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第1事件 失踪事件 その2
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「着きましたよー」
ロワの声でナッシュは目を覚ました。窓から外を見てみると、ファミリーレストランの駐車場に車は止まっていた。
「これから依頼人と会います」
「失礼の無いようにな」
「了解です」
前の2人が車から出ていくのを見て、ナッシュも後に続く。
3人がファミリーレストランに入ると、店員が顔に笑顔を貼り付けて出迎えてくれた。
「いらっしゃいませー。何名様でしょうか」
「待ち合わせしているんですけど。犬山っていう人はいますか?」
「犬山様でございますね。こちらのお席へどうぞ」
店員に窓際の席まで案内されると、そこにはスマホで見た依頼人、犬山が不安な様子で座っていた。
犬山は眼鏡を掛けており不安そうに縮こまっている。目の下には隈があり、表情にも疲れが見える。
「お待たせいたしましキャラメル探偵事務所の者です」
ミエルがスマホにキャラメル探偵事務所のマークを映して、依頼人に見せる。
犬山はそのマークを見ると、立ち上がって頭を下げた。
「犬山です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
犬山の隣にロワ、前にミエルとナッシュが座る。
「私はコーヒーをお願いします」
「僕もコーヒー」
「私はオレンジジュースをお願いします」
「かしこまりました」
店員へ注文を済ませて、3人は依頼人の犬山へと向き直る。
「改めまして、今回の事件を担当いたします、ミエルです」
「ロワです」
「な、ナッシュです」
ロワも慣れた手つきでスマホに探偵事務所のマークを表示させる。ナッシュはまだ慣れていないのか、マークを出すのに手間取る。ナッシュはなんとかマークを表示させて犬山に見せる。
ミエルはテーブルにスマホを置いて話を始めた。
「今回は事件の概要を確認させていただくと共に、改めて事件をお受けする条件についてご説明させていただきます」
「条件?」
ミエルの言葉にナッシュが首を傾げる。
「事件を受けるには、いくつかの条件を設けたりするんです。条件は事件によって違っていて、条件を飲めなければ依頼は受けられません」
「あの、その人は探偵じゃないんですか?」
基本的な情報を知らないのを不審に思ったのか、犬山がナッシュに視線を向ける。
「ナッシュは探偵ではなくて助手です。今日入社したので至らないところがございますが、捜査は私達が行いますのでご安心ください」
「そうですか」
納得したのか、犬山は再びミエルの方を向く。
「改めて今回の条件を説明いたします」
ミエルはスマホを操作して文字が並んだ画面を表示する。
「今回の依頼は人探しに該当します。人探しでは依頼人の方にも探した人の居場所を報告できない場合がございます」
「どういうことですか?」
「見つけた人が悪い人から逃げている場合、他の人に場所を伝えるだけでもリスクになる可能性があるからです。場合によっては生死でさえも伝えられないこともあります」
「そんなことがあるんですか?」
「かなり稀ですけどね。けど、可能性としては0ではないです」
その説明を聞いたナッシュは依頼人である犬山の様子を伺う。
「犬山さんは大丈夫なんですか?」
「自分で探しても、彼女のことは何一つ分からなかったんです。これで何も分からなかったとしても悔いはありません。それに誘拐されていたりしたら、早く助け出さないと」
「私も加奈子さんのことは心配です。早速、話を進めましょうか」
ミエルさんが笑顔のままで話を続ける。
そこからは届いた飲み物をのみつつ、依頼の確認を進めていく。とはいえ、目新しい情報は無く、スマホで得た情報をなぞるだけだった。
「……なるほど」
「何か分かりましたか?」
犬山が期待した様子でミエルに尋ねる。ほとんど何も無いという状況だ。本来であれば何も分かるはずがない。
だが、ミエルは自信満々の様子で答える。
