魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三百七話 クーデレって良いよね

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 ミエルさんとお祭りを堪能していると、日はすっかりと落ちてしまった。
 僕達は夜ご飯を食べる為に、フランさんとノエルちゃんと待ち合わせしている場所まで向かっていた。しばらくはノエルちゃんと会えないかもしれないし、一緒に夜ご飯を食べようという話になった訳だ。


「この喧噪も今日で最後ですか。なんだか寂しいですね」
「そうだな。だが、私達の戦いは終わらない。気張っていなかないとな」
「そうですね」


 夜になってもお祭りの活気は収まらず、そこら中で喋り声なんかが聞こえてくる。
 お祭りが楽しくて忘れていたけど、今は魔物に襲撃されている最中だ。明日からは頑張らないと。


「……って、僕らは戦うなって言われてますよね?」
「そういえばそうだったな」
「明日からどうしましょうか?」
「戦わない期間が長いと腕が鈍るからな。私や他の皆と特訓でもするか」
「それいいですね。クラフさんとかとも戦ってみたいです」
「ロワは意外と戦闘狂だな」
「父さんが目標ですからね。強い人といっぱい戦って強くなりたいです」


 そんな事を話していると、フードエリアのテーブルに座っているフランさんとノエルちゃんが見えて来た。
 2人は僕達に気が付くと手を振ってくれた。
 僕達も手を振り返して、2人が座っているテーブルまで向かう。


「お待たせしました」
「わしらも今来たところじゃ」
「それは良かったです」
「何か注文したか?」
「まだだよー」
「この辺りの屋台のメニューがあるぞ。皆で選ぼうではないか」


 そう言ってフランさんがメニューを見せてくれる。


「ノエルはハンバーガー!」
「ノエルちゃんらしいね」
「わしは貝出汁のラーメンにするか」
「うーん、僕はどうしようかな?」


 メニューはかなり分厚く、店舗だけで100はありそうだ。すぐに決めてしまうのは勿体なく感じる。


「お主らは祭りを楽しめたか?」


 メニューを眺めていると、フランさんから質問がとんできた。メニューから目を離してフランの方を見つつ答える。


「バッチリ楽しめましたよ」
「そうだな。王都では経験できない楽しいことが目白押しで楽しかった」
「そうか。それは良かったのう」
「ノエルはね、のど自慢大会に出たんだよ」
「へぇ、それは凄いね」
「結果は?」
「プロが乱入してきて入賞は逃した。全く忌々しいわい」


 フランさんが不満そうに吐き捨てる。ノエルちゃんの歌ってかなり上手かった筈だ。それでも入賞できないなんて、相当レベルが高かったということだろう。


「そういうことなら、ロワも路上パフォーマンスにに参加したな」
「どんなことしたの?」
「僕はハープを演奏しました」
「お主、演奏できたのか?」
「弦楽器なら大抵のものは引けますよ」
「ロワお兄ちゃんのハープって上手だよね。聞いてて優しい気持ちになってくるよ」


 一緒に路上パフォーマンスをやったことがあるノエルちゃんが笑ってそう言ってくれる。ノエルちゃんの言葉にミエルさんも頷いてくれる。


「確かにそうだな」
「むう、聞いたことが無いのはわしだけか」
「だったら今度弾きますか?」
「良いのか?」
「その代わり、ハープは用意してくださいね?」
「分かった、最高級のものを用意しようではないか」
「じゃあ、その時はノエルが歌うね」
「ノエルが歌うなら私も……」
「お主は歌うな!」


 こうして、賑やかで楽しいお祭りの夜は過ぎていくのでした。


☆   ☆   ☆   ☆


 ここは何処かの森の中。鬱蒼とした森の中でハンモックに揺られながら、トロピカルジュースを持つ男がいた。


「んー、最高の気分だね。そうは思わないかい?」


 男はサングラスを上げて、隣にいる女に質問を投げかける。


「私はいつも通りです」


 女は表情を変えずに眼鏡を上げる。


「クールだねぇ。ちょっとぐらい楽んでも良いんじゃないの?」
「今は戦争中ですよ?気を抜く方が可笑しいと思いますけどね」
「固い事を言わないでよ」


 男はストローを加えてトロピカルジュースを吸う。


「これ美味しいね」
「お口に合ってなによりです」


 女は感情を込めていない発言をしつつ頭を下げる。


「それで、これからいかがいたしますか?」
「いかがって?」
「作戦です。今はただ魔物を襲わせているだけですよね?」
「何か問題があるのか?」
「敵はそれで勝てるほど弱くないですよ」
「そうか?」


