魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三百四十八話 情け無用の男!

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 シグナルピストルを見た俺が外壁にたどり着くと、そこには土下座していたロワとミエルがいた。


「何してるんだ?」
「謝罪の意を示しているんです」
「言葉が足りてない。何があったのかを説明してくれ」
「実は……」

 
 ミエルから今までの出来事について説明を受ける。簡単にまとめると、普通じゃない魔物を取り逃したということらしかった。


「あの……僕達も頑張ったんですけど、まさか敵が変身するなんて思わなくて……」
「敵が変身することを想定しているのは俺くらいなものだ。想定していないのは責められることじゃない」
「ホウリさんは想定しているんですね」
「俺は大抵のことを想定してるからな」
「想定しすぎて動けなさそうだがな」
「慣れてるから問題無い」
「そうでしたか。やっぱりホウリさんは凄いですね」
「別におだてなくても良いぞ」


 必要以上に怯えられている気がするな。こいつらなりに責任を感じているんだろう。


「とにかく、そいつの事が気になるな。他の場所でも目撃情報が無いか聞いてみるか」
「あれ?ホウリさん怒っていないんですか?」
「怒ってる訳ないだろ?咄嗟の対処はできたほうが良いが、出来ないことを責めるつもりは無い」
「ですが、ホウリさんからかなりの迫力を感じるんですけど?」
「敵が本格的に攻めてきているからな。事態を重く見ているからだ」
「そうでしたか」


 緊張感は隠さないでいいだろう。あまりにも軽く受け止め過ぎると、周りにも軽く思われかねない。
 俺が怒っていないことが分かって安心したのか、ロワとミエルは立ち上がった。


「これからどうしますか?」
「ロワ、トーチアローはどのくらい持つ?」
「何もしなければ5時間は持ちますよ」
「夜明けまでは持つな」
「まさか探すつもりか?」
「探すだけ探してみるつもりだ」
「そんなこと出来るんですか?」


 トーチアローでマーキングしているとはいえ、たった1匹の魔物を探すのは難しいだろう。普通ならな。


「いくつかの切札を切る。準備もそろそろ終わるしな」
「切札?」
「何をするつもりだ?」
「お前らに迷惑は掛けないから安心しろ」
「本当か?」


 ミエルから疑わし気な目を向けられる。土下座していた相手にそんな目を向けるのはどうかと思う。


「こんな時に嘘を言ってどうする。お前らは引き続き魔物を倒しつつ警戒しておいてくれ。何かあればこいつを使って俺を呼べ」


 2人にピンク色の弾丸を渡す。


「これは?」
「特別なシグナルピストルの弾丸だ。普通の弾とは違って、煙自体が光って目立ちやすい」
「ありがとうございます」
「それじゃ、頼んだぞ」
「分かった。例の魔物はお前に任せる」


 2人に託して俺は壁の上から街の中に飛び降りる。
 そして、ワイヤー発射装置を使ってワイヤーを建物の屋根に引っ掛ける。振り子のように俺は空中に投げ出される。
 空中から別の建物の屋根や看板にワイヤーを引っ掛けて、同じように移動する。
 ……どこぞの蜘蛛男みたいな移動だよな。
 そんな感じで高速で移動しつつ、とある宿屋の前に着地する。この宿はロワとミエルが泊っている宿とは別の宿で、値段は高いが食事や部屋の質はかなり高い。
 俺は宿の扉を開けて、目の前にある受付のベルを鳴らす。


「はい」


 宿の奥から店員がやってくると、俺に気が付いて笑顔になった。


「キムラ様、おかえりなさいませ」
「部屋の鍵を貸してくれ」
「かしこまりました」


 店員から鍵を受け取って、部屋がある2階へと上がる。2階の一番奥にある212号室に鍵を差し込んで扉を開ける。
 部屋の中には明かりが付いておらず真っ暗で、窓からの月明りだけが頼りだ。
 そんな暗い部屋の中で、誰かが寝ているのかベッドの上が膨らんでいた。
 俺は部屋の壁にあったスイッチを入れて明かりを付ける。


「うーん……?」


 すると、ベッドで寝ていた人物が起き上がって来た。


「あれ?ホウリお兄ちゃん?」


 ベッドで寝ていたのはノエルだった。ノエルは目を擦りながら首を傾げる。


「うーんと?おはよう?」
「おはよう。緊急事態だ。すぐに出かけるぞ」
「はーい」


 ノエルはベッドの上で猫のように伸びをして、脇にある引き出しからナイフとか銃を取り出した。
 こんなこともあろうかと、休みの間はノエルをオダリムに連れてきてたのだ。
 案の定、敵が何かを仕掛けてきていたみたいだし、ノエルをオダリムに連れて来たのは正解だったな。


