魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三百五十話 何やってんだミカァ!

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 森の中でロットと女は対峙する。2人の間には張り詰めたような緊張感が漂う。


「あなたはロットで間違いないですか?」
「……その通りだ」


 女の質問にロットの眉が微かに上がる。


「名前が知られているということは、戦闘スタイルも知られているのではないか、そう思いましたよね?その通りです」


 女は光の板を四方に表示させて操作していく。
 ロットは手斧を投げつけるが、光の板に弾かれて防がれる。


「あなたはステータスを向上させるスキルを使う斧使いです。ステータスの上り幅が高く、ドラゴンすらも叩き切るとか」


 女は光の板を操作しながら話を進める。ロットは攻撃をしても無駄だと悟ったのか、戻って来た手斧を受け止めて話に耳を傾ける。


「言っておきますが、私に戦闘経験はありません」
「……なら道を開けろ。むやみに怪我をさせたくない」
「勘違いしないでください」


 女は無表情のまま指を這わせる。


「私の能力があれば戦闘経験が無くても、あなたに勝てます」


 女が眼鏡を上げつつ、光の板から手を離した。すると、女の体を七色の光が包み込んだ。


「お待たせしました、始めましょうか」
「……いくぞ!」


 先手必勝で決めようと、ロワが接近して手斧を振り下ろす。だが、女は避けずに手斧を頭に受けようとする。


「……なっ!!?」


 無抵抗とは思っていなかったロットは咄嗟に斧を引き戻そうとする。だが、完全には抑えきれずに手斧が女の頭に直撃する。


「それで全力ですか?」


 手斧の下から女の無表情な顔がのぞく。直前で力を抜いたとはいえ、斧神の手斧を受けて無傷。ロットは目の前の女が只者ではないことを感付く。
 ロットは後ろに大きく跳んで、手斧を構えなおす。


「……どうやら、本当に強いみたいだな」
「疑っていたんですか?」
「……少しな」
「そうでしたか」
「……だが、もう油断はしない。全力でいかせてもらおうぞ」


 ロットが目つきを鋭くして手斧をアイテムボックスに仕舞う。そして、身の丈を越える大斧を取り出した。
 だが、女は無表情のまま、恭しく頭を下げる。


「……なんの真似だ?」
「よく考えてみますと、こちらだけ能力を把握しているのはフェアではありません。大変失礼いたしまいした」
「……可笑しな奴だ。能力を秘密にすることなんて、誰もがやっていることだぞ?」
「私が気にするのです。なので、あなたには私の能力をお伝えいたします」
「……はぁ?」


 戦いの最中に自分の能力の説明、聞いたことが無い状況にロットの思考が一瞬止まる。


(嘘の説明で能力を誤認させる気か?それとも、俺に疑念を抱かせるのが目的か?)


 無表情で真意が読み取れずに困惑していると、女は説明を始めた。


「まずは自己紹介からさせていただきます。私の名前は安田 美香やすだ みか。この世界で侵略者をしております」
「……もう少し言い方があるだろう?」
「取り繕っても仕方ないでしょう。侵略しているのは本当なのですから」


 話を聞いて、ロットは更に女のことが分からなくなる。律儀だが侵略することに罪悪感がある様子は無い。更に「この世界で」という言い方に引っ掛かりを覚えた。
 その違和感の正体を確か練るために、ロットは更に話を聞く。


「私達は能力を2つずつ貰いました。私は広範囲、大人数にバフを掛けるスキルが1つ目。2つ目は自信へのバフです」
「……それが斧を受け止めても平気だった理由か」
「その通りです。今の私は、あなたのステータスを上回っています」
「……なるほどな。だから戦闘経験が無くても勝てると言っていたのか」


 ステータスの高さで戦うロット。だが、目の前の敵は自信のステータスを上回る強敵だ。普通だったら怯むところだろう。
 だが、ロットの目は闘志で燃えていた。


「……これは気を引き締めないとな」
「説明は以上です。何か質問はありますか?」
「……あっても答えてくれないだろう?」
「そんなことありません。可能な限りお答えしますよ」
「……質問は無い」


