25人の探偵物語

唯野bitter

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第2事件 ゾンビ事件 その4

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「商店街を作る」


 そう宣言されてナッシュの動きが一瞬だけ止まった。


「……は?」


 動いたナッシュが最初に発した言葉はそれだった。


「言葉が足りなかったな。実際に見せつつ説明しよう」


 リルアが発明品の面を強く押し込む。すると、発明品から空中に商店街の一部が映し出された。


「これは?」
「地図を立体的に映し出すことができる発明品だ」
「近未来的ですね。ですが、全体は写されてませんね?」


 ナッシュの言う通り、地図には駄菓子屋とその周辺しか映されていない。


「この地図はシュンのメガネに映した情報を元に作成される。だから、来たばかりでは一部分しか作成されていない」
「だから、徐々に出来上がっているんですね」


 地図は少しずつ商店街を形作っていく。普通の地図とは違い、建物は立体的に見る事ができる。捜査の役に立ちそうだ。


「ん?これって人の動きも分かります?」
「そうだな」


 地図にはよく見ると人の形をしたものが歩いている。


「地図が立体的に見えるのは分かるんですけど、なんで人の動きがリアルタイムで分かるんですか?」
「シュンには商店街中に小さなカメラをバラ撒いてもらっている」
「それって盗撮では!?」
「バレなければ犯罪ではない」
「探偵なんですよね!?」


 ナッシュの抗議もどこ吹く風といった様子で、装置を動かしている。
 空中には徐々に商店街を形作っていく。駄菓子屋の前にある時計台、その隣の服屋、雑貨屋。壁の古びた具合や看板の汚れまでも分かるほどに細かく映されている。


「本当に便利ですね。売り出せば大儲けですよ?」
「興味無いな。金など腐るほど持っている」
「え?じゃあ、なんで探偵事務所で働いているんですか?」
「この探偵事務所は国家権力にも干渉できてな。本来であれば違法な研究も、キャラメル探偵事務所に所属していれば違法じゃなくなるのだ」
「そんな無茶苦茶な……」
「その無茶苦茶が通るのが、この事務所だ。他にも特例が多くあるぞ」
「他の特例?」
「武装が許可されている。ロワの銃やミエルの剣を見ただろう?」
「そういえばそうでしたね?」


 銃や剣は本来であれば銃刀法違反で逮捕されるだろう。だが、ロワやミエルは逮捕されるという心配はしていなかった。


「武器が使えるのは大きいですね」
「ああ。しかし、私たちがキャラメル探偵事務所に所属している理由は他にある」
「私達?他?」


 リルアの口ぶりからすると、シュンも何かしらの目的があって、この探偵事務所に所属しているようだ。


「それって一体……」
「悪いが話は後だ。そろそろ仕事をするぞ」


 リルアがワイヤレスイヤホンのような物を投げてよこしてきた。


「これは?」
「シュンの聞いたもの、見た物を共有できる発明品。名付けて『どこでも君と』」
「これってイヤホンですよね?聞くのは分かりますけど、見た物も共有できるんですか?」
「使えば分かる。通常のイヤホンと同じく耳に入れれば使える」
「はぁ……」


 訳が分からないと言った様子で、ナッシュが耳にイヤホンを付ける。すると、イヤホンから喋り声が聞こえて来た。


『……じゃあ、あなたも夜中の記憶が無いんですね?』
『ええ。夜の0時から30分くらい。気が付くと部屋の中が滅茶苦茶になってたんです』


 シュンと女性の声。どうやら、シュンが聞き込みしている声が聞こえているようだ。普通のイヤホンだと思った瞬間、右目に違和感を覚え始めた。


「え……え!?なんですかこれ!?」


 ナッシュの右目にノイズが走る。何が起こったのか分からずにいると、右目に商店街の光景が映り出す。
 そこには中年の女性が買い物カゴを持っている姿があった。


「え!?私の目どうしちゃったの!?」
「落ち着きたまえ。ただ、君の脳に干渉して、シュンの視界を流し込んでいるだけだ」
「何てことするんですか!?」
「特に後遺症などは発生しない。安心したまえ」
「そういう問題じゃないんですけど!?」
「とにかくやりたまえ。君は助手なのだろう?」
「そうですけど……」
「シュンの視界を見たくない場合は右目を閉じたまえ。その間はシュンの視界は映らない。逆にシュンの視界に集中したいのであれば左目を閉じたまえ」