「恐らくですが、加奈子さんはこの街にはいらっしゃいません」
「なんでそう思ったんですか!?」
「聞き込みでの情報が少なすぎるんです」
ミエルがスマホに周辺の地図を表示させる。
「加奈子さんの家から会社までの道はほとんど大通りです。出勤時間で人が居ない場所はありません。こんな中で誘拐は考えにくいでしょう」
「で、ですが、この街にいないって思った理由はなんですか?」
「これも目撃情報が無いから、そう判断しました」
「街から出るには電車とかの交通機関を使う必要がありますよね?目撃証言が多いんじゃないんですか?」
ナッシュの疑問にミエルは首を振る。
「考えてもみてくれ。出勤ラッシュで周りの人間の顔を全て覚えているか?」
「そう言われると、あんまり覚えていないような?」
「つまり、加奈子さんは出勤を装って遠くの駅で降りた。だからこそ、誰の記憶にも残らず姿を消せたのだ」
「なるほど。流石は探偵さんですね」
犬山がミエルを尊敬の眼差しで見つめる。
「でしょ?ミエルさんは凄いんですよ」
「なんでロワが偉そうなんですか?」
「その調子でお願いします!」
犬山が勢いよく立ち上がって頭を下げる。すると、いきなり犬山が膝から崩れ落ちた。
「おっと」
隣にいたロワが犬山を受け止める。
「す、すみません。安心したら今までの疲れが……」
「恋人がいなくなったんです。無理もないですよ」
ロワが犬山をゆっくりと椅子に降ろす。
「ここからは任せてください」
ミエルは微笑むと席を立った。
「私達は調査に向かいます。結果が出ましたらお電話で報告いたします」
「はい!お願いします!」
伝票を持ってレジへ進むミエルさんの後を私達は追う。
「ありがとうございましたー」
支払いを済ませた3人はファミレスを出て車へと戻る。
「あの、ミエルさん。さっきのお話で気になった点があるんですけど」
「え?何か変なところありましたか?」
「ナッシュは気が付いたか」
「え?え?なんですか?」
ハンドルを握りながらロワが首を傾げる。
「加奈子さんはこの街にいないって言ってましたけど、そうとは限りませんよね?」
「そうなんですか?」
「だって、目撃されていないから電車で移動したって言ってましたけど、それ以外にも可能性はありますよね?」
「そうだな。どこかの建物に隠れているとかの可能性もあるな」
「言われてみればそうですね?」
ロワが納得したように頷く。そんなロワをナッシュは冷めた目で見ている。
「ロワさんって本当に探偵なんですか?」
「ぼ、僕は頭脳担当じゃないので」
「頭脳を使わない探偵って……」
「1人くらい頭を使わない探偵が居ても良いじゃないですか?」
「開き直らないでください」
ナッシュがミエルに視線を向けると、ミエルはゆっくりと首を振る。
「ロワに頭脳労働を求めるのは酷というものだ。別に取柄があるのだから、それで良いだろう」
「別の取柄って何ですか?」
「それは……ほら……あれだ」
「即答してくれません!?僕が役立たずみたいな感じになるでしょう!?」
「あ、あれだ。優しい」
「絞り出してそれですか!?何も褒めるところ無いときに挙げる奴ですよね!?最後の方の歯磨き粉でも、もっと搾り出せますよ!?」
ロワが顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
そんなロワを前にミエルはからかう様に笑った。
「冗談だ。ロワの長所は情報収集能力にある」
「情報収集能力?」
「聞き込みが上手かったり、たまたまが情報出て来たり、そういう事だ」
「聞き込みは分かるんですけど、たまたま情報が出るっていうのは、どういうことですか?」
「簡単に言えば、転んだら殺人事件の凶器を見つけたり、歩いていたら凶悪犯を見つけたりとかですかね」
「それってたまたまですよね?長所って言えます?」
「たまたまが1000回も続けば、偶然と言えなくなってしまうだろう?」
「1000回って……」
ナッシュが疑わしそうな視線をロワに向ける。
「疑うのも無理はない。となると、証明するしかないだろうな」
「運の証明ってどうするつもりですか?」
「何か運要素が高いものは無いですか?」
「運要素が高いもの?」
