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第一章  月と人形

再起

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 ――三日月が輝く、真夜中。


 誰も居ない墓場の一画で。
 
 今しがた芽吹いたかのように。
 一本の真っ白な『手』が、地面から生えていた。

 ほどなくして。


 そうしてそれを中心としてバラバラと地盤が崩れ落ちる。


 地面にあいた穴。

 そこには、開いた真っ白な棺が埋まっていて。
  
 棺を足場にしてつま先立ちをするように。 
 

「う、ッン……」

 そこから、一人の少女が這い上がってくる。

 一糸まとわぬ姿のまま。
 
 口から吐息が漏れ。

 上下する肩は、確かに生きているかのようだ。 


 その姿は、まさしく人間の少女のソレだが。

 
 しかし、地面に立つ小柄で整った真っ白な身体プロポーションは。
 人間とは少し違っている。

 月明かりに輝き、サラリと零れる金髪も。

 平坦な胸部と。

 大き目の腰部も。

 142程度と小柄な身長も。

 一見は、まさしく、人間の少女のソレだが。 


 その関節は、球体で出来ていた。
  
 いわば、1/1サイズの大きな人形のようだ。



 

 佇む人形は、おもむろに我が掌を見つめる。

 閉じたり開いたり。

 そのたびに、片手で14カ所、両手で28カ所の球体関節が動きを見せる。

 次に自分の身体を見回し。

 脚部や、腕部、腰部の関節を動かしてみる。
 まるで、出来栄えを確かめるかのように。



 その間に。

 少女の影は、コントラストを強めていく。

 だんだんと強まる光源によって。



 首の稼働を確かめるために。
 人形が、上を見た時。


「――!!」

 巨大な三日月が、目の前に迫っていた。


 三日月が、落ちてきた●●●●●のだ。

 全身のバネを活かし。

 人形はバックステップで距離を取る。

 咄嗟の自分の素早い身のこなしに、自身で驚くような素振りの人形。

 そこに、三日月から声がかかる。

「こんばんは……?」

 涼やかな女性の声。

 人形は、前を見る。
 その三日月を。
 
 表情を作ることができない人形だが。
 大きく開かれた両の目のまぶたが、驚きを表す。

 三日月には、人形と同じくらい、いやそれよりも小柄な少女が座って、乗っていた。

 そしてさらに、脈絡のない言葉が投げかけられる。


「ねえ、キミ――突然だけれど、アタシの弟子にならない?」 


 輝く三日月型の箱舟に座り。
 
 薄い生地で出来たレースの服を纏い。

 長く美しい銀色の髪を揺らし。

 まるで月の女神のような出で立ちの少女。

 その頭には、ウサギの耳のようなモノが生えていた。


 人形は、まだまともに一度も使ったことのない声帯から。

 言葉を絞り出す。

「――あ、あ……あな、あなた、は……だ、れ……?」



「アタシ? アタシは……月の力を司る、精霊――ルナエ」



 
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