 納得していない様子のナッシュだが、リルアは気にしない様子で発明品を触っている。
 抗議は無駄だと判断したナッシュは、ため息を吐いて左目を閉じる。


「それで、私は何をすれば良いんですか?」
「とりあえず、誰が何処でいつゾンビ化しているのかを把握しておきたい。何か法則があれば解決の手がかりになるかもしれない」
「具体的には何をすれば?」
「聞き込みで得た情報を私に伝えたまえ。私が得た情報を地図に入力して可視化する」
「分かりました」


  まだ細かいことが分からないナッシュだったが、今は言われた通りに右目の視界に集中する。


『ちなみに、記憶がなくなったのは自宅ですか?』
『そうよ』
『記憶が無くなるのはいつから?』
『1週間前の月曜日からね。病院に言っても精神的なものじゃないかって言われただけよ』
『可能であれば教えて欲しいんですが、ご自宅は何処ですか?』
『ここの2階よ』
『なるほど、ありがとうございます』
『貴方、探偵なんでしょ?どう?解決できそう?』
『今は聞き込みの途中なのでなんとも言えませんが、必ず解決してみせますよ』
『お願いね』


 そう言うと心配そうな表情の女性は歩いていった。ナッシュは得た情報をリルアに伝える。


「病院では異常なし。病院では検知できない何かか、外的な要因なのか」


 リルアは情報を入力しながら、ぶつぶつと呟く。ナッシュは邪魔しないように右目に意識を集中させる。
 シュンは更に商店街を進む。そして、漬物屋が目に留まると、中に入っていった。


『すみませーん』
『いらっしゃいませー』


 漬物屋には樽に入った漬物が並べられていた。中身は見られないが、値段や商品説明が書かれた札が貼ってある。
 店主らしき中年の男が営業スマイルで出迎えてくれる。


『なにかお探しですか?』
『まあ、そうですね』


 シュンが漬物を物色しながら答える。


『俺、桜漬けが好きなんですよ』
『大根の桜漬けであればありますよ』
『味見できます?』
『良いですよ』


 店主は奥から小皿を持ってくると、桜漬けの樽から数枚盛る。


『どうぞ』
『ありがとうございます。むぐむぐ、美味しいですね』
『他にもいかがですか?』
『じゃあ、キムチはありますか?』
『ええ。ございますよ』


 そんな感じでシュンはキムチの試食を続ける。


「あの、シュンさん普通に買い物してるんですけど?」
「それは聞き込みの一環だから気にしないでくれ」
「買い物のついでに聞き込みするって事ですか?」
「ああ。買い物することで相手は友好的になりやすいらしいぞ。私には良く分からないが」
「ちゃんと意味がある行為だったんですね」


 そんなことを話している間も、シュンは買い物を続ける。


『どれも美味しいですね。全部100gずつ下さい』
『まいど』


 店主が漬物を袋に詰める。


『そういえば、この商店街で意識が無くなる人が多いとか?』
『そうなんですよ。かく言う私もその一人なんですが……』
『大変ですね。実は俺はその現象を解決しにきた探偵なんですが、お話聞いてもいいですか?』
『探偵さんですか?私は構いませんが、お役に立てるかは分かりませんよ?』
『良いんですよ。今は少しでも情報が欲しいんです』
『分かりました』


 包装された漬物を受け取りつつ、シュンは聞き込みを続ける。
 その調子でシュンは商店街での聞き込みを続けるのだった。
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