「何があったの?」
「実はな───」


 俺はノエルが準備している間に今までの出来事を軽く説明する。


「そんなことがあったんだ。つまり、その魔物を探しに行くってこと?」
「そういう事だ。準備は良いか?」
「うん、オッケーだよ」
「じゃあ行くぞ。俺の背中にしがみつけ。魔装とコネクトを忘れるなよ」
「はーい」


 ノエルが俺の背中にしがみついて、魔装とコネクトを発動させる。瞬間、俺の中から止めどなくMPが湧きだしてきた。
 俺は白い仮面をつけて、ノエルが隠れるほど大きなフードを被る。これで一目見ただけでは俺とノエルだって分からないだろう。
 廊下に気配が無いことを確認し扉を開ける。ここからは人目には敏感にならないとな。
 誰にも見られない様に気を付けて、宿の裏口から出る。


「これから何するの?草原に突撃?」
「草原で探すのは時間が掛かり過ぎる。だから、手っ取り早く上から探す」
「上?」


 俺は裏路地から壁を伝って、宿の屋上に上る。


「建物の上から?でも、草原の全部を見られるくらい高い建物は無いし……」
「ノエルがいれば建物よりも上に行く方法があるだろ?」
「あ、そっか。結界で足場を作るんだね」
「そう言う事だ」


 ノエルは察しが早くて助かる。ロワなら1から10まで説明しないといけないところだ。


「でもさ、今は夜で見えにくいけど、他の人に見られるかもしれないよ?」
「それも考えてある」


 俺は腕に半透明の腕輪を付ける。


「この腕輪は使用者と密着している奴を半透明にする魔道具だ。よく見ると分かるが、視界が悪い夜なら十分だ」
「そんな腕輪があるんだ。便利だね」


 確かに便利な腕輪だが、MPの消費が物凄く多い。だから、ノエルやフランがいないと、まともに使うことが出来ないところが欠点か。


「じゃあ、行くぞ。俺から離れるなよ?」
「うん」


 俺は足に魔装をして思い切り飛び上がる。10mほど跳んだ所で足元に結界を作成し、結界を足場にして更に上に飛ぶ。
 本当は雷装を使えばもっと早く飛べるんだが、雷装の火花は夜だと目立ちすぎる。効率が落ちても魔装で跳んでいくしかない。


「おー!すっごい高い!」


 300mくらいの高さでノエルが感嘆の声をあげる。


「もっと高い場所に行く。草原に光る魔物がいたら教えてくれ」
「はーい」


 ノエルはフードの隙間から草原を見下ろす。
 下は煌々と明かりを放っているオダリムの街と、真っ暗な中で魔物でうごめいている草原の姿があった。こう見ると敵の数は圧倒的だな。まともに戦うと無事では済みそうにない。
 だが、この状況で特別な魔物を寄越した理由はなんだ?こちらに切札が無いか警戒している?もしくは一気にこちらを攻め落とそうとした可能性もあるな。
 ゴブリンなどの弱い魔物に偽装し、接近したら強力な魔物に変身して攻撃する。それならこちらの意表をつけるだろう。
 なんにせよ、問題の魔物を見つけないとどんな考えも仮説にしかならない。やつらの切札なら潰してやる。


「ん?あれって?」
「見つけたか?」
「うん」


 ノエルがフードの隙間から手を出して、草原を指さす。俺は上昇をやめて結界の上に立つ。


「あそこに何かが光った気がして。気のせいかな?」
「いや、ビンゴだ。よくやったぞノエル」
「ほんと?やったー!」


 ノエルの指さした方を見てみると、背中が微かに光っているゴールドウルフがいた。MPが尽きているのか雷装はしていないが、全力で森に向かっているな。


「……なるほどな」
「何か分かったの?」
「ああ。分かったぞ」


 魔物の姿を視認したおかげで、俺の中での1つの仮説が当たっていることを確信する。
 

「まず、あいつは魔物じゃない」
「え?魔物じゃないの?」
「ああ。ゴールドウルフにしては走り方が変だ。あの走り方を見るに、二足歩行の奴が無理やり四足歩行で走っているんだろう」


 魔物の知能では二足歩行から四足歩行で走るのは無理だろう。そもそも、天界でこの世界の情報を見た時に、変身する魔物の情報は無かった。
 相手が特殊能力で魔物に変身していると考えれば辻褄が合う。


「そして、この襲撃なんだが……」
「うん」


 俺はニヤリと笑いながら口を開く。


「あと数時間で決着がつく」
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