ナッシュは少し考えた後、私用のスマホを取り出す。
「ゲームのガチャを引いてもらいます。そのガチャで私の欲しいキャラを引けたら信じても良いですよ」
「分かりました」
ナッシュが出したガチャ画面に表示されている「1回ガチャる」をロワがタップする。
すると、魔法陣が飛び交うような派手な演出のあと、銀髪の目つきが悪い男キャラが表示された。
ナッシュはスマホの画面を見て目を丸くしている。
「嘘……本当に当たった……」
「これで信じてくれますか?」
ナッシュは呆けていたが、ロワに聞かれて首を横に振った。
「……1回だけなら偶然の可能性もあります。10連ガチャで全て目当てのキャラを出せたら信じます」
「随分と強欲だな」
「それくらいの奇跡でも無いと信じられませんよ。ほら、引いてください」
再び差し出されるスマホ。ロワはスマホの「10回ガチャる」をタップする。
すると、先ほどと同じように魔法陣が飛び交う演出のあと、10回分のガチャの結果が表示される。
「……嘘でしょ」
画面には先ほどの銀髪の男が10人並んでいた。
「ピックアップが出る確率は0.8%。10回……いや、11回同じキャラが手に入る確率なんて、天文学的確率じゃないですか」
「これで信用してくれました?」
「……流石に信用せざるおえないですね」
ホクホク顔でナッシュは頷く。
「ロワさん、今後も私のガチャを引いてくれませんか?」
「僕の幸運は私的利用を禁じられてます。すみませんが、ガチャは自分で引いてくださいね」
「……じゃあ信じません」
「なら信じなくていい」
ナッシュの我儘をミエルがバッサリと切り捨てる。
「そろそろ話を戻すぞ。ロワ、Gの8に向かってくれ」
「了解です」
ファミレスの駐車場から車を発進させる。ナッシュは「Gの8」という単語について聞きたくなったが、グッと堪える。
「加奈子さんがこの街にいないと説明した理由は別にある」
「なんですか?」
「事前調査で加奈子さんがこの街にいない事を突き止めていたからだ」
「……え?」
ミエルの説明にナッシュが言葉を失う。
「分かっていることを、今推理したように見せてたってことですか?」
「その通りだ」
「なんの為にそんなことを?普通に調べはついているって言えば良いんじゃないですか?」
「依頼人に信用してもらうためだ」
「どういうことです?」
「私達は探偵だ。推理力がある事をアピールすると、信用が得やすい」
「信用が得られると、協力してもらいやすいです。逆に信用が低いと、捜査を邪魔してきたりします」
「邪魔?そんな人がいるんですか?」
「稀だがいない訳じゃない」
ナッシュはそんな人物がいるのかと頭を抱える。
「私達は依頼の達成を優先するべきだ。そのことを忘れないでくれ」
「分かりました。肝に銘じておきます」
そういう話をしていると、車はとあるビルの地下駐車場に入っていった。
「あれ?ここに何か用があるんですか?」
「ああ。少しだけ用がある」
「どんな用ですか?」
ナッシュの質問に答えず、他に車が止まっていない駐車場に車が止まる。
「あの?」
明らかに空気が変わったのを感じ取ったナッシュが不安そうな表情になる。その不安を決定づけるかのように、ロワは拳銃、ミエルはレイピアを取り出した。
「ナッシュはこの車の中から出ないでくれ」
「終わったら戻ってきますね」
「あの?何が起こっているのか教えてくれませんか?」
「敵に後をつけられている。始末してくるから、待っていてくれ」
「敵!?始末!?」
「詳しい説明は後だ」
ミエルが助手席に付いていたスイッチを押すと、車のガラスが全て黒に染まった。外から車内を覗き込まれる事は無いが、中からも外の様子が確認できない。
「これで敵はナッシュさんの事を視認できません。外の様子はスマホから見てください」
「スマホから外の様子を?」
「監視カメラのアプリがある。それを使えば近くの監視カメラの映像を見られる」
「それってハッキン───」
「それでは行ってくる」
ナッシュの言葉を遮るかのように、ロワとミエルは車から出ていった。扉が閉まると、ガチャリというカギが閉まる音がした。試しに扉を開けようとするが開くことは無かった。
「敵って?これから何が起こるの?」
外からの光も入ってこないため、車の中は真っ暗で何も見えない。
ナッシュはスマホを起動して、監視カメラのアプリを立ち上げる。
画面には駐車場の中に立っているロワとミエルが映し出された。そして、駐車場には先ほどは無かった車と数人のスーツを着た男がいた。
『それで尾行したつもりか?』
『バレバレですよ。目的はなんですか?』
スマホからは映像だけではなく音声も聞こえてくる。
男たちは何も言わずに拳銃やマシンガンと言った武器を取り出す。
『仕方ないですね、時間も無いですし制圧してから考えますか』
『そうだな』
ミエルがレイピアを、ロワは拳銃を男たちに向ける。男たちは少し怯んだ様子を見せたが、すぐに銃を構えなおした。
『気絶させるだけにしてくれよ』
『分かってます……よ!』
ロワが発砲して敵のサブマシンガンを弾き飛ばす。
『うわっ!』
『怯むな!撃て!』
男たちが各々の銃を発砲する。
『ロワ!私の後ろに!』
『はい!』
ミエルの後ろにロワが隠れると、弾丸が全てミエルに命中する。
『や、やったか?』
男たちが射撃を止めてミエルの様子を伺う。
ミエルは顔を腕で覆っていたが、射撃が止むと同時に腕をどけて一気に距離を詰めた。
『はぁっ!』
『うわっ!?』
急に距離を詰められた男たちは一瞬だけ動きを止めてしまう。
その隙を見逃さずにミエルは男たちの銃を切り刻んだ。目にも止まらない斬撃に男たちは一瞬何が起こったのか分からない様子だ。
『な、何が……うぐっ!?』
目を丸くしていた男がいきなり地面に倒れた。
『お、おい!どうし……へぎゃ!?』
『何が……めぎゃ!?』
男たちが次々と地面に倒れていく。残った男たちが視線を前に向けると、拳銃を構えていたロワが立っていた。
『スタン弾。当たったら強制的に気絶させる弾です』
『そんな無茶苦茶な弾があってたまるか!』
『僕もそう思います』
そんな軽い調子でロワが再び引き金を引く。すると、銃声も鳴らずに男が地に伏した。
『くそっ!こうなったら切札を出すぞ!』
男たちが車の中に駆け込み、重火器を肩に乗せて降りて来た。
『このロケットランチャーで吹き飛ばしてやる!』
『このビルごと破壊してやる!』
男たちはロケットランチャーをミエルに向かって放つ……前にミエルのレイピアで切断された。
『取り出してから撃つまでが遅い。この距離では反撃されるに決まっているだろう』
ミエルが男たちに切っ先を向ける。男たちが恐怖で固まっていると、ロワが放った弾丸によって気絶した。
『これで全員だな』
『縛って放置しましょうか』
2人は懐から縄を取り出し手慣れた様子で男たちを縛っていく。
『これでよし』
『通報はやっておきました』
『ありがとう、助かる』
縛った男たちを駐車場の端に寄せて、2人は車へと戻って来た。
「お待たせしました」
「それでは行きましょうか」
「やけに手慣れてましたね?」
ロワが黒くなっていたガラスを透明に直しながら答える。
「この仕事をしていると稀に襲われるんですよ。嫌でも慣れますよ」
「慣れるほど襲われているんですか……」
「ナッシュも戦えとまでは言わないが、逃げられるくらいにはなって欲しいな」
「そんなのに慣れたくないですね……」
そんなことを話しつつ、3人を乗せた車は出発するのだった。
☆ ☆ ☆ ☆
【探偵紹介】
名前 ミエル
区分:記憶探偵
得意武器:レイピア
能力値(D~S)
聞き込み力:C(苦手)
推理力 :A(得意)
記憶力 :S(神級)
観察力 :A(得意)
戦闘力 :A(得意)
一度見たものを忘れることが無いほどに記憶力が良い探偵。記憶力の他に推理力にも長けており、推理が必要な依頼の適性が高い。戦闘力も高く、レイピアで切れない物質は無い。
所持しているレイピアは聖剣と呼ばれており、とある任務で入手した。
見た目やプロポーションも良く、スカウトやナンパは日常茶飯事。それらを防ぐために普段もロワと共に行動することが多い。表には出さないが、ロワに恋心を抱いている。
自身が女性っぽくないことを気にしており、家事の特訓を頑張っている。なお、家事の腕は壊滅的で特に料理が苦手である。ホウリ曰く、スープ1杯で世界を壊滅させられる。
