魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

文字の大きさ
371 / 472

第三百十五話 ウ・ソ

しおりを挟む
 オダリムに来てから2週間、俺は必死に物資や人員をかき集めていた。


「魔法陣によるオダリムへ搬入した物資の一覧です」
「防衛線へ志願している冒険者の一覧だ」
「魔物の動きについてまとめました。目を通しておいてください」
「ありがとう。そこに置いておいてくれ」


 様々な書類が机の上に積まれていく。フランが見たら卒倒しそうな量だ。
 俺がいるのはオダリムの宿の一室。とはいっても、泊まることが目的ではなく、書類の確認が主な使用用途となっている。
 魔法陣の物資の流れや、防衛戦へ参加を希望している冒険者の管理は政府がやっている。その情報を渡してもらって色んな調整をするのが俺の役目だ。
 具体的には、どこの戦場に誰を配置するかとか、地域ごとに物資の過不足が無いように調整したりとかだな。
 持ってきてもらった書類に目を通していると、書類を持って来た奴が1人部屋に残っていることに気が付く。


「あの、1つ伺って良いですか?」
「なんだ?」


 物資のリストを持って来たキュラソが控えめに手を上げる。


「この量の書類を、1人で捌いているんですか?」
「ああ。確認するだけならそこまで時間はかからないしな」
「確認するだけって……」


 キュラソが天井まで積み上がっている書類に目を向ける。


「確認するだけで何週間かかるんですか?」
「1時間で確認する。心配するな」
「はぁ?」
「そうだ、戻る時に外に置いてある書類を処分してくれないか?」
「あの廊下を塞いでいる奴ですか?」
「その通りだ。あと、1時間後にこの部屋に来て、この部屋の書類も処分してくれ。この手の書類は残っていると敵に渡る可能性がある」
「わ、分かりました。では、失礼します」


 キュラソが部屋から出ていき、俺は書類の確認に戻る。
 1時間後、予定通り全ての書類に目を通した俺は考えをまとめる。


「……想定通りだな」


 物資の補給はできているが、徐々に不足が目立ってきている。やはり、魔法陣での物資は応急的な手段。通常の半分の物資しか確保できない。長く続けると市民の生活や戦闘に支障が出るだろう。
 冒険者の質は問題無いか。バリスタも設置したし戦力的には問題無いだろう。
 あとは魔物の問題だが、1つ気になることがある。


「確かめてみるか」


 俺は部屋から出て宿の外に出る。
 街の中の様子は魔物が襲撃する前と変わらない。


「この光景を守らないとな」


 俺がオダリムの住人を避難させていないのは作戦の1つでもある。だが、大きな理由はこの日常を守るためだ。
 避難生活は心身的な負担が大きい。可能な限り避難はさせたくないところだ。


「さて、あのあたりで良いか」


 俺は適当な路地裏に入り込んで壁にもたれ掛かる。


「……魔物どもの動きが知りたい」


 普通であれば聞き取れない程度の小声でつぶやく。瞬間、紙が落ちる音が足元から聞こえた。
 足元に視線を向けると、二つに折られた真っ黒い紙が落ちていた。拾ってみると、俺が欲しかった魔物に関する情報が書かれていた。


「……なるほどな」


 俺は小さめの火球を出して紙を燃やす。紙が完全に燃え尽きたのを確認して路地裏から出る。


「さて、まずは魔法陣からだな」


 魔法陣がある建物に向かいつつ、街の様子を確認する。


「よおホウリ。どこに行くんだ?」
「魔物の撃退に関するあれやこれやで、色んな所を駆け回っているところだ」
「大変だねぇ。ちゃんと休んでいるかい?」
「まあな。体壊すようなヘマはしねぇよ」
「そうよね。頑張ってね」
「おう」


 街の人達と話しながら早足で魔法陣がある建物まで進む。
 街の人達との関係も重要だ。忙しくても可能な限り交流は深めておきたい。
 そんなこんなで魔法陣がある建物、ギルド本部までたどり着く。ギルド本部は馬車の出入りが激しい。今はこのギルド本部が物資補給の生命線だし、当たり前ではあるか。
 ギルド本部は政府が運営しているわけではない。だが、今回のような緊急事態の時は政府管理のもとで、魔法陣を使用することがある。


