魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三百二十六話 私のこの手の上でェ……転がされているんだよォ!!!

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何処かの森の中。ここでは男と女が、光る板を睨みつけていた。


「そっちはどうだ」
「芳しくないですね」


 女は光る板を操作しながら呟く。男の方も渋い顔をしており、状況が悪いのが分かる。


「魔物の数はどうですか?」
「こっちも状況が悪い。思ったよりも魔物の数が揃わない」
「どうにかならないんですか?」
「俺のスキルは魔物を操作するだけだ。無から生み出している訳ではない以上、融通が利かない面がある」


 男のスキルは魔物を操作するスキル。その範囲は世界中にまで及び、操れない魔物もいない。
 つまり、この世に存在する全ての魔物を操るっことが出来るのだ。


「そっちのスキルでどうにか出来ないのかよ」
「私のスキルは強化系ではございますが、そこまで強力ではないので」


 女のスキルはステータスの閲覧とバフ。全ての者のステータスの確認が可能で、弱めのバフを掛けることが可能である。
 弱めとはいえ、バフを掛けられる対象の数は無制限。全体的な強さの向上で言えば強力なスキルだといえよう。
 だが、そのようなスキルを持ってしても、オダリムを落とす事は出来ていない。それはなぜか。


「ここの狙いが悉くハズレやがる……」


 速さで攻めようとすると、デバフで速さを落とされ撃墜。力で攻めようとすると、遠距離から攻撃。空から攻めようとすると、弓や魔法で落とされる。強力な魔物で一転突破しようとすると、そこの守りだけ厚くなっていて突破できない。
 こういった風に、どれだけの策を講じようとしても、オダリムは適切な対策を取ってきている。それがオダリムを攻め切れない理由だ。


「ここまで来たら小細工抜きで物量で攻めてみるか?強力な魔物も混ぜれば守り切れないだろ?」
「それはおススメしませんね」


 女は光る板を男へ向ける。そこには草原から見たオダリムの街の景色だった。


「これは魔物の視界から見える景色です。ここを見てください」


 女が壁の上を指さす。そこにはボウガンが大きくなったような兵器が置いてあった。


「これはバリスタ。兵器の一種です」
「どういう兵器なんだ?」
「強力な矢を発射するような兵器と思ってください。もっとも、発射するのはMPのようですが」
「強いのか?」
「ミノタウロスくらいなら一撃だと思ってください」
「それだけ強力なら消費するMPも多いだろうな」
「消費MP10。1人で30発は撃てますね。MPポーションで回復したらもっと撃てます」
「そんな兵器チートだろ……」


 男が頭を抱える。早急に決着をつけないといけないが、下手に攻めると戦力が無駄に減ってしまう。
 だが、数や強さでゴリ押すことも出来ない。男にはどうすればよいのかの判断が全く付かなくなっていた。


「……というか、バリスタに詳しいのはなんでだ?」
「定期報告を受けているからですよ。貴方が面倒くさがって目を通さないから、私が見ているのです」
「へいへい、俺が悪かったですよ」


 影による報告は未だに続いていた。運が良いのか、スパイ活動はバレておらず、オダリムの戦力の詳細や物資の流通状況など、事細かな情報を持ってきてた。


「相手の情報が分かるのに、攻め切れないってどうなってんだよ……」
「どうなってるんでしょうね。それよりも、魔物の侵攻状況はどうですか」
「そっちも不味い事になってる」


 今度は男が光の板を見せる。そこには人国の地図と無数の点が表示されていた。


「これは俺が操っている魔物の位置だ」
「知ってます。この中心がオダリムなのですよね」
「そうだ」


 板の中心ほど点は多くなっており、中心から離れるごとに点が少なくなっている。
 離れている点は徐々に中心へ移動している。これは魔物がオダリムへ集結していることを意味している。


「これがどうしたのですか」
「オダリムに向かっている魔物が討伐されている」
「魔物ですからね。討伐されるのは日常茶飯事なのでは?」
「討伐のスピードが速すぎるんだ」


 男が地図をなぞって丸で囲む。


「この線を通過しようをしたあたりで討伐されることが多い。恐らく待ち伏せされているんだろう」
「どのくらいの魔物が討伐されているんですか?」
「8割だ」
「それは切実ですね……」


 男の言う通り、線の外側に比べて内側は点の数が少ない。待ち伏せされて数を減らされていると考えるのが自然だろう。


「魔物はオダリムに向かって直進している。待ち伏せはかなり効果的だ」
「ですが、待ち伏せをされるには早い気がします。魔物の動向に注視すれば、ある程度の動向は掴める
でしょうが、8割の魔物を倒せるだけの戦力を用意するのは時間がかかります」
「だな。それに8割も蹴散らせるくらいの戦力となると相当なものだ。数週間で用意できるとは考えにくい」


