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【第二章】――大魔王のおしごと――
第八の将 トライア
次は、金属生命体と言っても良い、神器製不定形魔法生物だ。
不定形で決まった形状が無いため、今は、屈強な男性の姿を形作っている。
表面の色、素材感などのテクスチャも自在なため、金属体なのに、石像のような見た目となっている。
名は、トライアといい。
この魔王城の警護の統括役を担っている。
「毎日の警護ご苦労様、トライア」
「――……――……」
そしてトライアは声を持たない。
普段、部下たちには筆談でコミュニケーションをとっているようだが。
私は、トライアの意志を読み取れるため、『滅相もございません』と言う旨の返答を理解できた。
私は思わず、ふふ、っと声を上げて。
「ごめんなさい。少し考えてみたけど、改まって特別あなたに話す言葉も出てこないわ」
だって仕方がない。
トライアはずっとお城に居るのだ。
顔を合わせる機会も多いし、情報を交換する機会も他の八輝将より段違いに多い。
だからここは、逆に尋ねよう。
「――あなたからは何かあるかしら?」
私は、微笑を浮かべ、トライアの返事を待つ。
すると、
「(私から、ですか? ええっと……)」
トライアは考え始めた。
ちなみに、トライアに魔術修練の話は不要だ。
なぜならトライアは魔術を行使するという行為自体と相性が悪い。
発声できないため、魔法陣型の術式発動は不可能だし、詠唱型の術式を無詠唱で行使するというのも、魔術の基本が出来ていないと効果が期待できない上に、例え魔術に熟達しても無詠唱しか選択肢が無いというのは、学習難度に対する見返りとして釣り合わない。
また、言葉が発せられないので、いずれ下位の魔物たちの先生役を務めてもらおうという趣旨とも合っていない。……筆談で授業するという線も無くは無いけれども。
そこまで無理をすることも無いだろう。
なので現状は、とりあえず私や他の皆の魔法に関してのやりとりを傍で見てもらい。
何かしら得るものがあれば良いか、という感じで見ている。
暫くして、「あっ!」っと何かを思いついたトライアがもじもじし始める。
「(あ、あのマナ様、よろしければまた、アレを……)」
とても歯切れの悪い、おずおずとした進言。
その様子だけで、私は何のことかを察した。
それは、度々トライアにあげている『おやつ』の様なモノのことだ。
「良いわよ。ちょうど、溜まってきているから」
「(ありがとうございます、マナ様!!)」
ふふ、とまた私の口から思わず声が漏れる。
トライアの様子が可笑しかったからだ。
凛々しく佇んでいた石像が、突然だらしなく歪んで、テクスチャは乱れ、汗のように金属液を滲ませる姿は、人族や魔族で言うならば、そう――。
――よだれが垂れてる、ということであるからだ。
そして。
その『おやつ』と言うのは、錬金術の実験の時に出来た失敗作や、成功品に付属して作られてしまう不用品などの事だ。
トライアは、もともとただの巨大なスライムだった。
それが、私が何百年、という時の中で、あげつづけた『おやつ』のせいで、そんじゃそこらで見られないレベルの魔物にまで成長を遂げた。
私にとってはゴミでも、トライアにとっては極上に美味なものであるらしい。
それが専ら、トライアへのご褒美となり、働く原動力になっているということだ。
そうして、これで参加中の八輝将それぞれへの声かけは終わり。
私は、再び全員が満遍なく見える位置に戻る。
「では、本格的に見せてもらうわよ」
そう私が言うと、魔王も動き出す。
「ミラ。鏡の障壁をこのフロアに……」
ミラが頷き。
「鏡面世界」
特殊固有魔法が展開された。
これで、うっかり魔法で魔王城のフロアが吹き飛ばなくて済む。
そうして、今回の魔術の勉強会が始まるのだった。
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