29 / 34
アメリアの過去
しおりを挟む
夜通し馬を走らせ、モーヴァ前侯爵の屋敷に到着した。何故かブライアンはここにいる。詳しいことは書かれていなかったが、もしかして前団長が何かしら関係しているのかも知れない。
「来たかルイス。すまん、夫人が攫われたのは俺のミスでもある」
「なんだと?」
思ったより低い声が出てしまった。
詳しく聞くと、アメリアが攫われたのは騎士団に来た帰りだと言う。正確にはゼルビー辺境伯夫人とお茶をした後らしいが。
「もっと強く注意をして、騎士団からも何人か護衛をつけるべきだった」
まさかアメリアが、薬の件に関しての証拠を持っているとは思わなかった。結果的にだが。
「そしてフランツ・モーヴァの取り調べをしようとしたのだが……」
屋敷にはおらず、調べてみると最近母方の祖父より別荘を譲り受けていることが分かった。
「アメリアはそこか!?」
「まあ待てルイス。焦るな」
「焦るなと? アメリアはきっと私を待っている」
「別荘は三軒ある。部下に探らせているが証言もあり、ここから一番近いところが怪しいと思っている」
「証言?」
「ああ。ひとつは通りがかった行商人が、その別荘の方向から不規則に揺れる、妙な光を見たという」
その行商人は、いつも通る道が崖崩れで通行できなかった為、回り道をしたところその光を目撃したようだ。
誰かが故意にその光を作り、外に知らせているのでは?と推測されている。
「それに私にも根拠があるのだ」
この家の主、モーヴァ前侯爵が部屋に入ってきた。
「これは団長。ご無沙汰しております」
「お前もかリックメラー。丁寧な挨拶をしている場合ではないぞ。それにとうの昔に団長は辞めておる」
団長が引退したのはちょうど五年前だ。『年には勝てない』と言って退いたのに、今も随分元気そうである。
「私はアメリア嬢と面識がある。あまり思い出したくない出来事でもあるがな」
アメリアは今回と同じように誘拐された過去があった。たまたまモーヴァ前侯爵が秘密裏に救出したが、どこか様子がおかしかった。誰にも知られないように子爵家へ送り届けた。しかし表情は変わらず、どこか一点を見つめたまま。とてもじゃないが話を聞ける状態ではなかった。
「もう少し早く助けていれば、ああはならなかったかもしれない。様子を見ながら屋敷に入る直前で捕らえたのだが」
騎士団を辞していればもはや普通の人である。大義名分なしの救出は躊躇ってもおかしくはない。それでもアメリアを助けてくれたのだ。そこが今回の屋敷と同じらしい。
「犯人はフランツの叔父、あいつの母親の弟だった」
「事件を公にできない以上、表立って罰することもできなかった」
「アメリア嬢の不名誉な噂はその叔父か、フランツから出たものだろう」
聞けば聞くほど腹立たしく、アメリアをそんな目に遭わせておいて、今ものうのうと生きている叔父とやらも許せない。
デビュタントのパーティでとびきりの笑顔を見せ、周りを魅了していた。しかし私と顔を合わせた時の表情は乏しく、結婚してからも最低限の触れ合いだけで、やはり結婚を嫌がっていたのかと思っていた。
事故で肝を冷やしたが、それがきっかけで思いを通じ合わせることができた。
再びアメリアを貶めようとする輩は、私の手で潰してやる!