 オダリムの周りにはレベルの低い魔物しかいない。だからこそ、駆け出しの冒険者たちが集まる街になっているともいえる。
 逆に言えば、オダリムから離れる程、魔物のレベルも上がっていく。オダリムから離れた魔物を倒すとなるとそれなりの戦力が必要になるわけだ。
 男が示したエリアはオダリムからかなり離れている。A級の冒険者が50名は必要であるだろう。それだけの実力者を短期間で用意し配置するのは現実的ではない。


「だが、現実に起きている。何故だ?」
「これは奴の仕業ですね」
「奴?」
「キムラ・ホウリです」
「ああ、前もその名前を聞いたな」


 男が空を見上げて必死に記憶を探る。前に聞いたのはオダリムが祭りの時であった。あの時は詳しい事を聞いていた訳では無いが、相当に頭が切れる者だということは聞いていた。


「だけど、そいつはオダリムにいるんだろ?オダリムの外に干渉できるのか?」
「この世界では地球の常識で判断しない方が良いですよ。街から街へ移動する方法があるんですからね」
「そうか、ワープか」


 合点がいったのか、男が手のひらに拳を打ち付ける。


「そうです。ワープは他の街まで即座に移動できます。キムラ・ホウリは他の街に向かい、戦力を整えて待ち伏せを狙ったのでしょう」
「くそっ、最短距離で向かわせたから動きも読まれ易かったのか。遠回りになっても経路は複数に分散させるべきだったか……」
「今からでもそうするべきでしょう。というか、待ち伏せが分かっているのであれば対処も出来るのでは?」
「それは無理だな」


 男が光る板に触れながら答える。その表情は悔しそうでもあり、憎らし気でもあった。


「俺のスキルは移動先を設定するくらいの大雑把な指示しかできない。一応、個々に指示をすることも出来るが、数が多すぎるから現実的じゃない」
「挟み撃ちとかが精々な訳ですね」
「そうだ。待ち伏せが他にもあるかもしれないから、戦力を分けるのも避けたいし、どうしたものか……」


 男が再び頭を抱える。今、オダリムに集結している魔物は8割が討伐され、オダリムにたどり着けたとしても決定打にならない。しかも、時間をかけすぎると、居場所を特定されるリスクが上がっていく。
 現状だけを見ると、オダリムを攻め落とすことは絶望的に見える。


「……けど、やるしかないんだよなぁ」
「ですね。今はオダリムを攻略する方法を考えましょう」
「出来る気がしないけどな」
「気持ちで負けてはダメですよ。まだ、9回裏3アウトです」
「負けてんじゃねえか」


 そんな感じで森の中には絶望感が漂う。そんな森に、絶望的な空気にも負けないくらいの真っ黒な影が地面から現れた。


「お待たせっす。今日も情報を持って来たっすよ」
「……おう」
「どうしたっすか?財布とスマホと家のカギを落としたってくらい絶望的な顔してるっすよ?」
「それに加えて、命を落としているくらいの絶望的な状況ですよ」
「そこまでして絶望的なだけって、むしろ凄いっすね」


 そんな軽口を叩きながら、影は情報をまとめた書類を女に渡す。


「今日の情報っす」
「ありがとうございます」


 女は無表情で書類をめくっていく。すると、男が脇から書類を覗き込んできた。


「どんな情報が載っているんだ?」
「珍しいですね。いつもなら見向きもしませんのに」
「バリスタみたいな情報があるかもしれないからな。俺も見ておいた方がいいだろ?」
「分かっていただけたようで何よりです」


 こうして、女と男は情報が書かれている書類を読んでいく。


「えーっと、『オダリムの名店10選。とりあえずここに行け!』だと?なんだこれ?」
「見ての通り、オダリムに行った際に行くべきお店です。レストランや服屋、ゲームセンターなど、幅広いお店が網羅されています」
「聞きたいのはそれじゃないんだが!?なんで店の情報なんて調べてんのかって聞いてんだよ!」
「オダリムを落とした後に行く店を吟味するのは当然でしょう?」
「当然じゃないが!?もっと役立つ情報を持ってこいよ!」
「ふっふっふ、任せてくださいっす。オダリムだけじゃなくて、グランガンやスミルの店も調べてあるっすよ」
「別の街を調べろって訳じゃないんだが!?」


 そんな感じで、森の中での侵攻作戦は進んでいくのだった。
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