魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百九十七話 ここは穏便に暴力で

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 バルクカメレオンを倒してからしばらく、僕らは厳重に警戒しながら草原で戦っていた。
 ロットさんが一気に倒したとはいえ、魔物はまだまだいる。ものの数分で草原は魔物で埋め尽くされた。


「ロワ!あとどのくらい戦えば良いんだよ!」
「僕はあと9時間戦えって言われてるよ」
「なげぇな!」
「ジルは先に帰っても良いんだよ?」
「お前が戦ってるのに俺だけ帰るわけにはいかないだろうが!」


 そう言いながら、ジルはミノタウロスの首を貫く。
 僕も負けじと矢を放とうと矢筒に手を伸ばすと、矢が尽きていることに気が付いた。そこで背後に置いてある矢を取ろうと振り向く。


「あれ?なにこれ?」


 矢の置いてあるところに、手紙が置いてあった。ご丁寧に風に飛ばされない様に石で重しをしている。
 石をどかしておいてある手紙を読んでみる。


≪ロワ、ジル、ロットへ。すぐに同封している料亭まで来てくれ。ホウリより≫


 これってホウリさんから?


「ねえ、ちょっとこれ見てよ」
「あ?なんだよ」


 ジルにホウリさんからの手紙を見せる。


「なんだこれ?いつの間にこんなものが?」
「矢を届けてくれる人がいるって言ったでしょ?あの人が届けてくれたんだと思うよ」


 あの人達って戦闘の邪魔をしないためか、気配も無く来て去っていくんだよね。この手紙もいつ置かれたのかさっぱりだ。


「とりあえず行ってみるか」
「そうだね。お~い!ロットさ~ん!」


 壁の上からロットさんに手を振る。すると、魔物をなぎ倒していたロットさんがこちらを向いた。


「ホウリさんからの呼び出しで~す!いったん街の中に戻ってきてくださ~い!」


 僕の言葉にロットさんは無言で頷き、回転切りで周りの敵を一掃する。周りが綺麗になった後、ロットさんは街の門へと駆けてきた。


「だがよ、俺達がいないで街の防衛は大丈夫か?」
「ここにいる人たちは皆強いらしいから大丈夫でしょ。それよりも早く料亭に行こうよ」
「それもそうだな」


 こうして、僕ら3人は指定された料亭に向かうのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


「ここかな?」


 地図を元に街中を進むと、目立たないようにひっそりとした外見の建物にたどり着いた。
 表には目立った看板も無く、入り口の横に「くずれ屋」と書かれている。


「本当にここなんだろうな?」
「お店の名前はあっているし、間違いないとは思うけど」
「おい、お前が先に入れよ」
「じ、ジルから入ってよ。領主の息子なんだから、こういう所に慣れてるでしょ?」


 僕たちが高級そう雰囲気にな物怖じしているしていると、ロットさんが料亭の扉に手をかけた。


「……あっているかは入ってみれば分かるだろう」


 そう言ってロットさんは臆せずに扉を開けた。
 中には板前の格好をした男性がカウンターで包丁を研いでいた。店内の様子はカウンターに椅子がついていて、テーブル席は見当たらない。雰囲気も落ち着いていて、小洒落た料亭って感じだ。
 男性は僕らに気が付くと、微笑みながら会釈してきた。


「ホウリ様のお連れ様でいらっしゃいますか?」
「は、はい」
「お待ちしておりました。奥にどうぞ」


 男性に奥にある扉まで通される。扉を開けてみると、中は座席になっておりホウリさんとノエルちゃんがいた。
 あれ?ノエルちゃん?
 僕が固まっていると、ノエルちゃんが僕達に気付いて笑顔で手を振って来た。


「やっときたー。久しぶり!」
「久しぶり。けど、なんでノエルちゃんがオダリムにいるの?」
「ホウリお兄ちゃんに呼ばれたんだ」
「そうなんだ」
「ジルお兄ちゃんとロットお兄ちゃんも久しぶり」
「ああ久しぶりだな」
「……久しぶり」


 挨拶もそこそこに僕らも座席に座る。


「それで、なんで僕らを呼んだんですか?」
「それは全員そろってから説明する」
「まだ来るんですか?」
「ああ。そろそろ来るはずなんだが……」


 そう話していると扉が開いて、フランさん、ミエルさん、クラフさんが入って来た。


「フランさん!?クラフさん!?」
「再会して早々にうるさい奴じゃな」
「フランお姉ちゃん!ミエルお姉ちゃん!」
「おお、ノエルもおったんじゃな」
「僕の時と態度が違いすぎませんか?」
「当たり前じゃ。美少女になって出直してこい」


