魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百九十八話 自害しろランサー

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「今日からマカダ君のお家にお邪魔するのかぁ」


 いつも通りバッグに必要な物を詰めて、マカダ君の家の前に立っていた。
 マカダ君の家は皆の家よりは広くない平屋。けど、お庭が広くて走り込みや戦闘の訓練も余裕で出来そうだ。


「こ~ん~に~ち~は~!」


 ノエルが門から大きな声で挨拶をする。すると、家の中からマカダ君のお母さんであるアルモンドさんが出て来た。


『いらっしゃい、ノエルさん』
『お邪魔します、アルモンドさん!』


 お辞儀をしてアルモンドさんに挨拶をする。すると、家からマカダ君も出て来た。


『あ、マカダ君』
『よお』


 マカダ君が軽く手を上げる。ノエルも手を上げて挨拶に答える。


『今日からよろしくね』
『よろしくな』
『よろしくお願いしますね。本当は女の子を泊めるのは許可したくなかったんですけど』
『え?なんで?』
『子供とはいえ、異性同士を同じ屋根の下で生活させるのは不健全だからです。ですが、今回はマカダの強い希望で1週間だけ許可しました』
『そうなの?』


 あまりピンと来ていないけど、アルモンドさんがそう言うならいっか。


『母さんは心配性なんだよ』
『何かあったら、スターダストの皆さんに申し訳が立ちませんからね』


 不満気なマカダ君の視線を受けながら涼し気な表情をするアルモンドさん。


『廊下の奥にノエルさんの部屋を用意してあります』
『じゃあ、荷物置いてくるね』
『ノエル』


 廊下の奥に進もうとしたらマカダ君に呼び止められた。


『なあに?』
『俺と戦ってくれ』
『え?』


 いきなりの言葉にノエルが言葉に詰まる。
 マカダ君の表情はとっても真面目だ。冗談で言っているようには見えない。


『え?なんで?』
『そんなに深刻に考えないでくれ。ただの力試しだ』


 そう言えば、マカダ君ってホウリお兄ちゃんに鍛えて貰えてるんだっけ。力を溜めそうと思ってもアルモンドさんはヒーラーで戦えない。周りに戦えそうな人はノエルくらいだし、力試しにはピッタリなんだ。


『そう言う事なら良いよ』
『手加減はするなよ。全力でこい』
『全力?どこまで全力出せばいいの?』
『魔王様と戦うくらいの全力でこい』


 フランお姉ちゃんと戦うくらいかぁ。


『じゃあ、魔剣を持ってくるね』
『ちょっと待て、魔剣ってなんだ?』
『MPを込めるだけで何でも切れる剣だよ?』
『……それだけはやめてくれ』
『オッケー』


 ブラン君が使えないなら、無難にナイフと銃でいっか。
 ノエルは用意された奥の部屋に入ると、机とベッドだけの簡素な部屋だった。
 いつも通りベッドに荷物を置いて、戦闘の準備を整える。弾丸はオッケー。ナイフも壊れてない。あとは戦闘服に着替えるだけだ。
 制服からいつもの戦闘服に着替える。短パンにTシャツを着てからの胸当てを付ける。ノエルは速度で戦うタイプだから重い鎧はいらないんだよね。
 銃を足のホルスターに、ナイフを胸のホルスターに仕舞う。


「これでよしっと」


 いつもの戦闘スタイルになったノエルはお庭に行く。


『お待たせ~』
『おう』


 マカダ君は中華服のような戦闘服に身を包んでいた。アルモンドさんは遠くからノエル達を見てる。監督って感じなのかな?


『そういえばさ、マカダ君ってどんな武器を使うの?』
『これだよ』


 マカダ君は身の丈よりも長い槍を取り出した。


『へぇ、マカダ君って槍を使うんだ』
『ホウリさんに一番適性がある武器だって言われてな。確かに手に馴染む』
『周りに槍を使う人がいないから珍しいや』


 何回かフランお姉ちゃんが使ってたけどそれだけだ。確かリーチが長いからナイフで相手するには大変だ。けど銃もあるしなんとかなるかな。


『じゃあ始めよっか』
『おう。どこからでも掛かってこい』


 そう言ってマカダ君が槍を構える。攻めてこないってことは、マカダ君はカウンターを狙ってるのかな?ノエルが銃を持っているのは知ってるだろうし、何か狙ってる?弾を跳ね返すスキルがあるとか?