「お疲れ様です!」
「お疲れさん」


 敬礼する憲兵に挨拶してギルド本部の中に入る。
 いつもの会議室に入ると、渋い顔をしているギルド長がいた。


「おっす」
「ホウリか。よく来たな」
「で、呼び出した理由を聞かせてくれないか?」


 俺がここに来たのはギルド長に呼ばれたからだ。まあ、理由はなんとなく分かるが。


「最近、認可していないアイテムがオダリムで流通している」
「俺でも把握している。不法なポーションとか武器とかだな」


 魔物の襲撃があってから、その手の不法なアイテムがオダリムに少しずつ確認され始めた。この混乱に乗じて一稼ぎしようという輩なんだろう。


「荷物の検査は行っているが、何故か見つけることが出来ない」
「だから俺に見つけて欲しいって訳だな?」
「そういうことだ」


 疲れた表情でギルド長が頷く。これは相当に参っているみたいだな。


「分かったよ。目星は付いているから手早く済ませよう」
「頼んだ」
「ギルド長は休んでいてくれ。あとは俺が何とかする」
「助かる」

 
 ギルド長は安心したのか、机に突っ伏して眠り始めた。あの顔を見るに数日は寝ていないみたいだし、しばらくは休ませてやろう。
 俺はギルド長の頼みを果たすために、魔法陣がある部屋まで向かう。


「時間が無いし、さっさと終わらせるか」


 目星をつけた奴らはそろそろ来るはずだ。
 そう思っていると、魔法陣の部屋までたどり着いた。魔法陣の部屋からは丁度、荷物を積んだ馬車が出てくるところだった。


「おいおい、検査はまだか?」
「もうしばらくお待ちください」


 商人が欠伸をしながら憲兵と話している。あいつだな。
 俺は顔に笑顔を張り付けながら商人の元へと向かう。


「時間が掛かっていてすみません。代わりに私が検査してもよろしいでしょうか?」
「お前も憲兵か?」
「私は憲兵ではないんですが、特別に検査を任されているんですよ」
「そうか。ま、早く検査できるならなんでも良いけどな」
「じゃあ失礼しますね」


 俺はは馬車に掛かっている布を取り外す。馬車に乗っているのは食料品やHPポーションなどの物資だった。見た感じ普通の物資で違法性は確認できない。


「どうした?まだか?」
「もう少しだけお待ちを」


 物は普通。なら、違法な物資は……
 俺は馬車の床下の木に手を掛け、思いっきり剥がした。


「な!?何しやがる!?」


 商人は悲痛な叫びをあげたが、俺は構わずに床下を剥がす。
 すると、床下から瓶詰された青色の液体や紫色の短剣などが出て来た。


「違法ポーションのマルセルと呪いの装備か。これは言い逃れ出来ないよな?」
「え、いや、その……」


 決定的な証拠を前に商人の目が泳ぐ。


「じ、実はこの馬車は借り物で。俺もこんなものがあるなんて知らなかったんだよ」
「この馬車、王都のサンフランで買っただろ?」
「な!?なぜそれを!?」


 俺の言葉を聞いた商人の目が思いっきり見開かれる。


「なんで知っていると思う?」
「…………」
「お前が怪しいと踏んで調査してたからだよ。だから、床下にあるって知ってたんだよ」


 嘘だけど。この形の馬車はサンフランにしか売っていない。それを、事前に調査していたように話しただけだ。
 だが、嘘だとは気づかない商人は青い顔で震え始めた。


「こいつを連行してください。仲間もいるはずなので、尋問して吐かせてください」
「わ、分かりました」


 荷台から降りながら、近くにいた憲兵に指示を出す。
 これでオダリムへの違法な物資の流入は押えられるだろう。まあ、まだまだ悪徳商人はいるだろうから、油断は出来ないが。
 そんな感じで俺はギルド本部を後にして、次の目的地へと向かうのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...