魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百九十一話 ジャンジャンバリバリ

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 ホウリさんから休みを言い渡された後、とりあえず銭湯に向かう事にした。昨日もだけど、帰ってくる時になると、お風呂に入る気力が無いんだよね。
 ミエルさん程じゃないにせよ臭わないか気になるし、まだお昼だけど入っておこう。


「この街の銭湯って豪華だよなぁ。銭湯の中に服屋もゲームコーナーもあるなんて初めてだよ」


 観光に特化した街だって聞いていたけど、銭湯だけでも1日中遊べそうだ。


「昨日はお風呂に入るだけにしたけど、今日は少しだけ見て回ろうかな」


 お土産品とかもあったし、スターダストの皆に買っていっても良い気がする。洋服とか良いかな?
 人混みの流れに沿うように銭湯まで向かう。それにしても、想像していた以上に人が多い。お昼だからかな?
 圧迫感を感じながら進んでいると、目的地である大きい煙突が付いている銭湯が見えて来た。距離は近いはずなのに時間が掛かったのは人が多いからだろう。


「混んでいるだろうし早くお風呂に入ろうかな」


 そう思い、銭湯の引き戸を開ける。すると、人でごった返す銭湯の中で見知った顔が見えた。


「あれ?兄貴?皆さんもいる?」


 銀の閃光の皆さんが受付でお金を支払っていた。兄貴がいたから銀の閃光の方々もいるかなって思ってたけど、本当にいた。
 僕は支払いを終えた銀の閃光の皆さんに声を掛ける。


「こんにちは」
「あら、ロワ君じゃない」
「こんにちは。ロワ君もオダリムの防衛に参加していたんだね」
「はい、ホウリさんに連れてこられまして」


 リーダーのミルさんと奥さんのシースさんが挨拶を返してくれる。


「久しぶりだな!」
「また一緒に鍛えようぞ!」
「機会があればお願いします」


 パンクさんとボローネは力こぶを作って筋肉をアピールしてきた。
 正直なところ、4万回の腕立て伏せはもう勘弁してしてほしい。


「よお。今日は防衛戦には参加してないのか?」
「今日はお休みを貰いました。皆さんもお休みですか?」
「僕らは夜の防衛戦に参加するんだ。それまでゆっくりと湯船に浸かろうと思ってね」
「そんな事よりも、他のスターダストのメンバーは何処かしら?」


 シースさんが周りを見渡す。


「ミエルさんは防衛戦、ホウリさんは物資と人員の調達、フランさんは魔国、ノエルちゃんは学校があるので王都にいます」
「じゃあ、ロワ君しかいないんだ」
「露骨にがっかりしないでよ。ロワ君が可哀そうでしょ?」
「だって、可愛い女の子が見られると思ったんだもん」
「他の皆さんにはまたの機会ということで」


 僕は笑いながら軽く頭を下げる。笑顔、引きつってないかな?


「ロワも風呂に入りに来たんだろ?だったら、俺達と一緒に入らないか?」
「良いんですか?」
「勿論だよ」


 一人で入るのも寂しいと思っていたし、願ってもいないことだ。


「じゃあよろしくお願いしますね」
「決まりだね」
「そうと決まれば、さっさと会計してこい」
「そうですね。時間かかりそうなので先に行っててください」


 受付には列が出来ている。長くはなさそうだが、10分くらいは時間が掛かるだろうし待っててもらうのも申し訳ない。


「分かったよ。先にお風呂に入っているからね」


 銀の閃光の皆さんが「ゆ」と書かれている扉まで向かう。
 そういう訳で列に並んで、僕はお風呂に向かったのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


 支払いも終えた僕は脱衣所で服を脱いで浴場に入る。念入りに体を洗って湯船に行くと、シースさんを除いた銀の閃光の皆さんは気持ちよさそうにしていた。


「お待たせしました」
「来たな。隣に来いよ」
「お邪魔しますね」


 兄貴の隣に座り、頭に濡れたタオルを乗せる。お湯の温もりが体の中にじんわりと染み込んでいく。


「ふぇ~、疲れた体にしますね~」
「ロワ君はいつからこの街に?」
「一昨日からですね。その前はスミルの街でヤマタノオロチと戦ってました」
「ヤマタノオロチ?とんでもない大物だね?」
「俺達の力がどれほど通じるのか!」
「一度手合わせしたいな!」
「脳筋どもは黙ってろ」


 思えばヤマタノオロチと戦ってから、まだ3日しか経ってないんだ。色々とありすぎて1ヶ月は経っている気分だったや。


「まだまだ戦わないといけないんですよね。本当に気が滅入りますよ」
「まだ序盤だよ?気持ちを強く持たないとね」
「そうですね。そう言えば、銀の閃光の皆さんはいつからこの街に?」
「昨日からだよ」
「俺は一昨日に先んじてオダリム入りしてたけどな」
「やっぱりホウリさんに誘われたんですか?」
「僕等はそうだよ。ナップは別の理由があったみたいだけど?」
「別の理由?」
「コレトさんだよ」


 コレトさん、確か兄貴の恋人だっけ。オダリムの神殿長で、前にノエルちゃんにスキルを付与してくれた人だよね。


「つまり、恋人に会うためにやって来たってことですか?」
「そうだ。いつもなら何日もかけて来るオダリムに、一瞬で行けるんだぞ?そんなチャンスを見逃すなんてもったいないだろ?」
「確かに?」
「ホウリ君もそんな理由で防衛戦に参加しているなんて思ってないだろうね」


 ミルさんが呆れように言う。ホウリさんなら絶対に分かってると思う。


「皆さんはオダリムに来るのは何度目ですか?」
「銀の閃光としては何十回と来ているよ。この街の冒険者は初心者が多いし、僕らみたいなA級パーティーはフォローに回ったりするんだ」
「ちなみに、ホウリに初めて会ったのも1年前のオダリムだ」
「あの頃のナップはピリピリしていたな!」
「なにせ俺達からの筋トレの誘いを断るくらいだしな!」
「それは今も変わらねぇよ」


 そういえば、この街の周りにはレベルの低いモンスターが多いから初心者が多いんだっけ。


「僕は初めてこの街に来たんですけど、人がかなり多いですね」
「1週間後にお祭りがあるしね。それに合わせて人が集まってきているんだ」
「そうなんですか。だとしたら中止になるのは残念ですね」
「え?中止?」
「何言ってるんだ?」
「え?」


 僕の言葉に皆さんが首を傾げる。僕、何か間違ったこと言ったかな?


「だって、魔物が攻めてきてるんですよ?危険ですし、物流も滞っているでしょうし、普通は中止するのでは?」
「お祭りは普通にやるらしいよ?」
「誰がそんな事を?」
「ホウリの奴だよ」
「ホウリさんが?」


 ホウリさんがそう言っていたなら間違いないだろう。けど、お祭りを中止しないのは危ないと思うけど?


「誰がお祭りの開催を決めたんでしょうか?」
「それもホウリ君だよ。曰く、お祭りすることも戦略の内だってさ」
「お祭りが戦略?」
「『効いてませんアピール』らしいぞ?」
「良く分かりませんね?」
「俺も分からん」


 僕なら街から住民を避難させるけど、ホウリさんの考えは違うみたいだ。良く分からないけど、ホウリさんが言うんならいいんだろう。


「僕等は良いですが、街の皆さんからの反発はなかったんですか?」
「この街でホウリの信用は凄いからな。反発の声はあまり無い」
「領主もですか?」
「勿論。むしろ、領主さまが防衛の為の援助してるよ」
「へぇ、どのくらいですか?」
「防衛に掛かっている費用の半分、大体50億くらいだね」
「50億!?」


 魔物の襲撃は4日前にホウリさんが突き止めた筈だ。こんな短期間でそんな大量の援助!?


「なんでそんな大金を!?いくらホウリさんが頼んでも簡単には出してくれませんよね!?」
「そりゃそうだよ。だって、魔物の素材ってほとんどをオダリムが普通の半額で買いたたいているんだし」
「なんですかそれ!?」


 魔物の素材を半額で買っている!?初耳の情報が多すぎる!


