたからよ」
「同じ?」


 リンお姉ちゃんに視線を向けると、ゆっくりと頷いた。


「あいつは犯人を恨んでいるけど、同時に放火を止められなかった自分も恨んでいるのよ。だから、自分を傷つけながら犯人を捜している。このままじゃ犯人を見つけても自殺してしまう、そう思ったのよ」
「だから離れなかったの?」
「ええ」


 首に掛かっている星形のロケットペンダントを、大事そうに手で包む。


「あいつがどう思おうと関係ない。傷つくことが避けられないなら、私が半分だけ引き受ける。そう思って毎日話しかけ続けたわ。案の定、ウザがられたけどね」
「その人とは今はどうなってるの?」
「夏休みに買い物に引っ張り出せる位の仲にはなったわ。まあ、異世界に行っちゃって約束は無くなっちゃったけど」
「そうなんだ」
「だからね」


 リンお姉ちゃんがノエルに優しく微笑みかける。


「ノエルちゃんが仲良くなりたいって思ったんだったら、諦めちゃダメよ。絶対にその子と仲良くなるの」
「……うん!」


 リンお姉ちゃんの言葉にノエルは勢いよく頷く。もうノエルの中に迷いは無かった。


「リンお姉ちゃん、ありがと!」
「良いのよ。いい結果になると良いわね」
「うん!」
「さあ、迷いも晴れたのならご飯を食べちゃいましょ。食後にはゲームでもやりましょ」
「ゲーム!やる!」


 置いたお箸を再びとって、残りのご飯を一気に掻きこむ。すると、喉にご飯が詰まって大きくせき込んでしまった。


「ごほっごほっ!」
「大丈夫!?」
「だ、大丈夫」


 差し出されたお水を飲み干し一息つく。


「ふー、助かった」
「焦って食べるからよ。もっと落ち着いて食べなさい」
「はーい」


 こうして、食事を終えたノエル達はゲームを楽しんだのだった。
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