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【第五章】――大魔王と魔導人形――
エルファと魔王
魔王城。
誰も居ない謁見の間に、黒づくめの長身痩躯が訪れる。
「そろそろ、報告書は読んでいただけたのだろうか?」
全身を覆う外套のフードを深くかぶり。
影を落とす顔で周囲を見渡し、気配を探るが。
やはり目当ての人物は察知できない。
簡易な、探索用の術式を行使するが、それでもダメだ。
そもそも、簡単に検知が可能な人ではないが、それでも魔術には敏感な人物だ。探索用術式で探られたという痕跡だけは感じる筈。
それで、気づかれれば良い、そういう目論見なのだが。
「――またエルファか」
突然の声に、びくり、とする。
しかし。
現れたのは。
威風堂々とした屈強な男性だ。
頭には立派な角が左右から2本生えており、額には縦向きの目のような宝石が埋まっている。
その容貌。
纏う古風な衣。
それは、エルファの会いに来た人物――大魔王様ではない。
代わりに、空間を裂いて、転移で姿を見せたのは、魔王だった。
目当てである大魔王様の部下、あるいはその側近に当たる人物だ。
そして、エルファの馴染みだった。
エルファは大魔王でなかったことに安堵し。
謁見の大広間に降り立った魔王は言う。
「もしや、まだお目通り願えていないのか?」
「え、ええ……。ちゃんと書類はお渡ししているのだろう?」
「渡したとも。――というか。渡そうと思ったが、外出しておられたので、公務が溜まっていると言って、呼び戻したよ」
「では、その……、マナ様はどちらに? 『財宝鹵獲』の件で、お目通り願いたいのだが……」
「『財宝鹵獲』……? お前の能力の話か?」
「ええ。マナ様が、八輝将の拠点内の各所に、オレの分身体を設置して人族の監視体制を強化したいと申されたので。それの可能範囲、条件、問題点などを記して提出したのだが、音沙汰がない物でね」
「ふむ、そうか」
前回エルファが謁見を申し入れた時には、大魔王様が不在という事だったので、魔王は、書類の巻物だけ受け取ることにした。
紐解いて内容まで見ていなかったので、魔王は用件まで知らなかったのだ。
魔王は少し思案する。
「おそらく――大魔王様は、研究棟か、自室だろう。 先日は、アリスのメンテナンスをしておられたからな……」
その言葉を言い終わるや否や。
少し待っていろ、お呼びしてこよう。
そういって、魔王は消えていった。
エルファが、緊張した面持ちで待っていると。
暫くして、魔王が、謁見の間に戻ってきた。
無言で、ぴらりと、紙を1枚フロアに向けて投げ捨てる。
ひらりと木の葉のように舞うそれが落ちる前に。
エルファは掴み取った。
「――なんだいこれは?」
手紙だった。
というか書置きだ。
文面は簡素だった。
特徴のある、古風でいて、読めなくもない文字でこう書かれている。
『温泉に行ってくる』
なるほど。
無言の魔王は、きっと今不機嫌に違いない。
だが、かまわずエルファは、一言物申した。
「……逃げられているではないか」
ぐぐぐぐ、と魔王の拳に怒りの魔力が籠められる。
しかしそれはすぐさま納められた。
諦めたように魔王が呟く。
「本当に自由なお方だ……」
「まったく、はがゆいね」
「ああ……。かなわんな」
もう勘弁してくれという意味なのか。
実力で敵わないという意味なのか。
我々の意図通りに動いてくれず、希望が叶わないという意味なのか。
まぁ、全部か。
エルファも、諦めて声のトーンを落とす。
「……もともとお強いのに、努力を惜しまぬお方だ。それも、好奇心のためならね……」
だから、かなわないのは当然だろう。
会うたびに、恐怖心で震えてしまうのも、無理はない、とエルファは思う。
「努力、か。――我々の中にそんな言葉など無かったはずなのだがな……」
そう、一人ごちる魔王に、エルファは背を向ける。
フードを深くかぶり直し。
「仕方ない、また出直すとしよう」
けれど。
「まて、エルファ。せっかくだ。少し付き合え」
「うん?」
そうして、二人は魔王の自室で、会議という体の飲み会を始めるのだった。
かたや温泉にいってやがるのだ。これくらいは許されようぞ、と、いって。
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