「どういうことですか!?」
「ドロップした魔物の素材は、専用の冒険者が回収して回っているんだ。それを、オダリムは半額で買い取っているってわけ」
「いやいや、なんで冒険者の方は半額で売らないといけないんですか。暴動が起きるでしょ?」
「それがそうでも無いんだよ」


 暴動が起きていない?なんで?


「魔物の素材は敏捷性が高い専用の冒険者が回収するんだけど、回収の効率が高いんだ」
「落ちている物を拾うだけだしな。魔物を倒して素材を集めるのと比べると、効率は20倍は良い」
「確かにそうですね」
「だから半額だとしても纏まったお金になるんだ」
「なるほど、不満が出ていないのも納得ですね」


 ちなみに、素材を回収する時は戦線をあげて回収しやすくしているらしい。それなら危険も少ないし、稼ぐにも持ってこいだ。


「オダリムは相場の半額で素材が手に入る、冒険者は纏まった金が手に入る。win-winだろ?」
「良く考えられてますね」


 オダリムが50億Gという援助をするのは、先行投資って面もあるんだ。考えられてるなぁ。


「で、その財源を使って魔石を買い集めて魔法陣をフル稼働。人員と物資を王都から流入しまくっているらしい」
「おかげでプロテインにも困らないぞ!」
「毎日プロテインパーティーだ!」
「お前らはプロテインが無いと露骨に元気がなくなるしな」
「だからお祭りもできるんですね」


 ホウリさんはオダリムに来て、3日以内にそのシステムを整えたんだ。魔物と戦ってヒイヒイ言ってるのが情けなくなった。
 口までお湯に浸かって泡を立てる。


(ブクブクブクブク)「そんな大事なことなら話してくれてもいいのに。なんでホウリさんは僕に話してくれなかったんでしょうか?」
「余計なことを言って混乱するのを避けたかったんじゃないか?ロワって長い説明が苦手だろ?」
「否定はしません」
「それに、最近は大変だったみたいだし、ホウリ君なりに気を使ったんだよ」


 確かに、この街に来てからホウリさんに会ったのは、死ぬほど疲れていた時だ。そんな時に今の説明を受けたら理解できる自信がない。


「そうですね。ホウリさんなりの気遣いですよね」
「そんな事よりも、もっと個人的な話を聞かせろよ」
「個人的な話?」
「ミエルとの話だよ。お前の彼女なんだろ?」
「ミエルさんが僕の彼女?」
「違うのか?」
「違いますよ」


 あれ?そう言えば、僕とミエルさんは付き合っているってことになってるんだっけ?まあ、銀の閃光の皆さんには本当の事を言っても良いか。
 僕の言葉に兄貴が怪訝そうな顔になる。


「あんな美人が居て恋に発展しないなんてあるか?」
「ロワ君はミエルさんを良いなって思った事はないの?」
「綺麗な方とは思ってますよ?」
「じゃなくて、一緒に住んでてドキドキしたりしないの?」
「ドキドキ?」


 今までの事を思い返してみる。ミエルさんにドキドキ?


「強いて言えば、下着姿を姿を見た時はドキドキしました」
「下着姿?」
「覗きか?」
「勿論事故ですよ!?」


 流石に覗きの疑惑を掛けられちゃ溜まった物じゃない。
 僕の必死の言葉に銀の閃光の皆さんは顔を突き合わせる。


「下着を見てドキドキか」
「気があるという事か?」
「好きではない奴でも、下着をみたらドキドキするのではないか?」
「どっちもあり得る。微妙なところだな」



 ミルさんと兄貴がヒソヒソと相談する。何を話しているんだろう?


「僕、何か変な事言いました?」
「いいや?」
「ただ、ちょっと厄介だなって思っただけだ」
「どういう意味ですか?」
「こっちの話だ。気にするな」
「えー、教えてくださいよー」
「ダメだ」


 結局、いくら聞いても銀の閃光の皆さんは何も教えてくれませんでした。
 そんな感じで、僕は銀の閃光の皆さんとお喋りしながら、銭湯でのんびりとしたのだった。
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