「そこにアメリアがいる可能性があるならば、私は行きます。必ず助ける」
「来たかルイス。すまん、夫人が攫われたのは俺のミスでもある」
「なんだと?」
思ったより低い声が出てしまった。
詳しく聞くと、アメリアが攫われたのは騎士団に来た帰りだと言う。正確にはゼルビー辺境伯夫人とお茶をした後らしいが。
「もっと強く注意をして、騎士団からも何人か護衛をつけるべきだった」
まさかアメリアが、薬の件に関しての証拠を持っているとは思わなかった。結果的にだが。
「そしてフランツ・モーヴァの取り調べをしようとしたのだが……」
屋敷にはおらず、調べてみると最近母方の祖父より別荘を譲り受けていることが分かった。
「アメリアはそこか!?」
「まあ待てルイス。焦るな」
「焦るなと? アメリアはきっと私を待っている」
「別荘は三軒ある。部下に探らせているが証言もあり、ここから一番近いところが怪しいと思っている」
「証言?」
「ああ。ひとつは通りがかった行商人が、その別荘の方向から不規則に揺れる、妙な光を見たという」
その行商人は、いつも通る道が崖崩れで通行できなかった為、回り道をしたところその光を目撃したようだ。
誰かが故意にその光を作り、外に知らせているのでは?と推測されている。
「それに私にも根拠があるのだ」
この家の主、モーヴァ前侯爵が部屋に入ってきた。
「これは団長。ご無沙汰しております」
「お前もかリックメラー。丁寧な挨拶をしている場合ではないぞ。それにとうの昔に団長は辞めておる」
団長が引退したのはちょうど五年前だ。『年には勝てない』と言って退いたのに、今も随分元気そうである。
「私はアメリア嬢と面識がある。あまり思い出したくない出来事でもあるがな」
アメリアは今回と同じように誘拐された過去があった。たまたまモーヴァ前侯爵が秘密裏に救出したが、どこか様子がおかしかった。誰にも知られないように子爵家へ送り届けた。しかし表情は変わらず、どこか一点を見つめたまま。とてもじゃないが話を聞ける状態ではなかった。
「もう少し早く助けていれば、ああはならなかったかもしれない。様子を見ながら屋敷に入る直前で捕らえたのだが」
騎士団を辞していればもはや普通の人である。大義名分なしの救出は躊躇ってもおかしくはない。それでもアメリアを助けてくれたのだ。そこが今回の屋敷と同じらしい。
「犯人はフランツの叔父、あいつの母親の弟だった」
「事件を公にできない以上、表立って罰することもできなかった」
「アメリア嬢の不名誉な噂はその叔父か、フランツから出たものだろう」
聞けば聞くほど腹立たしく、アメリアをそんな目に遭わせておいて、今ものうのうと生きている叔父とやらも許せない。
デビュタントのパーティでとびきりの笑顔を見せ、周りを魅了していた。しかし私と顔を合わせた時の表情は乏しく、結婚してからも最低限の触れ合いだけで、やはり結婚を嫌がっていたのかと思っていた。
事故で肝を冷やしたが、それがきっかけで思いを通じ合わせることができた。
再びアメリアを貶めようとする輩は、私の手で潰してやる!
「そこにアメリアがいる可能性があるならば、私は行きます。必ず助ける」
1
あなたにおすすめの小説
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。
櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。
そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。
毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。
もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。
気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。
果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは?
意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。
とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
断罪された私ですが、気づけば辺境の村で「パン屋の奥さん」扱いされていて、旦那様(公爵)が店番してます
さら
恋愛
王都の社交界で冤罪を着せられ、断罪とともに婚約破棄・追放を言い渡された元公爵令嬢リディア。行き場を失い、辺境の村で倒れた彼女を救ったのは、素性を隠してパン屋を営む寡黙な男・カイだった。
パン作りを手伝ううちに、村人たちは自然とリディアを「パン屋の奥さん」と呼び始める。戸惑いながらも、村人の笑顔や子どもたちの無邪気な声に触れ、リディアの心は少しずつほどけていく。だが、かつての知り合いが王都から現れ、彼女を嘲ることで再び過去の影が迫る。
そのときカイは、ためらうことなく「彼女は俺の妻だ」と庇い立てる。さらに村を襲う盗賊を二人で退けたことで、リディアは初めて「ここにいる意味」を実感する。断罪された悪女ではなく、パンを焼き、笑顔を届ける“私”として。
そして、カイの真実の想いが告げられる。辺境を守り続けた公爵である彼が選んだのは、過去を失った令嬢ではなく、今を生きるリディアその人。村人に祝福され、二人は本当の「パン屋の夫婦」となり、温かな香りに包まれた新しい日々を歩み始めるのだった。
魔王様は転生王女を溺愛したい
みおな
恋愛
私はローズマリー・サフィロスとして、転生した。サフィロス王家の第2王女として。
私を愛してくださるお兄様たちやお姉様、申し訳ございません。私、魔王陛下の溺愛を受けているようです。
*****
タイトル、キャラの名前、年齢等改めて書き始めます。
よろしくお願いします。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)
透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。
有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。
「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」
そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて――
しかも、彼との“政略結婚”が目前!?
婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。
“報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる