魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三百六十八話 質問はすでに拷問に変わっているんだぜ

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 とある日の放課後、私は返却されたテストを見つめていた。


「す、凄いですわよフロラン様」
「そうですわよ。5問しか間違えないなんて天才ですわ」
「……上に6人もいて、何が天才ですか」


 私の脳裏に嫌な記憶が呼び起される。


…………
1位 ノエル・カタラーナ 600点
2位 マカダ・トオリ   598点
3位 コアコ・ロッテ   597点
3位 サルミ・キンツ   597点
5位 パンプ・キューレ  596点
5位 アルフォ・マンド  596点
7位 フロラン・ワーズ  595点
…………


 テストの結果を張り出した紙。そこには私よりも上に6人もいると書かれていた。
 ワーズ家の人間は常に頂点に立たなくてはいけない。なのに頂点には程遠い順位だ。


「5つもミスをして何が天才よ」


 手元のテストをグシャリと握りつぶして呟く。


「……帰るわ」
「ご、ごきげんよう……」


 テストを鞄に仕舞って教室から出ていく。そのまま校舎を出て校門まで向かう。
 足取りは重い。剣の特訓で疲れ切った時でさえ、こんなに足取りが重い事は無かった。


「おかえりなさいませ、お嬢様」


 校門の前では執事であるセムラが車の前で待っていた。
 恭しく礼をするセムラに迎えられて私は車に乗り込む。私が乗り込んだことを確認して、セムラは車を発進させる。
 車を走らせている中、車内は無言だった。いつもならセムラが話しかけてくれるけど、今日は何も話してくれない。多分、私の表情を見て何かあったことを理解しているんだろう。


「……お嬢様、今日は旦那様がいらっしゃいます。お嬢様と夕食を一緒にされたいとおっしゃっていました」
「……そう」


 お父様とは半年に1度ほどしか一緒に夕食を取れない。それが今日なんてタイミングが悪いわね。



☆   ☆   ☆   ☆


 ドレスに着替えて食堂の長テーブルでお父様を待つ。食堂の時計の秒針の音がいつもよりも遅く聞こえる。酷く喉が渇く。傍にはセムラがいるのに微塵も安心感が無い。
 どれくらい待ったか分からない中で、食堂の扉が開く音が聞こえた。見なくても分かる、お父様だ。


「待たせたか?」
「いえ」
「そうか」


 そう言うと、お父様は私の対面に座る。
 何回やったかも分からない、いつも通りの形式的な会話。そこに中身なんて無い。
 無言で待っていると、私達の前に前菜のサラダが運ばれてきた。


「それで、この前のテストはどうだった」


 お父様がサラダにフォークと突き刺しながら聞いてくる。いつも通りの質問。お父様が求めているのは1位であるという回答。だが、今日の私はお父様の求めている回答が出せない。
 ここで誤魔化す方が怖い。ここは正直に伝えよう。


「……7位でした」
「なんだと?」


 お父様の目が鋭く私を射抜く。私はフォークを持つ手が細かく震える。


「聞き間違いか?」
「聞き間違いではございません。7位でした」
「どういうことか説明して貰おうか」


 お父様がフォークを置いて、私を真っすぐと見つめて来る。ここからは雑談じゃない。ただの尋問だ。


「……私の不徳の致すところです」
「テストを見せて貰おう」


 私はクシャクシャになったテストをテーブルに置く。そのテストをセムラがお父様に持っていった。
 お父様はテストを手に取ると、鋭い視線のまま睨みつける。
 

「ミスは5問か。1位は何点だ?」
「全教科満点でした」
「ならばお前も満点を取る必要があるな」
「失礼ながら旦那様、お嬢様の点数も本来であれば1位を狙えます。少しは労いのお言葉をかけても……」
「ワーズ家に生まれたからには常に頂点に立たねばならない。頂点に立たねば同様に無価値だ。分かっているな?」
「……はい、お父様」


