よくわかる異世界魔法ー『マナの書』ー

日傘差すバイト

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【第三章】――大魔王のおでかけ――

ヴィヴィアンと砂漠の襲撃者⑥

 アンシェル達が何をするつもりなのか、私には解らない。
 けれど。

 魔法使いならば、やることは決まっている。

「アンシェル」

 私は、アンシェルに声をかける。
 すると、少し意外そうな顔でこちらを向いた。
 生成途中だった雷属性魔力を、突然私に分解インターセプトされたのだから当然だろう。 

 けど。
 私はアンシェルに言っておきたいことがある。

 見ていて思ったのだ。
 アンシェルは、魔法陣型の魔術師アーキテクトだけど、その魔術式は左手に保持している魔導書……その中でも、術式図ばかりを記述しているモノから直接魔法陣に変換して使っている。
 雷属性に偏っているのは、右手に持っているロッドの属性結晶クリスタルが雷属性結晶だからであり、おそらく術式図もそれに合わせたものなのかもしれない。
 本の出どころは、書店の量販物なのか、自作の物なのかは解らないが。

 そのスタイルは、便利ではあるだろうけれど、道具を失くすととたんに無力になる上に、魔法陣の暗号化がされていないので、何の術が発動するかすぐにバレてしまう。

 けど。
 この瞬間に全てを説明するには時間が無さ過ぎる。

 それに、今だけは、そのスタイルが利点になるから。

 だから一言だけ。
 私は、アンシェルの魔導書、そこに載っている術式図の1カ所を指で示す。

「――ここの記述を前後入れ替えて、数値はそのまま」

「えっ!? でも……!?」

「アンシェル! まだか!?」
 
 私が話している間に、ラークは奮闘している。
 剣と盾を振るい続けている。
 ラークは強化魔術も受けているし、魔物も弱っているが。
 それでも、身の丈以上の敵を相手にし続けるのは、骨だろう。
 疲労も溜まってきているはずだ。

 説明をしている暇はない。
「それくらいの修正……あなたなら出来るわ。そうでしょう?」 

「……やってみます!」
 アンシェルが返事をし、もう一度、雷の魔力を生成しだす。

「『落雷サンダーボルト』」 

 術式名宣言。
 それと同時に、アンシェルは魔法陣を展開する。

 言葉は言霊。
 自己への暗示、世界への暗示。
 契約の署名のようなもの。

 一度展開した魔法陣は。
 完成した魔力を受け渡せば自動的に魔術を実行する。
 陣に魔力が充填され。
 陣の各所に記述された内容に従い。
 それを統合した効力が、発揮される。
 
 これは本来、雷属性下級難度攻撃用術式……。

 しかし。

「えっと、カ、カウントダウン!! 発動まで、4、3、2、1――」  


「おりゃあ――!!」
 
 地面を踏みしめ。
 大地を蹴って。
 盾を投げ捨てたラークが、全身のバネを使って、高く跳躍する。

「ゼロ!」

 アンシェルが、叫び。

 高く振りかざしたロングソードに、雷の魔術が直撃する。
 
「くらいやがれ、雷・霆・剣サンダーボルト・ストライク !!」 


「これは……!」
 ヴィヴィアンが。

「魔法剣!?」
 私が。

「ふたりで……?」
 ミラが。
 ――驚く。

 しかし――

「なっ!? がァっ……!」
 ラークも驚いた。
 
 ――パキリと、伝わった魔力に耐えられなかったロングソードが折れて散った。
 そして、ラークの身体自身からも焦げた黒煙があがる。

「くそおっ! ……それならこうだぁ!」

 くるりと、剣を廻し。
 斬るのではなく、空いた左手まで柄頭にそえて。
 全体重と落下速度を乗せて。

 ヴェルフェラス・ペンドラの背中の。
 装甲が剥がれて生身になっているその一点に。

 長剣の根元を。
 
 突き刺した。
 
 切っ先は折れて無くなっていたが。
 残っていた刀身が、深々とその身を抉っていく。

 不気味な叫喚が、夜空に木霊し。

 夥しい体液が迸り。
 
 ずがぁん。

 音と衝撃を轟かせ。
 肉の内側で解放された雷の威力が、ヴェリフェラス・ペンドラの全身を焼き焦す。

 暴れ、のたうち回る巨躯に。
 周囲には、焦げた匂いが立ち込めはじめた。 


「ぐへっ」
 そして、どさりと、ラークの身体が砂地に落ちる。

 受け身は取れているようだが。 
 
「だいじょうぶ?」
 ミラが駆け寄って声をかける。

「ああ、なんとかな」
「……こげこげ……」
 ミラが憐れむ通り。
 ラークの髪はチリチリになっているし。
 全身からも、少し焦げた匂いがしているのだろう。
 
 けど。
 自分が痛みを負うことも厭わずに攻撃を放ったラークと、アンシェルの魔術の合わせ技は確かに効果を上げた。
 苦痛に蠢いていた巨体は、静かになり。
 身体を丸め、ボロボロの翼は折りたたまれて、動きを止めていた。

