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【番外編】20.再会?
しおりを挟むコンコン。
ふとドアがノックされる。
「はーい」
「バートです」
「はい」
扉を開ける。
「申し訳ございません。今、お時間宜しいでしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「つい先ほど、アーニャ様のお荷物を運ばれた引っ越し業者が来ておりまして」
「え?」
「一つ、お荷物が残っていたようで、それがアーニャ様の物か確認して頂きたいとのことで」
「あ、はい、分かりました」
まだ荷物整理が終わっていないけれど、もしも動画編集に欠かせない器具とかだったら困る。
バートさんと一階へ階段を降りると、引っ越し業者さんらしき青年が玄関手前で見えた。僕を見るなり、帽子を外し頭を垂らした。耳や尾が無いことから、ヒト族であることが分かる。
「こんにちは」
声をかけると、青年は何故か目を見張った。
僕と同じ黒い髪色だけど、何よりも僕の欲しい背丈もある美人さんだ。
「あ、あの・・・?」
「あっ、す、すいません、その・・・」
え。
「・・・・・・」
青年が目いっぱいに、涙を浮かべ始めた。
「えっ、ええっ!? えっ」
「すいま、せん、ごめ・・・」
「どどどどどうしたの!?」
「ごめんなさい、荷物なんて嘘で」
「へ?」
「アーニャ様っ!」
瞬時に俺の前にバートさんが立ちはだかる。
「・・・すいません。ただ、兄に、会いたくて・・・」
兄。
まさか、嘘、え?
「おれの名前はニルエ・クロエです」
涙を拭いて、青年は僕を真っ直ぐ見据えた。
そして、ふにゃりと頬を染める。
「貴方の弟です、アーニャ兄さん」
ピッシャーンッ!
まさに青天の霹靂ぃっ!
「うううううう嘘嘘嘘っ!? えええっ!」
「こうでもしないと領地に入れなくて・・・」
それで引っ越し業者に扮装!?
「ちなみに、おれがレディアン様の一番目のハレムです」
ピピピッシャーンッ!?
ななななななななんやてぇぇぇっ!?
「な、な、な、な・・・」
「だから、新しいハレムの子の話を耳にして。それで・・・調べたんです」
落ち着け、餅つけ僕。
ハッ! ま、まさかっ!?
「ああああ安心して!? まだ正真正銘囲われてないから! 軟禁されてるだけでレディアンは、レディアン様は決して、ハレム五十・・・じゃないっ、百、一番目の僕と、どうこうなるつもりはないですから!」
ハレムナンバーワン美青年がわざわざ引っ越し業者に扮してまでここに来る理由、僕に会いに来た、つまり!
レディアン絡み!
ニルエ君はきょとんと僕を見つめる。
レン様も懸念していた。いずれハレム紛争が起こる危惧を。
「君が実質共にナンバーワンです。大丈夫、僕は自分の立場は”理解している”から」
「・・・アーニャ様・・・」
何故バート氏、そんな悲しい顔をされるのか。
「嫉妬に呑み込まれてハレム紛争は起こしてはダメだ。今はただ百一番目にご執心なだけで、すぐに飽きるから」
「ふふ、飽きないよ」
「え?」
「レディアン様がハレムのお相手をするのは夜だけ。デートも外食もしたことがない。実質セフレなんです」
「は、えっ!?」
なんてこった。そんなふしだらな関係だったのか。またただのエロ熊という印象に戻りそうだ。
「ハレムの皆は分かってて、割り切ってますから」
「そ、そうなのっ!?」
「はい、ハレムの条件が束縛、一切の干渉無しの”エッチだけさせてくれるなら”、ですから」
「・・・・・・」
バートさんを横目に見やった。
「・・・あは、あはは、さすがは坊ちゃま」
「おおげさに百人とかおっしゃってますけど、実際おれが把握するに二十人程度しかいませんから」
いやそれでも十分だけどね。でも盛り過ぎだね数。
ニルエ君がまた、その顔面偏差値が高い美貌で僕に微笑みかけてくる。
「ようやく、ようやく会えた兄さん」
しまった。ハレムの話で重要な部分を流すところだった。
「・・・母さんは、弟の君の顔すら見せず、名前すら教えてくれなかったよ。だから、僕は君の本当のお兄さんかどうかも分からないよ」
「・・・おれは知ってたよ」
「え?」
「メイド達が話しているのを聞いたんだ。それで両親に問いただした、そしたら、おまえには兄がいるって、白状したよ」
「・・・そう、だったんだ」
「兄さんは何がいけないんだって聞いたんだ。そしたら、出来損ないだって、要らない子なんだって」
僕は頷いた。
「そう、不能な、あってもなくても同じ子宮を持った出来損ないなんだ。だから、獣人族との子を繁栄させることが目的のクロエ家にとっては、全く、汚点もいいところだ」
「兄さん!」
ニルエ君が僕へ踏んだ大きな一歩に、反して僕は大きく一歩、下がった。
「本当に、僕の弟なら、会えて嬉しい。でも、これ以上は両親がきっと許さないよ?」
「そんなことない!」
「"完璧な君が、僕といることで穢れてしまうから”」
「っ!」
幼い僕の心に突き刺さった、大きな剣だった。
「あいつらに」
そんな泣きそうな顔を浮かべることはないのに。
「あいつらにそう言われたの!?」
凄く優しい子に育ったんだろうなぁ。
「僕の為にそんな顔しないで」
きっと、そんな顔が出来るのなら、彼は本当に僕の弟君なのかもしれない。
「うぅっ!」
ニルエ君は俯いた。床にポタポタと、大粒の涙が零れ落ちる。
「完璧な君を産んで育ててくれた両親だよ。あいつら、なんて、言わないであげてよ」
「兄さんを! 兄さんを”いないもの”として平然としてるのが、おれの親なんて!」
「・・・僕の為に泣いてくれてありがとう」
「兄さん・・・」
僕はもう苦笑するしかない。
「・・・幼かった僕には、当時辛過ぎて。どうやら一部の感情を何処かへ無くしてしまったみたいなんだ」
「・・・にぃ、さん・・・?」
「・・・アーニャ様・・・」
二人の眼差しが熱い。
僕の胸の中にあるのは、楽しい、嬉しい。
レディアンに腹が立ったりしないのかと聞いたけれど、そう言った僕こそが、怒りや憎しみ妬みを感じていない。感じ方が分からない。
「僕はもう大丈夫だから」
「全然大丈夫なんかじゃない!」
と、ニルエ君が叫んだ時だった。
玄関の扉がゆっくり開かれた。
「? 誰かいるのか?」
その声はレディアンだった。
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