魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百九十話 あはは……

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「では、僕はこれで失礼します」


 ご飯を食べ終わったロワがおぼつかない足取りで階段を上がっていく。2階にある部屋のドアが開いた音が聞こえたし、無事に寝たんだろう。


「お待たせー、ってロワ君はもう部屋に帰っちゃった?」
「ああ。あの様子だと昼までは起きないだろうな」


 ディーヌが5段のパンケーキを俺の前に置く。


「流石に酷使させすぎた。明日は休ませてやろう」
「優しいんだね」


 ディーヌが笑いながら皿の横にハチミツが入ったポットを置く。


「無茶させて大事な時に戦えなくなると困るからな」
「またまたー、ロワ君が心配なんでしょ?」
「そんなことねぇよ」
「ツンデレさんだね?」
「どこでそんな言葉を覚えた?」


 さてはコレトの奴だな?


「というか、最初にオダリムであった時よりも明るくなったな?何かあったのか?」
「え?」


 俺の不意打ちの質問にディーヌが面を食らう。


「そんなに分かりやすいかな?」
「前のディーヌを知ってる奴なら分かると思うぞ?」


 ナイフとフォークでパンケーキを切り崩し口に入れる。うん、何も掛けなくても、ほんのりと甘くて美味しい。


「で、何があったんだ?」
「えっと……気になる人が出来て……」


 ディーヌがお盆で口元を隠す。どうやら、本当みたいだな。


「どこのどいつだ?」
「この宿でよくお昼ご飯を注文してくれる人。よくお話してるんだ」
「へぇ、どんな奴だ?」
「優しくて、面白くて───」


 ディーヌが体を揺らしながら嬉しそうに話す。本当に好きみたいだな。幸せそうで良かった。


「───そんな感じかな」
「ディーヌの好きっていう気持ちが溢れてるな」
「もう、ホウリ君が言わせたんでしょ!」
「ははは、悪い悪い」


 ディーヌが不服そうに頬を膨らませる。


「私ばっかり喋ってずるい!ホウリ君も恋バナしてよ!」
「俺に恋バナなんてないぞ?」
「え?フランちゃんと熱いアバンチュールがあったんじゃないの?」
「誰にそんな事を教わった?」
「コレトさんだけど?」
「やっぱりか」


 あのエセ聖女め。なんてことを吹き込んでやがる。


「俺とフランは何も無いぞ?」
「ほんと?お似合いのカップルだと思うけど?」
「どれだけお似合いでも、俺とフランが恋人になることは無い」
「なんで?」
「なんでもだ」


 最後には殺し合うから、とは言えないよな。


「というか、なんで俺らの周りの奴らは俺とフランをくっつけたがるんだ」
「お似合いだと思ったんじゃない?私みたいにね」
「余計なお世話だ」
「ロワ君とかミエルちゃんとかからは言われないの?」
「言われないな」


 あいつらは事情を知ってるし。


「そういえばさ、オダリムを出た後の話って軽くしか聞いていないんだ。詳しく聞いても良い?」
「俺も話したいところだが、今は時間が無い。また今度に話そう」



 食い終わった皿にナイフとフォークを置く。


「そうだよね。今って結構なピンチだもんね」
「物資も人員も足りてないしな。今から王都とオダリムを数百回は往復してくる」
「大変だね?」
「やる事が変わっただけでいつも通りだけどな」
「そういえば、オダリムにいた時も忙しそうにしてたね」
「まあな」


 ナプキンで口を拭いて立ち上がる。そろそろ行かないとな。
 宿の出口に向かうとディーヌが後ろについてきた。どうしたのかとディーヌの方へ向くと、満面の笑みで口を開いた。


「いってらっしゃい」
「行ってきます」


 俺は軽く手を振って夜の街に繰り出した。


☆   ☆   ☆   ☆


「うーん?」


 窓から日の光で目を覚ます。
 体を起こすと体のだるさや頭痛が綺麗に消え去っていることに気が付く。ホウリさんの栄養ドリンクが効いたみたいだ。


「味が良ければ言う事はないんだけどなぁ」


 そんな事を考えながらベッドから降りる。隣のベッドを見ると、ミエルさんの姿は無かった。


「あれ?もう行ったのかな?」


 先に行ったんだったら起こしてくれてもいいのに。
 そんな事を思いながら胸当てを付けようとアイテムボックスを開く。


「あれ?無い?」


 不思議に思って首を傾げると、既に胸当てを身に付けていることに気が付く。顔の布も付けっぱなしだ。


「あちゃー、外さずに寝ちゃってたかぁ」


 普段はちゃんと外しているんだけど。かなり疲れていたし、しょうがないか。


「とりあえず、食堂に行こうかな」


 そういえば今って何時なんだろう?僕って時計も時間が分かるスキルも持っていないんだよね。食堂の時計で確認しよう。
 そう思って食堂に入ると、昨日とは違って席がいっぱいで賑わっていた。