ロワの声でナッシュは目を覚ました。窓から外を見てみると、ファミリーレストランの駐車場に車は止まっていた。
「これから依頼人と会います」
「失礼の無いようにな」
「了解です」
前の2人が車から出ていくのを見て、ナッシュも後に続く。
3人がファミリーレストランに入ると、店員が顔に笑顔を貼り付けて出迎えてくれた。
「いらっしゃいませー。何名様でしょうか」
「待ち合わせしているんですけど。犬山っていう人はいますか?」
「犬山様でございますね。こちらのお席へどうぞ」
店員に窓際の席まで案内されると、そこにはスマホで見た依頼人、犬山が不安な様子で座っていた。
犬山は眼鏡を掛けており不安そうに縮こまっている。目の下には隈があり、表情にも疲れが見える。
「お待たせいたしましキャラメル探偵事務所の者です」
ミエルがスマホにキャラメル探偵事務所のマークを映して、依頼人に見せる。
犬山はそのマークを見ると、立ち上がって頭を下げた。
「犬山です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
犬山の隣にロワ、前にミエルとナッシュが座る。
「私はコーヒーをお願いします」
「僕もコーヒー」
「私はオレンジジュースをお願いします」
「かしこまりました」
店員へ注文を済ませて、3人は依頼人の犬山へと向き直る。
「改めまして、今回の事件を担当いたします、ミエルです」
「ロワです」
「な、ナッシュです」
ロワも慣れた手つきでスマホに探偵事務所のマークを表示させる。ナッシュはまだ慣れていないのか、マークを出すのに手間取る。ナッシュはなんとかマークを表示させて犬山に見せる。
ミエルはテーブルにスマホを置いて話を始めた。
「今回は事件の概要を確認させていただくと共に、改めて事件をお受けする条件についてご説明させていただきます」
「条件?」
ミエルの言葉にナッシュが首を傾げる。
「事件を受けるには、いくつかの条件を設けたりするんです。条件は事件によって違っていて、条件を飲めなければ依頼は受けられません」
「あの、その人は探偵じゃないんですか?」
基本的な情報を知らないのを不審に思ったのか、犬山がナッシュに視線を向ける。
「ナッシュは探偵ではなくて助手です。今日入社したので至らないところがございますが、捜査は私達が行いますのでご安心ください」
「そうですか」
納得したのか、犬山は再びミエルの方を向く。
「改めて今回の条件を説明いたします」
ミエルはスマホを操作して文字が並んだ画面を表示する。
「今回の依頼は人探しに該当します。人探しでは依頼人の方にも探した人の居場所を報告できない場合がございます」
「どういうことですか?」
「見つけた人が悪い人から逃げている場合、他の人に場所を伝えるだけでもリスクになる可能性があるからです。場合によっては生死でさえも伝えられないこともあります」
「そんなことがあるんですか?」
「かなり稀ですけどね。けど、可能性としては0ではないです」
その説明を聞いたナッシュは依頼人である犬山の様子を伺う。
「犬山さんは大丈夫なんですか?」
「自分で探しても、彼女のことは何一つ分からなかったんです。これで何も分からなかったとしても悔いはありません。それに誘拐されていたりしたら、早く助け出さないと」
「私も加奈子さんのことは心配です。早速、話を進めましょうか」
ミエルさんが笑顔のままで話を続ける。
そこからは届いた飲み物をのみつつ、依頼の確認を進めていく。とはいえ、目新しい情報は無く、スマホで得た情報をなぞるだけだった。
「……なるほど」
「何か分かりましたか?」
犬山が期待した様子でミエルに尋ねる。ほとんど何も無いという状況だ。本来であれば何も分かるはずがない。
だが、ミエルは自信満々の様子で答える。
「恐らくですが、加奈子さんはこの街にはいらっしゃいません」
「なんでそう思ったんですか!?」
「聞き込みでの情報が少なすぎるんです」
ミエルがスマホに周辺の地図を表示させる。