 フランさんはノエルちゃんの所に行くと、ノエルちゃんを膝に乗せた。


「元気じゃったか?わしらがおらんで寂しくないか?」
「うん!今はコアコちゃんのお家に泊まっているんだ!だから寂しくないよ!」
「そうかそうか。それは良かったのう」


 フランさんが微笑ましそうにノエルちゃんの頭を撫でる。この二人はいつも通りだ。


「魔国は良いんですか?」
「うむ。わしが居らんでも守れるくらいの戦力はある」
「ですよね」
「どんな感じで戦ってたの?」
「スキルで範囲攻撃しても良かったんじゃが、折角じゃし全ての魔物を殴ってやったわ。ここ数百年の間で一番楽しかったわい」
「だから肌がツヤツヤしているんですね」


 弾けるような笑顔でフランさんが頷く。戦闘狂のフランさんにとっては天国みたいな環境だっただろう。


「それで、なんでクラフさんがいるんですか?確かスミルの街で待ちぼうけしている筈ですよね?」
「そこのフランって子が魔法陣を直してくれたの。そしたら、オダリムの街が魔物の群に襲われているっていうじゃない?だから助けにきたの」
「そうでしたか。あれ?魔法陣が直ったんなら騎士団の皆も?」
「ああ、一度、王都の騎士団に戻ってオダリムに連れて来た」
「そうでしたか」


 騎士団の皆が来てくれたんだったらかなり心強い。敵もどんどん強くなっていくし、頼りにさせてもらおう。


「さてと、それじゃ話を始めるか」
「そうだな。スターダストを集めるなら分かるが、なぜ部外者も呼んでいるんだ?」
「特に理由はない。他にも話す奴はいるが、ここにいるメンバーが都合が良かっただけだ」
「それで、話って何なのかしら?」
「敵の能力が分かった」


 ホウリさんの言葉に全員の口が大きく開く。
 1分ぐらいの沈黙の後、扉が開いて板前の人がお盆にお茶を乗せてやって来た。


「お茶です。注文が決まったら呼んでください」


 皆の前にお茶を並べた板前の人は、そのまま扉の外へと出ていった。


「……敵の能力が分かったのか?」
「ああ」
「まだ襲撃を受けて4日目だよな?」
「だな」
「どうやって調べたのだ?」
「人海戦術だ。別の領地で色んな奴に調べて貰った」
「調べたって何をじゃ」
「魔物の数だよ」
「魔物の数なんか調べて何になるんだ?」


 僕の疑問をミエルさんが聞いてくれる。


「襲撃してきている魔物だが、経験値とアイテムドロップがあるだろ?」
「……そうだな」
「召喚された魔物は経験値もアイテムドロップも無い。つまり、今回も魔物は召喚された魔物じゃない」
「なるほど。召喚されている魔物じゃないんなら、他の場所から魔物を持ってきている訳ね」
「そういうことだ。案の定、他の領地の魔物は数が減っているらしい」
「えーっと、つまり人国中の魔物がオダリムの街に来てるってこと?」
「ああ」
「それって不味くないですか?」


 魔法陣がフルに使えても人国中の魔物を相手にするのは無理だ。いくらホウリさんが居てもずっと守るなんて無理だろう。


「確かに守ってばかりだと限界がくる。だから、魔物を操っている奴を叩く必要がある」
「どうするつもりじゃ?」
「敵の能力は強力だ。だからこそ、ノーコストで使いまくれるとは考えられない。必ず何かしらの痕跡は残るはずだ」
「……つまり?」
「敵に沢山能力を使って、探しやすくしてもらう」


 ホウリさんがニヤリと笑う。これってあれだ。ホウリさんが碌でも無い事を考えている時の顔だ。
 ミエルさんとフランさんも同じことを考えたのか顔を顰めた。


「何をするつもりじゃ?」
「別に何もしない。ただ、相手の想像以上に耐えれば、焦って強い力を使うんじゃないかって思っただけだ」
「その顔をしておいて、そんな言葉が信用できるわけないだろう」
「つーか、そんな話なら、わざわざ俺達を呼ぶ必要は無いよな?」
「確かにそうだね」


 ジルの言う通り、敵の能力を伝えるだけなら戦闘を中止させて、ここに集める理由はない。


「まだ何かあるってことですか?」
「まあな。実は意図的に戦闘能力が高い奴を集めさせてもらった」
「言われてみればそうじゃな」
「魔王に神級スキル持ちにユミリンピックと闘技大会の優勝者。実力者がそろい踏みだな」
「例外もいるみたいだがな」