 今度こそ正真正銘。
 ヴェリフェラス・ペンドラは果てたらしい。
 
「くそ、なんかいつもより、痛ぇ……!」

 立ち上がろうとしても立てない。
 そんな涙目のラークに、手を貸そうとしたミラに、バチリ、と帯電の光が散る。
 
「あぐ!!」
 そして、電気ビリビリのラークが、地面に倒れた。
 ヴィヴィアンが慌てて快方に向かう。
「あぁ、ダメですよ、ミラちゃん!」
 

 アンシェルは、その様子を見つつ。
 安堵の息を吐いていた。
「よかった、上手くいきました。――でも……」

 自分の魔導書とロッドをみつめるアンシェルが気になっているのは、きっとさっきの魔術にいつもより威力があったからでしょう。 
 
「あの、フルゥ先輩。さっきの……」
 私に寄ってきて、疑問をぶつける魔法使いの少女。

「ええ。……ちゃんと、応用が出来たわね」 
 微笑む私に、アンシェルは「ありがとうございます」と軽く頭を下げた。
 でも本当は、謝るべきは私の方だろう。

「いえ。どちらかといえば、私が余計なことをしたわ。悪かったわね」
「え!? いえ、そんな。とんでもない。……あの方が、良かったからですよね?」

 ええ、まぁ。と私は頷く。
 
 ――あの時。
 別に、アンシェルの魔法の威力に不安があったわけでは無かった。
 ただ、たった一つの事で劇的に魔術が変わるという事を知って欲しいと思っただけだ。
 惜しかったのだ。
 歯がゆかったのだ。
 
 今すぐできることで、魔術が良くなる。
 アンシェルには、そのことがすぐに実行できるだけの力量があった。

 なのにしないなんて。

 私は、それが我慢できなかった。ただのわがままだった。
 
 それに。
 土壇場で、魔法陣を改良できたのは、アンシェルが魔導書の図をそのまま陣に変換するスタイルだったためだ。
 運も良かった。
 
 まぁ、その代わり、ラークはいつもより痛い目を見てしまったようだけど。
 
 私は、アンシェルの魔導書を示す。
「その魔導書は、どこかで入手した物なのかしら?」 
「え、ええ、はい。魔法書店で……」
 やはり。
 だから、アンシェルの今の実力に沿っていないのだ。
 
「あなたは、魔力合成は丁寧で緻密だけどその分、生成速度が遅いわ。したがってその魔導書の術式図をそのまま使うと、間に合っていない部分の性能が欠けてしまう。だから、魔気オドの割り振りを変えて、陣の受付時間を延長し、その代わりに威力に振っている数値を減らしたのよ」

 詠唱型でいうならば。
 詠唱時間が増えた代わりに、威力が上がった。
 それに近いカスタムを施したのだ。

「……そこまで見えているんですか? 私の事……」

 それに、私は、ふっと思わず笑ってしまった。
 当然でしょう。

「……いったい何年……」
 いや、何年という僅かな単位ではない。
 いったい何千年、魔法を扱ってきたと思っているのだ。 

 しかしそんな事を言ってもしょうがない。

「いえ……。まぁ、先輩とはそういうモノでしょう?」

 で。 

「これであなた達の仕事はお終い?」

「いえ。倒した魔物からお金になりそうな素材を取り出すので、解体しないと。――でも」
 アンシェルは、もう動かない巨大な死骸を見る。

「……あの大きさだと、私たちだけじゃ大変なので、一度街に戻って、他の代理人プロクシィたちに手伝ってもらいます。――サンドヴァイパーの依頼は、また今度ですね……。そっちは間に合いそうになかったらキャンセルかも……」


「ああ、それなら、私が手伝えるわ」

「え!?」

 私、解剖するのは得意なのよね。
 錬金術の素材をいつも世界樹の遺跡に採りに行っているから。
 それに私も代理人プロクシィの先輩ってことになってるんでしょ……?

「あなた達は、私の事を先輩だって言ってるじゃないの」

「あ、そっか……!」

  
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