「加奈子さんの家から会社までの道はほとんど大通りです。出勤時間で人が居ない場所はありません。こんな中で誘拐は考えにくいでしょう」
「で、ですが、この街にいないって思った理由はなんですか?」
「これも目撃情報が無いから、そう判断しました」
「街から出るには電車とかの交通機関を使う必要がありますよね?目撃証言が多いんじゃないんですか?」
ナッシュの疑問にミエルは首を振る。
「考えてもみてくれ。出勤ラッシュで周りの人間の顔を全て覚えているか?」
「そう言われると、あんまり覚えていないような?」
「つまり、加奈子さんは出勤を装って遠くの駅で降りた。だからこそ、誰の記憶にも残らず姿を消せたのだ」
「なるほど。流石は探偵さんですね」
犬山がミエルを尊敬の眼差しで見つめる。
「でしょ?ミエルさんは凄いんですよ」
「なんでロワが偉そうなんですか?」
「その調子でお願いします!」
犬山が勢いよく立ち上がって頭を下げる。すると、いきなり犬山が膝から崩れ落ちた。
「おっと」
隣にいたロワが犬山を受け止める。
「す、すみません。安心したら今までの疲れが……」
「恋人がいなくなったんです。無理もないですよ」
ロワが犬山をゆっくりと椅子に降ろす。
「ここからは任せてください」
ミエルは微笑むと席を立った。
「私達は調査に向かいます。結果が出ましたらお電話で報告いたします」
「はい!お願いします!」
伝票を持ってレジへ進むミエルさんの後を私達は追う。
「ありがとうございましたー」
支払いを済ませた3人はファミレスを出て車へと戻る。
「あの、ミエルさん。さっきのお話で気になった点があるんですけど」
「え?何か変なところありましたか?」
「ナッシュは気が付いたか」
「え?え?なんですか?」
ハンドルを握りながらロワが首を傾げる。
「加奈子さんはこの街にいないって言ってましたけど、そうとは限りませんよね?」
「そうなんですか?」
「だって、目撃されていないから電車で移動したって言ってましたけど、それ以外にも可能性はありますよね?」
「そうだな。どこかの建物に隠れているとかの可能性もあるな」
「言われてみればそうですね?」
ロワが納得したように頷く。そんなロワをナッシュは冷めた目で見ている。
「ロワさんって本当に探偵なんですか?」
「ぼ、僕は頭脳担当じゃないので」
「頭脳を使わない探偵って……」
「1人くらい頭を使わない探偵が居ても良いじゃないですか?」
「開き直らないでください」
ナッシュがミエルに視線を向けると、ミエルはゆっくりと首を振る。
「ロワに頭脳労働を求めるのは酷というものだ。別に取柄があるのだから、それで良いだろう」
「別の取柄って何ですか?」
「それは……ほら……あれだ」
「即答してくれません!?僕が役立たずみたいな感じになるでしょう!?」
「あ、あれだ。優しい」
「絞り出してそれですか!?何も褒めるところ無いときに挙げる奴ですよね!?最後の方の歯磨き粉でも、もっと搾り出せますよ!?」
ロワが顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
そんなロワを前にミエルはからかう様に笑った。
「冗談だ。ロワの長所は情報収集能力にある」
「情報収集能力?」
「聞き込みが上手かったり、たまたまが情報出て来たり、そういう事だ」
「聞き込みは分かるんですけど、たまたま情報が出るっていうのは、どういうことですか?」
「簡単に言えば、転んだら殺人事件の凶器を見つけたり、歩いていたら凶悪犯を見つけたりとかですかね」
「それってたまたまですよね?長所って言えます?」
「たまたまが1000回も続けば、偶然と言えなくなってしまうだろう?」
「1000回って……」
ナッシュが疑わしそうな視線をロワに向ける。
「疑うのも無理はない。となると、証明するしかないだろうな」
「運の証明ってどうするつもりですか?」
「何か運要素が高いものは無いですか?」
「運要素が高いもの?」
ナッシュは少し考えた後、私用のスマホを取り出す。
「ゲームのガチャを引いてもらいます。そのガチャで私の欲しいキャラを引けたら信じても良いですよ」
「分かりました」
ナッシュが出したガチャ画面に表示されている「1回ガチャる」をロワがタップする。
すると、魔法陣が飛び交うような派手な演出のあと、銀髪の目つきが悪い男キャラが表示された。
ナッシュはスマホの画面を見て目を丸くしている。
「嘘……本当に当たった……」
「これで信じてくれますか?」
ナッシュは呆けていたが、ロワに聞かれて首を横に振った。
「……1回だけなら偶然の可能性もあります。10連ガチャで全て目当てのキャラを出せたら信じます」
「随分と強欲だな」
「それくらいの奇跡でも無いと信じられませんよ。ほら、引いてください」
再び差し出されるスマホ。ロワはスマホの「10回ガチャる」をタップする。
すると、先ほどと同じように魔法陣が飛び交う演出のあと、10回分のガチャの結果が表示される。
「……嘘でしょ」
画面には先ほどの銀髪の男が10人並んでいた。
「ピックアップが出る確率は0.8%。10回……いや、11回同じキャラが手に入る確率なんて、天文学的確率じゃないですか」
「これで信用してくれました?」
「……流石に信用せざるおえないですね」
ホクホク顔でナッシュは頷く。
「ロワさん、今後も私のガチャを引いてくれませんか?」
「僕の幸運は私的利用を禁じられてます。すみませんが、ガチャは自分で引いてくださいね」
「……じゃあ信じません」
「なら信じなくていい」
ナッシュの我儘をミエルがバッサリと切り捨てる。
「そろそろ話を戻すぞ。ロワ、Gの8に向かってくれ」
「了解です」
ファミレスの駐車場から車を発進させる。ナッシュは「Gの8」という単語について聞きたくなったが、グッと堪える。
「加奈子さんがこの街にいないと説明した理由は別にある」
「なんですか?」
「事前調査で加奈子さんがこの街にいない事を突き止めていたからだ」
「……え?」
ミエルの説明にナッシュが言葉を失う。
「分かっていることを、今推理したように見せてたってことですか?」
「その通りだ」
「なんの為にそんなことを?普通に調べはついているって言えば良いんじゃないですか?」
「依頼人に信用してもらうためだ」
「どういうことです?」
「私達は探偵だ。推理力がある事をアピールすると、信用が得やすい」
「信用が得られると、協力してもらいやすいです。逆に信用が低いと、捜査を邪魔してきたりします」
「邪魔?そんな人がいるんですか?」
「稀だがいない訳じゃない」
ナッシュはそんな人物がいるのかと頭を抱える。
「私達は依頼の達成を優先するべきだ。そのことを忘れないでくれ」
「分かりました。肝に銘じておきます」
そういう話をしていると、車はとあるビルの地下駐車場に入っていった。
「あれ?ここに何か用があるんですか?」
「ああ。少しだけ用がある」
「どんな用ですか?」
ナッシュの質問に答えず、他に車が止まっていない駐車場に車が止まる。
「あの?」
明らかに空気が変わったのを感じ取ったナッシュが不安そうな表情になる。その不安を決定づけるかのように、ロワは拳銃、ミエルはレイピアを取り出した。
「ナッシュはこの車の中から出ないでくれ」
「終わったら戻ってきますね」
「あの?何が起こっているのか教えてくれませんか?」
「敵に後をつけられている。始末してくるから、待っていてくれ」
「敵!?始末!?」
「詳しい説明は後だ」
ミエルが助手席に付いていたスイッチを押すと、車のガラスが全て黒に染まった。外から車内を覗き込まれる事は無いが、中からも外の様子が確認できない。
「これで敵はナッシュさんの事を視認できません。外の様子はスマホから見てください」
「スマホから外の様子を?」
「監視カメラのアプリがある。それを使えば近くの監視カメラの映像を見られる」
「それってハッキン───」
「それでは行ってくる」
ナッシュの言葉を遮るかのように、ロワとミエルは車から出ていった。扉が閉まると、ガチャリというカギが閉まる音がした。試しに扉を開けようとするが開くことは無かった。
「敵って?これから何が起こるの?」
外からの光も入ってこないため、車の中は真っ暗で何も見えない。
ナッシュはスマホを起動して、監視カメラのアプリを立ち上げる。
