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【第二章】――大魔王のおしごと――
第七の将 エルファ
次に、私は170程の背丈になる長身の人影の前に立つ。
真っ黒な外套に、フードを深くかぶった細身。
右に左に、顔を逸らすその影は、フルフルと小刻みに震えている。
何故だろうか。
この者は、全ての集会事に出席していたと記憶しているが、私と対峙する時、いつもこのような反応をする。
そして今日も、その表情はフードの陰の中にあって、見ることは出来ない。
逸らされた視線、明後日を向く顔、身長差ゆえに下から覗き込む私の視線すらも、その表情を見ることは難しい。
ただわずかに覗く、黒い素肌が垣間見える。
そんなダークな肌を持つ魔族の男性体の名は、エルファと言う。
「エルファ?」
名を呼ぶ。
すると、びくっ、と身体を震わせ、
「は、はいッ……!」
掠れるような、か細い声。
男性であるはずだが、上ずって裏返ったそれは、やや女性の悲鳴にも近かった。
フードからのぞく顎先には、わずかな汗もにじんでいる。
そして、エルファは、間髪入れずに言葉を続ける。
「わ、わたくしめに、な、何か……? いえ! えっと、ご、ごきげんよう……? で、です! マ、マナ様……!?」
しかし、その声は、全然聞こえない程の弱弱しい声量から、急激にクレッシェンドな、高低差を行き来する荒波のような音量だった。
でも思い直す。
この口調、話し方も、エルファにとってはいつもの事だった、と。
だから本題に戻ろう。
エルファにも、魔族となる前の魔物……『ミミック』の特性や、行動範囲、守護している拠点の状況を考慮して、『月』『邪』『死』の属性魔法を修練してもらっている――はずだ。
少しでも構わない、魔術の修練に励んでいるだろうか?
他の八輝将と同様に、進捗を訪ねようと思うが、この反応ではちょっと聞きづらい……。
けれど、そこをなんとか話しかける。
「あの……」
「まっ!? ――」
ま……!?
「――ま、まま、魔術の修練でしたら、かかさず、毎日、致しております! せ、成果、ご、ご、御覧になりま、す……? すか! ……ッ!? ――!! …………し、失礼しま、した!」
え?
尋ねる前に、答えられてしまったし。
それに、何故謝ったの?
いつものこととはいえ、エルファの心情を私は推し量れない。
じりり、とエルファの片足がわずかに後ろに下がったのが視界に入る。
私は背が低いので、地面に近い挙動には気づきやすいから。
まさか、避けられている? 嫌われている?
……確かに、幹部であり部下であるわけで、仕事上の付き合いで魔術の修練や会議などへの参席をしているのかもしれない。
よくわからないけれど、私は二歩ほど、後ろに下がった。
それで、エルファの片足が元の位置に戻る。
魔術の他に、私はエルファに聞きたいことがある。
それは、エルファの持つ特殊な能力の事で、世界各地の様々な所に、エルファは分身体のようなものを置いている。――まぁ、分身体と言ってもエルファ本人よりもかなり弱い上に、何らかの触媒を取り込んで置く必要があるとのことなのだが。
それでもその全ては、世界を監視し、偵察し、エルファに情報をもたらしているはずだ。
「ねぇ、エルファ。あなたの能力の『財宝鹵獲』で、設置できる分身体の事だけれど……」
「は、はい……!」
……でもよく考えたら、今聞くと話が長くなりそう。
「――……あなたに後で話があるわ。 最後に少し残って頂戴」
「え……!?」
そのまま固まってしまったエルファを置いて。
次は、今日の参加者の最後の一人。
この魔王の城の守護者の前に……。
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