 お父様は料理にはそれ以上手を付けずに席を立った。


「教育方針を考え直さなくてはな」


 そう言うとお父様は食堂から立ち去った。忙しいお父様が途中で席を外すことは珍しくない。だが、今回は訳が違う。


「残りのお食事はいかがされますか?」
「いらないわ」


 私も席を立つ。今日はサラダひとかけらも食べられそうにない。


「今日はもう休むわ」
「かしこまりました」


 私は重い足取りで食堂を後にしたのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


「はっ!」


 次の日、私は庭で剣を振っていた。今のままではノエル・カタラーナに剣技も勉強も勝てない。なんとかしないと……



「はっ!」
「雑念が多いな」
「誰!?」


 剣を振っていると背後から聞き覚えの無い声がした。私は警戒しつつ剣を構えて振り返る。


「血の気も多い。そんなんじゃノエルには勝てないぜ?」


 そこには木刀を腰に刺した黒い髪の男とセムラが立っていた。セムラが傍に居るって事は、侵入者ではないようね。けど、それ以上に気になるのは……


「貴方ノエルを知っているの?」
「まあな」
「お嬢様、この方の名はキムラ・ホウリ。ノエル・カタラーナの保護者でございます」
「ノエル・カタラーナの保護者!?」


 そう言えばノエルが「ホウリお兄ちゃん」という人物から剣術を習っていると言っていた。その人物がこの人って訳ね。


「ノエル・カタラーナの保護者が何の用かしら?スパイ活動でもしているのかしら?」
「まさか。そんなことしなくても君はノエルに勝てない」


 ホウリの言葉に私はカチンとくる。


「なら試してみる?」
「ああ良いぜ」


 私が構えてもホウリは平然としている。私が子供だからって舐めているのだろう。


「後悔しても知らないわよ!」


 私は全身の力を使ってホウリに切りかかる。速さ、角度、共に申し分なし。貰った!
 そう思ってホウリの首筋に向かって剣を放つ。だが、


「ほう?大した腕だな?」
「な!?」


 私の剣は刃を指で摘ままれて止められた。押しても引いてもビクともしない。


「このっ!離して!」
「お前は両手で剣を持っている、俺は片手が空いている。この意味が分かるな?」


 ホウリは腰から木刀を引き抜くと、私に向かって突き付けた。


「……分かったわ。私の負けよ」


 私が負けを認めると、ホウリは私の刃から指を離した。


「私の剣を見切れるなんて、あなた何者?」
「この方は今年の闘技大会の優勝者でございます」
「なるほど。どうりで強い訳ね」
「お褒めにあずかり光栄ですな」


 そんなおどけた口調で話しながらホウリは木刀を腰に差し直す。


「中々鋭い剣筋だ。ノエルに合うまでは小学生の中では敵なしだっただろ?」
「だったら何よ。嫌味を言いに来た訳?」
「実は君のお父さんに君の剣と勉強の家庭教師をするように頼まれてね」
「お父様に?」
「君のお父さんには世話になっていてね。とはいえ、君が嫌がるなら無理強いはしない」


 お父様の言っていた意味がようやく分かった。あれは家庭教師を変えるって意味だったんだ。
 この男の戦闘力は分かった。けど、勉強はどうかしら?


「貴方、勉強できるの?」
「ノエルに勉強を教えているのは俺だ。信用できないか?」
「良いわ。信用してあげる」


 ノエル・カタラーナの強さの秘密がこの男にあるなら利用しない手は無い。役に立たないなら切り捨てれば良い。


「それで、何を教えてくれるのかしら、ホウリ先生?」
「そうだな。手始めにノエルに通用するかもしれない技を教えるか」
「そんな技があるの!?」


 思わず縋りつく私にホウリ先生はニッコリと笑う・


「ああ。さっきの技を更に発展させる」
「発展?」
「さっきのは速さに重きを置いた技だろ?だが、あれだけじゃノエルには通じない」
「そうなの?」
「言っておくが、あいつは力の10%も出していない。本気を出したノエルを倒せるのは世界に100人も居ない」
「……冗談でしょ?」
「信じなくても良い。けど、どちらにしてもさっきの技はノエルに通じない。それは君も分かっているだろう?」
「……そうね」


 さっき技は速さを極限まで高めた技『疾風斬』。だけど、あの技でもノエル・カタラーナに通じるとは思えない。


「新しい技を身に着けて今度の小学生版の闘技大会でノエルと戦う。君にとってこれ以上の舞台は無いだろう?」
「それもそうね」


 大勢の前でノエル・カタラーナを打ち負かす。これ以上の舞台は無いだろう。
 私が剣を持つ手に力がこもる。絶対にノエル・カタラーナを倒す。私は決意を固めたのだった。
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