魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百八十七話 いい湯だな

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(チュンチョン)
「んん……」


 窓から差し込む日差しと小鳥の声で目が覚める。


「ああ、朝か」


 頭痛と倦怠感を抱えつつ、僕はベッドから起き上がる。
 戦い詰めだったし、一晩寝ただけじゃ疲れが取れないのも当たり前か。
 もっと寝ていたいという欲求を押し殺しつつ、ベッドから降りる。すると、隣のベッドで寝ていたミエルさんも目を覚ました。


「ここは……」
「ミエルさん、おはようございます」
「ロワ!?なんでここに!?」
「昨日から僕らはオダリムに来てるんですよ?覚えてませんか?」
「あ、そうだったな」


 徐々に目が覚めて来たのか、ミエルさんの目の焦点が合ってくる。


「今何時だ?」
「9時ですね」
「眠ったのは1時。睡眠時間は8時間ほどか。丁度いいな」
「僕はもっと寝たいですけどね。ふあああ……」


 眠気が昇ってきて欠伸が出てしまう。


「もっとシャキッとしてくれ。私たちの働きにこの街と人国の未来が掛かっているんだぞ」


 そう言いながらミエルさんがテキパキと鎧を身に着けていく。僕も胸当てや脛当てなんかを身に着けていく。


「昨日あれだけ戦ったのにミエルさんは元気ですね」
「疲れが取れやすい体質なのかもな。一晩寝れば大抵の疲れは取れる」
「羨ましいですね」


 誰よりも魔物の魔物と戦ってたはずなのにケロっとしている。あれなら遠征も苦にならないだろうなぁ。本当に羨ましい。


「というか、昨日はご飯を食べてそのまま寝ちゃいましたね」
「入浴も歯磨きもしていなかったからな」
「歯くらいは磨いておきますかね?」
「私は風呂に入りたい。流石に臭いが気になってきた」
「そうですか?特に臭いとは思いませんけどね?」


 ミエルさんに近づいて改めて匂いを嗅いでみる、けど、特に嫌な臭いはしない。


「な、なにをしてる!?」


 僕に気付いたミエルさんが顔を真っ赤にして距離を取った。


「え?臭いを嗅いでいただけですよ?」
「だけってなんだ!デリカシーが無いにも程があるぞ!?」
「ですが、全然臭くないですよ?むしろいい匂いです」
「良い匂いって……とにかく!露骨に匂いを嗅がれるのを嫌う者もいるんだ!そういうのは控えるように!」


 ミエルさんがソッポを向いてしまう。そっか、匂いを嗅がれるのが嫌な人もいるんだ。今後は気を付けないと。


「……ロワは匂いフェチなのか?」(ボソッ)
「何か言いました?」
「なんでもない。さっさと食堂に向かうぞ」


 ミエルさんは僕の方を向かずに部屋から出ていきました。
 なんだか、ミエルさんの耳が真っ赤だったような?気のせいかな?
 そんな事を考えつつ、僕はミエルさんの後を追って階段を降りる。すると、人がちらほらといる食堂の奥の席に、ホウリさんとミエルさんが一緒のテーブルで向かい合っていた。
 ホウリさんは僕に気が付くと手を振ってくる。


「遅いぞロワ」
「すみません」


 頭を下げながらミエルさんの隣に座る。この街にいるときはホウリさんから戦闘の開始時間と終了時間を聞かされることになってる。なんでも、人員の集まり具合や敵の種類によって、対応が変わるそうだ。


「今日は10時から入ってもらう」
「何時に終わるんですか?」
「まさか、昨日みたいに12時間戦えって言わないよな?」
「安心しろ、昨日よりは冒険者の数も集まっているから、お前らの戦闘時間も短くなってる」
「そうでしたか」


 よかった、また12時間戦えって言われるのかと思った。流石に二日連続でそんなことは────


「終わるのは21時半だ」
「実働時間11時間半!?」
「あんまり変わってないじゃないですか!?」
「30分も減ってるんだぞ?不満か?」
「逆になぜ不満ではないと思った?」


 ホウリさんが不思議そうに首を傾げる。絶対に分かってて言ってるよ。


「冗談ですよね?」
「悪いが冗談じゃない」
「人が増えたんですよね?なんで、昨日と戦う時間が変わってないんですか?」
「敵が強くなってるからだ。ロワの支援力とミエルの防御力は他に替えが効かないからな」
「それはそうかもしれませんけど」


 神級スキルに匹敵する人材なんて、そうそう見つかるものじゃない。僕らが出ないと厳しいのは分かってる。


「でも、休みたいんですよねぇ」
「気持ちは分かるが、今は頑張ってくれ」
「ロワ弱音は吐くな。やるしかないんだ」
「す、すみません」


 ホウリさんとミエルさんに鋭い目で睨まれ萎縮している。
 そうだ、今は弱音を吐いている暇なんて無いんだ。今は目の前の敵に集中しないと。
 頬を軽く叩いて気合を入れる。


