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【第三章】――大魔王のおでかけ――
ヴィヴィアンと代理人たち
「とぼけるな! アンシェルの戦利品盗ったのお前だろ!? 代理人の戦利品は命と等価だ。それを奪ったお前は、ここで倒されろ!」
簡易な革の鎧、ロングソード、籠手、具足、金属のヘッドバンド――。
抗いながら、声を荒げるのは、そんな戦士のような恰好の青年。
そして、その後方には、口開けて驚愕の表情で固まっている少女も見えている。
少女は仲間か、通行人かはわからないが、魔術帽子にローブ姿な恰好で、雰囲気からも魔法使いの様なモノだと推察できる。
私は、青年と後方の少女を気にかけながら――。
青年の言葉を考える。
「アンシェル……? プロクシィ……?」
けれど、さっぱり何のことだか解らない上に、どう考えても冤罪だ。
なのに。
ギリギリと。
なおも、私が掴む剣に力が籠められる。
この状態のままでは、今は様子見で控えているヴィヴィアンやミラが何をし始めるか解らない。かといって、目の前の人族達がどれぐらい耐えられるのか不明だ。
事を荒立てる事だけは避けなくてはいけない。
私が判断に迷っていると。
後ろで微動だにしなかった少女が、ハッっとして叫ぶ。
「待って、ラーク。その人じゃない。その人は……、もしかしたら凄い代理人かも……」
「はぁっ!? アンシェルお前さっき全身真っ黒のチビだったって、言ったじゃないか? ……すごい人、って……ま、まさか先輩か!?」
そのやり取りの隙に。
ゆるんだ剣の力から私は逃れ、後退して間合いの外に距離を置いた。
おそらく、アンシェルという名前の少女が言う。
「……とにかく違うの。早く剣を納めて、ラーク」
それで。
「ああ! すまない、人違いだったみたいだ……。申し訳ない」
急にシュンとした青年――ラークは剣を鞘に納め、改めて頭を下げて来た。
「ごめんなさい。私の兄が、失礼しました!」
アンシェルも走って青年に並び、深々と頭を下げる。
気を張っていたミラも、ヴィヴィアンも落ち着いて。
私も、乱れた衣服を整えつつ、返答する。
「良いのよ。気にしないで頂戴」
「ところで、あんた先輩なのか?」
そして、頭を上げたラークが悪びれもせず尋ねてくる。
それに「ちょっと、失礼でしょ」と横に並んでいるアンシェルが肘でラークを小突きつつ。
おずおずと、アンシェルが口をひらく。
「あの……――さっき、ラークの剣を受け止めたの……魔力ですよね?」
「ええ。そうだけれど……?」
「指先に集めたんですか? あの一瞬で? ラークの斬撃を受け止める程の密度で……? しかも……ただの魔力でしたよね!?」
あまりに、矢継ぎ早なので少し呆気にとられるけれども。
このアンシェルという魔法使いは、とても優秀なのだろう。
人間だとするなら、20にも満たない歳で、私の魔気も、周囲の魔素の動きも、魔力合成の精度も早さも、すべてを見抜いたからこそのこの言葉。きっとこの少女は、陰でとても努力をしているのだろうと思えた。
私は、努力する者が好きだ。
だからそれに少しだけ嬉しいと思いながら。
自分の指先を少女に見せつつ、弱く魔力を作り出す。
「そうよ。こんな感じでね」
「早い。属性の無い魔力を、こんなに簡単に……!? すごいわ……」
そして、私の顔、姿を改めて視界に納めたアンシェルは、「まだこんなに小さいのに」、と失礼なことを、ボソリと小声でのたまった。
だけどいい。
人族の魔法使いに出会えた幸運だけでおつりがくる。
今の私はそう思えている。
「あなたも魔法使いなんでしょ?」
「ええ、まぁ……、まだ未熟ですが」
そんなやりとりをしていると。
専門的な話ばかりで、退屈してしまったであろうラークが、面倒そうに呆れたように言う。
「良いのか、アンシェル。黒服の盗人を追うんじゃなかったのかよ? もうたぶん完全に逃げられちまったぜ?」
「ああ、そうだった!」
そう言えばさっき、プロクシィだとか戦利品だとか言っていたわね。
それに、折角会えた魔法使いをもっと見ておきたいし、この街や今の世界の状態を聞けるかもしれない。
となると。
「手伝ってあげましょうか? その……泥棒探し……?」
「えっ!?」
私の言葉に、全員が声を揃えて驚いた。
ミラも、ヴィヴィアンも、ラークも、アンシェルも。
ふふ、良いアイディアでしょう?
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