 美香の質問にロットが律儀に答える。それを聞いた美香が眼鏡を上げる。


「かしこまりました。では、始めましょうか」


 そう言って美香がファイティングポーズを取る。その構えはぎこちが無く、戦闘経験が無いことは本当であると分かる。だが、ロットは油断せずに、両手で大斧を構える。


「……行くぞ!」


 ロットが美香に向かって接近し斧を振り下ろす。美香は左手で斧をガードすると、右手でロットに殴り掛かる。
 ロットは美香の拳を躱そうと身を反らせる。だが、完全に拳を躱せずわき腹に掠る。
 拳はロットの脇を少し抉り、脇から血が溢れ出す。


(思ったよりも攻撃力が高い。躱しきるか防御しないとやられてしまうな)


 ロットは大斧を大きく薙ぐ。美香は回避しようとせず、大斧をお腹で受ける。
 しかし、美香はうめき声もあげずに、再び拳を振り上げる。


(渾身の攻撃だったが、ダメージを受けている様子は無いな。だったら……)


 ロットは大斧の柄で拳を受け流し、大斧で思いっきり切り上げる。
 大斧の刃は顎に命中すると、美香の目が少しだけ揺れた。そして、美香はゆっくりと前に倒れた。


「な、なんですかコレ?」
「……顎を攻撃して脳を揺らした。ダメージは無いだろうが、平衡感覚が無くなって立てない筈だ」


 ロットは倒れ伏した美香の上で回り始める。回転させることで斧の威力を上げる『龍断』だ。
 龍断は回転させる速度を上げるほどに斧の威力が上がる。だから、斧を回す時間が無いと威力を発揮することが出来ない。回転させる隙を見つけることが重要なスキルだ。


「……はああああああ!」


 ロットの回転で周りに竜巻のような風が巻き起こる。木々は地面から引っこ抜かれそうなほどに大きく揺れる。回転の勢いが増すほどに大斧の刃の光が増していく。
 そして、回転の勢いが最高潮に達した時にロットは大きく跳びあがる。


「龍断!」


 まばゆく光る斧を倒れている美香に打ち付ける。美香はというと、斧を躱そうと必死に立ち上がろうとする。
 だが、立ち上がれずに大斧を左手で受け止めようとする。
 大斧は左腕に命中すると、轟音を上げて真ん中からへし折れた。地面にはクレーターが出来て、斧の威を物語っている。


「ぐあっ!?」


 流石に無傷とはいかずに、美香の表情が大きくゆがむ。だが、ロットは逆に焦りを感じた。


(今のは俺の全力の攻撃だ。だが、腕を折るしかできなかった。少なくとも気絶はさせられると思ったのだが……)


 ロットは後ろに大きく跳んで再び距離を取る。
 思ったほどでは無かったが、ダメージは与えられた。コレを続けていれば、いつかは倒せるだろう。
 そう確信したロットは大斧を再び握りこむ。すると、腕を折られた美香はゆっくりを立ちあがった。



「お見事です。私が相手でなければ勝てる可能性もあったのでしょう」
「……どういう意味だ?」
「こういう意味です」


 瞬間、美香の折れた左腕がメキメキという音と共に、元に戻っていった。


「私のバフは回復力も上がります。腕が切り落されても、数秒で生えてきます」
「……つまり、俺の攻撃ではお前を倒すことができないと?」
「その通りです。降参するなら命は助けますよ?」


 美香が無表情でロットの言葉を肯定する。
 美香へ攻撃をしてもほとんど通らず、龍断でダメージは与えてもすぐに回復される。さらに、美香の攻撃は掠るだけでも大ダメージになりかねない。
 状況は絶望的、普通であれば逃げるか降参するところだろう。だが、ロットは


「……まだ戦える」


 大斧の柄を更に強く握りしめた。
 その様子を見ると美香は眉を顰めた。初めて美香が表情を見せた瞬間だった。


「その表情。もしかして、まだ何か手があるのですか?」
「……ああ」


 ロットは目を瞑ると大きく息を吐く。そして、神経を集中させると体の中の力を放出させる。


五龍断ごりゅうのたち


 そう呟くとロットは目を開けた。その目は黄金に輝いていたのだった。
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