異世界転生したら顔面凶器の公爵に愛されました

牧野きうい

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忍び寄る影

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 注文したケーキを今か今かと待っていると、表が騒がしいことに気が付いた。店内にいる客も何があったのかと、外を見ている。

「少し様子を見て参ります」

 ヘレナが確認のため、小走りで入口の方へ向かっていった。

「何があったのでしょうね」

 この席は窓際ではあるが、通りに面していないので、何が起きているのかはよく分からない。
 少し待っているとヘレナが戻ってきた。

「どうやら過積載の荷馬車が横転しているようですわ。道いっぱいに荷物が広がっているので、通れるようになるまでは時間がかかりそうです」
「そうだったの」

 道を塞いでいるのなら、片付けられるまで帰れそうにない。大人しく待っておくしかないわ。
 その後すぐにウエイターがケーキと紅茶を持ってきたが、ゆっくりお喋りしながら食べる空気でもなくなってしまった。お店側も、目の前の道が塞がれていると商売上がったりなので、従業員が何人か手伝ったりして出入りしているのだ。どうやらけが人はいないようなので安心した。

 三十分ほど経っただろうか。入口から体格のいい男性がはいってきた。この方は間違いなく……

「サマンサ」

 やっぱり。サマンサ様は入口に背を向けて座っていたので、呼ばれてピクリと肩を揺らせた。

「あら。どちら様ですか」
「放っておいて悪かった。そんなに拗ねるなサマンサ」

 南方将軍グレイブ・ゼルビー閣下。確かに強面ではあるが、ルイス様の方が断然いい男である。サマンサ様には口が裂けても言えないけど。着替えてからこちらに来られたらしいが、裾が少し汚れているので荷の片付けを手伝っていたのだろう。

「失礼した、リックメラー公爵夫人。サマンサが迷惑をかけていないだろうか」

 楽しくお話していただけですわ、とサマンサ様は辺境伯の腕の中でじたばたしている。

「お初にお目にかかります閣下。サマンサ様には、以前より仲良くして頂いておりますわ」
「そうか、ありがとう。ああ、こちらに来るのに公爵家の馬車を借りたよ。さあサマンサ、帰るぞ」

 カフェへはゼルビー家の馬車に同乗させてもらったのだ。ここから真っ直ぐ帰宅できるのは有難い。

「それでは公爵夫人。失礼する」
「アメリア様、ごきげんよ──ちょっとグレイブ様! 降ろしてくださいませ!」

 閣下はサマンサ様を横抱きにして出て行った。噂に違わぬ溺愛ぶりね。少し羨ましかった。だって私、ルイス様に横抱きしてもらったことない。

「こほん。さてヘレナ。わたくし達も帰りましょうか」

 一人で想像して赤面してしまった。はしたないわ、私ったら。
 そして私とヘレナは馬車に乗った。怪しい影が近付いていることも知らずに。
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