 男は目の前に光る板を出現させる。ステータス画面のような板だが、表示されている情報は異なり、周辺の地図だ。
 地図の中心はオダリムの街。周りには光る点が無数にある。


「この点が俺達が操作している魔物だ。これだけの魔物で襲えば、策も何も無いだろ」
「それはどうでしょうか?」
「魔物で囲っているから物資の補給もできない。敵も強くなっていく。ここからどう逆転できるんだよ」
「相手にはキムラ・ホウリがいます。油断していると負けますよ?」
「キムラ・ホウリねぇ」


 男はピンと来ていない様子でトロピカルジュースを飲む。


「名前だけは聞くけど、どんな奴なんだ?」
「前にも説明した筈ですが?」
「そうだっけ?」


 首を傾げる男に女が冷ややかな視線を向ける。


「ではもう一度だけ説明します。キムラ・ホウリとは───」
「遅くなったっす!」


 説明を遮るように、男と女の間に1つの影が割り込んでくる。影、とは比喩ではない。文字通し、人型の真っ黒い影が出現したのだ。
 男はその影を見ると、待ってましたとばかりにハンモックから飛び起きる。
 この影はオダリムに潜入しているスパイだ。1週間のスパイ活動を終えて、男に現在のオダリムの状況を報告しにきたのだ。


「やっと来たな!さっさと情報をよこせ!」
「は、はいっす」


 影は男の圧に押されながらも得た情報を伝え始める。


「まず、オダリムの被害状況っすけど……」
「死傷者は何人だ?5000人くらいか?」
「0人っす」
「……は?」


 期待していた真逆の言葉に男の口が開きっぱなしになる。


「……0人?嘘だろ?」
「本当っすよ。この世界には回復できるスキルがあるし、元の世界よりも死ににくいっすからね」
「それは軽傷の話でしょう?重症が簡単に治るわけでも死人が蘇るわけでもありません」
「つまり、今までの襲撃を軽症者だけで済ませたという訳か?」
「そういう事っすね」


 影の言葉に男の顔が引きつる。しかし、すぐに余裕そうな表情に戻った。


「それは魔物が弱かったからだ。これからは魔物のレベルも上がっていくから、今までの様には行かない筈だ。それにどれだけ被害を抑えても物資の消耗は激しいはずだ。長期戦ならばこちらの勝ちは決まったものだ」
「あー、それなんすけどね」


 影はバツが悪そうに頭を掻きながら報告を続ける。


「オダリムの物資の補給は断ててないっすよ?」
「……は?魔物で囲んでいるのに物資の補給が出来るわけないだろうが」
「魔法陣っていうワープできる手段があるっす。それで戦闘員と物資をオダリムに送っている見たいっすね」
「魔法陣には大量のMPが必要な筈です。あれだけの巨大な街に十分な補給を魔法陣のワープで行うのは現実的でないと思いますが?」
「キムラ・ホウリが魔石を大量に確保してるみたいっすよ?手段は分からないっすけど」
「魔石を集めるのって大変なのか?」
「1日にタンカー5隻分のガソリンを集めるようなものだと思ってください」
「そんなの無理に決まってるだろ」
「それが出来る相手なのですよ」


 女の説明に男が頭を抱える。


「そんな非常識なこと予測できるわけないだろうが」
「ちなみに、今はお祭りの最中っすね」
「お祭り?」


 影が頷いて写真を差し出してくる。男は写真を受け取ってて写っているものを確認していく。
 そこにはオダリムの街で楽しそうにしている客や、所狭しと並んでいる屋台が写っていた。