画面には駐車場の中に立っているロワとミエルが映し出された。そして、駐車場には先ほどは無かった車と数人のスーツを着た男がいた。
『それで尾行したつもりか?』
『バレバレですよ。目的はなんですか?』
スマホからは映像だけではなく音声も聞こえてくる。
男たちは何も言わずに拳銃やマシンガンと言った武器を取り出す。
『仕方ないですね、時間も無いですし制圧してから考えますか』
『そうだな』
ミエルがレイピアを、ロワは拳銃を男たちに向ける。男たちは少し怯んだ様子を見せたが、すぐに銃を構えなおした。
『気絶させるだけにしてくれよ』
『分かってます……よ!』
ロワが発砲して敵のサブマシンガンを弾き飛ばす。
『うわっ!』
『怯むな!撃て!』
男たちが各々の銃を発砲する。
『ロワ!私の後ろに!』
『はい!』
ミエルの後ろにロワが隠れると、弾丸が全てミエルに命中する。
『や、やったか?』
男たちが射撃を止めてミエルの様子を伺う。
ミエルは顔を腕で覆っていたが、射撃が止むと同時に腕をどけて一気に距離を詰めた。
『はぁっ!』
『うわっ!?』
急に距離を詰められた男たちは一瞬だけ動きを止めてしまう。
その隙を見逃さずにミエルは男たちの銃を切り刻んだ。目にも止まらない斬撃に男たちは一瞬何が起こったのか分からない様子だ。
『な、何が……うぐっ!?』
目を丸くしていた男がいきなり地面に倒れた。
『お、おい!どうし……へぎゃ!?』
『何が……めぎゃ!?』
男たちが次々と地面に倒れていく。残った男たちが視線を前に向けると、拳銃を構えていたロワが立っていた。
『スタン弾。当たったら強制的に気絶させる弾です』
『そんな無茶苦茶な弾があってたまるか!』
『僕もそう思います』
そんな軽い調子でロワが再び引き金を引く。すると、銃声も鳴らずに男が地に伏した。
『くそっ!こうなったら切札を出すぞ!』
男たちが車の中に駆け込み、重火器を肩に乗せて降りて来た。
『このロケットランチャーで吹き飛ばしてやる!』
『このビルごと破壊してやる!』
男たちはロケットランチャーをミエルに向かって放つ……前にミエルのレイピアで切断された。
『取り出してから撃つまでが遅い。この距離では反撃されるに決まっているだろう』
ミエルが男たちに切っ先を向ける。男たちが恐怖で固まっていると、ロワが放った弾丸によって気絶した。
『これで全員だな』
『縛って放置しましょうか』
2人は懐から縄を取り出し手慣れた様子で男たちを縛っていく。
『これでよし』
『通報はやっておきました』
『ありがとう、助かる』
縛った男たちを駐車場の端に寄せて、2人は車へと戻って来た。
「お待たせしました」
「それでは行きましょうか」
「やけに手慣れてましたね?」
ロワが黒くなっていたガラスを透明に直しながら答える。
「この仕事をしていると稀に襲われるんですよ。嫌でも慣れますよ」
「慣れるほど襲われているんですか……」
「ナッシュも戦えとまでは言わないが、逃げられるくらいにはなって欲しいな」
「そんなのに慣れたくないですね……」
そんなことを話しつつ、3人を乗せた車は出発するのだった。
☆ ☆ ☆ ☆
【探偵紹介】
名前 ミエル
区分:記憶探偵
得意武器:レイピア
能力値(D~S)
聞き込み力:C(苦手)
推理力 :A(得意)
記憶力 :S(神級)
観察力 :A(得意)
戦闘力 :A(得意)
一度見たものを忘れることが無いほどに記憶力が良い探偵。記憶力の他に推理力にも長けており、推理が必要な依頼の適性が高い。戦闘力も高く、レイピアで切れない物質は無い。
所持しているレイピアは聖剣と呼ばれており、とある任務で入手した。
見た目やプロポーションも良く、スカウトやナンパは日常茶飯事。それらを防ぐために普段もロワと共に行動することが多い。表には出さないが、ロワに恋心を抱いている。
自身が女性っぽくないことを気にしており、家事の特訓を頑張っている。なお、家事の腕は壊滅的で特に料理が苦手である。ホウリ曰く、スープ1杯で世界を壊滅させられる。
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