 ジルがノエルちゃんに視線を向け、皆も同じように視線を向ける。大人しく聞いていたノエルちゃんは突然視線が注がれて首を傾げた。


「ノエルも強いよ?」
「……そうなのか?」
「そうは見えないけどな。こんな細腕だぜ?」
「むぅ、ノエルだって強いもん」


 ノエルちゃんがシャドーボクシングでアピールする。けど、傍から見たら背伸びをしている子供にしか見えない。
 けど、最近のノエルちゃんって本当に強くなったんだよね。実のところ、僕もそろそろ負けそうだ。
 そんなノエルちゃんの事情を知らないジルは、疑わしい目をノエルちゃんに向ける。


「本当か?そんなんじゃ、木の板すら割れないだろ?」
「戦闘能力は無くて、バフとかデバフに特化してるのかも?私だってバフとかデバフが専門だし」
「クラフは戦闘能力も高いだろう?」
「まあね。多少は戦えないとあんな街で騎士団長なんてやってないわよ」
「あんた騎士団長なのか。だったら俺と戦ってみないか?」
「おーい、本筋に戻って良いか?」


 逸れかけていた話をホウリさんが手を叩いて打ち切る。
 皆さんが静かになったことを確認したホウリさんは話を再開した。


「で、ここに戦闘力が高い奴らを集めた理由なんだが───」
「まさか、全員で特攻をしかけるとかか?」
「それは良いのう。腕が鳴るわい」
「それの逆だ」
「逆?」


 全員が不思議そうな表情をすると、ホウリさんはこの日2度目の悪い顔をする。


「ここにいる奴らには
「はぁ?」


 皆が『正気か?』みたいな顔をする。そりゃあ、こんなことを言われたら無理も無いか。


「貴様、今の状況を分かっているのか?」
「大量の魔物が街に押し寄せているんだろ?それがどうした?」
「『料理に砂糖が切れちゃったけどいっか』みたいなテンションね?」
「は?砂糖が切れるってことと、魔物の襲撃を同一視するなよ?」
「物の例えよ。魔物の襲撃の方が重要だってことぐらいは分かって……」
「魔物ごときが砂糖の重要性を上回れると思うなよ?」
「あ、そっち?」


 クラフさんのホウリさんを見る目が更に変になる。この人、本当に信用できるのか、みたいに思われてそうだ。
 ホウリさんもそれを分かっているのか、お茶を啜りつつ話を続ける。


「別に軽く見ているわけじゃない。ただ、強い奴らが揃ってるから、お前らが出張る必要性がないだけだ」
「……戦力的に必要がなくても、他の者が楽になるのだから戦った方がいいのではないか?」
「そうだな。確かにここにいるメンバーがいれば、人国と魔国を征服するくらいは楽勝だ」
「じゃあ、戦っても良いんじゃないか?」
「そうだな。お前らを戦わせない理由なんてない。だが、お前らが戦わない場合、敵はどう考える?」
「どうって……」


 切り札級の人がいるのに1人も戦ってない。けど、せめても攻め切れない状態になる。


「俺が敵なら、舐めてんのかって思うな」
「だろ?更に攻撃の手を強めたくならないか?」
「なるわね」
「それで相手に力を使わせる訳か」
「……だが、力を使わせた後はどうやって敵を探すんだ?」
「それに敵の攻撃の手が強くなったら、守り切れる保証もないわよね?」
「危なくなったら戦闘許可を出す。敵の見つけ方は俺に任せてくれ」
「分かりました」


 ホウリさんの判断ならそれに従おう。それに、楽ができるならそれに越したことはない。


「手始めに近いうちに祭りがある。全員で楽しんでこい」
「良いわね。オダリムのお祭りって行ってみたかったのよ」
「スミルからは遠いからな」
「ねぇねぇミエル、一緒にお祭りを回らない?知らない街で一人だと心細いの」
「え?いや……」


 クラフさんに誘われたミエルさんが僕の方をチラチラと見てくる。


「もしかして、ロワ君と約束してた?」
「そういう訳ではないのだが……」
「あー、なるほどね」


 何かを察したのか、クラフさんがニヤニヤと笑う。


「分かったわ。寂しいけど私は一人で回る事にするわね」
「お祭りは2日あるから、1日ごとに回る奴を変えればいいんじゃないか?」
「それいいな。ロワ、俺と祭りを回らないか?」
「別にいいよ。ミエルさんは2日目に一緒に回りませんか?」
「いいのか?」
「勿論です」
「わしはノエルと回るぞ」
「ノエルはホウリお兄ちゃんとも回りたいなぁ」
「じゃあ、時間を見つけるから俺も祭りを楽しむか」
「……俺はフレズを連れてこよう」
「良いですね。久しぶりにフレズさんにも会いたいです」
「お前、前にあったことを忘れたのか?」
「あ、そういえばそうでしたね
「何かあったのか?」
「いやー、あれは話すと長くなるんだけど」


 こうして、僕らはお祭りの予定を立てるのだった。
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