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第零章  リビングドール

終焉

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  小鳥のさえずりに、テスタは目を覚ます。
 
 いつも通りの朝。
 
 薄い敷物と毛布のみの硬いベッドのせいで全身が軽く痛むのもいつもの事で。
 

 寝不足気味の眼で、部屋に一つだけある窓から見る景色も変わりは無く。  
 丘という高台にある屋敷から窓のガラス越しに、眼下に広がる森が見える。
 
 テスタが上体を起こしベッドに腰かけると。
 サイドテーブルには既に朝食の乗ったトレイが置かれていて。

 テスタの大事な形見であり、宝物であり、友人である『人形セニア』が入った豪奢な木箱は。
 今はその朝食の下敷きになっていた。
 

「どうやっておいたのかしら」

 テスタはそう疑問に思ったが。

「ああ、いや……そっか」

 『友人セニア』もまだ寝ていて、メイドが置いたのかな、と思い直す。
 わざわざ起こすこともないし、それには朝食が邪魔だから。
 テスタはほぼ冷めかけの朝食を先に頂くことにした。

 
 朝食もいつも通りの、質素ながら良質な食事だった。

 
 程なくして食べ終えたテスタは、一度トレイを床に置き。
 友人の入っているであろう箱に手を伸ばす。

 そうして、箱を開けようとして。

「あら?」

 開かなかった。
 
 おかしい。
 カギはどこかで失くしてしまった筈なのに。

「どうして……鍵が、かかっ――」

 
 どうして、鍵がかかっているの?

 テスタは、その言葉を言い切ることはなかった。
 
 なぜなら、急激な酸欠に陥ったからだ。

「ッ……!!」

 昏倒したテスタの身体は、腰かけていたベッドから崩れるようにして落ちた。
 息を吸おうにも吸うことはできず。

 両手は喉を押えて、身体はのたうち回る。
 床に置いたトレイが蹴り飛ばされて、けたたましい音が鳴り響いた。

 そしてサイドテーブルが倒れ、近くに木箱が落ちてくる。

 血の中の酸素が奪われることで。
 細胞は酸欠で次々に死に絶え。 

 血の詰まった心臓は、心筋梗塞による激痛を発し。
 
 頭は割れるように痛み。

 やがて、呼吸不全により、意識が失われていく。 

 暫く痙攣していた身体は、やがて動かなくなり。



 

 ついに。




 静かになった。






 周囲のモノが散乱し。
 口から流れた吐瀉物が床とドレスを汚し
 

 凄惨な状態となった少女の傍らには。


 木箱が寄り添っていた。
 
 
 
 少女テスタは、死亡した。
 

 それは、誕生日を迎える1日前の出来事だった。
 

 
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