「なんでこんなに混んでいるんだろ?」


 考えてても仕方ないか。今はどこかに空いている席が無いかを探そう。
 目を凝らして探してみるけど、満席で開いている席は見当たらない。困ったなぁ。


「あれ?ロワ君?」


 困っていると、両手に料理を持ったディーヌさんが話しかけて来た。


「今日は起きるの遅いね?もうお昼の1時だよ?」
「え?1時?」


 壁に掛かっている時計に視線を向けると、短針は1時を示していた。
 時間を把握した僕の顔から血の気が引いてくる。


「不味い不味い!完全に寝過ごした!ほ、ホウリさんに謝らないと!」
「ホウリ君なら厨房にいるよ?」
「本当ですか!?」
「うん。厨房の奥に休憩室があるから、そこでロワ君を待ってるよ」
「入って良いんですか?」
「ホウリ君とロワ君なら大丈夫だよ」
「ありがとうございます」


 頭を下げるとディーヌさんは笑顔で頷いて、お客さんに料理を持っていった。
 ここにいると邪魔になりそうだ。早く厨房の中に行かないと。
 足音を立てずにこっそりと厨房に入ると、そこにはディーヌさんのお父さんとお母さんらしき人が必死に料理を作っていた。
 ディーヌさんに許可を貰ってるからコソコソする必要は無い。けど、なんとなく見つかっちゃいけない気分になる。


「失礼しまーす」


 小声で挨拶をして、素早く厨房の奥へと向かう。奥にある扉のドアノブを回して中に入る。
 休憩室の中は窓があって長テーブルに椅子が4つだけあるというシンプルな部屋だった。ディーヌさんが言っていた通り、ホウリさんが椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。


「おはよう。いや、時間的にはこんにちは、だな?」


 ホウリさんが軽く手を振ってくる。僕は萎縮しながらホウリさんの対面に座る。


「おはようございます。すみません、寝過ごしました」
「気にするな、ロワが寝過ごすのも織り込み済みだ」


 そう言って、ホウリさんがテーブルに置いてあったホットサンドとコーヒーを僕の前に置く。


「食いながら話そうか」
「いただきます」


 ホットサンドを手に取って一口齧る。ダメだ、緊張で飲み込めそうにない。


「あの……本当にすみませんでした」
「気にするな。今日はロワは休みだ」
「へ?」


 休み?あれだけの敵に囲まれている中で休み?聞き間違いかな?


「聞き間違いじゃないぞ。ロワは戦いに出なくていい。寝るなり街を散策するなり好きにしてくれ」
「人が足りないって聞いていたんですけど?僕の勘違いでしたか?」
「気合を入れて人員を確保したから、少しだけ余裕ができた。余裕があるうちにロワは休んでおけ」
「そうでしたか……」


 緊張していた僕の体から一気に力が抜ける。


「はぁぁぁぁぁ、良かったぁぁぁぁ」
「安心したか?」
「はい。そういえば、ミエルさんはどこに?」
「ミエルは戦ってもらっている」
「え?ミエルさんは休みじゃないんですか?」


 僕が休みならミエルさんも休みだと思っていた。


「前衛が中々見つからなくてな。流石にまだ休みは与えられない」
「そうでしたか」


 ミエルさんが休まないのに僕だけ休んで良いんだろうか?そんな事を考えながらホットサンドを食べる。


「余裕ができたらミエルにも休みをやるから心配するな。お前は気にせずに全力で休め」
「分かりました。ありがたく休ませていただきます」


 本当は僕も戦いたいけど、疲れがたまっているのも事実だ。ここは休んで次の戦いに備えよう。


「じゃあそう言う事だからしっかり休め。遊びすぎて疲れた、なんてことにはなるなよ?」
「分かりました。あの、休むにあたって一つだけお願いがあるんですけど……」
「なんだ?」


 ホットサンドを口に押し込んでコーヒーで流し込む。そして、真面目な顔を作ってホウリさんに向き直る。


「お金貸してください」
「確かに金はあんまり持ってきていないか」
「戦うだけのつもりでしたからね」


 お金はほとんど持ってきていない。オダリムの物価は高めだし、無一文では心もとない。


「分かった、貸すなんて言わずにやるよ」
「ありがとうございます。いくらですか?」
「10万Gでどうだ?」
「十分です」


 10万Gもあれば、欲しかった弓が買える。あぶく銭なんてパーッと使っちゃうに限るよね。


「ただし不要な物は買うなよ?特に不要な弓を買ったらへし折るからな?」
「肝に銘じておきます」


 そんな感じで、僕は思わぬ休日を手に入れたのだった。
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