魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三百九話 ハチミツください

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「ひ、ひどい目にあった……」
「久しぶりに命の危険を感じたぞ……」


 フランさんにボロボロにされた僕らは、オダリムの街を歩いていた。
 怪我はフランさんに直してもらったけど、心なしか体が重い。あの後、何度か挑んだんだけど、フランさんに攻撃が通じることが無かった。何回も打ちのめされて精神的なダメージも大きい。
 その分、僕たちの連携力は上がったけどね。
 僕は力無く空を見上げる。空は夕日で真っ赤に染まっている。
 戦い始めたのは朝だった筈なのにもう夕方か。気絶しっぱなしだったから、時間の感覚が無くなってるや。


「お腹も空きましたね」
「何も食べずに戦っていたからな。何か食べて帰るか」
「そうですね。かつ丼でも食べて宿に────」
「おーい!」


 店を探し始めた僕の目に、向こうからホウリさんがやって来くるのが映った。


「ホウリさん?どうしたんですか?」


 僕らの前にやってきたホウリさんはオダリムの外壁の方へと指を向けた。


「今、オダリムの外壁に特注の兵器を上げているところなんだ。それを手伝ってくれないか?」
「えー?今からご飯食べるところだったんですけど?」
「わがまま言うな。この街の皆の安全が掛かってるんだぞ」
「そうですけどぉ」
「とりあえずコレをやるから食っとけ」


 そう言って、ホウリさんがチョコバーを渡してくれる。僕は渋々受け取って、包み紙を剥がして口に入れる。
 口に広がる甘みを我慢しつつ、なんとか胃にエナジーバーを収める。


「ミエルも食うか?」
「いただこう」


 ミエルさんも同じようにエナジーバーを食べる。これでお腹が空いて力が出ないことはない筈だ。


「もう何も無ければ行くぞ」
「はーい」


 ホウリさんに連れられて、オダリムの外壁までやってくる。すると、外壁の上から大きな兵器を引き上げていた。


「あれってバリスタですか?」
「ああ」


 簡単に言えばバリスタとは巨大なボウガンみたいなものだ。矢の他にも火炎瓶とか飛ばせたりするけど、この機構だと矢を発射するので間違いないかな。


「これを上にあげるのを手伝うんですよね?」
「いや、お前らにやってもらいたいことは別にある」
「別?」
「とにかく上にあがろう。話はそれからだ」


 バリスタには縄が括り付けられていて、壁の上から引き上げられている。その横の壁には梯子が掛かっていて、誰でも上がれるようになっている。


「ここからあがろう」
「分かりました。ミエルさん、お先に上がりますか?」
「なっ!?……遠慮する。ロワとホウリから上がってくれ」
「そうですか?じゃあ僕から」


 ミエルさんは顔を赤くしたけど、すぐにいつもの調子に戻った。
 不思議に思いながらも僕は梯子に手を掛ける。すると、ホウリさんがミエルさんに聞こえないように耳打ちをしてきた。


「なあ、ミエルは何を履いている?」
「え?スカートですけど?」


 戦った時はズボンだったけど、戦闘後にスカートに着替えていた。だから、今はスカートを履いている。僕は面倒だから戦闘の時の格好だけど。


「お前はスカートを履いた奴を先に上らせるのか?」
「……あ」


 上にスカートの人がいいたら、下から下着が見えてしまう。そんな簡単なことにも気づかないなんて恥ずかしい。


「次からは気を付けろ」
「は、はい」


 心の中で反省しつつ、僕は梯子を上っていく。
 外壁の頂上まで登り切ると、等間隔でバリスタが配置されていた。見えるだけでも100個はある。まだ襲撃があって1週間くらいだよね?よくこれだけ集めたものだ。


「あれ?あの人って?」


 何気なく壁の上を見ていると、見知った人が目に留まった。


「ミンティさん?」


 白衣を身にまとったその人は、発明家のミントさんだった。僕の携帯弓やホウリさんのワイヤー発射装置とかを発明した人だ。ノエルちゃんの裁判の時もお世話になったっけ。
 ミントさんも僕に気が付くと軽く手を上げて来た。
 上がって来たホウリさんとミエルさんと一緒に、ミントさんの元へと向かう。


