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ここはどこ?私は私。じゃなかった
しおりを挟む今日も今日とていつもの道を歩いて帰宅する。お昼休憩なしは当たり前で、サービス残業は毎日。所謂ブラック企業に勤めている私こと山田絵実は、社会人四年目のストレス過多OLである。
毎日上司には叱責され、新入社員には疎まれ、辞めようとするそぶりを少しでもすると引き留めようとする。
忙しすぎて交際六年目になる彼氏にも捨てられそうである。
本当に辞める準備をしていたこともある。預金がそんなにないので次を決めてからの退職は必須。だけど僅かな休みの日は、溜まった家事と彼氏のご機嫌取り及び睡眠。就職活動をする暇なんてない。
という訳でズルズルとここまで来ているのである。
今日も酷く疲れてアパートの階段を上っていく。部屋を見上げると明かりがついていてため息を漏らした。
彼氏が来ているのである。この彼氏は平日たまに訪れては晩御飯を食べて帰っていく。もちろん作るのは私で、どんなに帰りが遅かろうと待っていて「腹減った」とのたまう。
最近ようやく気付いたけど私のストレスって彼氏も含まれるのでは?
とにかく今日は疲れ過ぎて作る気力が無いので、コンビニ行ってお弁当でも買ってこよう。てか連絡しろよ、合鍵渡すんじゃなかった。と体の方向を変えた瞬間バランスを崩し、そのまま階段から落ちていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
頭が重い。
海の底から体が浮き上がってくるような感覚がして目が覚めた。どうやら生きてるみたい。ここはどこだろう。ゆっくりと辺りを見回すと、恐ろしく広いベッドの上に寝かされていた。しかもピンクフリフリ乙女の天蓋付き。年齢が合ってない趣味な気もするけど病院のお高い部屋かな。もしかしてベッドが空いてなくて、前にお金持ちが使ってた個室に入れられたとかじゃないよね?そんなお金無いのにどうしようと冷や汗をかいてたら、扉からノックの音が聞こえた。
反射的に「どうぞ」と返事をする。声がカスカスである。
「まあまあまあまあまあ!」
慌ただしく入ってきたのは母くらいの年に見える看護師さんだった。制服もメイドさんのようでオシャレである。
「奥様! 気が付かれましたか」
「奥様? 私は山田ですけど」
看護師さんはほっとした表情で傍まで寄ってきた。
「心配しておりましたのよ。一週間も目を覚まさなかったものですから。お加減はどうですか?」
「一週間も? 少し頭が痛いですが他は大丈夫だと思います」
安心しましたと言いながら体を起こしてくれ、水を飲ませてくれた。
「まだ起きたばかりでもありますし、お医者様の診察が終わりましたら消化に良いものをご用意致しますわね」
「はい。ありがとうございます」
私の返事に優しく微笑んだ看護師さんは「旦那様にもお知らせしてお帰りになって頂かないと」と言いながら速足で去っていった。
とても丁寧な言葉使いで、もしかして病院自体がセレブご用達なんじゃ……と思い再び冷や汗をかいた。
程なく先生が来て、異常は無さそうだが3日ほどは安静にしているように、少しでも気になることがあったらすぐに知らせるようにと看護師さんに伝えてから出て行った。
持ってきてくれた温かいスープを飲み、ほっとひと息ついた。誰かが荷物を持ってきてくれたのか確認していると、引き出しの中に花柄ファンシーな手鏡があったので何気なく覗いてみた。一週間寝てたとは言え疲れた顔してるんだろうなと思ってたら……誰だこれ?超のつく美少女がいた。目はぱっちり大きく色はライトグリーン、鼻筋が通り高過ぎずバランスがいい。唇はぽってりしていて可愛いだけでなく、全体的に色気のある顔である。髪の毛は少しボサついているが綺麗なブロンドで、神が造りたもうた完璧な造形美と言えよう。ほんとに誰だこれ?
その時ドタドタと走る音が響き扉がいきなり開いた。そのままベッドに近づく大柄な人物を見上げて酷く驚いた。
(──顔面凶器だ!)
私はそのまま暗い意識の中に飲み込まれていった。簡単に言うと気絶である。
(好みすぎて辛い……)
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