『どうした?来ないのか?』


 マカダ君が槍の先をフラフラと揺らす。ま、なんとかなるか。


『いっくよー!』


 ノエルはナイフを構えてマカダ君に突進する。マカダ君が槍をノエルに振るってくる。
 ノエルは槍をナイフで受け止め、滑らせるようにして接近する。


『まだまだ!』


 マカダ君が槍を振り回して、接近させない様にしてくる。けど、全部ナイフで受け止めてマカダ君の懐に入る。


『しまっ───』
『貰った!』


 魔装で強化した拳をマカダ君のお腹にめり込ませる。すると、マカダ君はうめき声もあげずに俯いた。
 念のためって事でノエルはマカダ君の腕を掴んで投げ飛ばす。


『うぐあっ!』


 マカダ君が大の字で地面に打ち付けられる。マカダ君がそのまま倒れたまま動かない。


『勝負あり、かな?』
『……ああ』


 負けを認めたマカダ君は槍から手を離した。


『治療を頼めるか?』
『うん』


 ノエルはセイントヒールでマカダ君を回復する。完全に回復すると、マカダ君は槍を持って起き上がった。


『やっぱりノエルは強いな』
『そうかな?』
『なあ、もう一回戦ってくれないか?』
『何回でも良いよ』


 ノエルはナイフを構えなおして後ろに大きく跳ぶ。


『今度はマカダ君から来る?』


 ノエルはそう聞くけど、マカダ君が微動だにしない。徹底的に受けの構えを取るつもりみたいだ。
 さっきはナイフで攻めたから今度は銃で攻めようかな。


『いっくよー!』


 銃をマカダ君に向けると、銃口に合わせるように槍を傾けた。
 弾が発射される角度を読んでる?けど、


『まだ甘いね!』


 ノエルは引き金を引く。すると、弾が発射されて槍に命中する。
 マカダ君は弾丸の威力を押えきれずにのけぞる。


『まだまだ行くよ!』


 残りの5発を全て槍の同じところに撃ちこむ。マカダ君は威力を抑えきれず、槍を取り落とす。


『うおっ!』
『隙あり!』


 槍を拾おうとするマカダ君に魔装を使って急接近する。
 そして、急接近した勢いのまま、膝蹴りをマカダ君の顎に叩き込む。

『うぐおっ』


 今度はうめき声をあげて、マカダ君は地面に倒れ伏した。


『回復するねー』


 マカダ君が返事をする前にノエルはセイントヒールを使う。


『まだ俺の力は通用しないのか……』
『でもさ、マカダ君が戦い始めたのって半年前からでしょ?それにしては良い動きだと思うよ?』
『ノエルは戦い始めて1年だろ?それにしては強すぎるって』
『神の使いがあるしね』


 MP無限はシンプルに強力だ。これがあるだけで回復にも攻撃にも使える。
 そう思っていると、マカダ君は首を振った。


『それだけじゃねぇって。あの精度で銃を撃ったり、槍をナイフで受け止めたり、どんな戦闘のセンスしてんだ』
『ホウリお兄ちゃんと特訓してるからね。マカダ君もでしょ?』
『ああ。あの人の特訓って手加減無しなんだよな』
『だよね。前の特訓に慣れたって思ったら、更にキツイ特訓をさせられるし』
『不意打ちも頻繁にやってくるしな。……こんな風にな!』


 マカダ君がいきなり槍を振るってくる。不意を突かれたノエルは、持っていたナイフの柄で槍を叩き落とす。


『これでもダメか』
『ノエルもホウリお兄ちゃんによく不意打ちされてるからね』


 不意打ちの頻度は平均して1日3回くらい。嫌でも慣れる。


『もう不意打ちは効かないよ!』
『最初っから聞いてないようなものだけどな!』


 マカダ君の槍の突きを躱して、再び懐に入る。


『貰った!』


 槍の弱点は懐に入られると攻撃できないことだ。さっきもこれで終わったし、今度もこれで終わりだ!
 そう思って魔装してアッパーカットを繰り出す。拳はマカダ君の顎に見事に命中───