「それで、今の敵はどんなのがいるんですか?」
「昨日の敵よりも一回りは強いな」


 そう言って、敵のラインナップが書かれた紙をホウリさんから受け取る。


「シルバーウルフにレッドスライム、グリーンゴブリンですか。順当に強くなっていますね」


 ステータスが全体的に上がっているから、一撃だった魔物も数回の攻撃が必要になってくるだろう。
 1体倒す時間が増えれば、別の魔物からの横やりとかも起こりやすい。危険も敵の撃ち漏らしも増えて来るだろう。


「この質の敵が大量に襲ってくるのか。昨日以上に気合を入れないとな」
「そうですね。矢の替えはありますか?」
「用意してある。昨日と同じように、定期的に壁の上に届ける」
「了解です」


 昨日、戦いが始まって5時間ほど経った後、忍者服を着た人が音も無くやって来た。
 どうやら、その人は運び屋を生業としているらしく、街のいたるところに物資を送っているとのこと。
 性別すらも分からないその人は、矢筒だけ置くと目にも止まらぬ速さで街へと走っていった。あんな人たちが各地の戦場へ物資を送っているんだろう。


「他に質問は無いか?」
「王都の騎士団についての情報は無いか?」
「残念ながらまだない。あの様子だと魔法陣を直すまではスミルに足止めだろうな」
「騎士団がいればかなり楽になったのだがな」
「こればっかりは、フランがいないとどうしようも無いからな。フランが早めに帰ってくるのを祈ろう。他に質問は?」


 僕らが何も言わないのを見て、ホウリさんが席を立つ。


「じゃあ今日もよろしくな。あと、」


 ホウリさんが紙を取り出してペンを滑らせる。


「ここに銭湯がある。時間的に30分くらいは風呂に入れるはずだ」


 紙を受け取ると銭湯までの地図と、戦闘の簡単な説明が書いてあった。
 地図を見たミエルさんが眉を顰めた。


「……やっぱり臭うか?」
「そんなことないぞ?だが、戦いっぱなしで風呂に入れないのを気にしているんじゃないかと思ってな」
「助かる」


 お礼は言っているけど、表情がぶっきらぼうだ。自分の考えが見透かされて恥ずかしいのかな?
 ホウリさんは軽く手を振ると、宿を出ていった。


「もしかして、ホウリさんって寝てないんですかね?」
「かもな。だが、あいつが無理をして体を壊すなんてヘマをするとは思えない。気にしなくてもいいんじゃないか?」
「そうですね。それよりも、ミエルさんはこれからどうします?教えて貰った銭湯に行きます?」
「そうしよう。ロワはどうする?」
「ご迷惑でなければご一緒しても?」
「勿論だ」


 着替えも買えるみたいだし、このまま行っても問題なさそうだ。


「じゃあ行くか」
「はい」


☆   ☆   ☆   ☆


「ふぅ、さっぱりだ」


 ミエルさんと一緒にお風呂に入った僕は時間通りに集合場所に到着する。
 すると、緑色の帽子をかぶったお兄さんが僕に声を掛けて来た。多分、出撃とか撤退とかの管理をしてる人かな?
 

「防衛の冒険者の方ですか?」


 僕って冒険者扱いでいいのかな?まあ間違っていないしいっか。


「そうですね」
「お名前は?」
「ロワ・タタンです」
「ロワ・タタンさんですね。少々お待ちください」


 お兄さんは持っていた名簿をめくっていく。


「ありました。ロワさんの持ち場は……壁の上?」
「昨日と同じですね。行ってきます」


 困惑するお兄さんを横目に、弓を取り出してワープアローを番える。


「え?あの?」
「残った矢は処分してもらって大丈夫なので」


 ワープアローって一回使ったら使えなくなっちゃうんだよね。どうにか使いまわせないかな?
 ワープアローを放ち、昨日と同じように壁面にワープする。そして、壁の頂上に手を掛けて一気に登る。


「よいしょっと」


 登り切ったら持って来た矢を全部出して、直ぐに入れるようにする。


「涼しい風が気持ちいい」


 お風呂で火照った体には草原のさわやかな風が染みる。思わず、ボーっと寝転んでしまいたくなる。
 そんな欲を押えて草原の様子を確認する。


「ホウリさんの言う通り、冒険者の数は昨日より多い。けど、厳しそうだね」


 見た感じ、皆さんかなりの実力者みたいだ。けど、これだけの数の乱戦なんて経験している人は少ないだろう。表情を見るに苦戦しているみたいだ。


「僕も気張らないとね」


 矢を番えてゴブリンの頭に狙いを付ける。


「いくぞ!」
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