「お久しぶりです」
「久しぶりだな。元気か?」
「おかげさまで」


 握手しつつ軽く挨拶をする。ミエルさんとも同様に挨拶すると、ホウリさんが本題を切り出した。


「お前たちにはバリスタの調整をしてもらう」
「具体的には何をすればよいのだ?」
「草原の敵に向けて矢を発射して、標準に問題が無いか見てくれ」
「それくらいなら、他の者でも出来るだろう?なぜ私達なのだ?」
「どうせ暇してるんだろ?訓練がてら調整の手伝いをしてもらおうと思ってな」
「いや、今日はフランさんにボコボコされるのに忙しかったです」
「フランに喧嘩を売ったのか?死にたいのか?」


 ホウリさんの言葉に僕は曖昧に笑う。確かにこれだけ聞いたら手の込んだ自殺と思われても仕方がないかな。


「それに、このバリスタには特殊な仕様があってな」
「特殊な仕様?」
「MPを矢として発射できるのだ」
「それは珍しい仕様だな」


 そういえば、闘技大会の一回線でMPを発射する銃の使い手と戦ったっけ。あの銃の大きくなったものがこのバリスタってことか。


「前に国から依頼されてな。最近、発明を完成させたんだ」
「その発明を大量生産させて、壁の上に配置させてる訳だ。これが有ると無いとでは大きく違うからな」


 確かに大型の兵器の有無は街の防衛に大きく関わってくる。今でも十分だと思うけど、相手の能力が分からない以上、用意を整えておくに越したことはない。


「沢山の矢を持ち運ばなくても良いのは楽ですね」
「だが、MPを大量に使うのは体に負担が掛かる。長期戦には向かないな」
「そこは適度に交代することで何とかするしかないな」


 そういう話をしつつ、ミントさんがバリスタを軽く叩く。


「そういう訳だ。頼めないか?」
「僕は良いですよ」
「私も問題無い」
「助かる。じゃあ、使い方を説明しよう」


 ミントさんがしゃがんでグリップの部分を指さす。


「ここにMPを込めれば矢が生成される。過剰なMPを防ぐために、ある程度のMPを込めるとMPが込められなくなる」
「無理に込めようとすると壊れるから注意しろ」
「了解です。まずは僕からいきますね」


 僕はグリップを握ってMPを込め始める。10くらい込めたあたりでMPが込めづらくなる。


「これで良いんですかね?」
「ああ。魔物に狙いを付けて放ってくれ」


 言われた通りに、ゴブリンの頭に狙いを付けて引き金を引く。すると、バリスタから青いエネルギー状の矢が放たれる。
 そして、矢はゴブリンの胸に命中し貫通した。ゴブリンは鮮血を噴き出しながら光の粒となった。


「どうだ?」
「狙ったよりも右のゴブリンに命中しました。あと、矢の軌道が下に落ちやすいみたいですね」
「なるほど」


 ミントさんは僕の言葉を持っていた紙にメモしていく。


「他に何か気付いたことは?」
「威力がかなり高いですね。5発も当てればミノタウロスでも倒せそうです」
「MP10でそれほどの威力か」
「MP効率を極限まで高めたからな。これさえあれば、ある程度の魔物であれば問題無いはずだ」


 ミントさんはバリスタを分解すると、中をいじり始めた。


「……これでよし。もう一度試してくれ」
「分かりました」


 僕は同じようにゴブリンの頭を狙って引き金を引く。すると、青い矢がゴブリンの頭に命中した。


「凄いです。短時間の調整で完璧な精度になりました」
「当然だ。この調子で他のバリスタも調整しよう」
「はい……え?他のバリスタ?」


 僕は壁の上に並んでいるバリスタに目をやる。見えてるだけで100個。全部で何個あるか分かったものじゃない。


「調整ってこれ全部ですか?」
「勿論だ。全部やらないと意味が無いだろう?」
「……何時間かかるんですか?」
「1日で終われば良いんじゃないか?」
「そ、そうですか」


 僕は顔を引きつらせながら返事をする。


「ミエルは俺と調整だ」
「分かった。この数は手分けしないと終わらないだろうしな」


 そう言う訳で、深夜まで僕らはバリスタの調整をやった。結局、調整は1日では終わらずに何週間もかかったのだった。
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