『……あれ?』


 せずに、拳はマカダ君の唇を掠った。
 可笑しいな?確かに顎に向かって拳を繰り出した筈なんだけど?なんだか、良く分からない力に引っ張られたような?
 ノエルが混乱していると、マカダ君がニヤリと笑った。


『隙を見せたな?』


 マカダ君が槍の柄を捻ると、槍が二つに分かれて柄の中から刃が出て来た。
 これでショートスピアが2本、マカダ君の手にあることになる。


『くらえ!』


 柄が短くなって取り回しの良くなった槍を、ノエルのお腹に突き立てて来る。
 ノエルは腕を上げ切っているから、回避できずに槍をお腹で受ける。


『ま、魔装!』


 槍は魔装で防ぐことができた。ノエルは上げ切った上を思いっきり振り下ろして、槍を1本叩き折る。


『まだだ!』


 もう一本の槍でマカダ君が切りつけてくる。その槍をナイフで受け止めて、魔装した足でマカダ君を蹴り飛ばす。


『おりゃっ!』
『うごあっ!?』


 マカダ君が大きく吹き飛んで、家の壁に激突する。あ、ちょっと強めに蹴っちゃった。


『マカダ君!?』


 急いでマカダ君の元へ駆けより、セイントヒールを使う。


『大丈夫!?』
『だ、大丈夫だ。だが蹴りが強すぎないか?』
『ごめんね、治したから許してよ』
『まあいいけどよ』


 怪我が治ったマカダ君が立ちあがる。ノエルはまた不意打ちされないか警戒する。


『もう戦わねえよ』


 ノエルが警戒しているのに気が付いたマカダ君は、槍をアイテムボックスに仕舞う。
 それを見てノエルも安心してナイフをアイテムボックスに仕舞う。


『良かった。それにしても、さっきの何?ノエルの拳が不自然に逸れたんだけど?』
『あれは俺のスキルだ』
『どんなスキルなの?』


 マカダ君は小石を拾い上げて軽く放る。小石は落下してきたが、途中で不自然に遅くなった。


『あれ?何したの?』
『小石に掛かる重力を10%だけ上に向けた。下向きの重力と上向きの重力が10%ずつ相殺されて、下向きの重力が80%になった』
『そっか。だから小石が落ちる速度が遅くなったんだ。ってことは、マカダ君のスキルって』
『重力操作だ。物に掛かっている重力を別方向に向けることが出来る』


 あれは右方向に重力を操作して拳を逸らしたんだ。


『結構強力なスキルだね?』
『だが扱いが難しい。今のオレは10%しか操作できないしな』
『もしかしてさ、重力を50%以上操作できたら、空を飛べたりする?』
『50%以上の重力を上向きに操作すれば可能だ』
『すっごーい!ノエルも空飛びたい!』
『もう少し特訓してからな』


 ノエルが飛行機みたいにビュンビュンと飛ぶ姿を想像する。うん、とっても気持ちよさそう。


『楽しみにしてるね』
『任せとけ』


 謎が解けてスッキリしたら、体が汗ばんでいることに気が付いた。動いたり驚いたりしたし、最近暖かくなったし当たり前か。


『汗かいちゃった。お風呂に入りたいな』
『なら、夕飯前には行って来いよ。いいよな、母さん』
『勿論ですよ』


 いつの間にか後ろにいたアルモンドさんが頷く。


『夕飯が出来るまでに30分はかかります。それまでお風呂に入って来てください』
『おっけー。じゃあマカダ君、一緒に入ろうか』
『『……は?』』


 ノエルの言葉にマカダ君とアルモンドさんが固まる。あれ?何か変なこと言ったかな?


『二人ともどうしたの?』
『どうしたのじゃねえよ!自分が何を言ったのか分かっているのか!?』
『何ってマカダ君と一緒にお風呂に入ろうって言っただけだよ?何か問題ある?』
『大アリです!』
『なんで?コアコちゃんとかサルミちゃんとは一緒に入ったよ?』
『男と女で一緒にお風呂に入るなんてダメに決まっているだろうが!』


 マカダ君が顔を真っ赤にして叫ぶ。その後ろでアルモンドさんが頭を抱えている。


『どうやら、ノエルさんには貞操観念をじっくり教えた方が良いみたいですね』
『えー、ノエル今からお風呂に──』
『そんなのは後です』


 こうして、ノエルは強引にアルモンドさんから貞操観念について学んだのだった。
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