「今って襲撃中だよな?なんで祭りしてるんだ?」
「そのくらいの余裕があるみたいっすよ?戦力も温存しているみたいっすし」
「温存だと?」


 男の鋭い視線が影に向けられる。


「この世界には神級スキルっていう強いスキルがあるんす。その神級スキルを持ちがオダリムの街に4人もいるっす」
「どのくらい強いんだ?」
「その内の1人は数百体の魔物を数秒で倒したっす」
「それが4人?なるほど、そいつらがいるから攻め切れないわけか」


 男が顎に手を置いて考えはじめる。男の頭の中には神級スキル持ちを仕留める方法が練られていた。


「神級スキル持ちに魔物を集中させて……その後は一転突破してみるか?」
「あ、言っておくっすけど、神級スキル持ちは戦ってないっすよ?」
「は?」
「さっき温存しているって言ったじゃないっすか。神級スキル持ちが最後に戦ったのは2日前。それ以降は神級スキル持ちがいなくても攻め切れてないっす」


 影の説明に男の顔が再び引きつる。


「……ちなみに、どれくらいの戦力があれば突破できる?」
「今の30倍はいると思う、ってシンヤさんは言ってたっす」
「それだけの戦力を集めるのに、どれだけの時間がかかると思うんだ!」
「敵の戦力を見誤りましたね」


 女が眼鏡を上げながら冷ややかに言う。男は返す言葉も無いのか、黙って俯いた。


「……だったら、魔物を集めた後に再び仕掛けるしかないか」
「あー、あんまり時間をかけるのはおススメしないっすね」
「どういう意味だ?」
「敵さん、こちらの位置を把握し始めたっす」
「は?」
「あと3週間くらいで特定できるらしいっすよ?」
「なんでそんなこと出来る!?俺達の力は神から貰った力だぞ!?どれだけ使ってもこの世界の奴が俺達の位置を特定するなんて……」
「別の神の力を借りているのではないですか?」


 狼狽える男に女が冷静に言い放つ。


「別の神?」
「相手も転移者です。神とつながっていても可笑しくないでしょう」
「その神に力を借りたって訳か。なら、モタモタしている暇はないな」
「あ、あと……」
「まだ何かあるのか!」
「おいら以外のスパイは全員捕まったっす」
「……は?」


 男は影が言ったことが理解できないのか、動きが固まった。


「……どういう意味だ?」
「そのままの意味っすよ。おいら以外のスパイは全員捕まって処刑されたっす。残ったスパイはおいらだけっすね」
「スパイって何人いたっけ?」
「送り込んだスパイは50人ですね」


 女が書類をめくりながら答える。


「逮捕された日にすぐ処刑。スピーディーすっね?」
「感心している場合か!お前が捕まったら誰も情報を持ってこれないんだぞ!?」
「おいらが捕まる訳ないっすよ。現にここにいるっすし」
「慢心はいけませんよ。相手は少しの隙も見逃さない強敵です」


 影の言葉を女が厳しく律する。


「はーい、分かったっすよ」


 影は不満気に返事を返す。しかし、スパイがいるとはいえ状況は劣勢であることに変わりはない。
 男もそれを認識し、真面目な表情で考えをまとめ始める。


「まずは戦力の強化だ。あとは効率よく進軍させないと……」
「あ、そういえば良い報告もあるっすよ?」
「なんだ?」


 影は懐から袋を取り出した。


「お祭りでローストビーフ丼を買って来たっすよ。おいらの一押しっす」
「そんなの食う気分じゃねぇよ」


 男は袋を受け取らずにハンモックに寝転ぶ。


「どうやって戦力を補充するか。シンヤに頼むのは癪だしな……」
「食べないのなら私がいただきますね」
「どうぞっす」


 女が影から袋を受け取り、ローストビーフ丼を取り出す。


「おお、お肉が多いですね」
「大盛りっすからね」
「それではいただきます」
「……戦争中に気を抜くのは可笑しいって言って無かったか?」
「ちょっとぐらい楽んでも良いのでは?」
「……やっぱりそいつは俺が食う!」
「お断ります」


 男がハンモックから飛び起きて、ローストビーフ丼を持った女を追い回す。
 その様子を見て、影はヤレヤレと首を振ったのだった。
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