よくわかる異世界魔法ー『マナの書』ー

日傘差すバイト

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【第三章】――大魔王のおでかけ――

ヴィヴィアンと砂漠の街

 ガラミッドの街の周囲は、それなりに高い壁で囲われていた。
 魔物の侵入を妨害するためだろうか?
 
 さらに、入り口付近では、土木工事をしている最中らしく、幾人もの民が、本当に文字通り汗水たらして働いている。
 そのせいか、往来がし辛い状況で、街に入りたい旅人達が列を成している。

 私たちは、その最後尾に並んだ。

「うるさい」
 トンカン、ドガドガ、ガリガリ。
 現場の荒い叫び声、飛び交う指示と返事。
 工事の音が周囲に騒音となって鳴り響いている。
 そんな状況だから、ミラの零したセリフも致し方ない話だ。

 そして、その工事が一体何を目指しているのか……。
「この者たちは街道を整備する気かしら?」

 よく観察していると。
 街の門から、およそヴィヴィアンの守護する地下遺跡群の方角に向けて、石畳が敷かれつつあるようだった。

 ヴィヴィアンが、ああ、と剣呑な溜息を混じらせる。
「今は未だ、盗賊のような方たちがチラホラみえるだけですけど、団体で来るつもりなんでしょうか」

「あなたの拠点には天然の属性結晶クリスタルや古代人の武具も埋まっているでしょうから。街道を整備してまでリスクを冒す価値を見出してしまったのね」

 魔王の言っていた第三拠点の件。
 つまりヴィヴィアンの拠点が一番人族の侵攻度合が高い、と言う話はこの辺りを参考にしているのかもしれない。

 
 そうこうしていると、やがて私達は街に入ることが出来た。

 壁の内部は、整備された美しい街並みが広がっていた。

 砂地の地面に、外に施設されていたような石畳が敷かれ、おそらくオアシスへ続く水路が流れ、砂を固めたような建材で、幾つもの建物が犇めいている。

 人の往来もそれなりにあり、活気がある様に見える。

「街の中は少し涼しいですね?」

「そお?」
 私は怪訝な顔。
 ミラも首をかしげている。
 私たちは気にならないが、ヴィヴィアンには重要な事なのだろう。

 でも、この一帯には、砂漠には珍しく水の現象核オリジンが豊富だ。
 
「……この張り巡らされている水路が、役に立っているのかもしれないわね?」
 
「ああ、なるほど。『天水』の効果なんですね」

 あくまで予想だけれど、ね?
 
 そして。
 街ゆく人族達は、老若男女多彩で、人間ヒュムが多いが、たまに耳長族や、獣人、蜥蜴人なども稀に混じっている。
 そうして皆、布を巻いたような薄着の者が大半で。
 剣や弓、革の鎧などを身に着けた戦士のような者たちもたまに見かけた。

 そんな中を。
 私、ミラ、ヴィヴィアン。
 三人はあてもなく適当に歩いていた。 

 二股のピエロのような魔術帽子、ケープ、ローブ、その下にはドレスも着ていて全身真っ黒な私。
 
 フリフリの小さな姫君かと思わしき可愛らしい純白の女児。

 踊り子風の露出度高めの少女。

 
 私達は、否が応でも目立つ格好だった。
 そう気が付いたのはずいぶん経ってからだ。
 やけに、すれ違う人々や周囲の民からの視線が刺さる。
 そう感じていたのは当然の事だったかもしれない。

 しかし。
 私はさらに思い出したのだ。
 
 原因はそれだけじゃない。 
 もっと大きな理由があった。

 それはヴィヴィアンの存在だ。

 ――実のところヴィヴィアンは『心』を操作することに特化している魔族だ。
 私が教えている強化や弱化の術式はおまけに過ぎず、そのメインとしている魔術は、高次元属性の『心属性』なのである。
 だから、元来の魔族としての能力が、最大限リミッターをかけても、微量に漏れ出てしまうのだ。
 見たモノを惹きつける『魅了』の特性が。
 種族はれっきとした悪魔だが、夜魔サキュバスに近い存在なわけだ。 

「ああ、そうだったわ。……甘くみてたわ」

 私は少し後悔した。ヴィヴィアンを連れてきてしまったことを。
 ヴィヴィアンから漏れるそのほんのわずかな魅了が、人族達に『無意識につい見てしまう』という軽度の効果を与えているわけだ。
 人族にも多少抵抗力や耐性があるはずで、1ミリたりとも効果が出ないだろうと考えていたが、甘かったようだ。

 そしてそのことにヴィヴィアンは気づいていない。

 このままでは面倒だ。
 人族達の現在の魔術や文化がどうなっているのか、調査したいところだったけど、それは後回し。

 「ヴィヴィアン、こっちよ」

 「え!? あッ」

 いきなりヴィヴィアンの手を取って、私は走り出した。 

 「マナさま、どこへ?」
 一瞬振り返った後方から、ミラもついてくる。

 私は集まり出していた人々の合間を縫って、大きな建物と建物の隙間。
 路地裏と言うべきところへ滑り込んだのだった。

 ここならば、人の往来も無い。
 他人の視線も無い。

 はずだ。

「まったく……まいったわね」

 一息つく。 

「マ、マナ様……」

 そして、ヴィヴィアンの艶っぽい呼び声。
 私の右掌を握る小麦色の指が、きゅっと僅かに閉じたのを感じて。
 手を繋いだままだったことを思い出した。

「ごめんなさい。あなたを誰かの視線に無闇にさらしたくなかったのよ」

「へっ!?」
 何故、顔を赤らめるのか?
 俯いたり、もじもじしたり。
 ヴィヴィアンの反応は不可解だけれども。
 
 それは今、どうでもいい。

 さて。
 このままでは、せっかくガラミッドの街に来た甲斐が無いのよね。
 どうしようかしら。

 なんて考えている時。

「――みつけたぞ、黒服め!!」
 突然の何者かの怒号と共に――。

 そして、「あ……」「マナ様!?」と、二人が驚いた瞬間――。


 背後から、猛然と強襲してくる白刃。


「――!!!!」

 それを、私は咄嗟に振り向きざまに受け止めた。

 指先に収束した無属性魔力によって。

 私は、ロングソードの切っ先を硬く抓んだまま、問う。

 ぎちぎちと、刃を押し付ける。
 けれど適わぬ斬撃に、歯をきしませるその金髪の青年剣士へ。

「……何用かしら? 人違いだと思うのだけれど……?」
  

 
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